第4話 恋盛りの結末
「これくらい良くあったと思うんだけどなあ。」
「幸助(こうすけ)おじいさんがすごかったんです。私はいつも自分の無力さを感じていました。」
「そうだったんだ。おーいさつきちゃん終わったぞ~!」
もうすでに爆睡中だった。口からはよだれが垂れてたし、服ははだけておなかが思いっきり露出してたし、何というかもうおっさんだった。
「早く起きろよ~」
「…ひょーすけくーん、でへへ。」
寝言だった。ひょーすけ君とは誰なんだろう?
「ああ、その子なら知ってますよ。隣のおうちの咲楽さんいるじゃないですか?」
「ああ、うん。」
「息子さんみたいですよ。」
「え?でも、1回も見たことないよ?」
忘れてしまっただけかもしれないが、それでも記憶にはないものだから仕方ない。
「そりゃそうですよ。まだ死んでな…は!何でもありません。」
「何々?今なんて言った!」
「引っ越してないって言ったんです。お母さんの単身赴任みたいな感じらしいので。」
ああ、そういうこと。何か大事なことを言われたような気がしないでもないが…
「・・・ふう。」
「しかし、よくこんな回りくどいこと考えたもんだな。」
「そうですか?」
「だってさ、素直に言えばいいじゃないか。好きなら好きって。この差出人不明の手紙みたいなのじゃなくて。」
後ろをぺらっとみると、下の方に小さく文章が書いてあった。
「あれ、差出人書いてあるじゃないですか。見落としましたね。」
鬼の首を取ったようにニヤリとする弥生さん。そのしたり顔、姉妹でそっくりだ。
スルーして読むと、どうやらこれもまた、謎解きのようだ。
『海無し 山なし 幸も無し』
「うーん。こればっかりは、クラスメイトの名前を知らないとなあ。」
「そうですね。あ!起きましたよ。」
「ふわ~。お姉ちゃん分かった~?」
「うん!もうわかったよ!」
「それはよかった。それでさ、差出人分かった?」
「え?何でそれで悩んでるってわかったの?」
「いや、そこまで言ってないんだけど…本題がそっちだからさ。」
「そうだったのか。じゃあ、クラスメイトの名前を少しあげてくれ。特に都道府県の苗字の子。」
「え?よみかず君もう察しがついたの?」
「まあね。」
「あーそう?じゃあ、とりあえず名前あげるから。」
ちょっと紙貸して?
いや、神化は無理だ。
神化してなんて頼んでない。
お前ツインテールしなきゃいいだろ。
髪貸してとも言ってない!どういう聞き方したらそうなるの⁈
「はあ。耳の悪さはこの世界でも随一だよね。その便せんをよこせっつってんの。」
「そんなイライラすんなよ。」ほらよっと渡した。
「え~と。」
書き上げたのは6人の男子。
「じゃあ、決まったな。おめでとう。」
「え?え?いやいや、分かんないんだけど。」
和泉妹と共に、弥生さんも首をかしげる。
「そうですよ、よみかず君。ちゃんと説明してください。」
「はあ。じゃあ、まず文章の『海無しやまなし幸も無し』だけど、」
「うんうん!」
ノリノリで聞いてくる和泉姉妹。
「海無しってことは、海無し県てことだろ?」
「海無し県?」
「海に囲まれてない県のことですよ、さつきちゃん。」
こそこそと言ってるようにしているのかもしれないが、ダダ漏れである。
「…はあ。ということは、苗字を見ると、長野君と、山梨君×2に絞られる。」
「なるほどお。」
手を打ち大きくうなずいてくれるのはうれしいが、もうちょっと自然にやってくれないかなぁ。
「次に、やまなしだけど。」
「はいはいはい!それ分かりました!」
「…えぇ。じゃあ、弥生さん。」
「がんばれお姉ちゃん!」
「うん!」
「一つだけ、なしが漢字じゃないので、怪しいと思ったんです。これって、山梨君ってことですよね!?」
「はい、大正解。」
「よし!」
「これで、二人に絞られました。山梨昭佑君と、山梨幸哉君。」
「あ!はいはいはい!わかった!」
「はい、さつきちゃん。」
「幸も無しってことは、『幸』っていう字が入ってないってことでしょ!と・い・う・こ・と・は!」
「はい。正解は山梨昭佑君です。」
「いいいいいいやったーーーーーーーーーーーーーーーー!」
アパート中に広がる声で、今にも鼓膜が破れそうだった。うるせえよ。
「じゃあ、急いで昭佑君のところ行ってくる!」
「あーい。」
「昼までには、帰ってきてよ~!?」
「了解です!」
ビシッと敬礼をし、恋盛りな少女は昼の街に繰り出していった。
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