第2話 努力の朝食

 ようやく部屋から出た和泉妹。時刻は7時半を過ぎた。

「やばいなあ。」

 パジャマから、私服に着替え、それから部屋を出てダイニングに向かった。すると、1人の女性がキッチンに立っていた。


 彼女は、和泉弥生いずみ やよい。小学生時代、よく遊んでもらった2歳年上の彼女だ。ガールフレンドって意味の彼女だ。いつも、彼女が家事全般をやってくれる。ただ、料理だけは、あまりやらせたくない。それこそ、料理は和泉妹の方が上手である。だから、さっきまで和泉妹がいたということは、弥生さんが作っていることになる。


「おはよう。」

「あ、おはようございます!今、目玉焼き作ってて…」

 ボンッ。

「え?」余りにいきなりの爆発に、目を覆うことしかできなかった。目を開けると、弥生さんが小麦粉まみれになっていた。いやいや、ツッコミどころが多すぎて、何も言えねえ。そもそも何作ってんだ。


「や、弥生さん!大丈夫ですか?」

「ゴホンっだ、大丈夫ですよ。」

「絶対大丈夫じゃないよね!とりあえず、お風呂場行こうか。」

「あ~!お義兄ちゃん!私は浴場まで連れてかなかったくせに~やっぱりお姉ちゃんが大好きなんだ~というか、お姉ちゃんどしたの?」

 着替えが終わって部屋から出てきた妹が、なんか戯言を言っている。無視して、浴場に向かう。

 決して、欲情なんかしてないからね!扇情的だからってすぐ欲情するわけないじゃんか!


「私は、これから戦場に向かうわ。」

「何言ってるんだ、和泉妹!」

 かっこいいだけの台詞を吐くな。

「その呼び方止めてよ~ちゃんと名前あるんだからさつきちゃんっていうなま」

「私は、洗浄に向かうわ。」

「お姉ちゃん!最後まで言わせてよ!」

 弥生さんも結構乗るタイプらしい。ここまで来ると、俺も乗るしかない。

「俺は、船上パーティーに向かうぜ、朝ごはんはそこで食わせてもらう!」

「それは困ります!今日はうまく出来たので!」

「いやいや、目玉焼き爆発させたよね!?」

 自信満々に仁王立ちしてくれるのはありがたいけれど、しかし先ほどの失態を見る限り「上手く出来た」なんてそうそう言えたものではない。

「それ以外は、うまく出来ました!ごはんとか、味噌汁とか!ちゃんと風呂入るので、出たらみんなで食べましょう。」


 それから、10分ほどシャワーを浴びている。その間特に話題がなかった俺と和泉妹…じゃなくてさつきちゃんとの間には気まずい空気が流れた。

 そんな中、口を開いたのはさつきちゃんだった。


「そういえば、昨日、学校行ったんですよ。」

「ほう、それはどうして?」

「呼び出されて。」

「先生にか?」

「まあそれはいいんだけど。」

 いや良くはないだろ。

「それでね、帰りに下駄箱の扉を開けたの。そしたら、これが挟まってて。」

 見せられたのは、1枚の紙。大きさは、便せんくらい。


「おれは、おまえがすきだ?」

 ガラガラガラ、ガタン。

 音の鳴る方を見てみると、そこにはタオル1枚の弥生さんがいた。どうやら、携帯を落としたようだ。

「え、え、え、え?ちょっと、よ、よみかず君?そそそれって、どどどどういうこと?」

 動揺が激しい弥生さん。その、動揺ぶりはいきなり猿が童謡を歌いだすのと同様だ。


「その、ギャグにもなってないの辞めてもらっていいですか?」

 ガチトーンのダメ出しが、さつきちゃんから言われた。せっかくの楽しみなんだから、好きにさせてくれよ。


「ああ、これのことだよ。」

 その便せん大の大きさの紙を手渡す。

「ただの数字にしか見えないんですけど…それと、記号?」

 ちょっと、勘弁してよ~。一応はあのおじいちゃんのアシスタントしてたんでしょ?


「アシスタントはしましたけど、お茶を出すくらいで…料理もやるって言ったんですけど、頑なに断られちゃいまして。どうしてなんでしょうか?」

 本気なのだろうか?本気で今までの料理で失敗はなかったと言い切れるのだろうか?天然なのかバカなのか、とりあえずポジティブなんだなということで気を落ち着かせる。

「じゃあ、和泉妹よ。答えを教えてやれ!」

「これ食べたらね。」

 気付くとさつきちゃんは、キッチンに立っていた。


 散らかっていたキッチンはきちんと片づけてあり、彼女はフライパンで目玉焼きを作り直していた。やはり、お姉ちゃんが料理下手のおかげか中3ながら、様になっていた。

「いや、目玉焼き程度でそこまで褒められても…ほら、できたよ。」

 見た目は、完全にプロの領域だった。見ただけで半熟かどうかが分かる。嗅いだだけで、おいしいってわかる逸品だった。


「目玉焼きってそんな匂いするっけ?」

「さあ、いただきましょう。」

 やはり美味だった。幸いにもご飯はしっかり炊けていたし、味噌汁も味噌の味が濃すぎるにとどまった。

「さっきから、私のご飯だけ厳しすぎませんか?なんか妹びいきが激しいというか…」

「何を言うか。少しでも上手くなってほしいという願いからついつい言ってしまうだけだ。本当に好きなのは、弥生さんのに決まっているじゃないか。」

「ほ、本当…ですか!?」

「だまされないで、お姉ちゃん。ごまかそうとしてるだけだから。」

「そ、そそんなことはなないぞ。」

「ほら、動揺した。」

 お姉ちゃんと同様に。とにやりとしながら付け加えたさつきちゃん。


「ごちそうさまでした。」

 皆で声をそろえて、挨拶をする。半年前にはなかった光景だ。

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