懐かしの委員長は初恋の人と過ごしたい

第14話 懐かしの委員長

「あれ、こんなところに神社なんてあったっけ…?」

 12月。結婚を迫られた夏を終え、嵐のような事件に巻き込まれた秋も終わり、いよいよ1年のラストを迎えようとしている今日。

 日時を細かく言うならば、大晦日の1週間前。つまりはクリスマス。

 この死後の世界ならもしかするとイエスに会えるかも!なんていう淡い期待をしながら散歩していると、目の前に鳥居が見えた。

 でも、この道は墓地につながるんじゃ?あの夏の日、豊敷すみれという迷子の少女の手助け、補助をしたときに通った道である。


「とりあえず、登ってみるか。」

 階段は121段あった。ちゃんと調べたから間違いない…はず。そんなとこ気にしてるのは俺だけだよ!と自分でツッコミを入れて賽銭の前まで歩く。

 なぜ気にするかというと、こういう系統の怪談をつい最近弥生さんから聞いたからだ。階段の怪談。そういえば彼女は、そのような文章を考えていたようだ。

 暇だったらしい。確か、解団の為の会談に使われたビルの階段の怪談。

 なんという恐ろしい話。


 と考えていると、一人のうら若き女性を見かけた。と言っても、巫女の恰好をしているからいるのは当たり前なんですけど。


 5円玉を投げ、鈴を鳴らし、踵を返すとそのうら若き巫女が立っていた。何やらおどおどしてる風だった。


「かかかか、かず君?」

 その声は聞き覚えがある。でも、誰だっけ?

「私…なんだけど、お、覚えてないよね…」苦笑いを浮かべる巫女さん。

 本当に誰だっけ?見覚えはあるんだけどな…


「本当に、覚えてない?あ!眼鏡かければ思い出すかな?」

 ポケットの中をごそごそと探し、見つけた眼鏡をかけた。赤ぶちの眼鏡がより一層彼女の美しさに拍車をかけた。


「あ…お前は。れいなか?」

「あやなです!」

 良かった覚えていて…と安堵の表情を浮かべる巫女さん。


 彼女の名は山城礼奈(やましろ あやな)。俺のおじいちゃんと彼女のお父さんに親交があって、昔から交流はあった。というか、小学4年まで幼稚園からずっと同じクラスだったし、そのほとんどで委員長をしていたので、忘れるはずがない。そして、あの咲楽さんの法律上の妹である。


「思いっきりれいなって言いましたよね?」

「そんなことは言ってない。俺はれなって言ったんだ。」


「だから、あ・や・なですってば?!」もう、と口を膨らませる委員長。

 この顔が好きでよくいじったもんだとしみじみしてしまう。


「おかげでこっちはクラス替えの度に間違えられましたけどね!ま、まさか先生まで言われるなんて…」

「そんな事より、ここで何してるんだ?」

「お父さんの手伝いです。」

「敬語やめてよ、委員長~」

「癖なんです、気にしないでください。」

「まあ、敬語女子って好きだけどね。清楚な感じがして。」

「そ、そうなんですか?ぜ、ぜ、全然知らなかったなあ。というより、かず君はどうしてここに?ま、まさか、もう…」

「こらこら、勝手に殺すな!」


「じゃあ、どうしてなんですか?」

「幼馴染の弥生さんの補助だよ。」

「補助、ですか?」

「成仏した方が幸せなのか、俺にはわからんからな。せめて、彼女の成仏を補助するために、やり残したことを補ってもらうために来たって感じかな。」

「なるほど…」首をかしげたまま動かない委員長。

「まあ、そういうことだから。初詣はここに来ようかな。じゃあね、委員長。」

「あ、待って!」


 その声とほぼ同時に腕をつかまれた。袖口をつかまれるのもいいが、腕をつかまれるのはそれを上回った。


「ど、どうしたんだい?」声が裏返った。恥ずかしい。

「いや、あの、その。こっこのあとひっひまかなと、思い…まして。ももももしよかったら、一緒に散歩でも、どどどうかな?」

「いいけど、仕事は?」

「大丈夫、もうすぐ交代の時間だから。というか、こんなところに来ないよ。

 幽霊が神にお願いなんて。じゃあ、着替えてくるから30分くらい待ってて!」


 そういうと彼女は、一目散に本堂に向かった。少し風が冷たい。時刻は15時を回った。何しようかな。すると、本堂の方から物音がした。もう準備できたのかな?さすがに早くないかって・・・


「河内冴姫じゃねーか!」

「そうですよ、先輩!ついに私、神になったんです!」

「ど、どうしてここに?」

「そりゃ、先輩を監視するためですよ。弥生さんお得意の干支君を監視ってやつです。」

「ってやつじゃねーよ!」


「しっかりと使命を全うしてくれないと、ご指名なんですから。私も帰れないんですからね?もし帰れなかったら…責任とってくださいね。」

「わーわー近づくな!」この子は本当に危険だ。

「あ、あややん帰ってくるよ~」そそくさと帰っていく冴姫ちゃん。なんなんだ?

「お待たせしました~」

「おお…」


 コートに、マフラー。眼鏡に、ニット帽。あれ?こんなに可愛かったっけ?

「おかしいでしょうか…?」

「いいやいやいや、全然おかしくない!むしろ、かわいい。」

「そ、そうですか…うれしいです。」

「どこ、行こうか?」

「行きたいところがあるんで。」

「わかった。」

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