妖しの童女は頼れるお兄さんと帰りたい

第5話 非招待客

「行っちゃったな。」

「行っちゃいましたね。」

「いいのか?」

 席に戻り、営業の準備をして、尋ねる。


「何がですか?」

「妹が、男に取られちゃうぞ?」

「いいえ、こういうことになったのは、私のせいですから。」

「こういうこと?」

「聞き流してください。」

「さっきからなんか隠してない?」

「何も隠してないですよ。」

「また、いなくなったりしないか?」

「何でそんなこと言うんですか?いなくなったりしませんよ。ずっとよみかず君のそばにいますよ。」

「ならいいんだけど。」

「それよりそろそろ、開けた方がいいですよ!」

 時計を見ると、ちょうど11時だった。


「そうだな。」

 玄関に出て旗を立てる。旗に書いてある文字は『干支相談所』。


 そう。ようやく俺の名前が分かったという人もいるだろう。俺の名前は干支かんし 暦和よみかず。

 このアパート「スプリング アマレロ」で、相談所を経営している。

 このご時世頼まれることはほとんどないが、幸いにもおじいちゃんがやっていた時期には栄えており、その蓄えはいまだに残っているのだ。そして、小遣い程度に中学生の悩み相談もやっている。


 そのおじいちゃんというのが、干支かんし幸助こうすけ。生きていれば80歳だ。

 おじいちゃんとの記憶は、それこそ15年前の記憶で最後だが、優しい性格の持ち主だということはしっかりと覚えている。この弥生さん、和泉いずみ弥生やよいは、おじいちゃんが相談所をしていたころアシスタントをしていたそうだ。それで、昔はよく遊んでもらった。


 小学4年生の時に引っ越してからは連絡は取っていなかったのだが、元気にやっていたらしい。そして、最後に和泉皐生。この子と遊んだ記憶はあまりない。というか、全くない。完全に。そもそも、さつきという妹がいたのかさえ不明だった。

 だから、4月の時に会って驚いた。確かに、卯生うづきという妹はいたはずなのだが、すでに成人しているはずなのだ。当時で6歳だったから21歳になっていないとおかしいのだ。


 まあでも、今中学3年生だということなら、一つ可能性はある。それは、俺が引っ越した後に生まれた子供なら矛盾はない。だから、そういう風に解釈している。


「それにしても、今日は暑いですね。」

「まあ、夏だからな。」

 天気予報を見ようとTVをつける。つける、つけ、あれ?つかない?リモコンの電池切れたかな?

「そんなはずはありません!昨日入れ替えたばっかりですよ⁈」

「そうだよなあ。」

 電池探しに3時間かけていたので、よく覚えている。俺も早く教えようとは思ったのだが、何より弥生さんが探しているのが、かわいくて面白くてつい、意地悪をしてしまった。その時のさつきちゃんの冷たい視線は、忘れられない。そして、事情を教えて共犯者になったことも忘れない。


「まあ仕方ないですね。とりあえず、エアコンつけましょうか。」

 …あれ?つきません。う~ん。うりゃ!てい!とお!

 何やってるの?

 だってつかないんですもん。

「おかしいな。」

「そうですよね。まだ買ったばかりなのに。暑さにやられたんでしょうか。」

「暑さをやわらげるやつが、暑さにやられるとは。皮肉なものだ。」

「じゃあ、せめて扇風機だけでも。」


 ガ…ガガ…ガ…プスゥ

「ああ、ヤバいです!火事になっちゃう!」

 急いで消火器を持ってきて消火する。鎮火完了。

「なんか怖いですね…なんか幽霊でも出るんでしょうか。」

「な、な何を言いているのの?」

「そんな動揺しないでください。冗談ですよ冗談。」


 可愛いですけど。とぼそっと言う弥生さん。


 ピンポーン


「ひい!」

「そんな怖がらないでください。ただの来客ですよ。」

「こんにちは~」

 ゆっくりとドアを開け、来客に挨拶する。

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