第12話 親友
「私の名前は『小枝 絵里』。どこにでもいる小学4年生だったんだけど、ある日突然、魔法少女になっちゃった。今は元の世界を離れて、異世界にいるよ。
いろいろ、厄介なことに巻き込まれちゃったけど、仲間の為に、みんなのために、世界を救う為に戦うよ」
絵理たちはブラックドック国、総合施設であるドッグタワーのAI兵器管制ルームにいた。前回の活躍によって、敵の主力兵器である、AI戦闘員の機能が停止した。
しかし、これで終わったわけではない。兵器である一つが機能を停止しただけであり、ブラックドック軍の戦意が消失したわけではない。
絵里は、ひとまずホッとした表情を浮かべている。
「まぁ、何とか敵の戦闘員を止めることはできたニャ」
「そうだね。一安心だね」
「いいや、安心はしていられないニャ。まだ敵の兵器の1つを無力化しただけニャ。ブラックドックとレッドキャットの戦いが終わったわけではないし、何よりも、こんな派手なことをしてしまった以上、ニャー達が見つかるのは、もはや時間の問題ということになるニャ」
そう、絵理たちは今まで、誰にも見つからないように密かに行動していた。
しかし、AI戦闘員を外部から無力化した。戦闘員を制御できるのは、ドッグタワー内部のAI兵器管制ルームのみである。これだけ派手なことをしてしまった以上、敵に見つかるのは時間の問題ということになる。
ほっと、一安心した表情をしている絵理に対して、プララは緊迫した表情をしている。
「急ぐわよ」
「そうニャ。そろそろ動かないと、まずいニャ」
チーチャーもプララと同じ考えのようである。早くここを動きたいと思っているようである。絵里もそのことは十分承知している。
「そうだね。ついにラスボスとの対決! ってわけだね」
「そうね。ボスの部屋はこのタワーの最上階ね。でも、いろいろ罠があるから、気をつけるのよ。私が案内するわ」
絵里はプララの案内によって、先に進むことになった。
突然、絵理たちのいるエリアにブザーが鳴り響いた。
「もう見つかったの?」
「そうね。でも、まだ私たちを知られているわけではないわね」
「まぁあれだけ派手ことやったニャー達ニャ。このエリアに誰かいるということまではバレてるニャ」
絵理たちは一直線に続いている通路を、足音を立てないように静かに歩いて進んでいた。
突然後ろから、人型ロボットのような敵のAI兵器が現れた。大きさは絵理たちより大きく、大柄な成人男性程度の背丈がある。
そして、前方には武器として、カバーの無い扇風機のようなものをくるくると回転させている。羽根の代わりにビームで出来た剣のようなものがついている。
そのロボット兵器は、音を立てながら、絵里の後ろにから近づいてきた。近づくには危険な状態である。
絵里は、妙な音を感じて後ろを振り返る。
「プララちゃん、なにか来るよ。そして、速い!」
プララも後ろを振り返る。
そのロボット兵器の目のような部分がピカッと光った。そして、そのロボットは絵理たちを目がけて加速していった。
「どうやら、あたし達を完全に見つけたみたいね。走るわよ。こっちよ」
「ええぇ」
プララはロボット兵器から遠ざかるように、通路を走り出した。絵里も続いて走り出す。
絵里が通路の先を見て気づいた。どうっやら通路にぽっかりと大きな空間が空いていた。
「あれっ、道がなくなってる」
プララは真剣な表情をしながら言った。
「まだ、間に合うわ。飛び越えるわよ」
どうやら、通路の先には大きな穴が開いているようだった。その穴は時間とともに大きくなっていった。
そして、後ろからは剣を振り回したロボット兵器。絵理たちは挟まれたような状況になった。絵里たちの進む先には大きな穴。どうやら、敵の作戦によって誘導されている状況である。
絵理たちの状況をBASICプログラムのミニゲームで再現すると、この様になる。
プチコン3号/BIGを持っている君は、このプログラムを打ち込んで動かしてみると面白いかも知れない。
(いや、物語が気になるから遊んでいる場合ではない?)
このように、プログラムリストが時々掲載されているのも、この小説の特徴でも言える部分である。
『
ACLS
WIDTH 16
SPSET 0,2544
U=200
SPANIM 0,11,8,1,8,2,0
GFILL 0,U,400,204,#GREEN
@S
T=T+2
GFILL U,U,300+T,240,0
X=16
Y=U
S=0
A=0
F=0
@M
B=BUTTON(2)
S=S+SGN(B)*0.05
X=X+S
CLS
IF(B AND 16)&&(!F)THEN
A=-3
F=1
ENDIF
Y=Y+A
A=A+0.1
F=1
SPOFS 0,X,Y
PRINT T/2
IF GSPOIT(X,Y)THEN
Y=U
A=0
F=0
ENDIF
VSYNC
IF X>400 THEN @S
IF Y<260 THEN @M
』
このゲームの内容は……そう。シンプルなジャンプアクションゲームである。物語の絵理たちと同じ様に、キャラクターを走らせてジャンプで飛び越えるゲームである。
十字ボタンをガチャガチャと押して、ボタンを押したらジャンプ。目の前の穴を飛び越えろ。飛び越えられたら次のステージへ。だんだん穴が大きくなっていくぞ。という内容である。
まぁゲームで遊んでいては、物語は進まない。
物語に戻るとしよう。
絵里とプララの進む先の床に大きな空間が空いていた。絵里とプララは穴の手前でジャンプした。
絵里もプララも戦闘用のバトルコスチュームを着ている。魔法の力によって体力やその他のステータスが大幅にアップしている状況である。
とても普通の人間には飛び越える事ができないような大きな穴であったが、魔法で能力が強化されている絵理たちにとって問題はなかった。
「何とか渡りきったね」
「挟み撃ちではなかったので助かったわね」
「そうだね。穴の先に敵がいなくてよかったよ」
絵理たちは一つの罠を突破した。絵里はプララに続いて先に進んでいく。通路を進むと階段があった。絵理たちは階段を登って上のフロアに上がる。
「けっこう遠いね」
「そうね。敵の攻撃も厳しくなってきそうね。魔法のほうは大丈夫。疲れない?」
「うん、大丈夫。元気元気」
そんな会話をしながら、絵理たちは先に進んでいく。ある程度進むと絵理たちの前から、先程とは違う戦闘用のロボットのようなものが向かってきた。
その戦闘用のロボットの手には銃のような武器を持っていた。
プララは少し警戒して絵里たちに伝える。
「どうやら、敵も本気みたいね。いよいよ命を狙いに来たわね」
「まぁ、数々のトラップをかいくぐってきたわけニャ、敵さんも本気になってきても、おかしくないニャ」
「絵里は大丈夫? おじけづいてないわよね」
「うん。大丈夫」
「なら戦うわよ。やられる前にやる。戦いの基本ね」
プララは敵の戦闘用のロボットに向かっていった。絵里も続いて向かっていく
プララは強気な顔しながら敵の戦闘用ロボットに近づいていく。手には魔法の杖。プララの場合は絵里とは形が違う。どちらかというと鎌のような形をしている。
「まぁ確かにいい動きはしてると思う、でも、私たちの敵ではないわ。あの頃の私とは違うのよ」
敵の戦闘用ロボットは鉄砲の様な武器を持っていた、プララは敵の射程に入らないように斜めから近づく、そして、敵が銃口をプララに向ける前に、鎌のような武器で切り裂いた。
「その程度では、私は止められないわ」
プララはあっさりと1体目の敵を撃破した。
絵里も敵の戦闘用ロボットに近づいていく、しかし、プララとは違い距離を取っていた。
「私だって、あの頃よりも、だいぶ魔法が上手になったんだから!」
絵里は、魔法の杖を敵の方に向ける。そして、心で魔法の命令を念じて、引き金を引いた。魔法の杖の先から、バスケットボールほどの光の弾が現れて、敵のほうにツバメのような速さで向かっていく、絵里の攻撃は敵の戦闘用ロボットに命中。敵の戦闘用ロボットは大破して動かなくなった。
今の絵理たちの状況をゲームで表現するとこの様になるであろう。
プチコン3号/BIGを持っている人は打ち込んでみても面白いであろう。
いやいや、そんなことで、遊ぶよりも物語の先が気になる?
だったら、別にプログラムリストは飛ばして読んでも、構わないであろう。
(そもそも、小説を読みたい人が、プログラムリストなんて打ち込むのか? そもそもファンタジー小説を読みたいと思ってページを開いたのに、いきなりプログラムリストが書かれているとか、どこに需要があるのか?)
『
ACLS
SPSET 0,3299
SPSET 1,3371
SPSET 2,3265
X=200
Y=X
WHILE !E
P=90+RND(200)
S=S+FLOOR((240-Z)*(G>0))
BEEP 11,,(G>0)*120
Z=0
G=G+1
M=-9
REPEAT
WAIT
STICK OUT Q,
X=X+Q*4
M=M-4
CLS
IF BUTTON(2)THEN
N=X
M=Y
ENDIF
Z=Z+G*0.08
SPOFS 2,P,Z
E=Z>240
PRINT G,S
SPOFS 0,X,220
SPOFS 1,N,M
V=ABS(N-P)
UNTIL E||V<5&&ABS(M-Z)<5
WEND
BEEP 15
』
シンプルなシューティングゲームである、飛んでくる敵を撃ち落せ。敵を打ち逃して逃してしまったらゲームオーバーだ。という内容である。
絵理たちの状況とは違う? そもそも自機が飛行機ってどうなの?
細かいことは気にしては行けない。敵が前から来て、プレイヤーは弾を打つという状況に関しては、絵理たちと同じといえよう。
ゲームで遊んでいては、物語は進まない。
物語に戻るとしよう。
今の2人に敵などいない。他にも何体が敵の戦闘用ロボットがいたが、銃弾が飛び交かっていたのは、数十秒程度であった。
「ふぅ、何とか全員倒しみたいね」
「そうだね。あとどれくらい進むの」
「そうね。地図によると、もうすぐね」
「じゃあ、この調子で、どんどん行っちゃおうよ」
どうやら、今の絵里たちは絶好調のようである。これなら、どんな奴が相手でも負けない。と言えるほどであろう。
チーチャーは少し冷静な顔をしている。
「油断は良くないニャ。でも、勢いは大事ニャ」
「うん。わかったよ」
絵理たちは通路を進んでいく、どうやら一際目立つ扉が目の前にあった。
プララは今までと違い少し真面目な表情をして言った。
「ここね。ついに来たわね」
「そうなの。いよいよだね」
どうやら、絵理たちはついに、敵の親玉がいると思われるエリアに踏み入れたようである。目の前の扉、その先に待っているのであろうか……
絵里はもう一度深呼吸をして、自分の手足や服を見て状況を確認した。
「バトルコスチューム、よし。魔法の杖に戦闘用魔法のロード、よし」
絵里は、呼吸を整えて
「準備OK!」
「そうね。私もOKね。では、扉を破壊するわよ」
絵理たちは扉のほうに進んでいく、そして扉の前に立って、どこを攻撃して扉を破壊しようかと考えている時に、目の前の扉が開いた。
扉のほうから、太く渋い声が聞こえた。
「待っていたぞ。よくぞ、ここまでたどり着いた。その度胸とやらは褒めてやろう」
扉の方には、黒くて大きな男の影があった。
絵里とプララは扉の中に進んでいった。再び扉の先の部屋から声が聞こえた。
「だが、どうやら、わかっていないようだ。自分の立場と自分の力というものを」
絵里たちは声のするほうへと向かっていった。
そこには、イヌミミの男がいた。全体的に黒い服で、大きなマントを羽織っていた。手には魔法の杖のような棒状のものを握っていた。どうやら後ろを見ているようである。だが、絵理たちが後ろから襲うことができないような、何とも言えない気迫があった。
絵里は、大きな声で話しかけた。
「あなたなのね! チーチャンの国を襲ったのは?」
その男は低い声で話し返してきた。
「それがどうした?」
プララも会話に参加する。
「何でこんなことをしたの?」
男が強い口調で返した。
「子供はだまってろ。これは大人の問題だ」
絵里とプララもも負けじと言い返す。
「子供でも言いたいことはあるんだよ」
「私には仲間もいる」
「異世界ごときの小娘に何ができる。所詮、子供2人とネコ1匹ってことだろう」
「違うわ、私の友達。そこらの子供とは違う」
「お前が違うと思っていようが、私には同じことだ」
男は絵理たちのほうに振り向いた。そして、プララを見て、こう言った。
「誰かと思えば、私の娘ではないか」
絵理は驚いた表情を見せる
「そうなの?」
プララはゆっくりとした口調で答えた。
「そうね。確かにアンタの娘かも知れない。でも、私には希望と願いがあるの。アンタの娘かも知れないけど、アンタのやり方は気に入らないの」
「よくぞ、そんな口を叩くようになったな。言うこと効かない悪い子供は、お仕置きをしないといけないな。誰がお前をここまで育てたと思っている?」
「そうね、でも、アンタは本当のお父さんではない!」
絵理はプララの発言に驚いた。絵里はプララに尋ねる。
「そうなの。じゃぁ本当のお父さんは」
プララは絵理の質問に対して答えた。
「私はパパとママとの3人で平和で暮らしていた。パパは魔法の技術者だった。平和で暮らしを豊かにするために魔法の研究や開発をして生計を立ていた。時々パパが魔法のプログラムをいろいろと私に教えてくれた。私はパパと魔法の勉強をするのが楽しかった。ずっと3人家族で平和な暮らしができると思っていた。そう、アンタが目の前に現れるまでは……」
「よく覚えているじゃないか、記憶力は悪くないようだな。これなら魔法の鍛えがいがあるってものだ」
「当たり前でしょ。私たちの家族を引き裂いたアンタを……あの日を忘れられるわけないじゃない。突然現れたアンタは、パパの技術力を見込んで、軍の兵器を開発するために連れて行った。私の目の前で、パパは必死に抵抗した。ママも……でも、無力だった。アンタの圧倒的な力の前では何も出来なかった。パパはどこかに連れて行かれ、私はアンタの元で生活するようになった。それ以来、私は本当のパパにもママにも会ってないの」
「今までおとなしくしていた子供が急に大人に楯突くようになるとはな」
「私はずっと待っていた。いつか家族との平和な時間を取り戻せるチャンスを……異世界に調査の任務で行った時に、あの子と出会った。最初はただの見習い魔女だと思ってたけど、ある時にあの子の優しさと強さに気づいたの。自分がつらい状況にもかかわらず、仲間を思いやる優しい心。自分がトイレを我慢していて辛い状況にもかかわらず、あの子は私に先を譲ってくれた」
チーチャが割り込むように絵理に聞く
「そんなこと、あったのかニャ」
「そうだね。友達4人で水族館に行ったときだったかなぁ。本当の理由は違うんだけどね。でも、確かに私のほうが漏れそうだったよ。何とか耐えられたから良かったけど……」
プララは話を続ける。
「それだけじゃない。私と絵理が決闘をしたとき。最後の切り札とも言える大打撃を与える瞬間、あの子は私に『ごめんね』と言った。そして、戦いに破れて瀕死の重傷を負った私に対して、あの子も魔力を使い切ってほどんど動けないはずなのに、真っ先に助けに向かってきてくれた。その後、私は元の世界に戻った。しばらく経ってから、どうやらあの子がレッドキャットにいると思える情報を耳にした。私も魔力砲の噂は知っていたわ。あの子を救いたいと思った。そして、私を負かしたあの魔力なら、私の夢を叶えられると思った。必死になって、あの子がいるレッドキャットに向かったわ」
絵里も頷きながら話を聞いている。絵里の優しいとぼけた話し声が時々この緊迫した状況を和らげる。
「そうだったんだ。全然しらなかったよ」
プララは絵里の顔を見る。プララは絵里の横に立ちながら話を続けた。
「こうして私と絵里は友達、いや友達以上の存在になったのかも知れない。だから、レッドキャットとブラックドックは仲良くやっていけるはずなのよ」
「言いたいことは、それだけか。まだ分かっていないようだ。どんなに願いや希望があっても力がなければ無力であるということを」
謎の男であるブラックウルフは、絵里とプララに向かってきた。
戦いは、始まったようである。
ブラックウルフは魔法の力で無数の光の弾を絵里とプララに放った。
絵里はプララの前で防御の体勢を取る。そして、魔法で光のバリアを発生させて防ごうとした。
「いきなり攻撃なんてズルいよ。まだ話の途中だったんじゃないの? 『GFILL』」
プララは絵里の魔法のバリアに身を隠しながらも、隙を見て飛び出してブラックウルフに攻撃に向かった。プララは魔法の杖から鋭い鎌の刃を出現させて、ブラックウルフに切りかかった。ブラックウルフも杖から光の刃を出現させた。プララの攻撃はあと一歩のところでブラックウルフの光の剣に弾かれた。
しかし、ブラックウルフがプララに対して剣を向けたとき、絵里への攻撃は止んでいた。絵里はその隙に次の攻撃を準備していた。
絵里はブラックウルフに対して、魔法の力で出現させた、自分の背丈ほどの大きな光の弾を放った。
「いきなり全開の魔法攻撃! いっけー」
絵里の渾身の魔法による攻撃に対し、ブラックウルフは笑みを浮かべていた。
「まだ、わからんようだな。自分の魔力と相手の魔力の違いが……」
そう言って、ブラックウルフも光の玉を出現させて、絵里の光の弾にぶつけてきた。ブラックウルフのはなった光の弾は、絵里の弾よりも2周りほど大きかった。
絵里の光の弾は押し返されて絵里に向かっていく、一瞬の出来事である。絵里は回避する余裕はなかった。何よりも、プララとの息のあった連携攻撃である。遠距離砲撃の絵里と近距離打撃のプララ。ブラックウルフがプララの攻撃を防いでいるタイミングでの砲撃
である。必中の大技。絵里はそう確信していた。
その弾がいともあっさりと跳ね返されて自分の方に向かってくる。予想外の出来事に絵里は動けなかった。しかし、反射的に魔法の杖(BASICスター)を突き出した防御の構えを取った。そしてバリアの魔法を発動させた。
「ちょっと、やばいかも、防げるかなぁ。でも、やるしかない」
光の弾は絵里のバリアに接触した。そのまま弾き返されるわけでも、かき消されるわけでもなかった。絵里のバリアでは防ぎきれなかった。
絵里の目の前に出現していた光のバリアが破壊された。絵里の魔法の杖(BASICスター)が光の弾に接触する。巨大なエネルギーがBASICスターに襲いかかった。
その瞬間、BASICスターの先端側から半分の部分が光の粒とともに砕け散った。その時の衝撃で絵里は後方に弾き飛ばされた。
その状況はプララの目にもはっきりと映っていた。絵里とプララの連携攻撃は完全に途切れた。
プララは絵里に向かっていった。魔法の力で身体能力が強化されているので、プララが絵里のそばに来るのは一瞬の出来事であった。
「絵理、大丈夫?」
「何とか……。でも、もう戦えそうにないよ。ごめん」
「わかったわ。一旦引き下がりましょ」
「それが良いニャ」
プララは冷静だった。チーチャも同意見であった。プララは魔法の力で煙幕を発生させた。その隙にプララと絵里は部屋を出た。
だが、このままでは、ブラックウルフに見つかるのは時間の問題であった。プララは隠れるのにちょうど良さそうな小さな扉を見つけた。
「こっちよ。ここから一旦逃げましょう」
「うん、わかったよ」
プララと絵里、そしてチーチャは、その小さな入口から中に飛び込んだ。絵里とプララは抱き合うようにして一緒に飛び込んだ。中は滑り台のようになっていた。
「ここはどこ? 落ちるー」
どうやら、絵理たちは滑り落ちながら、広い部屋に出たようである。絵里はお尻から着地した。その上にプララが乗っかっている。
プララは絵里の上から降りた。ここは真っ暗なところであった。決してキレイなところとは言えなかった。何やら怪しい匂いが伝わってくる。足元もジメジメやヌルヌルしている。
「痛ーい。プララちゃん、ここはどこなの?」
「そうね。どこかしら。 ちょっと、魔法で明かりをつけるわね」
プララは魔法の力で辺りを照らした。そこには使われなくなった機械や道具、容器や食料などがあった。
どうやら、ゴミ置き場のようである。暗くてジメジメして何があるわかわからない絵里の苦手な場所であった。
「うわぁ、これは……」
「どうやらゴミ置き場のようね」
「そうみたいニャ」
「また汚いところニャ」
「もうやだよ」
「まぁここなら敵に見つかる心配はないニャ」
「そうね」
「でも、これからどうしよう?」
絵里の魔法の杖はもう使えない。この状況では再び戦いを挑むことは難しい。絵里たちは今後どうするか悩んでいる。
「チーちゃん、この杖って直らないのかな?」
「ちょっと見せて見るニャ」
絵里はチーチャーにBASICスターを渡した。チーチャは手にとってBASICスターの状況を見てこういった。
「派手に壊れているニャ。これでは魔法の発動は出来ないニャ。直せなくもないかもしれないが、すぐには無理ニャ。魔法の杖というものは、特別な契約によって貸し出されるものニャ。そこら辺のスプライトのように簡単に召喚させて出現させたりすることは出来ないのニャ。一度解約して再契約となると、事前にいろいろ手続きが必要なのニャ。面倒くさいのニャ。でも、データとスロットは無事のようニャ。とりあえず魔法倉庫にアップロードはしておいたほうが良いかも知れないニャ」
チーチャはBASICスターの状況を説明して、絵里に渡した。
絵里は、言われたとおりに、魔法倉庫にプログラムデータをアップロードした。
「とりあえず、これでいいのかな?」
「そうニャ」
◆ ◆ ◆ ◆
絵理たちが、ブラックウルフと戦っているとき、地上のほうでは、レッドキャット軍の人たちが、チーチャーを探していた。
レッドキャット軍の主力兵器が何からの理由で使用不能になってしまった。レッドキャット軍の人たちは、チーチャが大きく関わっていると推測しているからである。
チーチャーの親しい友人のヒロは疑問に思っていた。ヒロは仲間たちとチーチャーの情報を集めて、状況を整理していた。
ヒロが仲間に話しかけた。
「何故あのとき、ブラックドッグの戦闘員の動きが止まったのか?」
「確かに謎ですね。ブラックドッグのシステムに不具合があったんですかね?」
「それは無い。あのシステムはそう簡単に不具合を起こすようなものではない」
「ヒロさんは知ってるんですか?」
「そうだな。お前らには秘密にしていたが、俺とチーチャーは昔、ブラックドッグのドッグタワーに忍び込んだことがあるんだ。その時にブラックドッグのAI戦闘員の情報を入手した。仕様書とメインプログラムはコピーして持ち帰ったさ。その時チーチャーは何やら、敵のコンソールでごちゃごちゃやってたな。その頃の俺にはさっぱり分からなかったが、多分、敵のシステムに潜入して罠を仕掛けていたのだろう。そう考えれば辻褄が合う。盗んだ仕様書とメインプログラムの存在を知っているのは、俺とチーチャーとその他極わずかのメンバーだけだ」
チーチャーはブラックドッグ国のドックタワーに忍び込んだ過去があった、AI兵器の管制ルームには到達したことがあった。その時のヒロとチーチャーはレッドキャット軍の精鋭部隊であった。
ヒロの部下がヒロに話しかける。
「そうなのか。ヒロとチーチャにはそんな過去があったんですか? ということは、やはりですかね」
「そうだな。この件に関しては、チーチャーが関わってるってことだろう」
「チーチャーは何を考えているんでしょう?」
「俺も詳しいことはわからん。だが、あいつは俺たちよりも頭がキレるやつだ。少なくとも、何か策があるんだろう」
「チーチャーに連絡をとってみてはどうですかね? って、連絡取れないから、みんな血眼になって探してるんでしたよね」
そう、チーチャーと連絡が取れるのなら、誰もこんなに苦労して探す必要なんてないわけである。チーチャーはここを出る時に、発信機を置いていった。同じ軍の仲間とは言え、単独行動をするには、いろいろ面倒なことになりそうだからである。
なので、他のメンバーからはチーチャーへの連絡をすることは不可能であった。
だが、ヒロは仲間の発言について、あざ笑うこともなく、真面目に受け止めた。
「そうだな。ちょっとは確認をとってみるか。俺とチーチャーだけの秘密回線でな。俺に内緒でいろいろ動かれるのは、まぁいつものことだけどよ」
ヒロはチーチャの一番の親友とも言える存在。チーチャは専用の連絡用の電話のようなものを持っている可能性があった。
◆ ◆ ◆ ◆
絵理たちが、ブラックウルフに敗れて、ごみ置き場に潜んでいた時、チーチャーに外部からの魔法通信により連絡が入った。相手がヒロとわかったチーチャは、ヒロと魔法の電波越しで話をする。
「誰かと思えば、ヒロかニャ」
「よう、元気か? どうやら何か面白そうなことやってんだろう? ブラックドッグの戦闘員が止まった時は助かったぜ」
ヒロは、一連の仕業がチーチャーだと言うことを明確に知っているわけではない。
しかし、チーチャーがやったと確信しているかのように話をした。
「まさか、ヒロから連絡が来るとは思わなかったニャ。こっちも、いろいろ大変なのニャ」
「俺たちに協力して、レッドキャットに戻ってこい! と言って素直に来るような奴ではないよな。お前が来たら、魔力砲が再稼働されるだけだ。だったら、俺がお前に協力したほうが、面白そうな空気がするぜ」
ヒロは少し明るい声になった。どうやら、チーチャーに協力して一緒にやろうという気持ちが伝わってくるような話し声だった。
「そうだな。いつか使うと思ってた例の物が最近完成した。だか、俺たちにはコレを使いこなせるほどの魔力を持ったやつはいない。それには新開発したVer.4が搭載されている。この魔法言語はレッドキャットをより豊かにするために俺たちが生み出したものだ」
ヒロは自信ありげにチーチャに話した。チーチャーは友達に話すような口調で話した。今までの絵理たちとの会話とトーンが違う。
「前からお前が何か作りたいっていてたのは、それのことかニャ」
「そうだ。俺たちはお前に魔法の技術をいろいろ教わった。Ver3にはお前が関わっていることも知った。なので、次は俺たちが、新たな道を切り開きたいと思った」
ヒロから見てもチーチャーは友人でありながら、尊敬すべき人物なのである。接近戦闘に長けているヒロとは対称的に魔法の技術や知識に長けているチーチャー。ヒロたちに魔法技術を教えたのはチーチャーなのであった。
「どうだ、これ使えそうか? 試作品だが、一通りの動作は確認している。だが、さっきも言ったと通り、ここにあったところで、俺たちに強力な魔力を持ったやつはいない」
「どうだって言われても、現物見ないとわからないニャ。とっとと、こっちに、よこせニャ。絵里の端末の識別コードと座標を教えるから、とっとと送れニャ」
どんなに説明がよくても、現物を見ないと判断できない。当たり前のことである。
ヒロはチーチャーの指定した情報に例のブツを送りつけた。
絵里のスカートのポケットの中がブルブル震えた。どうやらヒロから絵理のスマホへの通信は出来たようである。絵里はスマホをポケットから取り出した。絵里のスマホの画面が虹色の光を放ち、画面から新しい魔法の杖が出現した。
「これは?」
絵里の声に対して、ヒロが答えた。
「BASICスターV4、以前のV3よりも大幅に性能がアップしている、その反面以前のBASICスターV3で使用していたプログラムとの互換性はなくなったが、間違いなくV3よりも使えるはずだ」
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