第13話 わたしたちのプログラム
「私の名前は『小枝 絵里』。どこにでもいる小学4年生だったんだけど、ある日突然、魔法少女になっちゃった。今は元の世界を離れて、異世界にいるよ。
いろいろ、厄介なことに巻き込まれちゃったけど、仲間の為に、みんなのために、世界を救う為に戦うよ」
絵理たちは、レッドキャット軍のチーチャの親友のヒロから、魔法転送によって、新たな杖「BASICスターV4」を受け取った。
「これが、新しい杖?」
絵里は嬉しそうな顔をしている。チーチャは不安そうな顔をしながら言った。
「ほう、見た目は悪くなさそうだニャ。問題はちゃんと使えるか? だニャ。新製品には不具合はつきものニャ。その辺は大丈夫なのかニャ?」
通信越しにヒロが胸を張ったような声で言った。
「その点は心配しなくてOKだ」
「どう大丈夫なのかニャ」
「今回は、俺らだけでなく、ベータテスターを募集した。なので、動作はバッチリだ!」
ヒロは自信満々のようである。
しかし、チーチャは首を傾げながら反論した。
「どうかニャ。魔法装置のテストは素人の遊びとは違うニャ。ベータテスターとか言って、ただ魔法デバイスで遊んでるだけじゃないのかニャ」
ヒロも負けじと反論する。
「俺たちが選んだテスターだ。例えば彼は過去に〇〇システムを開発して表彰されている。他にも、ちゃんと実績のあるメンバーばかり集めた」
「それなら、大丈夫そうだニャ」
最近、Nintendo Switch で『プチコン4』が配信された。今となって言えることであるが、一部の愛好家の中では、プチコンといえば、発売直後に大量のバグが見つかることで有名なソフトである。バグと言っても、ゲームが止まってしまうといったものではなく、ちょっと動きが怪しい、説明書の記述に誤りがあるという軽微なものである。
しかし、バグはバグ。プチコンの愛好家たちの間では、発売直後にいち早くプレイして、誰よりも早くバグを見つけて、SNSで発表するという、有料ベータテストといった楽しみかたがあるとも言われていた。
しかし、今回のプチコン4では、事前に一般ユーザを秘密でベータテスターとして受け入れて動作確認をしているようである。
その証拠に、発売直後にハイクオリティなゲーム作品やツール作品が公開されている。とても短時間で作ったとは思えないものである。
ヒロはチーチャに今の状況について尋ねた。
「どうだ。お前の弟子は、使いこなせそうか?」
「まだ、わからんニャ。あの子にっとっては、新しい言語ニャ。ニャーもチラッとリファレンスを見たけど、V3とV4は別物みたいニャ」
「まぁそうだな。でも、俺達には時間はないんだ。とにかく、後で俺が迎えに行くから、その時までには、一通り戦えるくらいまでには、使いこなせるようになっててくれよ」
そう言って、ヒロは通信を切った。
絵里は不安げな声を上げる
「えぇー」
プララも少しは絵里に協力をしようとする。
「ちょっと、そのリファレンス。私にも見せてみなさい」
「はい。これ」
「確かに、これは大変そうね。ふーん、いろいろ違うのね。BASICは専門ではないけど……まぁ私も最初はBASICから入ったからね。これはこれで苦戦しそうね」
「プララちゃんもそう思うの?」
「まぁがんばるしかないわね」
絵里はほっぺたを膨らませて不安げな顔をした。
チーチャーが会話に割り込んで絵里に話した。
「V4では、魔法倉庫にアップロードされてるV3のプログラムをダウンロードすることができるニャ」
「それなら、新たにプログラム書き直さなくても、私が作り上げた強力な戦闘魔法は使えるね」
「でもニャ、ヒロが言ったとおり、互換性はないそうニャ」
プララは不思議そうな顔をして言った。
「でも、BASICなのよね」
「基本的な制御構造は同じはずニャ」
「だったら、V4で動くように書き換えるしかないわね。ちょっと動かしてみたら」
「そうだね。やってみるよ」
絵里は、V3の魔法データをダウンロードして、BASICスターV4に取り込んだ。
そして、取り込んだ魔法の実行を試みる。
「まずはコレ。簡単な攻撃魔法。とりあえずパワーを低めにして。えいっ」
絵里は杖を向けて、魔法を実行しようとした。
しかし、魔法が発動することは無かった。どうやら、魔法の命令に誤りがあるようであった。
そう、プログラム言語というものは、バージョン違いによって、全く書き方や命令が変わってくるものがある。『プチコン』の『SMILE BASIC』もバージョンによって異なる。
特に、最近発売されたプチコン4の『SMILE BASIC Ver.4』と、『プチコン3号/BIG』の『SMILE BASIC Ver.3』は全くの別物である。入力系の命令から大きく違うため、プチコン3号でのプログラムは、プチコン4では、まず動かないのである。
絵里は驚く
「えっ、動かないの?」
プララは冷静に答える
「互換性が無いって言ってたからね」
「どうしよう」
「どうするもこうするも、新しい言語を覚えるしかないのよね」
「うーん、わかった。がんばってみるよ」
絵里は思い出したようにプララに聞いた。
「プララちゃん、ここって、どれくらい居ても、大丈夫なのかな?」
絵理たちが今いるのは、ゴミ置き場である。敵の目から逃げるために、敵軍の親玉ブラックウルフとの戦いに破れて、かろうじて逃げ込んだ場所である。
当然、敵も絵理たちを探していると思われる。長居をすることは危険であると思われる。
「そうね。ある程度、時間が経ったら、ゴミを排除するようになっているのよね。あと1時間くらいってところかしら」
「1時間じゃ何もできないよ」
「やってみなくちゃ、わからないでしょ。いつもはもっと自信あるのに、今日はやけに不安げね」
「だって」
絵里とプララの会話にチーチャが冷静な顔つきで割り込んできた。
「まぁ仕方ないにゃ。新しい環境に慣れることは簡単なことではないニャ。とりあえず、今回絵里はこの部分だけでもちゃんと覚えてもらうしか無いにゃ。この部分の機能だけならちゃんと覚えられるニャ?」
「そこだけなら、大丈夫だと思う」
そう、プログラムを書く人にとっても、急に言語のバージョンが変わったり、使用する環境が変わると慣れるまで時間がかかるものである。今まで、すらすら書けていたプログラムが、リファレンスを何度も見ながら書くようになるため、作業効率が大きく落ち込むことがある。表計算ソフトの『Excel』が、バージョンアップによって、操作方法が大きく変わった時、世の中のサラリーマンは慣れるまで苦労したものである。作業効率が大きく落ち込んで、以前のバージョンなら軽々を終えることができる仕事も、操作が違うというだけで、なかなか仕事が終わらず。無駄に残業するようなこともあったであろう。
それくらい、環境の変化というものは、作業効率・生産性に大きく影響を及ぼすものである。
しかし、それにもかかわらず、『プチコン4』が配信された日、初めて『SMILE BASIC Version.4』を触ったにもかかわらずに、大量のプログラム作品が公開されていたりもした。
チーチャは迷っている絵里に対して、優しく先生が教えるように話した。
「今回のV4と、従来のV3の大きな違いは、ここと、そこと、あと、まぁいろいろあるけど、重要な部分は、そこニャ。あとはニャーも協力するから、なんとか頑張るニャ」
「わかったよ。やってみる」
絵里の顔に自信が満ちてきた。
絵理たちがV4のプログラムを組み上げている時
絵理たちの近くで、大きな物音がなり始めた。絵里は驚きながらプララに尋ねる。
「何の音?」
「そろそろね。そろそろゴミ排除処理が始まるわね」
「この施設は自動的にゴミを排除する仕組みがあるニャ、ニャーたちは一応、っていうか、ここに居ること自体がゴミだから、自動的に排除されるのニャ。とりあえず、潰されて本当のゴミにならないように、気をつけるのニャ」
どうやら、絵理たちのいるエリアのゴミ排除システムが動き出したようである。どこからともなく大きめのブルドーザーのような、フォークリフトのようなロボットの機械が現れて、ゴミを集めて運び出す動きをしている。
プララが絵里を引率するように声を上げる。
「絵理、こっちよ。早くここを出ましょう」
「うん、わかったよ」
絵里は手にとっていたBASICスターをスマホに戻してスカートのポケットに入れた。
BASICスターV4もV3と同じ様にスマホから出現させることができる。同様に戻すこともできる。
移動するだけなら手ぶらのほうが楽だった。ここは敵がいるような場所ではないのだから……
絵理たちは、機械に巻き込まれないように、機械の進む方へ進んでいった。
「こっちの方向で大丈夫なのかな?」
「多分大丈夫ね」
「ちょっと、ロボットさんが多いね。渋滞してるよ」
「そうね。はぐれないようにね」
ごみ処理の機械はどうやら列を組んで移動している。今、絵理たちがいる部分はかなり混雑していた。
「どうやら、ここで枝分かれのようだニャ。あっちに行っては危険ニャ」
ごみ処理の機械が進む方向は2つに別れていた。片方は出口へ、もう片方は奥へと進んでいた。
プララとチーチャーは、出口の方に向かおうとした。プララは絵里に伝える。
「絵理? こっちよ」
どうやら、プララとチーチャは、絵里とはぐれてしまったようである。
しかし、絵里はすぐ見みつかった。すぐ近くにいた。絵里もプララの方に向かおうとした。
「プララちゃん。今そっちに……あれっ」
しかし、どうやら、絵里は行きたくても行けないようである。
プララがもう一度声をかける。
「大丈夫」
絵里は困った顔をしている。
「えっ、うそっ、やだぁ」
どうやら、ごみ処理のロボットに絵里の服が引っかかってしまったようである。
絵里は抜こうとするが抜けなかった。どんどんロボットの群れに流されて別の方向に向かっていく。絵里はだんだん暖かく感じてきた。
絵里の額からは汗が出始めた。
「まずいニャ。そっちは……」
「しょうがない子ね。アタシがちょっと行って来るわ」
絵里の向かう先は、ゴミの焼却施設だった。絵里はパニックに陥っていた。何度も服を引っ張ったけど、どうやらロボットはスカートを放してはくれなかった。
絵里の着ているバトルコスチュームは丈夫な素材でできていて、簡単に破けるようなものではなかった。BASICスターによる魔法を使おうとしたが、絵里は、まだV4の魔法の使い方を覚えてなかったため、魔法を使える状況ではなかった。
辺りはどんどん熱くなっていった。ロボットは耐熱加工されているのか、どうやら平気のようである。絵里は気を失いかけていた。
「これでも食らっておとなしくしてなさい」
プララの声が聞こえた。プララは絵里の近くにいるロボットに鎌で攻撃をする。プララが持っている鎌の刃がロボットに突き刺さりロボットは止まった。プララがもう一撃ロボットに攻撃をする。
ロボットの一部が壊れて、絵里の服を掴んでいた部分が弱まった。絵里のスカートがロボットから外れた。
ようやく、絵里はロボットの呪縛から開放された。辺りの温度はどんどん高くなっていってる。プララは絵里を抱いて安全な、熱くない所に移動した。
「危ないところだったわね」
「ありがとう。助かったよ」
「さぁ、早くここから出るわよ」
プララは再び絵里を先導して、焼却炉とは反対側の出口の方へ向かった。
「ようやく涼しくなってきね。空が見えるよ」
絵理たちは出口の所まで来た。燃えるゴミは焼却炉。燃えないゴミはここから外に捨てるのであろう。出口には外の光が差し込んできており、明るくなっている。
「よし、ここから出るんだね」
絵里は出口から、外を見た。どうやら、そこは、地上何十メートルも崖の上であった。
下には青い大きな池が色がっていた。
「プララちゃん、ここから出るんだよね」
「そうよ。魔法を使えば安全に出られるわ。ここにいるゴミと一緒にダイブね」
「大丈夫かなぁ」
絵里は不安な表情を見せる。そう、まだ魔法を使いこなせるようになっていなかった。
「大丈夫ニャ。みんな一緒に飛び込むニャ」
「わかったよ」
絵理たちは、ごみ処理置き場の出口から、ゴミが捨てられるのと同時に外に飛び出した。
みるみる、水面が近づいていく。プララは絵理を抱いて水面付近で魔法を発動させて、無事敵に見つからないように脱出に成功した。
「とりあえず、岸に向かうニャ」
「そうね。世話がやけるわね」
「ごめんね。まだうまく魔法が使えなくて」
「いいのよ」
絵理たちは、水面を静かに移動しながら、岸に渡った。この辺は自然な草花が多く、特に敵も住人もいるような様子はなかった。絵理たちはそこでひとまず一息をついた。
「ふぅ、とりあえずホッとしたね」
「そうね。で、これからどうすんの」
「そうニャ、まずはヒロに合うニャ。連絡するかニャ」
チーチャーはヒロに秘密の無線機で連絡を試みた。どうやら、ヒロから応答があった。
「ヒロかニャ」
「チーチャーか、でそっちはどうだ?」
「なんとか脱出したニャ。ヒロは今どこにいるニャ」
「そうだな。近くには居るんだが、ちょっと待ってくれ、オレも今そっちへ向かう」
そう言って、ヒロはチーチャとの通信を終えた。
しばらく、待つとヒロがやってきた。
「よう、久しぶりってわけだ。君が絵里ちゃんかな」
「どうも、はじめまして、よろしくおねがいします」
ヒロは絵里の顔を知っていた。以前というかレッドキャット国で、チーチャに案内された時に、一度だけ顔を見たことがある。絵里とヒロは話すことはなかった。
ヒロは大人のお兄さんといった容姿である。当然ネコミミがついている。
「まぁ、あの時に顔は見てるけどよ、可愛い顔してるじゃねーか。で、そっちがプララちゃんか」
「アタシはいろいろ知ってるわ。レッドキャットの人は、あい変わらずね」
「まぁまぁ、今はそれどころじゃねーんだ」
「そうよね。早めに終わらせたほうがいいわよね」
「そうニャ。長引くと犠牲も増えるニャ。敵の準備が整う前の今がチャンスニャ」
「そんな感じだ。で、どうだBASICスターV4の使い勝手は……」
「それがですね。なかなか難しくてですね。でも、なんとか……」
絵里は恥ずかしそうな表情で話した。
「そうか、V3のV4は別物だからな、基本はBASICであっても、内部はぜんぜん違う。俺も互換性のことは色々悩んだが、今後のことを考えるとV3では都合の悪い部分がいっぱいあってな。この際に思いっきり作り直したってわけよ。最初は難しいと思うかも知れないけど、慣れてしまえばV3には戻れないくらい凄い使いやすいってことがわかると思うぜ」
「そうなんですか? がんばります」
ゲームだろうとシステムだろうと使う側は互換性というものを気にすることは多い。新しい環境に適応するには、いろいろと調べたりと間違えたりと苦労することが多いからである。
今回、我々の世界で発売された『プチコン4』の『SMILEBASIC Ver.4』は『プチコン3号』とは互換性が無いのである。当然、『プチコン3号』の『SMILEBASIC Ver.3』を長年使っていたユーザは新しい環境の『プチコン4』に慣れるまで苦労するかも知れない。
しかし『プチコン4』を実際にある程度使ってみればわかることなのだが『プチコン4』の仕様を理解してしまえば、もう『プチコン3号』の『SMILE BASIC Ver.3』には戻れない程、プログラミング言語として使いやすい。ということに気づくと思う。
今は『プチコン4』は出始めの時期であり、資料も標準ツールも充実していないため、前作のほうが使いやすいと感じる人も多いかも知れない。
しかし、言語そのものの仕様は本当に便利で使いやすいものになっている。発売直後という状況であり。いくつか改善点が挙げられる出来ではあるが、標準ツールやその他の機能が充実すれば、間違いなく、現在の最高のBASIC開発環境と言えるようになるであろう。
「それはそうと、これからどうするニャ」
「そうだな。近い内に乗り込まないといろいろ厄介だよな。絵里ちゃんの準備が整えば再出発ってところだ」
「えぇ。私、足引っ張ってる?」
「まぁ、仕方ないわよ。私たちも協力するから」
「わかったよ。頑張るよ」
ヒロが優しそうな声で絵里に話した。
「絵里ちゃんだっけ、ちょっとコード見せてもらおうかな」
「はい、これなんですけどね」
絵里はヒロに恥ずかしそうに魔法のプログラムを見せた。
「やっぱり、そこか?」
「どうなんですか? やっぱりって」
「まぁ今回のV4はいろいろ違うわけよ。で初心者というか前作経験者が勘違いしやすいポイントの1つが、そこ、なわけよ。ちょっとリファレンス出してみ」
絵里はBASICスターV4を心で操作して、ヒロの言う通りにリファレンスを表示させた。
「これですか」
「ここね。ちょっとわかりにくいけどよ、今回はこうなのよ」
ヒロは短い時間ながら、丁寧に絵里に伝える。どうやら、絵里の目から不安が消えたように見えた。
「そうなんですか」
「そうよ。わかってしまえば、V3よりもわかりやすいだろ?」
「そうですね」
「では、それに合わせて、プログラムを書き換えますね」
「既に動いているプログラム。今回はV3で動いていたプログラムをだな。書き換える時はなるべく、検索機能を使うといいぜ。目で追うよりも確実だからよ」
「ありがとう。わかったよ」
プログラミングをする時のポイント、機能が用意されている時は機能に頼ったほうが効率的でミスが発生しにくいということがある。
人間の目で確認する場合は、見落としが発生する可能性があるが、コンピュータは与えられた命令は絶対に間違えない。間違ったとしたら、それは、”命令をした人間が間違っている”というものである。
つまり、人間の目視だけに頼らずに、コンピューターの機能を活用すると効率的ということである。
特に検索機能は指定した文字を検索してヒット(一致)した場合は強調表示される。エディタの種類によっては、該当している部分全てを強調表示するものもある。
要するに、検索機能。そして、該当した部分を置き換える。置換機能は便利なわけである。
絵里はヒロのサポートを受けて、プログラムを修正した。ヒロは絵里のプログラムを眺めながら言った。
「あとはそうだな。この辺がいろいろとV3とは違うわけだ」
絵里とヒロが話しているところに、チーチャーが割り込んで言った。
「そこなら、コレを使えば大丈夫ニャ」
絵里はチーチャーの方を向いた。
「それは?」
「どうやら、V4ではV3の命令は動作しないようだニャ」
「そうみたいなんだよね。どうやら、その命令や関数は定義されていません。ってエラーになっちゃうんだよね」
そう、V3とV4では、一部の機能において、全く違うようにプログラムを書かなければいけない。V3のプログラムをV4で動かそうとするとエラーになってしまうのである。
『プチコン4』でも、表示命令が『プチコン3号/BIG』と大きく異なっている。初心者、いや前作経験者でも、戸惑いやすい部分とも言える。
「命令が定義されていないのならば、自分で定義すればいいのニャ」
「そっか。でも、いろいろ用意するのは大変だよね」
「そうニャ。今回は時間がないので、ニャーがV3の命令をV4で使えるようにする命令や関数を用意したニャ。これなら短期間で、V3のプログラムをV4で動かせるようになるかも知れないニャ。元のプログラムは元の環境ではちゃんと動作していた物ニャ。新たに書き換えると、その部分を間違えてしまう可能性があるニャ。なので」
絵里は何かに気づいたようだ。割り込こむつもりはなかったが、自然と声が出て、2人の声が合わさった。
『元のプログラムは変えないで、今の環境で動くようにする!』
「そうニャ。プログラムを動かす上では大切なことニャ」
絵理とチーチャとヒロが協力して、おっとプララも一応協力している。
みんなで、絵里の魔法戦闘プログラムを修正することになった。
「そう言えば、V4になったのなら、漢字入力とかも出来るようになったのかな?」
「そうだな。一応、この機能を使えばできるぜ」
絵里はヒロの言う通りに操作した。
「うーん、使い勝手は決して良くないけど、標準機能で漢字の入力が出来るようになったのは便利だね。V3の時はこんな風に入力できる機能はついてなかったからね」
絵里は褒めている。
しかし、チーチャが割り込むように、あざ笑うかのように言った。
「そんな方法でちまちま入力してたら、プログラムが完成する前に日が暮れてしまうニャ。これでは、全然漢字の入力出来ないニャ。コメントとか打つのが大変ニャ」
「まぁ、そう言うだろうと思ってな、今回は強力な助っ人を用意して作ってもらった。魔法倉庫にV4のプログラムが公開されいてな。そこに行くと、こんな機能のプログラムがおいてあるわけよ。ショートカットツールセットすれば便利だぜ」
絵里は魔法倉庫からプログラムをダウンロードしようとする。
「ヒロさん、これですかね?」
「そう、それな」
絵里はそのプログラムをダウンロードしてBASICスターV4に取り込んだ。実際にショートカットツールに設定した。
「凄いね。これ、これなら凄く速く入力できるよ」
「だろ」
「お前が作ったわけじゃないのに、偉そうな態度ニャ」
『プチコン4』には、漢字入力の機能が無いわけでない。画面キーボードから、ひとつずつ漢字を選んで入力することができる。ハッキリ言って、開発スタッフには申し訳ないが、使いにくいのである。
しかし、『プチコン4』では、ベータテスターによる便利ツールが作成されている。その1つが日本語の漢字入力をサポートするものである。このツールにより、『プチコン4』は漢字入力がしやすくなっている。
『プチコン4』は開発スタッフだけでなく、たくさんの周りの人たちに支えられている。ユーザーに愛されて成長していくソフトなのである。
絵理は、ヒロやチーチャーとプララの協力により、プログラムを組み上げていく。
どうやら一通り形になったようである。
「うん、これで完成なのかな?」
「そうね。なんとか戦えそうね」
「絵里にしては上出来ニャ」
「プログラミングは頭を使うね。ちょっと休憩したいね」
絵里はホッとため息をついている。どうやら、絵理たちは非常に短時間で物凄い作業量をこなしたようである。疲れた顔をするのも無理はない。
『プチコン4』は『プチコン3号』と違い、USBキーボードとマウスを使用する事ができる。『プチコン3号』のように画面のキーボード向かってタッチペンの1文字、1文字、ポチポチと入力することは必要ないのである。
勿論、どこでもプログラミングがモットーのプチコンなので、画面キーボード機能は健在ではある。
しかし、画面キーボードとUSBキーボード、プログラミングに慣れているなら、作業効率は雲泥の差である。
今回、『プチコン4』の発売直後にもかかわらず、たくさんのプログラム作品が公開された。それは、USBキーボード対応により、飛躍的にプログラミング効率が向上したからとも言えよう。普段パソコンでプログラミングをするような人にとっては、水を得た魚なのである。
疲れた顔をしている絵理を尻目に、ヒロは少し厳しいことを言う。
「気持ちはわかるが、そんな時間はあまりない。とりえず、これでも飲んで元気にしててくれ」
ヒロは絵里に怪しげな缶の飲み物を渡した。
「ありがとう」
絵里は受け取ると、缶を開けて飲み始めた。
「うん、美味しいね。」
「また何か怪しげなドリンク飲んでるのかニャ」
「まぁな、ダイナソーって言う飲み物でコイツは効くぜ。疲れた時は一気に全回復ってわけよ。魔力も回復すると思うぜ」
「まぁ問題ないならいいけどニャ。変な成分のせいでトイレでも近くなったら大変ニャ」
そんな、会話をしているうちに、周りが段々と騒がしくなっていた。どうやら、レッドキャット軍も、ヒロとチーチャーを探しているらしい。そして、ここはブラックドック軍の領地である。どうやら、ブラックドック軍も攻め込んできた。
ヒロは戦況が変わりつつあることに気づいた。
「まずいな、ここも危なくなる。みんなこっちに来てくれ」
絵理たちも周りの異変に気づいた。絵里はBASICスターをスマホの中に戻してポケットに入れて移動する準備をした。
ヒロの指揮により、絵理たちは別の場所に移動することになった。ヒロを先頭に絵理たちは歩いていた。絵里が、ふと顔を見上げるとそこには大きな何かが目に映った。
「これは、なに?」
絵里がそこにあるものを見て驚きながら尋ねた。ヒロが答える間もなく喋りだした。
「いろいろまずいことになってきた。そろそろ決着を決めないと、俺達の仲間も危なくなる。コレに乗って、一気にオオカミジジイのところに向かうぞ」
そこにあるのは、中型の戦闘機だった。絵理たち3人と一匹が乗る余裕はあるくらいの大きさである。オオカミジジイとは、ヒロが付けたブラックウルフのあだ名である。
「こんなもの持ってたのかニャ」
チーチャーも驚いているようである。
「まぁな、使うつもりは無かったけどよ。まぁそろそろ行かないと、ここも危なくなる。みんな乗ってくれ!」
「わかったよ。このハシゴを上るのかな?」
「そうね」
絵里は顔を赤くして、恥ずかしそうに喋った。
「えっそれだと。おパンツ見えちゃうよ」
プララは強気に言い返した。プララは絵里に比べ戦場での経験が豊富である。
「そんなこと、気にしてたら戦えないでしょ。私も嫌だけど」
絵理たちの話を聞いていたヒロも会話に混ざる。
「お嬢さんたち、仲良くね。大丈夫だって、俺は紳士だ。そういう事はしないよ」
絵理たちはヒロの用意した戦闘機に乗り込もうしている。ヒロとチーチャは先に乗った。続いてプララが乗った。絵里はまだハシゴを登っていた。
その時、大きな叫び声が聞こえた
「いたぞー」
その声は、ヒロにも聞こえた。
「やばいな。出発するぞ」
「絵里がまだ」
ヒロは絵里がまだ乗り込めていないことには気づいていた。
しかし、ヒロは戦闘機を発進させた。
戦闘機は、平行を保ったまま、大きく揺れながら、垂直に上昇した。絵里はまだ、機体の外に居た。もう少しで上りきれそうなところである。
しかし、機体が揺れているので、なかなか登りきれずにいた。
どうやら、機体はかなりの高さまで上昇した。ここまで上れば直ぐに敵に襲われるわけではないので、ヒロは機体をゆっくりと動くように操縦した。プララの助けもあってなんとか絵里は機体に乗り込むことができた。
「なんとか乗ることができたよ。怖かったよ」
「まぁこれで安心ってわけには行かないわね」
安心できたのは、わずかな時間だけだった。どうやら、敵はヒロたちが戦闘機に乗っているとわかると、飛行するAI兵器のようなもので攻撃をしてくるのであった。
「まずいな。ゆっくりとオオカミジジイのところに会いに行こうと思ったけど、どうやらそうは行かないみたいだ。ちょっと揺れるけど、ジェットパワーで一気に向かうぞ。着いたら、君たちを降ろして、そのまま戦闘開始だ。俺は一緒に行けないかも知れないが、がんばってくれ。後で合流する。とにかくコイツらから逃げないと、こっちも危ないぜ」
そういって、ヒロは全速力で機体を操作した。機体は大きく揺れ、急激な加速により、絵理たちはシートに体がおしつけられる状態になった。ドッグタワーはすぐそこなので、非常に短時間のフライトであった。
ドッグタワーの最上階に近づくと、ヒロは機体をホバリングさせた。
「よし、着いたぞ。こっちも止めていられない。とにかく健闘を祈る!」
絵理たちは、機体から降りた。ボスへ扉はすぐそこである。
「ついに来たね」
「そうね。2回目ね。準備はいい?」
絵里はポケットからスマホを取り出して、BASICスターV4を出現させた。
プララも自慢の鎌を出現させた。
どうやら、2人とも準備はできたようである。
「いくよ。もう一度」
絵理たちは、再び扉の入口の前にたった。
扉は自動的に開いた。
また、中から声が聞こえた。
「よくもまぁ、懲りないやつだ」
「異世界の小娘、そして、我が娘よ。娘はもっと賢いとは思っていたが、どこで教え方を間違ったのだろうか?」
プララは言い返す。
「それはこっちのセリフよ。アンタは大事なことをわかっていない」
「どうやら、下らない議論が続きそうな予感がする。また大人しくしててもらったほうが気が楽ってもんだ」
絵理も会話に加わる。
「言っても聞いてくれないなら、今度はこっちから行くよ」
絵里は以前にも増して強気であった。
「これが私の、いいえ」
絵里とプララが声を揃えて言う。
「私たちのプログラム」
今度は絵里から攻撃をしかけることになった。絵里は新しく手に入れた魔法の杖BASICスターV4を、目の前の敵、ブラックウルフに向ける。
「いっけー。まずはこの子の小手試し。スプライト512個。発射」
絵里の持つ杖から、無数の弾がブラックウルフに向かって放たれた。
スプライト512個。これは、『プチコン3号/BIG』で出現させることのできるスプライトの上限である。『プチコン3号』は512個のスプライトを出現させることはできるが、それらを操ると処理能力が足りずに、処理落ちしてゲームの進行速度が遅くなってしまう。
なので、実際に『プチコン3号』で512個のスプライトを使って、ゲームを作ることはほぼないと言えよう。
『プチコン4』なら、『プチコン3号』よりも、性能が上がっているため、余裕で512のスプライトを制御することができる。
ブラックウルフは防御の体制を取る。
絵里の放った攻撃はブラックウルフに弾かれてしまった。
しかし、絵里は余裕の表情を見せている。
「そうね。この程度なら、全然聞かないようね。でもね、この子の性能はこんなものじゃないよー。いっけー。スプライト4000個。発射」
『プチコン4』では、なんと4000個のスプライトを出現させることができる。
500個でも画面を覆うほどである。どんなことに使えるのか想像もつかない数である。『プチコン4』でどんなことができるのか非常に楽しみである。
絵里の持つ杖から、無数の弾がブラックウルフに向かって放たれた。
ブラックウルフは防御の体制を取る。
「私にこのカッコ悪い、防御体制を取らせるとは、以前よりはパワーは増しているようだな」
しかし、絵里の放った弾は、全てブラックウルフに弾かれてしまった。
「では、こちらからも攻撃させてもらう。やれ!」
そう言ってブラックウルフが魔法を唱えると、ブラックウルフから無数の弾が出現し、絵里に向かってきた。絵里も防御の体制をとり、防御の魔法を発動する準備をしていた。
「防御魔法。テキストレイヤー『TFILL』! そして3枚連続」
絵里は敵の攻撃に合わせて、防御の魔法を発動させた。絵理の前に、3枚の壁が現れた。
プチコン3号ユーザには、見慣れない命令である。テキストレイヤーそれは、画面で格子状に文字を当てはめて表示することが出来る機能である。コンソールと言えばそうかもしれない。しかし、文字だけでなく絵をはめて表示することができるのである。
そう、『プチコン3号』におけるBGである。『プチコン4』では、格子状にはめて表示するものは全てテキストとして扱う。BGとは文字の一種なのである。『プチコン4』では、BG系の命令は、T系ということになる。『BGFILL』は『TFILL』で代用することになるのである。
無数の敵の弾が絵里に目掛けて襲ってきた。絵里の目の前の壁は押し潰されるそうになりながらも、なんとか敵の攻撃を防ぎきった。
ブラックウルフが攻撃を放つ時に、プララは動き出していた。プララはブラックウルフの横から、自慢の鎌で切り裂くように振り下ろした。ブラックウルフもそれには気づいたようである。瞬時に、ブラックウルフもバリアを発生させて、プララの攻撃を防ぎきった。
その直後、ブラックウルフは、プララに対して、剣で切りかかってきた。
圧倒的な速さである。プララは防御が間に合いそうになかった。
その時、絵里が叫んだ!
「いっけー。レイヤー切り替え発動!」
絵里の前にあった壁の一部が、プララの方に移動した。
間一髪のところで、プララはブラックウルフの攻撃を免れた。
『プチコン4』には、レイヤーという機能がある。レイヤーに所属する文字やスプライトはそれぞれまとめて制御することができる。
この機能により、プログラムをほとんど変えずに画面全体を回転させたりすることが可能である。スプライトやテキストをそれぞれのレイヤーに所属させて制御すれば、画面分割といった機能が実現可能なのである。
プララが絵里に礼をする。
「ありがと、助かったわ」
「どういたしまして、次はこっちの番だよ」
絵里はまだまだ新しい魔法を発動させる。
「この子の新機能。『VIBLATE』いっけー」
その瞬間、床全体が大きな振動に襲われた。
ブラックウルフは勿論、絵理たちにも影響がうけた。絵里は立っていられず、尻もちを着いてしまった。
「失敗失敗。こんなことも出来るんだね」
『プチコン4』には、Nintendo Swichの目玉機能の一つである。HD振動を制御することができる。振動のの周波数や強さを細かく設定することができる。やり方によっては、曲を奏でることも可能なようである。HD振動が何に使えるのか?
まだまだ未知数なところがあるが、それの可能性を追求することが、ゲーム制作の醍醐味とも言えるであろう。
絵里は、振動魔法を解除した。立ち上がって、戦う体制を取った。
「なかなか手ごわいね。でもこっちもまだまだ行くよ」
絵里とプララによる連携攻撃は続いた。1回目の時とは違う、2人とも大幅にパワーアップしているように見える。絵里の遠距離攻撃、プララに近距離攻撃。プララが攻撃されようとすると、絵里が攻撃を仕掛ける。1対2による戦い。前回は一瞬で決着が着いた戦いだったが、今回は何度も攻撃を仕掛けることが出来ている。
しかし、ブラックウルフと追い詰めることはできなかった。
絵里とプララは一度接近してコンタクトを取った。そこにチーチャも混ざっていた。
「絵里もプララもよく戦ってるニャ。しかし、ブラックウルフの魔力は強いニャ。どうやらこのままではいずれは負けることになりかねないニャ。なので最後の作戦ニャ」
チーチャは絵里とプララに作戦を伝えた。
「作戦はこうニャ」
「わかったよ」
「そうね。ちょっと危険だけど、やるしか無いわね」
3人が話していると、ブラックウルフが割り込んできた。
「何をもたもたやっている。そうか、まぁいいだろう。どう考えてもこの状況を考えれば同じことだ」
絵里が強気に話しかける。プララは作戦通りに行動に移った。
「そんなことない。私たちには、あなたが持っていないものがある。そして、私はこの世界に来て大切なことを学んだ。魔法を使う、いえプログラムをする上で大事なこと」
「そんなものは力の前では何の役にたたないということがわからんようだな」
「力とは何か? 力っていうのは、1人のものだけじゃないんだ。
みんなで協力して、知恵を出し合うこと。画像素材、ユーザー定義関数・ユーザ定義命令、サンプルプログラム・便利ツールを分け合うことで、本当に素晴らしものを作り上げることができる。
1人では出来ないような。この作品もあの作品も、みんなの力で出来ているんだ。
だから、プログラムというものは、1人で組み上げて形にするというものではないんだよ。
それが私たちプログラム。
自分の力では出来なくても、みんなと影響し合うことで、より良いものが生まれていく。
だから、私たちにはあなたが持っていないちからがある」
絵里が長々と放している時に、プララは攻撃体制に入っていた。
「卑怯かも知れないけど、そんなことは言っていられないの。プライドを捨てて自分の弱さを認め、仲間の力を利用、いや借りることで、成し遂げることができるものがあるの! 私にはやりたいことがある!」
作品作りにおいて、誰よりも目立ちたいという心境は誰にでもある。誰よりも早く作品を公開することで、得られる快感というものもある。
それが欲しい時、既に誰かが作った方法や産物を利用するというのが効率的である。誰かが先に作った機能や、プログラムのロジックをそのまま組み込むのである。自分が作るよりも早く形にすることができる可能性がある。
つまり、作品を早く公開することを考えた場合、下手に自分の力でやろうとせずに、誰かの作ったものをそのまま利用することが近道なのである。
プログラミングの楽しさというのは、自分で考えて作り上げることでもあると言えよう。前者とは意味が異なるが、どちらもプログラミングにおいて重要なことなのである。
プララは、鎌を振り下ろして攻撃に入った。不意打ちだった、ブラックウルフは防御体制をとったが完全に防ぎ切ることは出来なかった。ブラックウルフの鎧が大きく砕け散った。
プララは、この戦いを終わらせたかった。そのためにはどんな手段を使っても構わない。プララは卑怯とも言える戦術。不意打ちを選んだのである。
「不意打ちとは卑怯な」
「やりたいことを実現するのに卑怯もなにもない。そこまでしないと出来ないんだったら私はやる」
「だが、この程度で私を倒せると思っているようでは、詰めが甘い」
「そんなこと、やってみないとわからないでしょ」
ブラックウルフがプララに攻撃をしかけてきた。ブラックウルフの持つ杖が剣に変わった。ブラックウルフはプララに向かって剣を振り下ろした。プララも防御の体制を取る。
しかし、ブラックウルフの攻撃力は強かった。いくら多少魔力が高いとは言え、大人の攻撃を子供が防ぎきれるものではなかった。
プララは大きく仰け反った。自分が仰け反って、ふっとばされることで、衝撃を和らげることができた。
「どうした、今回は頼みのお友達は助けに来ないようだな」
「絵里のこと? 絵里が居なくても、アンタの攻撃は防いで見せる。まだ私は戦える!」
そう言ってプララは攻撃体制に移った。プララは今までにない、連続攻撃を繰り出した。
しかし、相手はブラックドック最強の魔法使いでもある。どうやら、攻撃を当てることは出来なかった。それでも、プララは攻撃を続けた。
プララも、ブラックドックの攻撃を何度もかすった。致命傷は免れているが、バトルコスチュームはところどころ破けて、どころどころから出血している部分もあった。
ちょうどその頃、後ろのほうでは、チーチャたちがブツブツと小さな声で話していた。
「ついに出来たニャ」
「問題は杖が持つかですね
「どうなのニャ」
「試したことはないけど、それくらいの魔力なら耐えられるはずです」
「では、やるニャ」
「行くよ! この国で最強の魔法! これをここで使うことになるとは思わなかったけど……私の思いではなく、みんなの願いを力にして…… いっけぇ!」
絵里はBASICスターをブラックウルフに向けていた。ブラックウルフはプララと激闘を繰り広げており、絵里の存在には気づいていないようであった。
絵理が魔法のロジックを念じると、杖の先から、物凄い大きさのビームが出現した。そのビームはブラックウルフに向かっていった。とても大きいビームである。絵里の体はすっぽりとそのまま飲み込まれるほど大きさがある。
そう、魔力砲である。チーチャーとヒロの協力により、魔力砲のエネルギーを絵里の杖に転送することに成功した。
絵里が放ったものはレッドキャット軍の最強の魔法兵器であった。
「何?」
ブラックウルフが振り返った時は既に遅かった。防御の魔法を発動しても防ぐことは出来なかった。
ブラックウルフは、大人とも思えない今まで発したことのない声を上げた。
「うわーーーーーーぁ」
ビームに飲み込まれたブラックウルフは跡形も無く消滅した。プララは深手を負いながらもなんとかビームの射程外に移動していた。
絵里はプララに向かって行った。
「大丈夫? 凄い怪我?」
「なんとか大丈夫よ。歩けなくはないわ」
「今のビームで、壁全体が見事に溶けたニャ」
「そうだね。どうやら奥に部屋があるみただね」
プララは壁の向こうにある部屋に向かって歩き出した。
「どこかで見たことがあるような景色」
部屋のほうから、誰かが歩いてきた。
今のプララに戦える力は残っていなかった。
部屋のほうから女性の声が聞こえた。
「イエナ? イエナなの?」
プララも答えた。
「お母さん?」
「行きていたの? 良かったわ」
「そうだよ。私だよ」
どうやら、部屋の奥に居たのはプララの母親のようであった。ブラックウルフは、プララの父を連れて行った時に、母もブラックウルフによって連れされたのである。
それ以来、プララはブラックウルフとともに生活をすることになり、母と会うことは無かった。
ここで、7年ぶりの再会ということになる。五年とは言え、プララのような子供にとっては長い年月である。
絵里もプララについていった。
「プララちゃんのお母さん?」
「そうね。私のお母さん。もう何年もあってないのよね。そもそも行きているとは思わなかった? 会いたかった」
「よかったね」
絵里は当事者でもないのに、涙を流していた。
「そうね。よかったわ。これで平和になるといいね」
そう、敵の親玉が倒されたと言っても、直ぐに平和になるとは限らないわけである。
「敵は滅んだニャ。最後にやらなければならないことがあるニャ」
「そうね。伝えないとね。私たちが生きる上で大切なこと」
ここは、ブラックドック軍の最高幹部が住んでいたところであって、国民に伝達するための放送設備は揃っていた。
絵理たちは、国内全体通信によって、国民に伝えることになった。
ブラックドックの最高幹部が滅んだ。そして、これからは、2つの国が争うこともなく平和に向かうべきであると……。
プララと絵里では、伝わりにくい事もあったが、プララの母親も放送に参加することで、戦いは終わりを告げる事になりそうな様子である。
「うん、これでなんとか平和に終わりそうでよかったね」
「そうね。あれ、絵理、何かちょっと辛そうな顔してるけど大丈夫」
「うん。何とか大丈夫だよ、今、大事なお話してるんだから」
どうやら、絵里に気づいたのか、プララの母親が小声で話してきた。
「絵里ちゃんっていうの? 我慢しないほうがいいわよ。私の部屋にあるから、使ってちょうだい。辛そうな顔してるわよ」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
絵里は、ゆっくりとプララの母親が居た部屋の方へ歩いていった。
「あの子大丈夫かしら……イエナ。ちょっと見てきておやり。放送なら私がなんとかするから」
プララは絵里の方に向かっていった。絵里が居た。どうやら、まだトイレを見つけられていないようであった。絵里は焦りの表情になる
(どうしよう。やばい……もうダメかも……)
その時、プララが絵里の前に現れた。
「プララちゃん」
「絵理、こっちよ。って歩けそうにになさそうね。まぁ世話がやける子ね」
プララは絵里を抱えて、トイレに向かった。
(今度は、アタシが絵里を助ける番ね……怪我してるのは私の方なんだけど……)
プララの母親による放送は続いていた。少し立つと、絵里とプララも放送に加わった。
長く続いた2つの国の戦いは終わる方向へ向かうことになった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
レッドキャット国、ブラックドック国との戦いを終えた絵理たちは元の世界に戻ることになった。
「プララちゃんともチーちゃんともお別れだね。楽しかったような、怖かったような」
「そうね。でも、私もこの世界にいるわけだから、その気になれば会えないこともないのよね」
「そうだね。離れていても、ずっと友達だよね……ちょっと待って」
絵里は自分の髪のリボンを解いた。プララも絵里を見て自分の髪のリボンを解いた。
「そうよ。友達の印ってわけじゃないけど、ね。忘れないように、これ持っててくれる?」
「うん、わたしからも。ねっ」
絵里とプララはお互いのリボンを交換した、異世界にいる友だちとしての思い出として。
「そろそろ、お別れだね。チーちゃんも元気でね」
「ニャーも、気が向いたら遊びに行くかも知れないニャ。その時はよろしくニャ」
「うん」
「では、ゲートを開くニャ」
チーチャが何やら怪しい言葉を唱えると、絵理たちの目の前に虹色に光る扉が出現した。
「またね」
そう言って、絵里は虹色に光る扉に飛び込んだ
絵里は気がつくと、家の近くの公園にいた。どうやらチーチャが家に帰るのに安全なところを選んでくれたようである。ここなら、あまり人は通らない。まだ明るい時間であった。昼になる前の時間ってところだろうか? 絵里は自分の家に向かうことした。
「あれから、1週間も経ってないんだよね。でもすごく久しぶりな気分。みんな心配してるかな。まぁ下手な言い訳は考えてるから……何とかなりそうだよね」
絵里は独り言を言いながら家に向かって歩いた。
家の近くに来た。インターホンを鳴らした。絵里の家のインターホン玄関にはカメラがついていて家の前に誰がいるのかわかるようになっていた。
ドアが空いた。絵里の母のヒトミが出てきた。絵里の母は絵里を見た時、一瞬、声が出なかった。
「……絵理なの?」
「そうだよ。お母さん」
「どこ行ってたの? 心配したのよ? 大丈夫だった?」
「うん。何とかね」
絵里の家は門限に厳しい。いつもはちょっと門限を守らなかったら。スカートをめくられてお尻をペンペンと叩かれるのに、こんなに約束の時間を破ったのにそのようなことはなかった。どうやら、みんな心配していた。
絵里が無事で良かったと……
絵里は自宅に入った。心が少し落ち着いてから、母と話しをした。当然、今までどこに行ってたのか? とも聞かれた。絵里は、事前に考えていた言い訳をした。
「ちょっと、友達の家から帰る時にね、急に目の前に白い車が止まってね。何かなって思ってたら、無理やり車に乗せられちゃって……、直ぐにママに連絡しようとしたけど、電話も取り上げられちゃって……でも、その人たちは、私を襲うことはなかったよ。その後、何日も、その人のうちに泊まることになって……」
どうやら、絵里は何とか誤魔化せたようである。
絵里も、母のヒトミも笑顔で会話している。
何もない、平和な日々が続いている
「魔法の世界の戦いが終わってから、私は平和に暮らしています。どうやら、来年から私の学校でも、プログラミングの授業が始まるようです。
私は一足先にいろいろ学びました。本当にプログラミングが出来るようになると、楽しいです。
お友達にも教えてあげたいですね。アサミちゃんやリカちゃんはともかく、男の子の中には、もう既にプログラミングをしてる人もいるのかも知れませんね。今度お話してみようかな。そうして、もっとプログラミング仲間を増やしたいかな……
君も、プチコンやプログラミングに興味を持ったなら、周りの人にも教えてみてくださいね。「すっごーい」って言われるかも知れないね。
プログラミング楽しいよ。魔法だよ」
おわり
プログラムという名の魔法 ぷちぷち @puchipuchi250
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