第10話 見えないメッセージ

「私の名前は『小枝 絵里』。どこにでもいる小学4年生だったんだけど、ある日突然、魔法少女になっちゃった。今は元の世界を離れて、異世界にいるよ。

いろいろ、厄介なことに巻き込まれちゃったけど、仲間の為に、みんなのために、世界を救う為に戦うよ」


 絵里たちがいるのは、ブラックドック島の海辺である。ブラックドック島はプララが生活していたブラックドック国に属している。そして、今の絵里たちにとっては敵の島である。

 絵里たちは、海路で海を渡って、何とか島に上陸した。その時に予期せぬ出来事に巻き込まれ、魔法を消費してしまった。絵里は休息と回復の為に、海辺で食事を取った。

 ここまでが、前回までのお話である。


 絵里たちは、魔力もお腹もいっぱいになり、そろそろ出発することにするようである。


「美味しかったね。これから町の中心部に向けて出発だね」

「そうね」

「どうやっていくの?

「ここで車はマズいわね。チーチャーの国ではないからね」


 国によって、その国の決まりというものがある。そもそも、チーチャーの国でも、小学生の絵里が車を運転をすることはダメであるが……。


「そうなると、あれね」


 プララは指を指した。何やらテカテカと光ったりしている細長い乗り物が見えた。


「あっという間に、島の中心部までいけるわ」

「電車みたいな乗り物なのかな?」

「あんたの世界ではそんな乗り物みたいな感じね」


 そんな会話をしながら、プララに連れられて絵里たちは歩いていった。チーチャーは絵里のリュックサックの中に入っている。


「ここが駅なのかな?」

「そうね。誰でも簡単に入ってこれないように、壁で仕切ってあるわ。その辺は絵里の世界と同じね」


 ここの魔法世界は異世界との交流や異世界の情報を収集することができる。建造物や乗り物も、異世界のそれを参考にして作られているものは多い。つまり、異世界とは言え、絵里たちの世界と同じような物があっても、何ら不思議ではないのである。

 そこには電車の駅のような建物と、その横に小さな小屋があった。絵里たちの世界の電車との違いはレールというものが存在しなかった。


 絵里は駅の方を見た。電車のような物体が青白く光って、急激な加速をしているように見える。「マジマジ☆ランド」のアトラクションよりも、物凄い加速かも知れない。絵里は、ちょっと思い出したかのように、震える声でプララに小声で話した。初めて見る乗り物を見て緊張して不安になっているのかも知れない。


「プララちゃん、私ちょっと……」

「絵里? どうしたの?」


 絵里は更に小さな声で、プララの耳元に話しかけた。プララは言葉を返した。


「なーんだ。言えばいいのに、一緒に行くわよ。ここはあんたの国じゃないんだから」


 プララは絵里を駅の建物の近くにある小さな小屋に連れて行った。プララと絵里はそれぞれ別の部屋に入った。しばらく経って、プララと絵里は合流し、絵里たちは、また駅の建物に向かった。要するにトイレである。


「良い判断かもね。初めて乗る人は腰を抜かすかも知れないわね。気を取り直して行くわよ」


 絵里たちは駅の建物の中に入っていった。


「あれぇ、意外に中はあっさりしてるのね?」

「そうね。乗り物に乗るだけだから、それほど大がかりな設備は必要ないのよ」


 その建物は、ハリボテのように、中はあっさりとしており、切符売り場も改札も存在しなかった。中に入ったらすぐに電車のホームのようなものが見えた。


「さぁ、乗りに行くわよ」

 

 絵里たちはプララに連れられてホームの近くまで来た、しかし、そこに電車のような乗り物は無く、遠くから走ってくる様子もなかった。


「すぐに乗り物は出てくるわ。ちょっと下がっていてね」


 突然、地面の周りが虹色に光りだした。次の瞬間。そこに電車のような乗り物が出現した。電車と違って電線もなく、車輪もついていなかった。絵里は目の前に突如大きな物体が現れるという突然の出来事に、腰を抜かしそうになる。


「うぁ、ビックりした」

「そうね。初めてコレを見る人はびっくりするわね。あまりホームに近づかなければ大丈夫だけどね」


 その乗り物が現れると、自動的にドアが開いた。どうやらここから乗り込むらしい。

プララが絵里にカードのような物を手渡した。


「あとコレ、あんたに渡しておくね。この国のお金のようなモノだから」

「ありがとう」

 

 プララは乗り物の入口から中に入っていく、絵里も連れられて入っていった。


「乗る時にお金を払うわ、これね。このカードに一通りのお金が入ってるわ。切符も釣りもいらないから、楽ちんね。ほんと魔法の技術は対したモノよね」

「それ、電子マネーのICカードだよね。私の世界にもあるし、魔法ではないんじゃないかな?」

「まぁそうかも知れないわね」

「高度に発達した科学は、魔法と区別がつかないニャ。と有名な言葉があるニャ」

「とりあえず乗るわよ」


 絵里たちは乗り物の中に入った。中に座席のような椅子が並べられている。電車というよりは、バスに近い構造だった。


 プララはこの乗り物の乗り方について丁寧に説明した。

 

「見ての通り、この椅子に座るわよ。絵里たちの世界の電車とは違うから。しっかりと前の取っ手に使っておくのよ。そうね。椅子には深く座って、頭はちゃんと付けておいたほうがいいわね」

「こうかな?」

「そうね」


 絵里たちが乗ると、乗り物のドアが閉まった。どうやら、そろそろ発進しそうな状況である。


「ドアが閉まったわね。さあ、発進するわよ」

「どきどきするね、遊園地のアトラクションみたいだね」


 すると、地面が青白く光って、車両は空中に浮いた。そして、車両の後ろに地面の中から壁のような大きな物体が出現した。社内にいる絵里たちからは、その大きめの物体は見えなかった。

 

 次の瞬間、その乗り物は一気に加速した。絵里は全身が壁に叩き疲れるような衝撃が走った。絵里は衝撃に耐えるために、下半身や腰回りに力が入った。

 

「うぁー、びっくりしたよ。急に動くんだもん。おトイレ済ませておいてよかったよ」

「そうね。慣れたら大したことはないわね。初めて乗ったら、チビッちゃう子とかもいるのよね」

「ちょっと安心だよ。こんなに急がなくてもいいのに」

「短時間で移動できることがこの乗り物のモットーなのよ」

「どうやら、駅に出現した壁のようなものが大砲の役目をしていて、この乗り物が弾丸のような役割をしているニャ。これなら、乗り物をコンパクトに軽くできるから効率良く目的地までいけるニャ。途中で止まった時は大変ニャ」

「そうね。途中で止まることは想定していないかもね。その時はその時ってことでしょ」

「なるべくエネルギーは使いたくないのニャね。乗り心地よりも効率を優先した結果だニャ」


 どうやら、この乗り物にも、非常用の推進装置はついているようである。通常時の速度程はでなくても、何とか目的地まで到達することができるエネルギーは備えている。プララもチーチャーもそのことは理解していなかった。


「凄いスピードだね、景色が流れる。何で窓があるんだろう? 景色が見えないくらいだよ」

「そうね。あっという間到着するからね。しっかりと、つかまっててよね」

「窓は、明るさの確保というくらいしか役目はないかも知れないニャ」

「こんなに早く移動するならワープの魔法とかすればいいのに……」

「そうかも知れないわね。でも、ワープ中はどうなっているか不安に思っている人が多数いるのよ、ちゃんと戻ってこれるか不安でしょ。なので、ワープしてい出現するのは人が乗っていない最初の部分だけなのよ」

「まぁ、確かにワープから出られなかったら怖いよね」


 乗り物は目的地に近づいてきた。社内の設置されているランプが点灯し、ブザーが鳴った。どうやら、減速体勢に入るらしい。


「次はビッグドック町。次はビッグドック・シティー、減速体勢……」


 社内にアナウンスが流れる。ロボットのような人間とは違う声が社内に響く


「そろそろ、止まるわよ。ちゃんとハンドルに掴まって、足は前の板みたいなところにしっかりと置いてね」

「こうかな?」


 そして、その乗り物は物凄いブレーキがかかった。発射する時ほどの衝撃はなかったが、ハンドルをしっかりと掴まって腕を突っ張っていないと、前の席にぶつかりそうになるほどだった。乗り物は減速を終えると静かに、地面に降り立った。


「もう着いたの? これは大変だね。でも、すっごーく速いね」

「まぁ慣れれば、どうってこともないわ」


 絵里たちを載せた乗り物は駅に着いたようである。乗り物のドアが自動的に開いた。絵里たちは乗り物から降りた。


 プララがこの地域の紹介をする。チーチャーの国の町とは建物が大きく違う様子である。人口も多そうである。奥の方には、ひときわ目立つデパート程以上の大きさの建造物が見える。


「ここがブラックドック国の中心都市、ビックドック・シティーよ」

「チーちゃんの国とは、建物の構造が違うね。コンクリートとは違う、何か金属っぽいね」

「そうね。最近、この手の建物が急激に増えたのよね。まぁ事情はいろいろあるんだけどね」

「科学技術も進んでるように見えるね」

「ニャーの国も技術では負けてないニャ。ただ、町を発展させるには至ってないだけニャ。あの建物の材料も……」

「チーちゃんはちょっと静かにしててよね」


 プララはチーチャーの口を塞ぎながら、絵里と会話を続けた。いろんな人に見られている状況での、チーチャーの大きな声が漏れるといろいろ面倒なことになると判断したのだろうか……


「あの大きな建物は何かな?」

「あれが、この国の重要な施設ね。ドッグタワー。国のあらゆる研究や、様々な資料を管理している施設ね。国の行政を行う機関でもあるのよ。低層階なら、一般市民でも入れるわ」

「何でも、一カ所にまとめればいいというものでもないニャ」

「そうなんだ。まぁ敵に攻撃されたら大変だもんね」

「そうね。でも、それだけ一箇所にまとまっていれば、情報の伝達には便利よね。セキュリティも強化しておいて敵に攻撃されない自信もあるってことよ」

「国によっていろいろあるんだね」

「そうね。明日は、この建物に乗り込むよ」

「どうやっていくの?」

「それをこれから考えるのニャ。まぁ作戦で決めた通り、いくつかの案はあるニャ。こういう時は現場を見て決めるのが一番ニャ」

「そうね。まずは、近くまで歩いて行きましょ」


 絵里たちはプララにつれられて、ドッグタワーに進んでいった。所々いろんな人や、いろんな建物が見えた。


「人がたくさんいるね。ここではやっぱりイヌミミなんだね」

「そうね。人口ならば、チーチャーの国よりも上かもね」

「国の良さは人口だけでは決まらないニャ」


 チーチャーは負けずと、よく反論する。やはり、国で比べられるのは悔しい部分があるのだろう。そうこうしているうちに、絵里たちはドッグタワーの正面がよく見えるところに来た。

 ドックタワーの入口にはテーマパークのように、たくさんの人が行き来している。流石に一般市民も利用できる総合施設だけあって、利用者は多いようである。プララとチーチャーはどうやって潜入するかの作戦を考えていた。


「正面からは無理ね」

「やっぱり、リスクが大きいニャ。これだけ人がいれば、ニャーのチート能力を駆使しても面倒くさいことになりかねないニャ。こうなったら、プララの力を借りるしかないニャ」


 チーチャーの力では厳しいとなると、やはりこの国に住んでいるプララが頼りになるのかも知れない。


「このまま、今日中に裏口から一気に攻め込むか? 少し様子を見るか? ……明日作戦開始ってのはどうかしら?」

「そうニャ。敵地に乗り込むには、いろいろ調べたほうが確実ニャ」

「そうね。だったら、今日は、この辺で、いろいろ情報収集ね」


 どうやら、プララとチーチャは一気に攻め込むのは危険だと判断したようである。絵里も一応作戦会議に参加してはいるが、こういう決め事は経験や知識のある人のほうが頼りになるものである。絵里もプララに話しかけている。


「プララちゃん、新兵器についてとか、いろいろ知ってるんでしょ?」

「私も詳しくは知らないわ。あそこは極秘なのよね。いろいろ探らないといけないのよね」

「それなら、私の魔法で情報を集めてみるよ。直接聞きこむのは危険だからね」


 絵里は少し自信に満ちた表情をしている。

 

「この魔法を使えば、相手がこっそり何を話しているかわかるかも知れないんだ!」


 絵里はこの戦いにおいて、どんどんプログラミングが上達していた。


「そう『MP系の命令』。通信命令を使うとね。情報端末同士でやりとりできるんだよね。だったら、受信する部分のプログラムがあれば、相手から情報を収集できないかなって」


 絵里はプログラムを組んだ。一見難しい命令を使っているように見えるが、プログラム自体は単純である。複雑そうな機能でも簡単なプログラムで実現できてしまう。それがプチコンBASICの良さである。


 絵里は、組んだプログラムをチーチャーやプララに見せた。


 プログラミングで大切なことの一つに、書いたプログラムを他の人に見せる、『コードレビュー』というものがある。自分が書いたプログラムを他の人に見てもらうことで、間違いを早期に発見したり、改善点や別の書き方を見出すことが目的である。書いた人だけでなく、読む人にとっても刺激があり、プログラミング上達においては、コードレビューは欠かせないこととも言えるだろう。

 プチコンの場合は、作ったプログラムを誰でも見られるように『公開キー』というパスワードのような文字列を用いて公開が出来る。公開キーをインターネット上のSNS等で周知することで、そのプログラムをダウンロードで入手して、実際にプチコンで動かしたり、ソースコードをじっくり眺めて意見を言ってくれたりする人もいたりするのである。(筆者も過去に何度かSNS越しにアドバイスをしたり、されたりしている)


「チーチャンこれでいいんだよね」

「そうニャ。でも、通信の情報は誰でも簡単に傍受できるものではないのニャ。ちゃんと端末同士でリンクしなきゃダメなのニャ。そこには識別キーというものが必要なのニャ。敵の兵士が持ってる端末があれば、わかるんだけどニャ」


 端末とは他のコンピュータに接続して情報をやり取りする装置である。スマホもパソコンもゲーム機も、ネットワークを通じて情報のやり取りをすることを考えれば、どれも端末ということになる。

 絵里たちは、スマホのような電話のような無線機のような通信機を端末と呼んでいる。


 プチコンのローカル通信の命令でも、通信で接続する場合は、合言葉としてのパスワードのような短い文字列である『識別キー』というものをお互いのプログラムに組み込まれている必要がある。よって、識別キーが互いに一致しないプログラムは通信を行うことは出来ないのである。


「そうなんだ。ん、プララちゃんはその情報端末を持ってるんじゃない?」

「持ってたわよ。でも、置いてきちゃった。だって、発信機ついてるんだもの。私も追われる身だからね。見つかりたくなかったのよ」

「そっか。ちょっと残念」

「こうなったら、敵兵さんから、借りるしかないわね」

「やっぱり、そうするしかないみたいだニャ」

「見張りがいるところで、手薄なところを探すわよ。ドックタワーの入口は正門だけではないわ。多分あの辺なら大丈夫かも」


 絵里たちはプララに案内されて、裏口の方に回った。ドッグタワーは様々な人が利用する。そうなると正門だけでは効率が悪い。大抵の大型施設では、関係者専用の入口が用意されていたりするものである。このドッグタワーには正門以外にも、いくつもの入口が存在した。

 絵里たちが来たところには、小さな小屋があり、その前に見張りとして1人、若い男の警備兵がいた。新米のお兄さんといったところだろうか……当然イヌミミがついていた。


「ここは見張りが1人みたいなのよね。上手く誘導出来れば……。それとも私が攻めて無力化するしかないかしら?」


 プララの強気な発言に、チーチャーが反論した。


「まだ攻め込んでないのに、面倒なことをするのは良くないニャ」


 プララも冷静に考えて作戦を練り直すことにした。


「そうね。安全に潜入できる方法が必要よね」


 プララは今の状況からどうすれば安全に敵の情報端末を入手出来るか? 考えていた。


「私は、寝返った身だし、チーチャーは見ただけで敵と判断されるわ。そうなると絵里? …絵里なら、上手く油断させれられるかも知れないわね」


「でも、どうすればいいのかな?」


 絵里はちょっと考えた。なかなかいい案は見つからなかった。どうやら絵里は何やら恥ずかしそうに顔が少し赤くなっていた。絵里は小声でプララに話しかけた。


「プララちゃん」

「なに?」


 プララは、絵里が良い考えが浮かんだのかと思いながら返事をした。しかし、それは違う内容であった。絵里は続けて小さな声でプララに話しかけた。


「私、ちょっとおトイレいきたくなってきちゃったよ。まだ我慢できるけど」

(この前みたいにならないように早めに伝えておくよ。私この町知らないし……。あの時、お昼ご飯の時、ちょっと飲み物を飲みすぎちゃったのかなぁ。うーん、何度もおトイレなんて、ちょっと恥ずかしいよ)


 絵里は恥ずかしそうな顔をしながら、プララに伝えた。プララは考えた。というよりは思いついた。今の絵里の状況は作戦に使えると……


「そうね。良い考えね。それなら、あの男の警備兵を油断させられるわね」

「えっ、私まだ何も言ってないよ」


 プララは絵里に作戦を伝える。絵里はプララの作戦を聞いて行動に移すことになった。


「作戦はこうね……あと、おトイレはあそこよ」

「わかったよ。やってみるよ」

「大丈夫、本当の気持ちなら、ちゃんと伝わるよ」


 絵里は見張りの兵にゆっくりとした足取りで近づいていった。


「あのー」

「なんだい、お嬢さん」


 見張りの警備兵は、優しい口調で対応してくれるようである。絵里が小学生の女の子ということもあって、優しく接せざるを得ない状況なのかも知れない。

 絵里は震える声で見張りの兵に話しかけた。


「私、おトイレ探してるんですけど、近くにありますか?」

「トイレはあっちにあるよ」


 見張りのお兄さんは即答した。どうやら絵里を軽くあしらっているようであった。絵里としてもそれでは作戦の意味がなかった。絵里はお兄さんに接近して話しかけた。


「あっちじゃわからないよー。漏れちゃいそうなんです。案内してくれませんか。早くしないとー、お願いします。お兄さん」


 絵里は苦しそうな表情をしながら、見張りのお兄さんの服を引っ張った。しかし、これは絵里による演技である。

 見張りのお兄さんは完全に絵里のほうを見ていて周りに状況を気にする様子ではなかった。プララはその隙に入口の小屋に潜入した。


 見張りのお兄さんはこう思った。こんな幼気な少女が困っているのだ? 男としてそれでいいのか? 見張りのお兄さんは葛藤する。この時間、普段は誰も通らない。ただのトイレかも知れないが、自分が手を下さずに、目の前で少女が辛い思いをするのは見ていられない。もし最悪の事態になって助けることができなかったら間違いなく俺は後悔する。その少女は今にも我慢仕切れなさそうなのである。すでに足をバタバタさせて、苦しそうな表情をしている。あいにく俺にも仲間を呼ぶ時間はない。そして、その少女は俺のことを『お兄さん』と呼んでくれた。助けなければ……助けてあげたい。どうやら本当に苦しそうだ。あー、内股の格好になってスカートに手を当てている。よっぽど我慢しているようだ。このままの状況では少女の大惨事は免れない。この状況で、もし決壊してしまえは間違いなくこの少女の心に傷が付いてしまう。俺も少女の状況と気持ちはよく分かる。トイレが見つからずに我慢続けるのは本当に辛い。失敗すれば社会的に死ぬ思いをする。近くに着替えるところもなければ、そもそも替えの下着なんてあるわけがない。もし、ここの場所から下着を買いに行くには、しばらく人通りの多いところを歩かなければならない。

 そんな恥ずかしい思いを幼気な少女にさせるわけには行かない。俺は今、どうすればいいのだ。

 俺は人殺しをするために、この兵士の世界に足を踏み入れたわけではない。ヒーローなりたくて足を踏み入れたのだ。今ま誰でもなれそうな雑用扱いの下っ端警備兵であるが、いずれは世界を救う勇者になるべき男なのだ。こんなところで

 

 目の前の少女を助けることもできなくて、これから世界平和の為に戦っていけるのか?

 

 見張りのお兄さんは辺りを見渡す。どうやら人の気配はないと判断したのだろう。そして、入口の扉を閉めて鍵をかけた。見張りのお兄さんは思っていた。

 この間にも少女に我慢させてしまっている。早く楽にしてあげたい。実はトイレは決して遠くないところにある。しかし、この少女は間違いなく、途方もない距離に感じているだろう。

 そして、見張りのお兄さんは、絵里を抱き上げた。

 日々兵士として鍛えている男にとっては小学生の子供を持ち上げることは容易なことであった。見張りのお兄さんは絵里を抱いてトイレに走ってくれた。トイレまではそれほど距離は無い。お兄さんは女子トイレの入口で絵里を降ろした。

 

「ほら、トイレはここだよ。お兄さんは仕事に戻るからね」

「ありがとう。間に合いそうだよ……たぶん」

「早く行っておいで」


 これだけ時間があれば、プララが見張り小屋を物色して戻ってくる時間は十分にあった。

入口には鍵がかかっているが、どうやら上は、がら空きだった。プララのように魔法に長けている術者ならば、あっさりと飛び越えることができた。


 絵里は用を済ませて個室から出た。絵里は見張りのお兄さんの前で苦しそうな表情をしていたが、それのほとんどが演技である。まだまだ我慢できるほどの余裕はあった。

 トイレの入口にはプララがいた。外にはチーチャーも待機しているようだった。


「お待たせ」


 プララは敵の見張り小屋から入手した携帯端末を持っている。プララと絵里は歩きながら話している。


「これね。端末は手に入ったわ。絵里のおかげね。名演技だったわよ。本当の気持ちは伝わりやすいのよね。実はかなり我慢してたんでしょ」

「ありがとう。嬉しいような。恥ずかしいような。まだおトイレには余裕あったよ。モジモジしてたのは演技なんだからっ」


 絵里はちょっと強気な顔をしてプララに話している。どうやら絵里には不満があるようだった。


「でも私がこんな恥ずかしい思いをしなくても……」

「そうね。でも、あの状況では、今の作戦が一番だったのよ。見張りを油断させるためにいろんな方法が考えられたわ。例えば色仕掛け。でもダメね。絵里はまだ幼すぎるわ。絵里の容姿では、あのお兄さんは心を動かしてはくれないわ。パンツを見せられても、胸を見せられても、ラブレターを渡されても、歳の離れすぎている幼い子供からされても嬉しくないでしょう。そうなると、絵里を見て心配になったり助けたいと思える状況が必要だったのよ。もし、大怪我した血だらけの少女が目の前に居たら、今回と同じ様に必死になって行動してくれるかも知れないけど、それだと絵里が危険になるわね。メイクをしてもスグにバレてしまうわ。つまり、あの状況では、乙女のピンチというシチュエーションが一番だったのよ」

「そうニャ。絵里はよくやったニャ」

「チーちゃん、そこにいたの。って、ここもうトイレの外か……」


 絵里たちはトイレの外に出てチーチャと合流した。


「これで、敵の情報が丸わかりになるわ」

「その端末があれば、私の魔法じゃなくても、それで受信すればいいんじゃない?」

「そうでもないニャ。その端末では、全体メッセージと自分宛のメッセージしか受信出来ないニャ」

「じゃあ、ようやく私のプログラムの出番だね」

「あと、すぐにこの端末も返さないとね」


 絵里は通信魔法のプログラムを発動した。


「識別コードは『DOG404』さぁ、プログラム発動」


 ちなみにその魔法をプチコンBASICで表す場合は次のようになる。

絵里が組んだプログラムは受信用である。

 ACLS

 MPSTART 4,"PETITCOM"

 PRGEDIT 3

 REPEAT

  VSYNC

  MPRECV OUT SID,RCV$

  IF SID<0 THEN CONTINUE

  S$=DATE$+" "+TIME$+" "+MPNAME$(SID)+":"+RCV$

  PRINT S$

  PRGSET S$

 UNTIL BUTTON()

 MPEND


絵里が組んだプログラムではないが、そのプログラムの動作を確認するには送信側のプログラムが必要になる。

 ACLS

 MPSTART 4,"PETITCOM"

 WHILE 1

  LINPUT "Message:";S$

  IF S$=="" THEN BREAK

  MPSEND S$

  WAIT

 WEND

 MPEND


 受信側のプログラムを起動して、待機しておき、送信側のプログラムから、何やらメッセージを打ち込んで送信すると面白いかも知れない。

 

 このプログラムは送信側で送った文字を受信側で取得して画面に表示すると同時に別のスロットに書き出すものである。

 プチコンにはソースコード編集という機能が存在する。例えば、スロット0のプログラムの実行結果をスロット1に出力したりすることができるのである。

 この機能を利用することで、プログラムの動作結果をテキスト文字列として出力し、後から把握するログとして使用することも可能なのである。

 では、物語に戻るとしよう。



 絵里の演技とプララの潜入によって、絵里たちは敵の情報端末の識別キーを手に入れることができた。


「識別キーが手に入ってよかったわ。では、この端末は返さないといけないわね。しばらく持ってるわけには行かないわ」

「そっか。またお兄さんのところに返しに行くんだね」

「そうね。また絵里に演技してもらうわね。なるべく時間を稼ぎつつ油断させたいのよね……。そうね。やっぱり失敗しちゃったってことにして」


 プララは絵里にとんでもない作戦の要求をスラッと話した。絵里もそれには賛成できないようだった。


「プララちゃん、それは酷いよ。もう恥ずかしい思いはしたくないよ」


 プララも必死になって絵里にお願いした。


「でも、この作戦にはどうしても絵里の演技が必要なのよ。大丈夫。後で美味しいものあげるから。ね。あとあの状況では、あのお兄さん、絵里のことをちょっとは気にしてるみたいね。トドメの一撃でお兄さんの心を不安定にさせちゃいましょう。自分の判断のせいで、目の前の少女がそうなってしまったと思ったら、かなり落ち込むでしょう」


 どうやら絵里は引き受けることになった。作戦を遂行するには例えどんな内容であろうとも重要な役目だった。


「わかったよ。もう絶対にやりたくないからね」

「絵里ちょっとこっちに来て」


 そう言ってプララは絵里を女子トイレに連れて行った。


「プララちゃん、どうしようか」

「じゃぁ、こうすればOKね」

「きゃぁ」


 プララは洗面所で絵里のスカートの前側を水で濡らした。濡れている部分がはっきりと色が変わって見える。


「よしコレなら大丈夫ね」

「大丈夫じゃないよ。これじゃ本当に、お漏らしをしちゃった子みたいだよー。小学生なのに恥ずかしいようー。お嫁に行けないよー」


 絵里は再び、警備兵のお兄さんのところに歩いていった。絵里は少し大きめの声で元気がなさそうに喋った。


「お兄さーん」

「おや、さっきのお嬢ちゃんか?」


 警備のお兄さんは絵里の姿を見てがっかりした。あー、俺は何て酷いことを、あの時迷わなければ、この子は何事もなくトイレに行けたはずなんだ。心に傷がついたらどうしよう。

 しかし、絵里は、明る声で警備のお兄さんに声をかけた。

 

「ありがとう。やさしいお兄さん。ほんの少しのところで間に合わなかったけど、私を抱いて走ってくれた時は本当に嬉しかったよ。お仕事頑張ってね」

 

 警備のお兄さんは、今ままで感じたことのない嬉しさに満ちていた。行きていてよかった。と感じたに違いない。

 

 そうやって、絵里と警備のお兄さんが見つめ合って話しているうちに、プララは何事も無かったかのように、小屋に潜入して、例の情報端末を所定の位置に戻した。絵里とお兄さんが話終わる頃には、プララは既に事を終えていた。


「お兄さん、元気でね」


 絵里はそういって、入口ゲートを去っていった。絵里はゲートを離れたところで、プララと合流した。

 プララは母親のように絵里を迎えて、絵里を撫でた。


「絵里、よくやったわ」

「ありがとう。濡れた服を他の人に見られるのは、本当に恥ずかしかったんだよ。もう二度とこんな役やりたくないよ。こんなに恥ずかしい思いをしたの、生まれて初めてだよぉ」

「ごめんね。でも、こうするしかなかったのよ」


 絵里は、ほっぺたを膨らませた顔をしている。まだまだ何か言いたそうな表情である。


「プララちゃん、私がどれほど恥ずかしい思いをしたかわかる?」

「まぁ、今回はみんなの力で目的を達成できたニャ。絵里もプララも頑張ったニャ。作戦とはみんなの力が必要なのニャ。それぞれが得意なことで頑張ることが大切なのニャ」

「それはわかるけど……納得できないよー。やっぱり私が一番イヤな思いを し て る」


 絵里はどんどん不機嫌な表情になっていった。もう、口も聞いてくれなくなりそうな状況になりつつある。そうなってしまえば戦いや作戦どころの騒ぎではなくなる。こんな事で仲間割れして、作戦失敗という状況は避けたいところである。プララは絵里の機嫌を直すために話しかけた。

 

「わかったわよ。私も同じことしてあげる」

「えっ」


 そう言って、プララは頭にはてなマークがついている顔をしている絵里を引っ張ってまた女子トイレに入っていった。


「これなら、絵里も満足でしょ」


 プララも自分のスカートを水で濡らした。どうやら絵里よりも濡れているかも知れない。


「うん、それなら、私も納得だよ」

「絵里、ちょっと、こっち見て」


 プララは絵里のスカートを掴んで、前と後ろが逆になるように、ぐるっと回した。そして、絵里のリュックサックの肩紐を長くなるように調整した。


「これなら、絵里は目立たないわ。私は罰ゲームみたいなものだから、このまま街なかを歩くわね」

「うん」


 絵里に明るい表情が戻ってきた。


「では、本来の任務に取り掛かるわよ」

「そうニャ。情報収集ニャ。タワーの周辺を歩き回るニャ」

「そうだね」


 絵里たちは、通信の受信魔法を発動させながら、ドッグタワーの周りを歩き回った。

どうやら、周りの人達はプララのほうを見ているように見える。スカートが濡れているので気づく人は少なくないかも知れない。


 でも、プララにはそんなことを気にせずに堂々と歩いていた。


「恥ずかしい表情や仕草をすれば、逆に怪しまれるのよ。堂々としていれば誰もこんなことには気づかないのよ。歩いてる時はこんな風にスカートは大きくなパタパタなびくわけ、わざわざ街なかで女の子のスカートの股間部分をジロジロ見ながら歩く人なんて居ないわけだからね」

「そうなの?」

「そうよ、気合で負けたらダメなのよ。恥ずかしがることが間違いなのよ。さぁ作戦続けるわよ」


 プララは強気な態度と表情で絵里一緒に歩いていた。絵里と一緒に何事もなかったように街なかを散歩している。

 どうやら、絵里たちよりも幼そうな男の子が絵里の前にいた。その男の子は、子供らしい元気で明るい大きな声で、プララを指差しながら喋った。


「あ、あのおねぇちゃん、おしっこもれてる」


 その瞬間、街なかの人が一斉に、プララの方を見た。


 プララ、その瞬間、今まで言っていたことは嘘のように、顔を真赤にして、恥ずかしがった表情になった。

 周りの人も、本当だ、可哀想に。といった同情をする声もはっきりと聞こえるようになっていた。

 絵里はプララと手をつなぎながら、楽しそうに町を歩いている。恥ずかしそうにしているプララとは正反対である。絵里にとっては友達が困っている状況とは言え、少しうれしかった。自分も既に似たような状況を経験しているからである。

 そのままだと、プララが可哀想なので、絵里はプララに話しかけた。

 

「プララちゃん? 大丈夫?」

「だ、だだ大丈夫に決まってるでしょ。私は見せ物ではないわよ。そのなに、可憐な少女をあざ笑うのが楽しいの?」

「プララちゃん。落ち着いて」

「あのガキ、コ〇ス。私を見ているやつも全員、コ○ス」

「ダメだよ」


 プララが発してから、プララを笑う声は効かなくなった。

 絵里たちは、散歩しながら、魔法のプログラムを使ってドッグタワー近辺の情報を集めた。


 ブラックドック国の人たちは様々なメッセージのやりとりをしているようである。作戦の予定や、食べ物の話、好きなゲームやアニメといった趣味の話題まで、様々な話題が電波で飛び交っている。ちなみにこれらのメッセージは携帯電話のような一般ユーザのものではなく、会社や学校で使われる専用のSNSでのメッセージのようなものである。

 

 絵里たちは、受信したデータを、魔法の杖(BASICスターの)記憶領域であるストレージに保存した。


「情報は集めるだけ集めたね。もう服も乾いたかな」

「そうニャ。これから必要な部分を取り出してまとめる解析が必要だニャ」

「そうだね。どこか静かなところが必要かな?」

「そうね。今日はキャンプで一晩過ごしたほうがいいかしらね」

「そうだニャ。誰も居ないところなら安全ニャ」

「だったら、晩ごはんもキャンプで、食べたら楽しそうだよね」

「遊びに来てるわけでないわ。でも、そうね、まずは食料を買っていかないとね」


 絵里たちは、プララにつれられて、晩ごはんの食材を買いに店に行く。絵里たちは、そこで、肉や穀物のようなものを買った。そして、絵里たちはプララに連れられて、人が居なさそうな川岸にやってきた。水も確保できて、火を炊いても安全なこの場所は、キャンプをするにはうってつけだった。テントに関しては、絵里の魔法で召喚することができるので、寝床に関して困ることはないようである。


「食料は買ったけど、やっぱり、新鮮な捕れたてが食べたいわね」

「うん、そうだよね。この川には魚が泳いでるね」

「そうニャ。戦う準備には、食べることも重要なのニャ」


 絵里たちはそこで釣りを行った。


「釣りをしている時は、待ってる時間が多いのニャ」

「そうね」

「今日集めた。情報でも整理するかニャ」

「うん」


 絵里は魔法の杖を出現させて、今日集めた情報を空中に表示した。この杖の『PRINT命令』は文字を実体化させて表示できるようである。ちなみに、この内容と先ほど紹介したSMILEBASICのプログラムとは若干内容が異なる部分があるが、メッセージを表示するという目的の点では同じである。


「いろんな発言があるね」

「そうニャ」


 絵里たちが受信したメッセージは学校や社内で使われる専用のメッセージツールのようなものであるが、様々な会話がされているようであった。魔法世界と現実世界は若干違うが次のような内容のものがあった。


2019/01/08 14:20 F:イヌ夫/T:イヌ子:最近、美味いお店見つけたから、今度食べにいかないか?

2019/01/08 14:30 F:イヌ子/T:イヌ夫:そうね。悪くなさそうね。

2019/01/08 14:31 F:イヌ夫/T:イヌ子:じゃあ、次の日の夕食で案内するよ。


「これは、デートのお誘いかニャ。お熱い2人かも知れないニャ」

「そうだね。メッセージだけで、何やら楽しい雰囲気が想像できちゃうね」

「そうニャ。返事が来たら、一刻も早く返信してるところが、より真剣さを感じるニャ」

「この情報は今回では使えないわね」


2019/01/08 16:10 F:タカオ/T:GroupD:このゲーム今度発売だってよ。

2019/01/08 16:12 F:タケル/T:GroupD:本当に発売するんだな。○年(春)って、何月だよ。って思ってたよ。発売日が決まって安心だぜ。

2019/01/08 16:13 F:ケイタ/T:GroupD:まだわからないぜ。ゲームっていうのは、よく延期するからよー


「ゲームの話題かニャ。こっちの人でも、あのゲームは気になるみたいだニャ」

「そうだね。ゲームが楽しいと思うのは、どこの世界でも同じなんだね」

「そうね。いろんな会話がされているわね。私たちに聞かれていることには気づかないよよ」


 社内や学校で使われる、SNSやメッセージアプリでは、ネットワーク管理者と呼ばれる立場の人たちが、自由にメッセージをチェックすることが出来る場合もある。なので、学校や会社でのSNSでは勉強や仕事のメッセージだけにすることをオススメする。もし、授業や仕事をサボって友達や同僚とメッセージのやり取りをしている場合も、ネットワーク管理者にとっては、筒抜けであり、そこから、先生や上司に伝わることもある可能性があるのである。


 絵里たちは、さらに受診者したメッセージを調べていった。


2019/01/08 15:02 F:ケイト/T:GroupX:大型CPを9:00にブロックAに送って

2019/01/08 15:04 F:ボブー/T:GroupX:了解、ゲートEから8:00に出荷する


「これは、使えそうな情報ね」

「そうニャ。これニャ。もう少し調べてみる必要がありそうニャね」

「そうね」


 コンピュータ界隈にはログファイルという物がある。コンピュータがその状況を記録してファイルとして書き出していくものである。後からそれを読むことで、その時の状況がわかるようになっている。特に、システムに障害が生じた時、何が原因で障害が発生したのか? その時の状況の記録から、原因を探る手がかりになる。

 また、Webサイトには、アクセスログというものが存在する。どのユーザがどの時間にどのページにアクセスしたかを記録するものである。

 その内容によっては、どのコンテンツに興味を持ったのか? そして、どのページを見て、興味を失ったのか。別のページに行ったのか? 推測できる材料となる。

 WEBサイトやホームページを作る人は、アクセスログがあると、いろいろな情報を知ることができて便利なのである。

 

 余談であるが、近頃のSNSには、共感数というものが存在する。だが、共感数はユーザが任意にボタンを押してつけるものである。実際にそのページにアクセスした数とは違う。ログを解析することで、実際にはもっとたくさんの人が、その人の発言を見ているということがわかることもある。

 人間は嘘を付くことがあっても、ログは嘘をつかないのである。

 

 絵里たちは、収集したデータをどんどん解析した。そして、どうやら作戦の方針が決まったようである。ほとんどがチーチャーとプララが話して決めたことであるが、絵里もなんとなく話の流れや雰囲気から、状況は理解しつつあるようである。

 作戦会議をしているうちでも、魚釣りは続けていた。


「ニャ、食いついたニャ」

「おー、釣れるかなー」

「大きそうね」

「よし、何とか釣れたニャ。この調子であと2匹は欲しいところニャ」

「そうだね。私もまけないぞー」


 どうやら、チーチャーが2匹、プララが1匹と、何とか3匹釣れたようである。


「私のところに来なかったよー」

「まぁ、気にすることはないわ。みんなで仲良く分けましょう」

「うん、そうだね」

「では、焼く準備に入るにゃ」


 絵里たちは、海辺で火を起こして魚を焼いた。プララと絵里にかかれば魔法で小さな火を出現させることが容易なことであった。魚だけでなく、買ってきた肉や穀物も焼いた。

焼き上がってきたら、順番に食べた。


「外で食べる晩ごはんは美味しいね」

「そうニャ」

「明日はいよいよ、本拠地に乗り込むわ。ここでしっかりと食べて体力つけないとね」

「そうだね。そういえば、私のお母さんやお父さん、お姉ちゃんはどうしてるかな? もうこっちに来てから何日も立つよね」

「そうね。仕方ないことだわね。大丈夫よ。ちゃんと絵里は生きてるんだから、この戦いが終わったら、ちゃんと笑顔で家に帰ってあげなさいよ。そのために、絶対に、この作戦は成功させないとダメ。気を引き締めないとね」

「うん」


 絵里たちは、晩ごはんを食べた後、テントの中で眠った。明日は、いよいよ、敵の本拠地に乗り込む予定である。絵里たちは無事に戦いを終わらせて、絵里は元の世界に帰ることができるのであろうか……

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