第15話 勇ましの委員長
ここは、町で一番の大通り。4車線の道路の真ん中は銀杏並木になっているが、その風貌を見る限りもうすでに秋は終わっていると再確認させられる。そして、何やら電球がつながっている。
「ここなんです。」
委員長は立ち止まり、左手に見えるデパートを指差した。その並びには、服屋だったり、本屋だったり、あるいはファストフード店があったり。そういえば映画館もあった。ここで何をするんだろうか?
「少し時間があるので、ちょっとご飯食べませんか?」
デパートの入り口にあった時計を見ると、19時を過ぎていた。
「そうだな。何食べようか?」
「じゃ、じゃあそこで。オムライス、好きでしたよね?」
「そう!よく知ってるな!」
「だって、小学校の時教えてくれたじゃないですか。」
「そうだっけ?」
「そうですよ。」
じゃあ、食べようか。
「ふわっふわで、とろっとろでうまいなぁ。」
「よかった。今度、その…よかったら今度、私のオムライスも食べてくださいね。」
「うん!」
腕時計を見る委員長。
「あ、もうこんな時間。急ぎますよ!」
「待ってまだ会計が…」腕をつかまれて、おどおどしている25歳がそこにはいた。
「大丈夫です!店員さん、お会計!」
バンッと5000円札をだし、「おつりは大丈夫です!」と言って「行くよ!」と俺の袖口をつかんで走り出した。
「委員長、かっこいいな。だって、おつり3000円近くあったぞ。」
「え?そんなに…もらっておけばよかったです。」
「でも、そんな急いでどうしたんだ?」
「かず君、知らないですか?」
「何のこと?」
「このデパートの中央にそびえる大木が、クリスマスの日だけ、ライトアップされるんですよ。」
「それが見たかったのか!」
「この話には、続きがありまして、これを一緒に見たカップルは一生を共にできるんです。」
「え、今なんて?」
「ほらここです!」
光輝く大木。そこに集うカップル。本当にクリスマスだなぁ。一回こういうの体験したかったんだよねぇ。
「あ、あの。」見上げながら、喋り始めた委員長。
「どうした?」
「あなたの、お嫁さんに、してもらえませんか?」
「…え?」
「今まで、色んな人を見てきました。でも、やっぱり小学生の時のドキドキが一番強くて、今日会えたのは運命なのかなって…すみません自己中で。」
「いや、そんなことは。」
「やっぱり、だめですか?」
「ごめんな。好きな人がいるんだ。」
「そうですか。やっぱり弥生さんには勝てませんね。」
「な、なんで弥生さんってわかったんだ?」
「そんなの常識です!かず君見てれば分かります!」
「そうなのか?」
「もちろんです。小学生のころから、弥生さんにぞっこんでしたもんね。覚えてますか?小学3年の台風の日。」
「ああ、放課後で他の奴はみんな帰って、俺たちだけになって。」
「そうそう。それで、私が慰めようとしたら、弥生さん~弥生さん~って泣きわめいちゃって。」
「ごめんなさい。」
「もう、全くもうですよ。まあでも、一つだけ勝ったものがあります。」
「何?」
「ファーストキスですよ。」
不意打ちで、キスをされた。甘酸っぱく、ほろ苦い味がした。
「じゃあ、帰りますか。」
あっけらかんとしていた。
外はもう暗く、空から、雪が降る。風は肌寒く、体が冷えいていくのを感じる。その一方で、心の中はまだじんじんしてる。ファーストキスって委員長だったんだ。隣を見ると、委員長は目頭を熱くしていた。その一方で、心の中はしっかりと冷めていってるのだろう。
「委員長。」
「な、なんですか?」急いで、目のあたりをこする委員長。
「弥生さんのことなんだけど。」
「傷口をえぐる気ですか?」
「いやそういうわけじゃ」
「冗談ですよ。言われてようやくすっきりしたというか肩の荷が下りたというか。」
「15年前のこと、覚えてる?」
「15年前?だから、えっと…いちにいさんしいごおろくなな・・・何歳でしたっけ?」指折り数えてもわからなかった委員長。どうやら算数は苦手らしい。
「いや、10歳の頃ね。だから、小学4年生の時。どうやら、11月ぐらいに何かあったかな?」
「11月なら、私がファーストキスをゲットしたぐらいですね?あと、弥生さん誕生日だったと思います。」
「あれ、10月じゃなかったっけ?」
「ううん。11月です。だって、その日は…」
「その日は?」
「自分で思い出してください。とりあえず、ヒントは差し上げます。11月の13日。海。電車。そんなところでしょうか?頑張って思い出してください。」
11月?
13日?
海?
電車?
解決の糸口が見えてきたような気がする。
「じゃあ、お父さんのご飯作らなきゃいけないので、帰りますね。」
「え?あ、うん。」
走り出して、夜の闇へ消えていったところで立ち止まった。
「いつでも、待ってますからね。大好きですから。」
しっかりとは見えなかったが、委員長は確かに頬を赤らめていた。あの調子だと、この冬の寒さには耐えられたのだろう。
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