第9話 かたむけて
「私の名前は『小枝 絵里』。どこにでもいる小学4年生だったんだけど、ある日突然、魔法少女になっちゃった。今は元の世界を離れて、異世界にいるよ。
いろいろ、厄介なことに巻き込まれちゃったけど、仲間の為に、みんなのために、世界を救う為に戦うよ」
ここは、ある魔法世界の旅館の部屋。
絵里とプララとチーチャーはこの部屋で休息を取っている。絵里たちは起床直後というわけではない。まだ朝食前のそんな時間でありながら、既に大きな作戦を1つ成し遂げた後なのである。絵里はホッとした表情を浮かべながら、仲間と話した。
「何とか、一息ついたね」
「そうね。でも本当の戦いは、これからよ。これから本格的な敵地に乗り込むんだからね」
「そうニャ。これからはもっと気を引き締めないとダメニャ」
「そうよ。暗いところで、怖がってるようでは、ダメよ」
「わかったよー。がんばるよー」
そんな話をしながら、絵里たちは今日の予定を考えている。ここは格安の旅館のようなところ、原則として宿しか提供しないことを売りにしているところ。絵里たちは、朝食をどこで取るか相談し合っていた。
「今日は朝ごはんどうしようかな?」
「そうね。早めにチェックアウトして、外でお店を探すか? それとも……」
「この時間に空いてるお店はあまりないニャ」
「そうなんだ。この世界には、コンビニとかはないのかなぁ」
「朝から仕事をしたい人は、この魔法世界には居ないからニャー」
誰もが朝から仕事をしたくはないのである。食堂はともかく、24時間空いてる店というものは、この魔法世界のこの国には存在しないに等しいのであった。
プララも、この国については絵里よりも遥かに詳しい。
「そうなのよね。そうなると、なかなか朝ごはんは食べられないのよね。他の人は大抵買い置きがあるか、食堂に行くかとなるけど、この辺は人通りも少ないからねぇ」
絵里少し考えて、首を傾げながら話した。
「朝ごはん、ここで食べられないかなぁ」
「そうね。あたし、ちょっと女将さんに聞いて来てみるね」
そう言ってプララは、部屋を出た。
しばらくして、プララが戻ってきた。プララは嬉しそうな顔をしている。
「大成功!って感じかな。私たちの可愛さに免じて、朝ご飯用意してくれるって。ほんと、ここのオバちゃんはいい人よね。時間になったら、和室に来てちょうだいってね」
「ほんと? よかったよー」
「朝はお店が閉まってるところ多いから助かったニャ」
絵里たちは、女将さんに特別に、朝ご飯を用意してくれることになった。絵里たちは小学生のような年齢と容姿である。女将さんとしても、孫が来たようで嬉しいに違いない。
絵里たちは、女将のオバちゃんの和室に来た。
「おはようございまーす」
絵里たちは声を揃えて挨拶をする。
「おはよう。いらっしゃい」
女将のオバちゃんも笑顔で迎えてくれた。とても、あんなものを所持しているとは思えない表情である。さすが、長年ここで客商売をやっているだけあるのかも知れない。
「今回は急で特別だから、大したものは用意できなかったけど、遠慮せずに食べてね」
「ありがとうございます」
絵里たちは、女将のオバちゃんが用意してくれた、朝食を召し上がる。昨晩のように豪勢な料理ではないが、保存の効く食料をメインにした、ちょっとした洋食とったところであった。魔法の世界とは言え、ここの宿は絵里たちの世界を意識した作りと、おもてなしをしているのが特徴である。他の宿に行けば、全然違う建物の作りで、見たこともないような食べ物が出てくるかも知れない。
絵里たちが食べているのは、パンのようなもの、卵料理のようなもの、野菜のサラダといったところである。
絵里たちは、嬉しそうな表情を浮かべながら、朝食を食べている。
「美味しいね」
「そうでしょ。そうでしょ」
女将のオバちゃんも嬉しそうな表情をしている。女将のオバちゃんが少し真面目そうな顔をして、絵里に尋ねた。
「絵里ちゃん、あなたたち、ここの世界の人じゃないでしょ?」
「まぁ、そうですけど……わかります?」
「顔はともかく、雰囲気でわかるわよ。この場所、懐かしく思うでしょ。別の世界から来た人はみんなそういう顔をするのよ」
ここのオバちゃんは何かと観察力に鋭いようである。何とも言えない笑顔と、逆らっては行けないと感じさせる怖さを兼ね添えている表情である。それでも、絵里は安心しきった表情で話す。
「私だけじゃないんですね」
「そうね。楽しいところだからね。ゆっくり観光して行ってね」
「このパン、おいしいですね。普段食べているものみたいで凄く落ち着きますね」
「ありがとう、あっちの世界の人にそう言ってもらえると嬉しいわ」
そんなお喋りをしながら、絵里たちは朝食の時間を過ごした。
「ごちそうさまでした」
絵里たちは食事が終わると、一度、自分の部屋に戻った。そして、出発の準備のため絵里たちは、浴衣から洋服に着替えた。歯磨きや諸々のことを済ませて、出発の準備が完了する。
今日の絵里は、黄色いシャツと、デニムのジャケット、赤いミニスカート、黒い靴下、赤いスニーカーを履いている。赤いリボンをつけたツインテールである。旅の荷物を入れるためのリュックサックを背負っている。
プララは全体的に黒い服装、黒っぽいジャケットに黒いミニスカート、膝が隠れるほど長い靴下。頭を覆う黒いバンダナをしているが、金色の髪の毛がちらほらと見える。髪型は2つに分けた三つ編みを垂れ下げている。どうやらプララは黒系の服が好きなようである。絵里も、プララも、基本的に元の世界に居たときの服装である。
チーチャは見た目はチーターのぬいぐるみ。絵里の背負っているリュックサックに何とか入りそうな大きさである。
「そろそろ出るかニャ」
「うん」
絵里たちは部屋を出た。そして、入口の受付で女将のオバちゃんと精算をした。
「あら、もう行くのかい?」
「はい」
「1泊料金、さらに朝食夕食がついて、このお値段のところ、特別にオマケして、これくらいね?」
「ありがとうございます」
「気をつけてね。また利用してくださいね」
「オバちゃんも元気でね」
絵里たちは旅館を出た。絵里の世界の時刻では午前9時前と言ったところであろう。これからどんなことが待ち受けているのか、様々な不安もあるかも知れないだろうが、絵里は明るい表情をしている。
「さぁ出発だね」
この時間は太陽も出て明るくなってきている。ここの旅館は人通りが少ないが、少し出ると、人もたくさん歩いている。絵里たちは今まで当たり前のように魔法で車を出現させて運転していたが、絵里はまだ小学生であった。3人で移動するには、車は便利であるけれど……
絵里は魔法で車を出現させて移動手段に使おうと考えているようである。
「また、車を出してって、そう言えば、この世界では免許とか必要だよね?」
「人は多いけど、歩きや公共の乗り物で移動する人は多いニャ。別に事故に気をつければ免許はなくても大丈夫ニャ。でも、本当はダメニャ!」
「やっぱり、そうなんだ」
「あの時間は朝早かったから誰もいなかったニャ。ニャーの世界でも、見つかるといろいろ面倒なことになるニャ」
「そうだよね」
「でも、エリーは別世界の人ということで、ちょっと扱いは変わるニャ。まぁその気になれば、ニャーの上級階級を利用して、いろいろやることは出来るニャ。それでも、事故った時には、ニャーの身分を持ってしても、責任と償いはちゃんとしなければならないニャ。どんなに偉い人だとしても、何をしても許されるわけではないのニャ」
「でも、歩いていくのは大変だし、公共の乗り物も面倒だよね」
「まぁこの時間でも人があまり通らないルートはあるニャ。そこなら何とか車出しても大丈夫ニャ。こっちニャ」
絵里たちは結局、車で移動することになった。本当は小学生の絵里が車を運転をすることは良くないことである。絵里たちは、まずチーチャーに案内されて、少し歩いて道を進んでいく。しかし、そこから先は道と言える道なのかと言うと定かではない。
「ここから海までなら、何とか車で走っても大丈夫ニャ。でも、事故には気をつけるニャ。歩くよりはよっぽど速いニャ」
「やったぁ。車だ運転だ」
「気をつけてよね」
絵里は魔法で車を出現させた。今朝、運転した赤い車である。魔法で本来の大きさよりも小さくしている。小学生の絵里が乗るのにはちょうどいい大きさである。絵里たちは車に乗った。
「出発進行!」
絵里は車を運転して海の方へ向かっていく。
プララはちょっと不満そうな表情を浮かべている。
「ガタガタしてて、大丈夫なの?」
「まぁ道が悪いのは仕方ないニャ。でも、全く使われていない道というわけでもないから、大丈夫ニャ。でも、見通し悪いところは気をつけるニャ」
車が進んでいるのは舗装されている道路ではなかった。獣道のような森の中である。当然乗り心地は良くないが、何とか走っていけるところであった。何とか会話はできそうな状況ではある。
車は森の中を進んでいく、所々に木が立っている。絵里は器用にハンドルを操作して、気を避けながら進んでいった。
この車はスプライトという単なる物体である。この世界では魔法で車を出現させても、それは車の形をしたスプライトである。スプライトとは、単なる形のある物体であって、実際に車として動かすには、物体を制御するロジックが必要になる。この車も絵里がプログラムで制御している物であった。
もともとは形のある物体だけである。本来ならばハンドルを傾けても、曲がるものではない。ハンドルを傾けることで曲がるようにプログラムでロジックを組まなければそうは動かないのである。この車は絵里がプログラムしたものである。ハンドルを傾けることで、上がるようにプログラムされているのである。
プチコン3号/BIGは3DSとWiiUである。3DSやWiiUには傾きセンサーが内蔵されている。加速度センサーとジャイロセンサーである。本体を傾けることで操作したりすることができる。プチコンにも、本体の傾きを検出できる命令がある。加速度センサーの情報を取得する命令として「ACCEL」というものが存在する。
加速度センサーを利用することで、本体を傾けてハンドル操作をするようなゲームを作ることもできる。
例えば、このプログラムである。
このプログラムは加速度センサーを利用して、本体を傾けることで、画面内の車が障害物にぶつからないようにどこまで進んで行けるか? という内容である。
ちょうど、絵里たちが車を運転しているような状況とも言えるだろう。
『
ACLS
WIDTH 16
XON MOTION
SPSET 0,2399
Z=9999
DIM Q[Z],U[Z]
P=200
REPEAT
CLS
?M
GFILL 8,16,391,239,#OLIVE
FOR I=0 TO M
INC Q[I],RND(400)*!U[I]
GPUTCHR Q[I],U[I],"●",2,2,0
U[I]=U[I]*(U[I]<#ZR)+G
NEXT
ACCEL OUT X,,
P=P+X*20
SPOFS 0,P,220
T=T+1
M=T/21 OR 0
G=1+M/80
WAIT
UNTIL!GSPOIT(P,220)
BEEP 15
LINPUT S$
EXEC 0
』
プチコンのプログラミングの説明はさておいて、物語に戻るとしよう。
絵里が運転する車は、順調に進んでいく、しばらくすると海が見えてきた。
「ニャ、次のところで、左曲がるニャ」
「えっ、海は、あっちのほうだよ?」
「正面から行くと、いろいろ面倒くさいことになるニャ。なので、裏から行くニャ」
「わかったよ」
絵里はチーチャーの言う通りに車を運転して方向を変えて進んでいく
「ニャー、クルマはここまでニャ」
「着いたのかな?」
絵里は車を止めた。そこには、何やら古そうな建物があった。ここから海までは目と鼻の先と言えるほどの距離であった。
「ここが秘密の入口ニャ。今は使われてない建物ニャ、もともとは工場ニャ。この建物から地下に行くことができるニャ」
「また、地下から?」
絵里には嫌な情景が思い浮かぶ。今朝のような暗くてグニョグニョしているところは二度と進みたくない。と思っていた。
「そうニャ。やっぱり地面の下は見つかりにくいのニャ。これから行くところは、ニャーの国と戦争したがってるところニャ。いや、もう見えないところでは、既に争いは始まってるのニャ。当然、無断で島を出た場合、こっちの軍にもマークされてしまうかも知れないニャ。面倒なことは御免なのニャ」
「また汚いところなの? もうあんなところは嫌だよー」
「今回は、大丈夫ニャ。エリーの世界でもそうであるように、ニャーの世界でも汚い水を海に流してはいけないのニャ」
絵里たちの世界には下水処理場という施設が存在する。下水をキレイにしてから、海に放流する。チーチャーの住む魔法の世界にも似たような施設があるそうである。
そんな、会話しながら絵里たちは、チーチャーに案内されて進んで行った。
「さぁ、ここから地下に潜れるニャ」
そこには、マンホールがあった。確かに、ここは隠し通路とも言える入口である。こんなところを知っている人は、レッドキャット国にもほとんど居ないだろう。
絵里たちは、マンホールの蓋を開けた。中は、やはり、灯りは無く真っ暗であった。
「何も見えないよ」
「仕方ないわね。魔法で灯りをつけるわよ」
プララは魔法で灯りを灯した。かろうじて目の前の状況が微かに分かるほど明るくなった。今朝と同様、魔法は魔力を消費するため、もしもの時に備えて温存するため、最小限の明るさにしていた。
目の前には、水路が見えた。絵里は近くに行って、手で水面を触ってみた。
「冷たい。サラサラしてる。今度はきれいだね。これなら泳いでも大丈夫そうだね」
「ここから、海につながってるのね?」
「そうニャ」
「これくらいの広さなら……そうだね。船に乗りたくなるよね。『マジマジ☆ランド』のあのアトラクションみたいに世界中を冒険できたら楽しそうだよね。『イッツ、ア、マイ、ワールド』みたいに」
「それだと海に出た時に、見つかっちゃうでしょ。あんた昨日の作戦聞いてたの?」
「冗談だよー。聞いてたよ。私だって、ちゃんと用意してるんだからっ」
絵里の冗談にプララはツッコミを入れる。プララはツンツンしている性格もあり、ツッコミキャラが似合いそうである。『マジマジ☆ランド』とは、魔法世界のレッドキャット国にあるテーマパークである。魔法をテーマにしており、猫のマスコットキャラクターが特徴的である。絵里はこの世界に来る時にチーチャーに案内されて、いくつかのアトラクションを楽しんだ。今回のいざこざに巻き込まれるまでは……
絵里は魔法の準備にかかった。ポケットからスマホを取り出して、スマホから魔法の杖(BASICスター)を出現させた。そして、絵里は杖を持って、魔法のプログラムを実行した。
「『SPSET 0,3467』 えいっ!」
絵里は魔法でスプライトの潜水艦を出現させた。全体的に青色でそこの部分が赤い潜水艦である。ワンボックスカー程度の大きさである。
「うん、これなら、いけそうだよね」
「そうね」
「『マジマジ☆ランド』の『海底大冒険』みたいで楽しみだよね。私、まだあれに乗ってないんだよね。パンフレット見て面白そうと思ったんだよ」
「『海底大冒険』は、あそこに行くなら一度は乗っておくべきのアトラクションね」
「面白かった?」
「そうね。ちょっと変わったアトラクションよね。あの雰囲気は悪くないわね」
「あれは、人によって意見が分かれるニャ」
「そうなんだ。今度みんなで行ってみたいね」
そんな、楽しそうな会話をしているが、世界を股にかけた作戦の真っ最中である。プララが気を引き締めるように話した。
「ここから行くのは本物の海よ。気を引き締めないとね」
「そうだね。では、乗船だね」
絵里たちは潜水艦に乗り込んだ。中はそこそこ広くなっている。運転席と助手席がある。舵輪とペダルやレバーがたくさんある。この潜水艦の制御プログラムは絵里が組んだものでもある。
「中は意外と広いのね?」
「そうなんだよね」
(実は、実際に乗って海の中を進むのは、初めてだけどね)
絵里は明る声で喋った。これから出発である。
「出発進行!だね」
「さぁ行くニャー」
絵里が操縦する潜水艦は静かに動き出した。水路は広く、波も無く、電車のように快適に進んでいる。ここから海は直ぐそばということもあって、水路はそれほど長くはなかった。絵里が操縦する潜水艦は、すぐに海に合流した。
「そろそろ、海に出るニャ」
絵里が操縦する潜水艦は、海に出た。潜水艦の中には窓があり、外の様子がよく見える。
実際に操縦しているのは絵里であるが、チーチャーが進行の指揮を取っている感じである。
「海に出たニャ。深く潜るニャ」
「おっけー」
絵里は潜水艦を操縦して、海に潜っていった。周りにはたくさんの魚や生物が泳いでいる。絵里たちは潜水艦の窓から、海の中を見た。
「きれいだね。いろんな魚がいるね。水族館みたいだね。私の世界でみんなで行った水族館を思い出すね」
「そうね」
「みんな元気にしてるかなぁ? この作戦が終わったら、みんなで、この世界に来たいなー」
「異世界の人をこの魔法世界に招き入れるのは、簡単なことではないニャ」
「そうなんだー」
絵里は思う。いつか異世界の友達とみんなで、この世界に訪れたい。そのためには、この作戦でこの戦いを終わらせなければならない。
絵里が操縦する潜水艦は安定した航路で進んでいる。広い海に出ると、操縦する手は若干暇になりつつある。絵里はプララに話かけた。
「ここから、プララちゃんの国までは遠いよね。プララちゃんは、どうやって、この国まで来たの?」
「そうね。私は魔法で空を高速飛行で飛んできたから、あっと言う間だったわね。でも、あなた達は無理ね。ブラックドッグ国のレーダーはとても強力なのよ、あたしのような国民は識別コードがあるから、レーダーに感知されても何ともないけど、あなた達は識別コードが無いから、すぐに見つかってしまうわ」
「そっか、魔法で飛んでいければ、すぐなのかぁ。それに比べて海の中は、ゆっくりだよね。うーん、仕方ないね」
陸路と空路では所要時間が大きく異なる。現実でもそうである。電車と船で1日かけて旅行する場合、飛行機だったら2時間もせずに到着することもあるのである。
絵里たちは潜水艦で移動している。多少の時間がかかっても仕方ないのである。
「そんなにレーダーで警備してるのに、海の中なら大丈夫なの?」
「海中ならレーダーは及ばないから大丈夫ね。でも、水面付近はちょっと危険ね。一応警備体勢とられているからね。目で見える範囲は見つかっちゃうわ」
「ちゃんと警備体制は出来ているということニャ? 潜水艦の対策は進んでいないのかニャ?」
「そうね。過去に海中から攻めてきた事例はないのよね」
そんな会話をしながら、絵里たちは順調にブラックドック島を目指して進んでいった。
しかし、すべてが順調に行くとは限らなかった。
「目の前に敵の船が見えるニャ。とりあえず潜り込んで、面舵いっぱいにて回避するニャ。
見つかると面倒くさいことになりかねないニャ。ちょっとここにいるのは予定外だったニャ」
「わかったよ」
絵里はチーチャーの言う通りに潜水艦を旋回させた。絵里は念の為、チーチャに確認を取る。
「この方向なら大丈夫だよね」
「そうニャ。でも、気を付けるニャ」
どうやら方向は合っている。若干目的地までの直線ルートから外れてしまっているが、目的地へ向かっていることには、変わりはなかった。そのまま潜水艦は順調に進んでいくように思えた。
どん!!
突然、艦内が大きな揺れに襲われた。今まで感じたことも無い揺れだった。突然の揺れに動揺している絵里は、運転席を離れて、チーチャーやプララの方に近寄って行った。
「大きな揺れ、何かな?」
絵里は不安な心境であった。ここは水の中、逃げ場はなかった。
そして、次の瞬間。
ガツンと、更に大きな揺れが起こった。
絵里は大きくよろけて、床に転んでしまった。
「何がぶつかったみたいニャ」
チーチャーが気づいた。絵里は尻もちをついて痛そうにしていた。
「きゃあ、冷たい」
絵里は靴下とお尻に冷たい刺激を感じた。どうやら今の衝撃で潜水艦が浸水し始めているようであった。
「非常事態ニャ!」
チーチャーが叫んだ。
「何が起きたの?」
絵里は突然の緊急事態に動揺していた。
「話はあとニャ。まずは全速力で遠ざかるニャ」
「うぁー、水が入ってきている」
「大丈夫ニャ。まずは落ち着くニャ、魔法で修復するニャ」
「そうね」
この状況でもプララは冷静だった。どうやら戦いというものを経験しているような、迅速で的確な行動だった。プララは、手際よく、召喚魔法で穴を塞ぐ応急処置を施した。
「何とか、助かったわね」
「でも、どうやら、海中のモンスターに狙われちゃったみたいニャ」
「そうね」
さっきの揺れは、海中モンスターによるものだった。どうやら、住処にはいってしまったのか? それとも別の理由なのか? とにかく絵里たちの潜水艦はモンスターに襲われている状況であった。
「プララちゃんありがとう。助かったよ」
「まだ、戦いは終わってないわ」
ようやく絵里は状況を理解したようであった。
「こうなったら、戦うしかないね。こっちにも武器はあるんだし、怖がってなんていられないよ。敵はどこにいるのかなぁ」
絵里はようやく戦うための、心の準備ができたようであった。絵里は攻撃用の魔法のプログラムを起動する準備にかかった。
この潜水艦の制御ロジックも攻撃機能もこの日のために、絵里がプログラムしたものである。もう絵里は立派なプログラマーである。魔法世界においては、この潜水艦自体はそれほど複雑な動きをしているわけではない。
「魔法のプログラム起動。潜望鏡モード。このレバーを操作すれば、自由に見渡して敵を探せるね。見つけたら、攻撃するよ」
絵里がプログラムを起動すると、艦内の中央付近に、潜望鏡の操作パネルとモニターが出現した。絵里は潜望鏡を操作して、敵を探っている。その潜望鏡はVRのヘッドマウントディスプレイのように、上下左右に動かしながら操作していた。
プチコンにも、本体の傾きを検出できる命令として、加速度センサーの他にジャイロセンサーが存在する。ジャイロセンターの情報を取得する命令として「GYROV/GYROA」というものが存在する。
ジャイロセンサーを利用することで、画面を見て見渡すように操作をするようなゲームを作ることもできる。
例えば、このプログラムである。
このプログラムはジャイロセンサーを利用して、本体を見渡すように動かすことで、画面中央にキャラクターが来るように操作するゲームである。時間内に何回、見つけられるかな? という内容である。
ちょうど、絵里たちが潜望鏡を操作して敵を探している状況とも言えるだろう。
『
ACLS
WIDTH 16
XON MOTION
SPSET 0,3480
T=1200
GYROSYNC
REPEAT
C=60+RND(120)
D=-90+RND(180)
X=180
WHILE!F&&T
CLS
GYROV OUT P,R,
X=X-R*1.5
Y=Y+P*1.5
X=X+(X<0)*360-(X>360)*360
SPOFS 0,200+(C-X)*2,120+(D-Y)
F=ABS(X-C)<10&&ABS(Y-D)<10
T=T-1
?T/60 OR 0,S
WAIT
WEND
S=S+F
BEEP 12,,120*F
F=0
UNTIL!T
DIALOG"END"
EXEC 0
』
プチコンのゲームの説明はさておいて、物語に戻るとしよう。
絵里は潜望鏡を除きながら、上下左右にぐるぐる動かしていた。
「よし、見つけた!」
どうやら、絵里は敵を見つけたようである。トカゲのような体をしているが、海を自由に動き回ることが出来る、海中モンスターだった。
絵里は海中モンスターに照準を合わせた。海中モンスターと潜水艦までの距離は、若干離れており、肉眼で鱗の模様を確認することが難しいくらいの距離だった。
絵里は攻撃ボタンを押した。『SPSET □,3352』による魚雷が発射された。
「魚雷発射ー。当たれー」
しかし、敵の海中モンスターは攻撃を上手く回避した。その海中モンスターは意外と素早いのかも知れない。
「あれ、なかなか当たらないね」
続けて、絵里は何発か魚雷を発射したが、敵の海中モンスターを捉えることはなかった。
どんどん敵は、絵里たちの潜水艦に近づいてくる。そして、絵里たちは、今戦っているトカゲが、恐竜のような強大な生物だと気づくのであった。そう、ブラックドック国に、潜水艦からの侵入事例が少ないのも、この海中モンスターの存在の影響かも知れない。
絵里たちは、この海中モンスターの存在は知らなかった。
「うぁー。大きいよ!」
絵里は驚きのあまり声が出なくなる。緊張して照準を合わせることも出来なかった。
プララはこの状況でも冷静だった。
「絵里、ここはあたしに任せて、あんたは操縦しなさい」
プララの言う通りに、絵里は運転席に戻った。
突然、プララが叫んだ。
「右に回避!!」
敵の海中のモンスターは口から何やら物体を出して攻撃してきた。絵里は何とか潜水艦の舵を切って、潜水艦の方向を変えた。
間一髪のところ、攻撃を回避した。
プララは、敵の海中モンスターに攻撃を行っている。なかなか命中しないようであるが、何発か命中させることができた。敵の海中モンスターは、一瞬動きが遅くなった。
「やったかしら?」
どうやら、海中モンスターの体は固く、魚雷が数発当たった程度では、致命傷を与えることができなった。
「なかなかしぶといわね。でも攻撃を休めたら、こっちが狙われるわ」
プララは懸命に攻撃を続けた。この潜水艦は絵里の魔力で動いていた。攻撃のスイッチはプララが押しているが、攻撃する際には絵里の魔力を消費していた。
「このままだと、絵里の魔力がなくなっちゃうわ。とにかく、回避しながら、先にすすむわよ」
「そうニャ。そうするのが適作ニャ。このまま逃げながら、敵地に進むニャ」
絵里たちは、潜水艦を目的の方向に向けながら、海中モンスターと逃げるように戦った。
何とか、敵の縄張りを出たのか? 海中モンスターは追ってこなくなった。
「何とか逃げきったニャ」
「今の戦いでかなりの魔力を消費しちゃったわ。絵里大丈夫?」
プララは絵里を心配するように声をかけた。絵里は何ともない表情をしているが、魔力を大量に消費しているのは事実であった。
「私は大丈夫だよ」
絵里の潜水艦は何とか目的地の島の近くまで来た。絵里は潜望鏡で確認する。
「島が見えたよ」
「そろそろね」
「一時はどうなるかと思ったけど、何とかなって良かったニャ」
「そうね、でも、浮上するのはちょっと危険ね。もし敵に見られると厄介だわ」
ここは敵の島の入口である。正面から浮上して進んでいくのは、わざわざ見つかりに行くようなものである。見つからないように進んでいかなければならない。
「ここには大きな川があるの、そこなら人もほとんどいないから、大丈夫」
絵里は潜望鏡を覗いてプララが言った川の存在を確認した。
「この川かな? 確かに深そうだね。じゃあ、そっちに向かって進むよ」
絵里たちの潜水艦は川に入った。そして誰もいなさそうなところで浮上した。まだ、海からは、それほど離れてはいない。
「何とか辿り着いたね」
「そうね。ここからは私の国だからね。ネコやネコ耳がいたら敵と思われるわ。チーチャンにはエリの服か何かに隠れてもらうわね」
「では、絵里のスカートの中に隠れ……」
チーチャーは絵里のスカートを触って、絵里のスカートの中に入ろうとする。
絵里がちょっと顔を赤くする。
「ちょっと、チーちゃん!」
絵里は少し顔を膨らませている。
「嘘ニャ、絵里の背中のカバンに隠れるニャ」
どうやら、チーチャー本気だったのか?冗談だったのか? チーチャーは絵里のスカートの中を実際に覗いたわけではなかった。
チーチャーは絵里のリュックサックに隠れることにした。
「今の移動で予定外に魔法使っちゃったわね。どちらにせよ、お昼ご飯は必要よね」
「私、おなか空いたよー」
「ニャニャニャ」
「近くに、海辺のお店があるの? そこなら大丈夫ね。あと、絵里はこれを被って」
「これは……」
プララは絵里に近づいて、絵里の髪をかき分けた。そして、カチューシャを付けた。
そのカチューチャには、ネコミミではなく、イヌミミがついていた。
「ニャニャ、似合ってるニャ」
「そうなの?」
絵里は自分の髪の毛に何がついているのか、わかっていなかった。絵里は川のほうに歩いていった。水面に映る自分の顔を見て、ようやく気づいたのである。
「そっか。ここではイヌなんだ」
「そうね。イヌミミつけていれば、市民からは怪しまれないわ」
プララも絵里の近くで、水面越しに絵里の顔を見て微笑んでいた。
「さぁ準備できたし、お昼を食べに行きましょ」
絵里はプララに案内されて、海の方へ歩いていった。
海の方では、海の家のような食堂のような建物があった。隣には屋台が何軒かあった。
この辺には、チラホラと、ブラックドック国の人も居た。彼らは絵里と同じような人間の形をしている。大きな違いは、イヌミミであった。
ここはプララの住む国である。プララを先頭に絵里は行動していた。プララが絵里たちに話しかけた。
「ここでお昼にしましょう」
「うん」
「ニャニャニャ」
チーチャーは静かな声で返事をした。
絵里たちはプララにつれられて、焼き魚の屋台のほうに来た。どうやら、焼き魚のようなものを売っているようである。串に刺さって火で焼いたようなものであった。売り子の若いお兄さんが魚を焼いているところが見えた。
「普通の味と、ちょっと大人っぽい味のやつ。どっちもあるよ」
「お兄さん、普通のやつ、3本ちょうだい」
「あいよ。お嬢ちゃん元気だね」
女の子2人で、3本というのはちょっと違和感があるようであるが、何事もなく3本買うことができた。
「今は、チーチャーがいるし、お外で食べましょ」
そう言って、プララは絵里に買ってきた魚を渡した。絵里は唾を飲みながら笑顔で返事をする。
「はい」
「ありがとう」
プララはチーチャーにも渡した。
「ニャニャニャ」
絵里たちは、建物の外で、岩に座りながら、焼き魚を食べることにした。
「この魚、美味しいね」
「でしょ。海辺といえば、これよね」
「ニャニャ、これはうまいニャ」
「頭から食べるのか、尻尾から食べるのか、どっちがいいんだろう」
「串の先が尻尾なので、尻尾から食べるのが、この国の流行りなのよね」
「実際には、水分を落とすためなんだけどニャ」
絵里たちは美味しそうに焼き魚を食べた。
「海は綺麗だし、景色も良いし、みんな平和にしてるのに……何で国の偉い人は、みんな勝手なんだろう」
「そうね。誰も争いなんて望んでないのよね」
「うん。そうだよ。だから、早くやめさせないとね」
絵里たちは美味しく昼を召し上がった。
「そうそう、アレも食べたいな。これも飲みたいな」
どうやら、絵里は1本では物足りなかったようである。先程の移動で魔力を消費したこともあるのだろう。
プララと絵里は一緒に屋台のほうにいった。そこには、串焼き肉やスープのような物も売っていた。
「これください。あと飲み物も」
「お嬢ちゃん、元気いいね」
絵里は、いっぱい食べて、いっぱい飲んだ。絵里は、プララよりもたくさん食べた。先程の海での戦闘で魔法をたくさん使ったことが影響しているのだろう。どうやら、食欲もかなりあるようであった。と言っても、腹八分目程度である。
やはり女の子らしく食べ過ぎたら太ってしまうということを意識しているのだろう。
「美味しかったね。お腹いっぱい」
「そうね。たくさん食べられてよかったわね」
絵里たちは、無事、目的地であるブラックドック島に到着した。ここからが本当の戦いである。
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