懐かしの知人は久々に戯れたい
不気味な後輩は15年前を伝えたい
第9話 荒唐無稽な後輩ちゃん
この一連の出来事が連続して起きた原因は何かと言われたら、何と具体的に、具に伝えることはできないが、この日が関わっているということは確実である。
それに関していえば、多分周知の事実であろう。原因の追究はできなくても、概要の説明には欠かせない、そんな日であろう。
それは、決して俺が考えたからではなく、それこそ教授だって、寡黙な先輩だって、もしかすると不気味な後輩だってそういうだろう。
そんな日を今から紹介しよう。
終盤を迎える前に、終局に至る前に、一つ振り返ろうじゃないか。
なぜ、弥生さんと再会できたのか。解き明かす答えが、ここにある。
てへ☆カッコつけっちゃった。
「私、神になりたいんです!」
4月。小鳥がさえずり、仄かに暖かい風と野原一面に咲く綺麗なタンポポが、俺に春が来たと伝えてくれたらいいのになと思う今日この頃。
家の前は、いまだに雪が積もっており、融ける気配が全く感じられない。幸い、家から最も近い大学に通っているため、15分もかからず到着する。
よって、遅刻はあり得ないのだ。そして今日も講座まで時間があったため、自習室に向かった。自習室には、1席に1つ小さな黒板が用意されている。
なぜ置かれているのかは知らないし、使われているところも見たことがない。
しばらくすると、隣に年下であろう女性が座った。別に話しかける理由もなかったので自習に集中していると、隣から妙に視線を感じる。
ここで、視線の先に振り返ったとき、誰もいなかったらそれはそれで恐怖だがその彼女が見ていたらそれもまた恐怖である。
知り合いかな?しかし、この町にいたのは小学4年生までで、知り合いなんて人はいないはずなのだが…
「干支…暦和先輩ですよね!」
「え?は、はいそうですが?」
「やっぱりそうか!」
「な、なんでしょう?」
「私、神になりたいんです!全知全能の神に!」
「すみません、どちら様ですか?」
話に乗らなきゃよかったと思ったが、時すでに遅しだった。
「事故紹介します!」
「事故は紹介しなくていいよ。」
「事後紹介します!」
「終わった後じゃなくて、今してくれないかな!?」
「事後報告します!」
「ああ、とうとう報告になっちゃったよ…」
自己紹介まだかなぁ。
「私紅宮大学1年の河内冴姫(かわち さき)です!冴えている姫で冴姫です!」
「そ、そうか。冴姫ちゃんか。」
河内冴姫に、「普段何しているの?」と話を変えると、「乙女の秘密です。」と返ってきた。無邪気で無垢で、あどけない笑顔で。「でも、ヒントなら差し上げます。親愛なる先輩に。特別ですよ?」まだあって一日もたってないのにこの距離感。正直怖い。
「まあ、簡単にそして端的に言うなら、そうですね~人助けですかね?」
後から聞いた話だが、彼女は人助けをするような人ではないらしい。
確かに、前向きな少女ではあるのだが、人に対する言葉のチョイスが、ドストレートなのだ。彼女もそれを知っている。
分かったうえで言っている。
だから、彼女が同級生の間で言われているあだ名『どS』は、サディストの意味ももちろんあるが、どストレートの意味もあるのだ。
したがって、彼女が人助けをしているとは思えない。自分がそう思っているだけで、相手にとっては痛いところを突かれてしまうということも可能性としては否定できない。
「言葉の選び方を間違えました!人助けではなかったです!すみません。私としたことが、冴えている姫であるこの私が、言葉を間違えてしまうとは…」
彼女が周囲から引かれている性格の一つがこれである。
自分の名前を愛すること、自分の名前に自信を持つことは悪いことではない(むしろいいことだ)が、彼女は度が過ぎている。
今思いついたのだが、『度』が『過』ぎている、で「どS」もあるかもしれない。
「じゃあ、なんて言うつもりだったの?」
「補助です。」
「補助?」
「はい。人の人生の補助です。」
黒板に『補助』の二文字を書く。
「別にそれって、人助けと何ら変わりないんじゃないのか?」
「先輩は、人助けのことを勝手に良いことのように考えていませんか?」
「勝手にというか、普通に良いことなんじゃないの?」
「確かに、荷物が重そうなおばあちゃんを助けるとか、しがないサラリーマンの落とし物を一緒に探すとか、そういうことは良いことをしたとなるかもしれません。」
「ねえ、しがないって言う必要あった?」
机をバンっと叩き、後輩は続ける。
「でもね、先輩。でもなんですよ。デモを起こしたいんですよ!」
「いきなりデモクラシーを始めるなよ!」
「いや、あのボケなのかツッコミなのかバカなのかはっきりしてくださいよ。第一に私が言いたかったデモは、いわゆるデモ活動のことです。そして、そのデモ活動のデモは、デモクラシーではありません。デモンストレーションの略です。」
「え?」
「やはりバカでしたか。ちなみに、デモクラシーは、民主主義という意味です。そんなこといきなり始められるわけないじゃないですか!」
「うう…」
「はあ。良くこの大学に入れましたね。じゃあ、話に戻ります。さっき挙げたことは、すべて相手が弱者であるのです。」
「弱者?」
「はい。たとえば、おばあちゃんなら、自分よりも力が弱い。サラリーマンなら、落とし物をしたという恐怖の心理から、精神的に弱くなっているのです。」
「なるほど。」
「この場合、弱者を元の道に戻すために、みんなと同じように生活できるようにするために彼らを導くということで助けるとなるため良いことをしたとなります。」
「確かに、それで補う助けるの補助か。」
黒板の二文字に、送り仮名をつけて、言ってみた。
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