快活な従妹は愛しのお兄さんと花火が見たい
第16話 従妹が会いたい従兄
『花火、綺麗だな。』
『そうだね。』
『まつりと来るの、初めてだったよな。』
『やっぱり、かず兄と見ると花火が一段と綺麗だよ。』
『なんだよ、それ。』
『まつりね、かず兄のことが、』
…は!
目が覚めてしまった。何だったんだ~!続きが気になる!
6月。暑さが日に日に増し、蚊が嫌がらせをしに来る今日この頃。町はなぜか活気づいており、今までの静けさは何だったんだと言わんばかりに盛り上がっている。そして、今日はさつきちゃんとの朝の恒例行事に勝利し、テンションが上がっているというのも事実だ。
「ちぇっ。せっかく添い寝してあげようと思ったのに。」
むうっと頬を膨らますさつきちゃん。いや、頼んでないし。怒られてもなぁ。
「今日の朝ごはんは?」
「私が作りました!」
綺麗に敬礼をするが、残念ながらさつきちゃん、手が逆だよ。
「でかしたぞ!」
「まあ、お姉ちゃんが風邪で寝込んでるからさ。」
「え、そうなの?」
昨日まで、元気にわいわいしてたのにな。
前日、いつもよりそわそわしていたので、詳細を聞こうとするも、『秘密です。』の一点張りだったのでいまいちよく分からなかったが、どうやら彼女は遠足の日の当日に熱を出すタイプなのだろう。
「残念だなあ。無念だなあ。執念で何とかならないかなあ。」
「最後とんでもないことさらっと言ったな!」
「ふぬぬぬぬ!」
「執念を使おうとするな!」
「執念のスキルを習得したいですね。」
「習得しなくていい!」
部屋を出て、朝ごはんを食べるためリビングに向かう。
机の上には、すでに豪華な朝食が用意されており、とてもじゃないけど一人で食べきれる量じゃないよ…
「そりゃそうですよ、来客用ですから。」
…え?来客?まだ朝の7時なんだけど…
「夜中の12時きっかりに来たんですよ。」
「徹夜組かよ!」
「本当に、びっくりしたよ。少し目が覚めたから、飲み物飲もうと冷蔵庫開けたら、ドアがドンドンドンって叩かれたんだから。」
「冷蔵庫のドア?」
「冷蔵庫のドアなわけあるか!怖すぎるわ、寝れなくなるわ!」
「叩かれた夜は寝やすいっていうじゃん!」
「んなもん知らねえよ!」
ちょっと、お嬢さん。言葉が汚くなってますよ。あと、ちゃんとしたことわざなんだけど。
「でね、玄関のドアを開けたら、一人の女の子が立っててね。」
「どんな女の子だったの?」
「なんか、アホ毛があって、いかにもアホそうな子だったよ?」
「アホそうな子?」
「うん。」
そんなあからさまな子がこの世の中いるのか?
「なんか、従妹って言ってたよ?」
従妹?確かに従妹はいないことはないが、しかしながら、かれこれ10年ほど音信不通なのである。いわゆる絶縁状態なのだ。そんな彼女がしかも、こんな状態の俺の家を見つけることができるのだろうか?
「いまどこにいる?」
「服屋に行ったよ?なんか、予約してたものがあるんだとか。」
「そうか。」
ガチャッ
「ただいまでーす。」
「お帰り~」
「そ、その声は!かず兄じゃないですか!」
「そうだけど?」
「久しぶりだなぁ。」
「いや、えっちょっと待って…」
いきなり飛んできたかと思えば、完全に俺をがっちりホールドし、肋骨が折れそうなほどの強さで抱擁してきた。
「この包容力、懐かしいなぁ。」
「そんな包容力ないから、離れて!法を要することになるから!」
「昔から、ほんとに何言ってるか分かんないよね。」
すっと離れると朝御飯を見つける。
「え、これ今作ったの?」
「そう、ですけど?」
あのさつきちゃんが、引いている。
「すごいですねぇ。プロみたいです!」
あのさつきちゃんが、素で照れている。
「では、頂きましょうか。」
ものの数分の間に、既に主導権を握る彼女。
「いやいや、高校2年だよ。」
「あれ、計算間違い?」
「ううん。留年。」
軽く言うなよ重大な問題だよそれ!
「今、うな重って言った?朝からうな重はきついかな。」
頭だけでなく、耳も悪いようだ。
「まあ、いいじゃん。過ぎたことだし、時効だよ。水に流そ?」
「現在進行形で起きてますよね?!」
できることなら、渦潮にでも流したいよ。聞きたくなかったなぁ、久しぶりにあった従妹が留年してたなんて。
「なんですか、その人の留年を災禍みたいに。災禍の使い方合ってる?テストでたからさ使ってみたくて。」
その使い方は微妙だけど。まあ、積極的に使おうとするのはいいことだろう。
「そういえば、どうしてここが分かったの?」
「どうしてって、一回来たことあるし。7割くらい野生の鑑。」
鑑じゃなくて、勘な。7割勘で来れたら、それこそ野生の鑑だよ。え、でも来たことあったっけ?
「えっそうだっけ?」
「まあ、だいぶ小さいころね。」
「そうか。」
「ごちそうさまでした!」
3人同時で言えると、やはりいいものだと感じる。
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