第3話 快活な解決

「それにしても、お義兄ちゃん。キッチン汚いよ~」

「そんな汚かったか?」

「汚いというか、ボロボロ。引き戸なんか勢いよく開けたらそのまま取れそうだし…」

「そうですね…このアパートも築30年ですからねえ。リフォームしませんか?私、そういうのは得意なんですよ!」

「後々な。今そんなにお金ないからさ。ただでさえ、今のご時世相談所なんて誰も来ねえよな。」

 はは。ネットがあるし。

 苦笑いを浮かべるしかなかった。


「それより、さっきの便せんだけど…」

「ああ、あれからずっと考えていたんですけど…やっぱり分からないです。」

「では、負傷私が教えて差し上げましょう。」

「いつから負傷してたんだよ!」

「すみません。不肖です。」

「まず、それを読み上げてよお姉ちゃん。」

「え?あ、はい。えーと。

『15、94、61、15、71、14、21、33、22、41』

 です。あと、21と41に濁点がついてます。」

「さて、ここで問題です。濁点を使用する言語は何でしょうか?」

 クイズ番組の司会者のように、椅子の上に立って手を弥生さんに向け問いかける。

「うーん。日本語でしょうか?」

「大正解!」

 ちなみに、これはただの薀蓄になるのだが、ドイツ語の文字の上に付く点は、ウムラウトという。


「ということは、この文章は日本語だっていうのは分かる?」

「はい!」

「じゃあね、次は数字なんだけど、1の位を見てくれる?」

「5、4,1,5,1,4,1,3,2,1。あ!全部5までの数字です!」

「そう。だから、一の位は、ローマ字でいうところの母音に当たるんだよ。」

「でも、それってたまたまそうなっただけじゃないの?」


 さすがの弥生さんも少し疑問に思ったようだ。もう少し黙って見てみよう。


「そうかもしれない。確かにそうだな。あれ?そうかも。ちょっと待ってわかんなくなっちゃった。助けて、お義兄ちゃん!」

 そういえば、俺以上のバカだった。

「押されちゃダメだろ、出題者が。」

「じゃあ、バトンタッチ!」

 椅子から飛び降りて、ハイタッチ。あぶねえよ。


「じゃあ、もしもそのまま数字を見たとしよう。するとどこかおかしいところはないか?」

「いや特には。」

「即答するな!自信もって堂々と間違えるな!91っておかしいだろ。日本語のひらがなって、90個もないだろ!」

「そうでした。てへ☆」

 てへ☆じゃねえよ!可愛いけど!写真撮りたかったけど!


「だから、その一の位は母音っていう解釈は合ってるんだよ。」

「なるほど。」

 大きな相槌を打つ弥生さん。

「じゃあ、当てはめてくよ。一の位が母音ってことは、十の位は子音だから。さつきちゃん、50音表ある?」

「うん!あるよ!学校に。」

「学校じゃねえよ。手元にあるかって聞いてるんだ!」

「じゃあない。」

「はあ。使えねえな。」

「何~⁈ちょっと待ってろよお義兄ちゃん!」

 猛ダッシュで外に飛び出した和泉妹。ま、まさか中学校まで取りに行ったというのか!確かに家の真ん前だけど。


「…だっだっだっ。たっだいま!」

 速え―よ。今世界記録が更新されたよ!

「これで満足だろ!」

「うん…ありがとう。」

「じゃあ、ちょっと寝る。」

「寝るな。」

「ZZZ…」

「もう寝たのか!?」

 寝るのも世界新記録だよ。


「じゃあ、弥生さんこれ見て。」

「15は、ア行の5番目。だから…『お』。」

「94は、ラ行の4番目。だから…『れ』。」

「61は、ハ行の1番目。だから…『は』」

「さっき言った通り、15は『お』。」

「71は、マ行の1番目。だから…『ま』」

「14は、ア行の4番目。だから…『え』」

「21は、カ行の1番目。だから…『か』そして、濁点があるから『が』」

「33は、サ行の3番目。だから…『す』」

「22は、カ行の2番目。だから…『き』」

「41は、ハ行の1番目。だから…『た』そして、これも濁点があるから『だ』」

「それで、『おれはおまえがすきだ』になるんですね。やっとわかりました。」

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