第11話 コンビのチカラ

「私の名前は『小枝 絵里』。どこにでもいる小学4年生だったんだけど、ある日突然、魔法少女になっちゃった。今は元の世界を離れて、異世界にいるよ。

いろいろ、厄介なことに巻き込まれちゃったけど、仲間の為に、みんなのために、世界を救う為に戦うよ」


 絵里たちは、野外で一晩を過ごした。太陽が顔を見せ始めた時間であり、人間が活動するには、まだ早そうな時間である。

 プララとチーチャーは既に起床している。プララは絵里のほうを見て声をかけた。


「絵里、いつまで寝てるの? もう朝よ」

「ふにゃー、もう食べられないよー」


 どうやら、絵里は気持ちよさそうに、寝言を言っているようである。


「いつまで、寝言いってるの?」

「はっ、そうだ」


 絵里はようやく目を覚ました。

 

「おはよー。プララちゃん早いね」

「まぁね、まだ朝早い時間だけど、早めに準備しておかないとね」

「そうだね」

「そうニャ」

「いい朝だね。朝起きたらシャワーだよね。って、ここってシャワーある?」

「ないわよ」

「えっ、そうなの。ってそうだよね」


 ここは、誰も居ない川のほとりである。大自然のど真ん中である。当然シャワーのような人工的な設備はなかった。とはいっても、町からそれほど離れているわけではない。絵里はそれでもシャワーを浴びたいようである。毎日、朝起きたらシャワーを浴びで髪の毛や体をキレイにする絵里にとっては習慣のようなものであった。


「髪の毛ボサボサだよ。気持ち悪いよー。洗いたいよー」


 困ったような顔をしている絵里に対してチーチャーが答えた。


「近くに川があるから大丈夫ニャ」


 プララも同じ様に返答する。


「そうね」

「そっか。プララちゃん、まだ髪洗ってないよね」

「そうね、私もこれから水浴びしようと思ってたところよ」

「じゃあ、私も一緒に」


 絵里とプララは川に水浴びに行くことになった。絵里とプララは水着に着替えた。そして、川の方に行った。

 プララが川の水を触って絵里に伝えた。


「ちょっと冷たいけど、まぁ仕方ないわね」

「そうだね」


 絵里とプララは川の水に浸かった。2人で仲良さそうに体をこすったり、髪の毛を洗ったりした。


「気持ちいいね」

「そうね。シャワーがなくても、たまには良いでしょ」

「そうだね。たまには悪くないね」

「これからが本当の山場なんだから、準備万端で挑まないとね」


 絵里たちは水浴びを終えた。ボサボサだった髪の毛もベトベトしていた肌もツルツルになった。これなら気持ちよく戦いに行けそうである。


「体がキレイになった後は、朝ごはんだよね」

「そうね。ここでは朝ごはんも自分で用意しないとね」

「そっか。いろいろ大変だね」

「大丈夫よ。昨日買った食べ物がまだ残ってるわ」


 絵里たちは、ここで朝食をとった。昨日買った食材の残り物を火で軽く調理したものを食べて、空腹を満たした。旅立つ前には食事で体力をつけることが重要である。


「よし、ご飯も食べたし、準備万端だね」

「そうね」

「ニャニャニャ」

「では、出発ね。昨日の作戦通りに目的地に向かうわよ。ここからはそれほど遠くないわ」

「そうだね」


 絵里たちは、プララの案内で目的の場所に向かった。太陽が顔を出して登り始めており、町中では活動する人々がチラホラと見え始めている。

 絵里たちは、目的地に着いた。


「ここね、軍の施設ほどセキュリティは頑丈ではないけど、他の人の敷地だから、目立つ行為も、関係者に見られることもマズイわね」

「そうニャ、ニャー達は泥棒ということになるわけだから、見つかっては作戦失敗ニャ。気を引き締めるニャ」

「ラジャー」


 絵里たちは、静かに行動しながら、辺りを見渡している。プララが何か見つけたようである。そこには輸送用の乗り物があった。トラックのような乗り物である。車輪はついていない。荷台はコンテナのようになっている。ここではトラックと呼ぶことにする。


「あれね」

「そうニャ。番号も行き先も昨日調べた物と同じニャ。あれで間違いないニャ」


 絵里たちはそのトラックのような乗り物に近づこうとしている。絵里はプララとチーチャーと状況について話をしている。


「この時間は人が少ないね」

「そうね。でも油断は禁物ね」

「ちょっと周りの音を確認してみるね」


 絵里はそう言って、得意の魔法を使って周囲の音を感知した。そう、以前にチーチャーの国の施設に潜入した時に使用した、小さな音でも波形として表示するプログラムである。


「どうやら、今は大丈夫そうね」


 絵里たちは、気配を消して静かに様子を見ていた。プララの声とタイミングで絵里は行動を開始した。


「では、いくわよ」


 絵里たちは静かにトラックに近づいた。そしてトラックの荷台のコンテナを開けようとした。しかし、コンテナには鍵がかかっていた。


「一筋縄ではいかないニャ」

「そうね。先に忍び込んでおけば後々楽なんだけどね」

「えぇ、中に入れないの? どうするの?」

「大丈夫よ、ちょっと危険だけど、ここでは本人に扉を開けてもらいましょ」

「昨日解析したメッセージ通りなら、まだ荷物は積み込まれていないわ。もし見つかっても、怪しまれないように下手な言い訳は考えておくことね」

「わかったよ」

「そうね。誰か来るわ一旦離れて」


 どうやら、輸送の関係者が来たようである。プララと絵里は別々に別れた。プララは素早く姿を消した。絵里は目的のトラックから遠ざかるように隠れた。プララはトラックの近くで待機している。敵には見つかりにくい場所であった。

 輸送の関係の人は、若いお兄さんだった。慣れた手つきで、トラックのコンテナを開けた。そのお兄さんは、ブツブツ独り言を言いながら作業に取り掛かっていた。


「今日の積荷は、っと、またデカイものだな。輸送先は……」


 そのお兄さんはコンテナの入口扉の前で待機していた。そして、2人目の作業員が来た。その作業員は大きめの部品を台車に載せて運んできた。どうやら魔法の世界でも、荷物を運ぶ際には車輪がついている方が便利なのだろう。

 物理的で便利な道具は魔力というエネルギーを使用しない。こういう作業にはエネルギー資源を使用しない道具が効率的なのである。


 作業員のお兄さん達は2人掛かりで、荷物をトラックに積み込んだ。プララはその時に隙を見てトラックのコンテナに忍び込んだ。絵里はトラックの周りをウロウロしていた。絵里としては敵にみつからないように行動しているつもりである。

 どうやら、作業員の1人が絵里の存在に気づいたようである。


「誰だ!」


 絵里は走ることも逃げることもなく立ち止まってしまった。そして回り込んで来た作業員と目が会ってしまった。


「なんだ、子供か? びっくりさせやがって。お嬢ちゃん、何しに来たのかな? ここは危ないから、お家に帰ったほうがいいいよ」


 絵里は完全に見つかってしまった。しかし、考えていた言い訳をする。


「ごめんなさい。危険な場所だと知らなくて、猫を探していたらここに来ちゃって……」


 絵里は言い訳をしながら、ポケットの手を入れてスマホを取り出した。実際に着信があったわけではない。絵里は続けて言い訳をした。


「あ、友達から連絡。あ、猫見つかった? よかった」


 作業員のお兄さんは、近くに居たのが子供の女の子だとわかると、そのまま作業に戻っていった。作業員のお兄さんは建物の方に行ったようである。

 絵里は、作業員のお兄さんが居なくなると、プララが忍び込んだトラックに近づいた。


 荷台の扉が開いた。プララが内側から開けてくれてようである。


「絵里、早く乗って」

「ありがとう」

「まぁ、何とか乗り込めたわね。後は敵の施設に連れて行ってもらうだけよ。このままだと見つかりやすいから、そうね。ダンボールか何か被りましょ」


 絵里とプララは、トラックの中のコンテナの中で、そこら辺にあったダンボール箱の中に隠れた。どうやら、かなり窮屈な様子であった。


「ちょっと狭いね」

「仕方ないでしょ」


 どうやら、出荷の時間が来たようである。

トラックは静かに浮いて、進み出した。車輪はなく、空中に浮いているため大きな揺れはあまりしない。


「トラックが動いたようね」

「そうだね。このまま次の目的地までドライブだね」

「そうね」

「きゃぁ」


 宙に浮いているとは言え、カーブを曲がる時には遠心力がかかり、加速や減速では慣性のちからが発生する。時々、箱の中にいる絵里とプララがぶつかる。


「プララちゃん、くすぐったいよ」

「それはこっちのセリフよ。アンタこそ、私の胸さわらないでよね」

「プララちゃんの足が私のスカートの中に当たってるよ」

「アンタの髪の毛、邪魔」

「プララちゃんだって」

「仕方ないでしょ。窮屈なんだから」

「2人とも静かにするニャ。もう少しの辛抱ニャ」

「だってぇ」


 こんな調子でトラックは目的地のドックタワーに向かっていった。

トラックが止まった。前の方からドアが開く音が聞こえた。どうやら作業員の人が降りてきたようである。


「トラックが止まったね」

「そうね。今の時間に人が降りたってことは、目的地についたようね」

「そろそろ扉が開くニャ。2人とも気配を殺して静かにするニャ」


 作業員の人はトラックのコンテナの扉開けた。中に光が差し込んでくる。作業員の人は手際良く作業に取り掛かった。


「これだな。依頼の荷物は相変わらずデカイな。では、運ぶとするか」


 作業員の人は依頼品をトラックから運び出した。奥にあるダンボールに絵里たちが潜んでいるが、どうやら作業員の人は気づいていなかった。


 どうやら、作業員からの一瞬の死角が生まれた。プララは静かに絵里に伝えた。


「今よ。このタイミングしかないわ。ついてきて」

「うん、わかったよ」


 プララは上手に作業員の目を盗んでトラックのコンテナから外に出た。絵里はプララの後をついていった。何とか今回は見つからずに済んだようである。

 だが、トラックを降りても目立つところにいては作業員や敵に見つかってしまう。


「こっちよ」


 プララは絵里の手を引っ張りながら物陰に移動した。


「何とか潜入できたわね」

「そうだね。プララちゃん凄いよ。あんな風に動けないよ」

「これは慣れの問題よ。何度もやってると出来るようになるわよ」

「そうなの?」

「そうよ、まぁそれはそうと、このままでは見つかっちゃうわね。ちょっとついてきて」


 そう言って、プララは絵里を率いるように、先に進んでいく。絵里はプララに連れられて狭い部屋の中に来た。その部屋には何個も扉があった、絵里のように、誰にも見つからないように潜入した人が一息ついて隠れるには、うってつけの場所であった。

 

「ちょっとここで待っててね」


 そう言って、プララは絵里を置いて、先に進んでいった。


 絵里は、一息ついてチーチャに話かけた。


「ふぅ、ちょっと一安心だね。心臓バクバクだよ。ずっと緊張しっぱなし、心臓が破裂しそうだったよ。プララちゃん凄いよね」

「プララは、ああ見えて相当の場数を踏んでそうだニャ。何事も練習が大事ということニャ」

「私もあんな風になれるのかな? 訓練やすれば慣れると思うニャ、でもそういう状況にならないのが一番ニャ」

「そうだよね。でも、これからもっと怖そうなところに行くんだよね。緊張するよー」


(緊張しててきたら、ちょっとムズムズしてきたよ)


 絵里はちょっと、小刻みに足を動かして落ち着かない様子であった。チーチャが絵里の様子をみて声をかけた。


「我慢は良くないニャ」

「そうだね。じゃあ、チーちゃんは、こっち見ないでよね」

「わかってるニャ」


 そう、ここは女子トイレである。特に個室の中は誰にも見られることがないので、隠れるにはもってこいの場所でもある。

 絵里が用を足しているとプララが戻ってきた。


「絵里はここにいるのよね。絵里、お待たせ」

「プララちゃん、今、開けるけど、ちょっと待ってて」


 絵里は個室のドアを開けた。プララがいた。プララは何やら服を持っていた。


「絵里、この服に着替えて、多分サイズは合うと思うわ」


 絵里はプララが持ってきた服に着替えた。


「この服を着れば、ここのエリアでは怪しまれないわ」

「そうだね。でも、ちょっと大きいかな」

「仕方ないわ。これしか無かったんだもの」


 絵里たちが着ているのはここの従業員の服装である。どこから見ても従業員に見えなくはないが背が低い。敵を撹乱することは出来るのであろうか……


「どう見ても子供ニャ。子供が入り込んでいたら大人に連れ出されるニャ」

「まぁそうね。でも無いよりはましね。普段着よりは目立たないでしょ。あと私たちを見ているのは人間だけではないのよ」

「まぁ、ここはこの服で行くしか無いニャ」


 絵里たちが話をしていると、周りが騒がしくなっていた。


 突然、雷鳴のような声が響いてきた。


「我々はレッドキャット王国の最高司令官である。今すぐにリトルマウンテン地区を我々に明け渡せ。さもなくば魔力砲による砲撃を行う。これは単なる脅しではない。我々は既に戦う準備はできている!」


 レッドキャット軍は、全ての電波機器をジャックし、全体放送で話しかけてきた。

 

「凄い声だね。ライオンみたいだね」

「そうね。そういえばアンタの国の大将はライオンだったわね。って、そんな下らないこと言ってる場合ではないわ」


 ライオンの声は雷鳴の様に低く響くものである。一度、生で聞けば百獣の王といわれる理由の1つがわかるかも知れない。まぁそんなことは、ここではどうでもいい。


 どうやら、レッドキャット軍が動き出したようである。チーチャーはこうなることが予測できていたのか、冷静な反応であった。


「やっぱり、始まったニャ」

「どうするの?」

「まずは様子をみる見るニャ」


 このアナウンスをきっかけに地域全体が騒がしくなっていた。どうやらブラックドッグ軍も反撃の準備に入ったようである。絵里たちのいるエリアを武装した戦闘員と思われる何名の者が廊下を歩いていった。絵里たちは戦闘員とすれ違った。絵里はチーチャに尋ねた。


「今のあの人達は何?」

「ブラックドッグ軍の秘密兵器の戦闘員ニャ。ブラックドック軍は魔法や科学の技術によって、戦闘に特化した人間のような機械の量産化に成功したニャ。そして、それに対抗する為にレッドキャット軍は魔力砲を作り出したニャ」

「どうなっちゃうの?」


 絵里が首をかしげて尋ねた。

 プララが真面目な顔で答えた。


「そうね。このまま行けば、魔力砲 VS 戦闘員による戦いになるわね」

「魔力砲の破壊力は凄まじいニャ。魔力砲で砲撃ができれば、戦闘員なんて木っ端微塵になるニャ」

「じゃぁレッドキャット軍の勝ちなんだね」


 絵里たちが話している間に、レッドキャット軍は砲撃を行おうとしていた。再びライオンの咆哮のようなアナウンスが流れる。


「まずは手始めに、そこの山を1つ見せしめに吹き飛ばさせて頂く。安心したまえ、住人が居ないことは既に確認済みである!」


 どうやら、レッドキャット軍は本気のようである。最高司令官のキング・ライオンの命令により、魔力砲での攻撃準備の段階に入った。


「エネルギー充填開始!」


 レッドキャット軍は魔力砲にエネルギーを溜め始めた。砲台全体が虹色の光に輝いている。充填には多少の時間がかかる。その間に魔力砲の近くにブラック・ドッグ軍の戦闘員

た集まろうとしている。

 10分程の時間が経った。どうやら魔力砲のエネルギーが溜まったようである。レッドキャット軍は砲撃の宣言をした。


「これより砲撃を開始する。魔力砲発射!!」


 レッドキャット軍の魔力砲の砲撃手は魔力砲の引き金を引いた。虹色の光の巨大な弾がブラックドック軍の領土の高い山に向かって放たれた、と誰もが思った。


 しかし、魔力砲が発射されることはなかった。


 レッドキャット軍の最高司令官のキング・ライオンが魔力砲の管轄部隊に連絡をする。

魔力砲の管轄部隊のジャガー隊長が答える。ジャガー隊長はがっしりとした体格であるが、その見た目のわりには、魔法技術に長けていて、部下には口は怖いが心は優しいリーダーとして知れ渡っていた。


「何が起きた?」

「わからん」


 どうやら、原因不明のトラブルのようである。再びキング・ライオンが尋ねる。


「わからんとは何事だ」

「だから、何らかの原因により、魔力砲が発射できんのだ。今から原因を調査する。それまでは、わからん」


 ジャガー隊長は続けてキングライオンに話しかけた。


「まぁ落ち着け、いいか、システムに障害が起こったとき、すぐに直して使えるようにできるのは映画や小説のようなフィクションだけだ。実際のシステム障害とは簡単なことではない場合があるのだ。一度障害が起きたら、復旧までに何日、いや何週間、いや何ヵ月もかかるということは珍しくないのだ。某オンラインゲームの運営だって、復旧に何日もかかっていたりするわけなのだ」


 肝心の最強の兵器が動作しないとなると、ブラックドック軍にとってはチャンスである。ブラックドック軍の戦闘員が魔力砲に対して攻撃を仕掛けてきた。


 絵里たちにも、その状況は伝わってくる。チーチャーは少しニヤニヤした顔をしていた。


「ニャニャニャ、残念ながら魔力砲は撃てないのニャ」

「そう言えば、チーちゃん、あの時に何かやってたよね」

「そうニャ。魔法のプロテクトがかかっているニャ。まぁこれでしばらくは魔力砲は使えないのニャ」


 そう、絵里たちが魔力砲に忍び込んだ時、チーチャは魔力砲の発射機能に対してプロテクト、つまりパスワードのようなものを組み込んでいた。この状況ではレッドキャット軍は、プロテクトを解かない限り魔力砲による砲撃が行えないのである。


「魔力砲が使えないとなると、ブラックドック軍が優勢になるわね」

「そうなっちゃうと、レッドキャット国は負けちゃうのかな」

「このままではそうニャ」

「そうなったら、レッドキャットのたくさんの人が怪我したり、死んじゃったりしないかな」


 絵里は心配に思っている。他人とは言え、戦争をしている軍人とは言え、やはり怪我や死となってしまうのは、心が痛むものである。


「そうならないために、今度は助けないといけないニャ」

「どうやって、私たちのでは、あんなにたくさんの戦闘員と戦うことはできないよ。数が多すぎるよ」

「そうニャ。ニャー達が直接行っても、数を減らす戦力にすらならないニャ」

「それじゃあ、どうすればいいの」


 絵里は疑問に思っている。あれだけたくさんの戦闘員を相手にすることはできそうにない。しかしチーチャーは助けられると言っている。絵里は、事前の作戦では、魔力砲を止めることと、一気にブラックドック軍の施設に潜入して敵の親玉を倒すことしか聞いていなかった。


 プララが割り込むように喋った。


「あの戦闘員は人間ではないのよね」

「そうニャ」

「そういうことは、機械で制御しているということなの?」

「その通りニャ。なので、これからあの兵器を止めに行くニャ」


 絵里もチーチャーとプララが何を考えているのか理解したようである。絵里も会話に参加する。


「場所はわかるの?」

「そうね。地図によると……多分、ここね」

「そうニャ。AI兵器の管制ルーム、ニャ」

「じゃぁ、そこに向かって出発だね。急ごう」


 絵里はふと疑問に思った。


「チーちゃん達って、敵が機械のロボットだってこと知ってたの?」


 チーチャは答えた。


「絵里には言ってなかったニャ。こんなことになるとは思ってなかったからニャ。魔力砲を止めたのは、万が一の時、ブラックドッグ軍に犠牲者が出て欲しくなかったからニャ。でも、こんなに早く魔力砲が動くことは計算外だったニャ。上手く忍び込めば敵のロボットの出番がくることは無かったはずなのニャ。強力な兵器を持っている敵に対抗するには、兵器を使う前に戦いで勝利することが一番なのニャ。でも今回は予定外だったニャ」

「そうなんだ。うん、わかった。とにかく先を急ごう」

 

 絵里たちは急いで、管制ルームを目指して進んでいった。しかし、途中で予想外の状況に出くわした。

 前から大量の戦闘員が押し寄せてきた。シューティングゲームの弾幕のような状況である。


「凄い数の戦闘員だよ。引き下がったほうがいいかな?」

「いや、逃げなくて大丈夫ニャ。相手は外にいるレッドキャット軍で戦うことを優先するように命令されているニャ。ここで引き下がったら、レッドキャット軍の人を救うことは出来ないニャ」

「そうね。前に進むしかないわね」


 プララは強気だった。絵里も同意して、雨のような弾幕のように押し寄せてくる戦闘員を正面から向かっていくことにした。


「いくよー。避けることなら得意だよ。ゲームで鍛えてるんだから」


 絵里たちの状況をプログラムで例えると次のような内容と言えよう。

プチコン3号/BIGを持っている君はこのプログラムを打ち込んでみると面白いかもしれない。

  ACLS

  XSCREEN 2

  K=9999

  DIM X[K],Y[K],V[K]

  SPSET 0,3323

  REPEAT

   TOUCH OUT ,K,P

   GCLS

   FOR I=0 TO M

   IF !V[I] THEN

   X[I]=K

   Y[I]=0

   V[I]=RNDF()*3

   ENDIF

   N=V[I]

   INC X[I],COS(N)*3

   INC Y[I],SIN(N)*3

   GPUTCHAR X[I],Y[I],"○"

   V[I]=N*(Y[I]<240)*(ABS(X[I])<400)

   NEXT

   SPOFS 0,K,P

   W=W+1

   M=W/60

   CLS

   ?J OR 0

   J=J+(240-P)*0.01

   WAIT

  UNTIL GSPOIT(K,P)

 このゲームは弾幕を交わし続けるゲームである。自機が上にいるほど高得点となっている。

 ゲームの説明はこのくらいにして、物語に戻るとしよう。

 

 魔力砲の近くでは、レッドキャット軍とブラックドック軍が交戦をしている。ブラックドック軍の戦闘員は決して戦術に長けているわけではなかった。しかし、敵のブラックドック軍の戦闘員の数がどんどん増えてきている。今はレッドキャット軍が優勢であるが、このままブラックドック軍の戦闘員が増え続けると、いずれはレッドキャット軍に大きな犠牲が出てしまうであろう。


 レッドキャット軍のキング・ライオン達は魔力砲のトラブルの原因究明に取り掛かっていた。再びキングライオンがジャガー隊長に話しかけた。


「原因はわかったか?」

「いや、ただ言えることは、こんなことをできる技術を持っていることは限られてるということだ。ウチらのチームメンバー、そして、このシステムに関わる人に聞き込んでみる必要がありそうだ」


 ジャガー隊長は、魔力砲関係者を何人か集めて、話を聞き出していた。


「お前か?」

「いや、俺ではない。そもそも、俺はずっと別のことをやっていた。細工なんか出来るわけがないんだ。そもそも、俺は、そんな技術を持っていない」

「確かにそうだな。そうなると、あとは、チータローか?」

「そうですね。チーチャーくらい頭がキレるやつでないと、こんなことは無理だと思いますよ」

「そういえば、チータローはどこにいった」

「最近見てないな。また部屋でゲームでもやり込んでんじゃないですかね」


 チーチャーとは、称号、いやニックネームである。本名があまりにもかっこ悪い人は、親から与えられた名前ではなく、自分で考えた名前を名乗るようになる。チーチャーがいつからその名をなのるようになったのか? プログラミングとハッキングを指導する立場になってから、わかりやすく親しみやすい呼び方として、定着させたものである。

 チーチャー(Cheater Tearcher)本名、チータロー。その名の通り、見た目はチーターなのである。


「こんな大事な時に………」


 ジャガー隊長は仲間に連絡をとって、チーチャーの部屋を調べてもらうことにした。

ジャガー隊長も状況がわかるように、映像電話で連絡を取っている。ジャガー隊長が仲間に尋ねる。


「どうだ、チーチャの部屋は」

「ドアに張り紙あります。なになに? 『異世界通信でゲーム大会に出場しているので邪魔するな? 異世界規模での優勝がかかってる、絶対に開けるなニャー』と書いてあります」

「何だと」

「異世界通信ですか? 聞いたことのない技術ですね? そんなのあるんですか?」

「わからん」

「隊長でも?」

「聞いたことは無いが、チータローのことだ、俺達が知らない知識が技術があっても不思議ではない」

「どうしますか?」

「どうするも、こうするも無い。こっちも一大事なのだ?」

「もし、本当なら開けたら大変なことになりますよ。あいつを怒らせるとどうなるか? わかりませんからね」

「だが、世界平和と、人名がかかっている、それどころの話ではない。私が許可をする」

「では、開けますよ」


 ジャガー隊長の仲間は、チーチャーの部屋の扉を開けた。そこには、チーチャーは居なかった。


 ジャガー隊長は思い出したかの様に仲間に尋ねた。


「そういえば、あの時、泥棒が入ったといったな」


仲間は軽く答えた、別に重要な話をしている様子ではない口調である。


「まぁよくあることですよ、単なる、こそ泥ですね。金品を奪われたわけではないし、別に大ごとにするほどでも無いと思います」


 ジャガー隊長は、静かに今まで以上に真面目な声で尋ねた。


「詳しい話を聞かせろ」

「俺もよくわかってないんですけどね。ヤマネコ城のほうで見かけない女の子と一緒に食事をしようとしたら、その女の子が突然現れた忍者によって連れ去られたらしいですね。被害と言えるほどのことはないですけどね。警備は強化しないといけないですよね」

「その女の子ってのはどんなやつだ」

「まだ胸もないガキのようですよ」

「それだ、ネコネコ城に魔女として招待したら、連れ去られた。そういや、チータローと少女が一緒に歩いてたよな。確か魔女候補の……」


 ジャガー隊長は何かに気づいたようである。


「チータローはいない。その女にも逃げられた。チータローが逃したのか? どうなのか? どちらにせよ、チータローが今回の件に深く関わってるということには変わりないな」


 ジャガー隊長がどう思っているかはともかく、この状況でチーチャーが居ないということは、十分に怪しいといえる状況である。


 ジャガー隊長は、仲間に命令した。


「チータローを探せ、つれてこい、そうでないと、魔力砲は動かせん」


 絵里たちは、迫り来る戦闘員を回避しながら、管制ルームに向かっていた。

どうやら、戦闘員の群れを抜けたようである。そして、AI兵器管制ルームの前のセキュリティ扉の前に来ていた。


「何とか抜けたね」

「ここから先は敵の指令センターニャ。もうこっそりと潜入して無力化は出来ないニャ」

「そうね。危険が伴うわね」

「わかったよ、覚悟はできたよ。このトビラの向こうだね。変身だね」


 絵里とプララは魔法の杖を取りだして、魔法少女のコスチュームに変身した。虹色の光につつまれて、服がみるみる魔法少女のバトルコスチュームに変化していった。絵里たちは魔法少女のバトルコスチュームを纏うことで、魔法攻撃に対しての防御力が高まるわけである。


「準備できたよ」


 チーチャーは扉の前で何やら怪しい操作をしていた。


「ニャーとプララで、扉を開けるニャ。絵里は戦える状態で待機するニャ。扉が開いたら、戦闘して敵を無力化するニャ。殺しは避けたいけど、やむを得ないニャ」

「わかったよ」

「監視カメラをデータをすり替えるニャ。常に同じ映像をループして見せるようにするニャ。これで潜入しても簡単には気づかれないニャ」


 どうやら、チーチャーは自慢のチート能力、いやハッキング技術を使って、監視システムに細工したようである。これにより、絵里たちが扉を開けて潜入することが敵に気づかれることはなくなった。

 チーチャーは入口の扉を開けた。絵里たちは入口でようすを伺っている。

奥には管制用のコンピュータのようなものがあり、3人の作業員の話し声が聞こえた。


「今回の作業は、元データのコピーと、新しいデータへの書き換えだ」

「わかってる」

「いつもどおり、俺がキーボードでコマンド打ち込む、でもお前らも、ちゃんと見ておけよ。大事な作業だ。ミスは許されんのだ」

「わかってるって」

「じゃぁ、作業開始するぞ」


 3人の作業員がオペレーション作業をしているようである。

 ちなみに、作業している3人は、コンタ、コンスケ、コンゾウという名前であった。キツネ耳のブラックドックの国民である。


 コンタが慣れた手つきでキーボードを叩いていた。

 

 カタカタカタカタ、ッターン

 カタカタカタカタ、ッターン

 カタカタカタ

 

「おい、待て」

 

 割り込むように、コンスケが喋った。手を止めてコンタが聞き返した。

 

「どうした?」

「そこ間違ってるぞ」

「あ、本当だ」

「もういい。俺が代わる」

 

 そう言って、コンスケがキーボードを操作するようになった。

 

 カタカタカタカタ、ッターン

 カタカタカタ

 

「おい、そこ違う」

「え、ホントだ。(てへぺろ)」

「何ゲラゲラ笑ってる。遊びじゃないんだぞ。もういい。お前らには任しておけん。俺がやる」

 

 そう言って、今度は、コンゾウがキーボードを操作するようになった。

 

 カタ、カタ、カタ


 コンタとコンスケが声を揃えて喋った。


「お前、遅すぎ!」


「そんな状態だったら日が暮れちまうだろ」


 再びコンスケがキーボードを叩くようになる。


「やっぱり、俺がやるしかない」


 そんな、状態で3人はキーボードを叩いてオペレーション作業を行っていた。


 絵里たちは静かに3人の様子を見ていた。絵里はプララと静かに話をしている。


「中には3人だね」

「最近のシステムは少ない人数でも、運用できるようになってるのね」

「それでも、1人で行動しないのは、操作ミスを減らすためなんだね」

「そうニャ『ペアプログラミング』という言葉ものがあるニャ。この人達がプログラミングをしているのかはわからないけどニャ、2人ペアで作業を行う事により、ミスを減らすことはもちろん。ミスまでは行かなくても、他の人のやり方を見て自分と違うことに気づいたりすることで、効率良いやり方を見出したりと、いろんなメリットがあるニャ」

「そうなんだね」

「私もプログラム教わってた頃はチーちゃんに付きっきりだったから、ある意味ペアプログラミングだったのかな?」

「まぁ、目的は若干違うけど、似たようなものだニャ」


 プログラミングやオペレーション作業に置いてミスが許されないような作業の場合、『ペアプログラミング』が有効なこともある。チーチャーが言ったとおり、ミスをなくすことと、お互いに自分の場合と比較することで、ロジックの効率化や改善を図ることが目的である。


 絵里たちは、しばらく様子を見ていたが、絵里たちにとっても任務であるため作業員の3人を襲う体勢に入った。プララが行動開始の合図をする。


「じゃぁ。そろそろ、邪魔しちゃおうかしら」


 絵里たちは、コンスケ達の後ろに立って話しかけた。


「ちょっと、あんたたち。そこどけてくれないかな? そのキーボード渡してくれたら痛いことはしないよー」


 プララが優しい声で話しかけた。


「誰だ?」


 コンスケ達のが反応して喋りかけた。プララも答える

 

「私は正義の戦士、世界の平和を守るために……って、そんなことはいいの、とにかくここのシステムを無力化させてもらうよ」


 コンスケの仲間が、無線機のような端末を取り出して連絡しようとしていた。

 プララは素早く魔法で手裏剣を手に出現させて、コンスケの仲間に放った。手裏剣によって、無線機がはじき飛ばされて地面に落ちた。


「おっと、仲間呼ぶのはフェアじゃないよ。こっちは2人、あんたら3人なんだからね」


 プララが話している間に敵がもう1人、光線銃のようなものを取り出していた。絵里はその状況をしっかりと見ていた。絵里は防御の魔法を発動した。


「バリア発動。『GFILL』」


 絵里とプララの前に大きな光の壁が現れ、見事に敵の光線銃の攻撃を防ぎ切った。

 

「何? 銃が効かないだと!」

 

 コンスケ達は動揺していた。その隙にプララは接近して釜を振り回した。


 直撃したわけではないが、コンスケ達の3人はキーボードのある方向とは別のほうにふきどばされた。敵の3人を見ながらプララは言った。


「どうやら、アンタ達、戦闘は得意ではないようね。実戦で大事なことは、美しい魔法だけではないのよ。時には力づくでやったほうがいいこともあるんだから」


 プララが喋っている間に、絵里は呪縛の魔法で3人の身動きを止めた。


「最後は、私の凄い魔法でガーンてやってあげるんだから。『SPSET 0,213』」


 そう言って、絵里は魔法のコードを実行した。


 次の瞬間。

 上から水の入ったバケツが落ちてきて、コンスケ達3人の頭を直撃した。3人はクラクラになって動けなくなった。


「ちょっと静かにしててもらうよ。こっちも大事な任務なんだからね」


 絵里たちは、作業員の3人をあっさりと戦闘不能にした。


「何とかやっつけたね」

「でも、これでニャーたちも完全に敵に目をつけられることになったニャ」

「そうなの」

「そうよ。今は気づかれてないけど、いずれは見つかっちゃうのよね。殺すわけにも行かないでしょ?」

「そうだよね。敵とは言え、命までは奪いたくないよ」

「まぁその甘さというか優しさが絵里いいところであり悪いところね」


 そんな話をしている中、チーチャーは、敵の戦闘員ロボットを無力化する命令を送る作業をし始めた。チーチャーはコンピューターのようなものに向かってキーボードを叩いている。

 

「よし、何とかできそうニャ。あの頃から、変わってなくて安心だニャ。あとはシステムで、敵の命令パターンを変更して。アンテナから一斉に送信っとニャ」


 チーチャーは送信の命令コマンドを打ち込み。エンターキーを押し込んだ。


 そのころ、ドックタワーの外では、敵の戦闘員が、魔力砲に対して一斉にに攻撃していた。どうやら被害も出そうな状況である。相手は人間ではない。レッドキャット軍はかなりの攻撃を受けていた。どうやら多少の負傷者もいるようである。魔力砲の中の魔女たちは何とか無事のようであった。


 突然、ドックタワーの一部が青白く光った。その途端、敵の戦闘員の動きは止まった。


 絵里達によって、敵の戦闘員が無力化されたようである。絵里は一安心してチーチャに

話しかけた。


「何とか、戦いは済んだようだね」

「まぁ、ひとまずは解決ということニャ」

「そうね。でも私たちの本当の戦いはこれからよ」

「そうニャ、ニャー達も敵に見つかって狙われる前に、中核部に潜入して、親玉を倒しに行くニャ」

「そうだね。この戦いに勝利すれば。全てが平和になるんだね」

「そうよ」

「じゃあいくよ、私たちの本当の最後の戦いへ」

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