第7話 童女の行方
「そ、そうか。そういえば、この辺ってあまり来たことないけど…」
「どうしたんですか、よみクズ君。」
「いや、住宅の表札がなんか不気味な名前が続いてるなあって、今なんて言った?」
「よみクズ君と言ったんです。」
「聞き間違いじゃなかった!」
表札の名前は、『気下幽香』、『木霊』、『妖野』、『魑魅』だ。なんで気になったのかというと、昔、それこそ小学4年の時によく遊んだ友達の家と並びが似ていたからだ。その時の名前は、漢字が違っていたけど。確か…『木下優香』『児玉』『綾野』『須玉』だったと思う。
「そんな偶然もあるもんですね、よみカス君。」
「カスになった!」
「…どっちに行けばいいんでしょうか…」
「そうだなあ。」
ちょこちょこおふざけを挟みながらも、結構な距離を歩いていた。時計を見ると夕方の3時だった。もう2時間も歩いているのかと思うと少し休憩したい。と、ちょうど2つの分かれ道になっていた。ちょっと休憩をと思い、腰を下ろす。
「ちょっと、何座っているんですか!」
「え⁈」
「え⁈じゃないよ。どっちに行くか決めてよお兄さん。」
「え?俺が決めるの?」
「そりゃそうですよ。」
何がそりゃそうなのかさっぱり分からないが、ここでぐずっても仕方がない。面倒だけど立つか。
「じゃあ、公平にじゃんけんだな。」
「じゃんけん?」
「3人でじゃんけんして、俺が勝ったら右。女性陣が勝ったら左でどうよ?」
「わかりました!」
「じゃあ行くよ、じゃんけーんぽーん!」
俺が出したのはグー。女性陣は二人ともパーだった。
「ふう。」
「じゃあ、左ですね!」
「れっつごー。」
「お、テンション上がってきたね、すみれちゃん!」
「もうすぐ家なので。」
こうして、俺たちは左の道を進み、見事家にた…どり…つい…た?いやいや、おかしい。そんなはずがない、あってはならない。だって、ここは…
「ねえ、ここって墓地だよ…ね?あれ、すみれちゃん?」
振り返ると、弥生さんしかいなかった。
「え?」
弥生さんも、少し驚いた風だったが、意外としっかりしていた。
「無事に帰れてよかったですね。」
「え?ちゃ、ちゃんと帰れたの?」
「ええ、帰っていきましたよ。あまりに突然でしたけど。やっぱりまだまだ子供ですね。」
「そそそっそそそそそ、そうなのか?」
「そうですって、というか何でそんなに怖がってるんですか?」
どうやら、俺達は会ってはならないものに、会っていたようだ。
「まあ、よくあることじゃないですか?」
「え、そうなの?」
朝の金縛り(?)といい、今まで心霊体験は、全くと言っていいほどなかったのだ。
「それより、じゃんけんの時なんですけど。」
「う、うん?」
「そろそろ、落ち着いてください。あの時にはもう、答えが見えていたんですよね?」
「それはいったいどういうことかね?」
「だって、確率的には左の方が高くなるようにしていたんですよね?」
左が3分の2。右が3分の1なので。
それに関しては、本当にたまたまというか、結局のところ最後でつながっていたので、どっちでもよかったというのが本音だ。
「よし、疑問も解決したところですし、帰りますか。」
「そ、そうだな。」
「まだ怖いんですか?」
半分の心配と半分の冷やかしが、表情に出ていた。
「べ、別に怖くはない。」
「いいですよ、無理しなくて。ほら、」
そう言って右手を出した弥生さん。この光景には、覚えがある。
そうだ、まだこっちにいたころ。みんなで山に登って、俺だけ迷子になって、人気のない人気のないレストランに身を寄せていた時、弥生さんが見つけてくれたんだ。
「…え?何で泣いてるんですか?」
「へ?…いや、何でもない。ちょっと昔を思い出してね。」
「へえ~。いつ頃ですか?」
「いや、しっかりとは覚えてないけどさ。」
「そうですか。」
時刻は、16時を過ぎていた。
「そういえば、逢魔が時って知ってますか?」
「王魔が都市?」
「何でそんな怖そうな地名なんですか!?」
「これは、17世紀の中頃。今でいうところの中央アジアに、ネプラツィドという国があってね。その国では、飢饉が2年に1回ぐらいで起こるのでどうしようかどうしようかと、王様ネプラステは思っていてね。ある日、悪魔様が現れて…」
「何であらすじが始まってるんですか!話戻してください!」
「わかったよ…で、何だっけ?」
「逢魔が時です。」
「聞いたこともないな。」
「夕暮れのことです。今日はまだ明るいですけど、秋ぐらいになるとこの時間は暗くなってくるじゃないですか?」
「そうだな。今日はお日様が元気だけどな。」
「そうですよね。そのころになると、少し奇妙な感じがしませんか?」
「というと?」
「なんか、いつもと違うというか…当たり前で、ありきたりで、ありふれた日常の道なはずなのに、何かが違う。まるで、悪魔に逢うんじゃないか…みたいなことです。」
「なるほど、それで逢魔が時ってことか。」
「まあ、同じ読み方で大禍時って、書くこともあるそうですよ。」
どうやら、俺たちはその悪魔というか禍々しいものに、出逢ったらしい。
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