干支暦和は平凡な毎日と共にありたい
第19話 整理整頓
「これって、弥生さんだよね。」
ついに、自分の仮説が正解に近付いていると分かると、やはり安心というか安堵の表情を浮かべざるを得ない。しかし、それと同時に恐怖と申し訳なさが込み上げるのも、俺という人物らしい。
俺は、彼女に助けられたのか。
「まあ、とりあえずさ、家に帰って一人で考えてみてよ。」
「そうだな。色々疲れただろう。ちゃんと休め。」
「じゃあ、文水さんちゃん、お世話よろしく。」
「そうだなって…はあ!?どどど、どうしてあたしがおおお世話をしなければならんのだ!」
「だって、彼一人じゃ怪しいし。」
「さっきは自分で一人で考えろと言っていたではないか!」
「違うよ、考えるのは一人で。その他のことは誰かがいないと。だって、今まで幼馴染がいたみたいじゃん?だから、元の生活に戻るまで一緒にいてあげてよ。」
「な、でもよみかずが嫌なんじゃないか。なあ、よみかず?」
「誰か、いてくれた方が安心かな。」
「…へ?」
「そういうことだから、文水さんちゃん。大丈夫、今の彼なら何もしないよ。」
「そ、そうか。」
ということで、俺の家に文水さんが来ることになった。
「どうぞ、上がってください。」
「ほ、本当にいいのか?」
「ええ、お願いします。」
「じゃあ、上がるぞ。」
見ると部屋は、考えてみれば当たり前なのだが、いろいろと片付いておらず埃まみれだった。
「これは、女の子を部屋にあげる男として、誇れないな。」
「じゃあ、掃除から始めるか。久々に腕が鳴りそうだ。」
「すみませんが、宜しくお願いします。」
「そんなかしこまるなって、やり辛くなるだろ。」
笑って答える文水さん。
いつか言っていたか分からないが、一応確認のために言っておく。大学では、彼女は先輩なのだが、年齢的には俺の方が上である。
「あ、こんなところにエロ本が。」
「じゃあ、そこの本棚に入れておいてください。」
「分かった、じゃねえ!何言ってるんだ貴様!一応女性だぞこっちは!」
「別にいいですよ。信頼してますので。」
「そういう問題なのか…それにしてもオールラウンダーなんだな。」
「オールラウンダー?」
「だって、法律スレスレから、熟女までSからM御用達まで、幅広く置かれているではないか。しかも、本やDVD、ゲームまで。すごいな。」
「やめてください、それほとんど俺のじゃないですから。」
「そうなのか?」
「そうです。」
それから小一時間経って、ようやく掃除は終わった。
「お風呂入れておいたぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
「何のこれしき、しっかり考えてこい。」
「では、入ってきます。」
お風呂に浸かって考えると、考え事が捗るらしい。これは、実際に試したわけではないので今から確かめるのだが、そういえば大和も弥生さんも言っていた。
「ふう。」
愛する人が死んでしまっているという事実は、随分と前に気づいていて、否教えられたので、そのあたりに関しては、やはりそうかと納得はしている。しかし、疑問が全くないわけではない。
どうして、和泉皐生は、15歳の中学生として目の前に現れたのだろうか。
「うーん。」
冷たいシャワーを浴び、物理的に頭を冷やす。
『人それぞれ、世界を持っているんです。』
『いてほしいと願うことで、人は存在するんです。』
そこから、導き出される答えは。
「ふう。」
風呂を出て、脱衣所に出る。目の前が濡れて良く見えないため、手探りでタオルを探す。
約1年も使っていないと、さすがにどこにあるか分からなくなってしまうのだろうか。なかなか、掴めない。
ようやく掴んだと思ったら少し柔らかい。何だろうか、この触り心地は。
「…へ?っよよよよっみかず?」
「あれ、文水さんさん?いたんだすみません。」
「別にそれは良いのだが。そそそそ、それよりそ、その。」
「ん?どうしました?」
「君の手が、そその、わ私の、おっぱいに。」
「…え?」
柔らかなものの正体は、決してタオルなんかではなく、女性のそれだった。いやでも、角度的におかしくはないか?
「タオル、下なんだろう?取ってやろうと思ったら、おっぱいを触られるなんて!」
「ごごごご、ごめんなさい!!!」
「仕方ない、見えなかったならしょうがない。でもな、謝る気があるなら、そろそろ手を離してくれないか?」
「あ、すみません。」
「まったく。ご飯できてるから、食べてこい。」
「ありがとうございます。」
文水さんが作るご飯は、とても美味しかった。柔らかいご飯に、肉汁がおいしさを際立たせた。今日の夕食はハンバーグ。
「どうだ、美味いか?」
「めっちゃ美味いっす!」
「前から思っていたのだが」
「うん?何ですか?」
「いや、そのなんていうか…」
「はっきり言ってくださいよ!」
「何で敬語なんだ?」
「…え?」
「いや、ほら。年齢的には私の方が下じゃないか?なのにどうして、敬語なんだ?」
「それは、だって。」
「だって?」
「一応先輩ですし、ちょっと怖いですし。」
「そそ、そうなのか?それは、すまないな。」
「いえいえ、それが文水さんらしいところですから。」
「でも。ふふ、二人の時くらい、呼び捨てでも構わないぞ?」
「それは、大丈夫です。」
「大丈夫ってなんだ!」
「そういうのは、求めてないんで。」
「なかなか辛辣だな貴様!」
ご飯の時間は、和気藹々として、とても楽しかった。楽しくて、寂しかった。
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