第7話 これからのこと
「私の名前は『小枝 絵里』。どこにでもいる小学4年生だったんだけど、ある日突然、魔法少女になっちゃった。 今は元の世界を離れて、可愛い友達と魔法の世界を観光中……だったんだけど、悪い人に襲われたりして、いろいろ大変なことに……何とか逃げ出してようやく一安心。やっと、落ち着いてお食事ができるよー」
絵里の前には、グラスに入ったフルーツジュースがある。チーチャーの味方に案内されて、ようやく安心なひとときを感じていた。近くには頼りになりそうなカッコいいお兄さんもいる。さっきまで敵に襲われて、恐怖を感じていたことが嘘のようであった。
絵里はグラスに手を伸ばして、ジュースを飲もうとする。魔法の世界で初めて口にするもの。どんな味なんだろうか?
「飲んじゃだめぇー」
突然大きな叫び声のような、女性の声が聞こえた。
絵里は驚いて、手を止める。声は窓の方から聞こえた。窓の方を見ると、黒い服装の小柄な人影が見えた。全体的に黒い服装、口元を覆面で覆っており、顔は、はっきりと見えない。
大きな声はユウマにも聞こえている。女と目が合うと、女の周りに無数のナイフが出現した。そのナイフはユウマ目がけて飛んできた。
ユウマもすかさず防御体勢をとる。相手の攻撃が強すぎて、ユウマは攻撃を防ぐことが精一杯だった。ユウマはかろうじてナイフの攻撃を防御魔法で防いでいた。ユウマの防御魔法は目の前に魔法でバリアを発生させるものであった。ユウマの目の前に青色に光る光の壁が現れる。
絵里はとっさに、ユウマから遠ざかるように移動した。
「えっ? いきなり何なの?」
無数のナイフが飛んでくるが、どうやら絵里に攻撃する様子はなかった。まずはユウマから倒そうという作戦なのかも知れない。
どうやら、ナイフは魔法で生み出されたものである。
ユウマの防御魔法に弾かれたナイフは瞬時に消滅し、また女の近くから生み出されてユウマに向かって飛んでくる。ユウマは完全に押されていた。圧倒的なナイフの攻撃。
そして、ユウマが動けずにいると、女がものすごいスピードで接近してきた。
「くっ、俺の魔法はこの程度なのか……」
もはや、ユウマの魔法では、防ぐことしか出来なかった。
女は魔法で剣を取り出した。突然ナイフよりも大きな剣が、女の手から現れる。
「命を奪うことはしない。おとなしくしてもらうよ」
そう言って、女は剣を振りかざした。ユウマも必死に防御魔法のバリアを発生させている。
その瞬間、ユウマの周りの魔法の壁が粉々に砕け散った。と同時にユウマは数メートル吹き飛ばされた。そのままユウマは部屋の壁にぶつかった。
「この娘は頂く、この国の警備の弱さは相変わらずね」
そう言い残し、女は無数の手裏剣を魔法で飛ばした。ユウマの周りに突き刺さった。
絵里は戦うことも無かった。女が現れてからユウマが敗北して壁に張り付けられるまで、数十秒の出来事である。
そして、その女はゆっくり歩きながら絵里に近づいてきた。
「ちょっと、ごめんね」
そう言って、女は絵里に向かって魔法を発動させた。絵里の周りに魔法でできた無数のロープのようなもので絵里を縛り付ける。呪縛魔法である。絵里は身動きが取れなくなってしまった。その女は絵里の口を布のようなもので塞いで縛り付けた。絵里は動くこともしゃべることも出来なくされてしまった。動くことができなければ、ポケットの中に手を入れて、スマホを取り出し、スマホから魔法の杖を出現させることはできない。杖がなくても魔法が使えないことはないが、魔力を溜めて放出することができないので、強力な魔法を放つことは出来なかった。
その女は絵里を持ち上げた。魔法の力を持っているらしく、絵里は軽々と抱きかかえられる。そのまま女は絵里を抱いたまま、窓の方にジャンプした。魔法の力を使っているのか、人間の跳躍力ではない。
その女は、絵里を抱えたまま、窓から城を脱出した。絵里は女に抱えられたまま、身動きが取れない。女はそのまま城を後にして、茂みの中へ入っていった。茂みのなかで絵里を降ろした。
「ここまでくれば大丈夫ね」
先ほどの戦闘とは違いその女は優しい声で絵里に話しかけた。戦いに気を取られて、よく見ることが出来なかったが、どうやら絵里と同じくらいの背丈の女の子のようであった。
全体的に黒い服装、黒っぽいジャケットに黒いミニスカート、膝が隠れるほど長い靴下。口元を覆う黒いマスク。頭を覆う黒いバンダナをしているが、金色の髪の毛がちらほらと見える。髪型は2つに分けた三つ編みを垂れ下げている。
「危ないとところだったわね。知らない人についていったらダメって、ママや学校で教わったでしょ」
「でも」
「楽しく遊園地で遊んでる場合じゃないわ」
「レッドキャット国とブラックドッグ国とは、戦争したがってる。魔力のエネルギー資源を求めてね」
「そうなの?」
「あんなに楽しい魔法のテーマーパークがあるのに?」
「こんな娯楽、少ない魔力で動いてるの。魔法の兵器とは比べ物にならないくらいにね」「でも、楽しいよ」
「そうね。でも、それとコレは別」
「あれっ、もしかして、プララちゃん?」
絵里は気づいた。今まで、ドタバタしてて顔や服をちゃんと見る機会がなかった。しかし、近くで見ると、目元や髪型ではっきりとわかった。
「そうね」
プララは何事もなかったように普通の返事をする。
「えぇー!」
絵里は、大声を上げて、驚いた表情をしている。
「だって、敵だったよね」
「あの頃はね。でも、ちょっと用があってね。今は協力して欲しいの」
絵里は状況を理解するのに時間がかかった。頭でわかっていても、心が理解するのには時間がかかるのである。この前まで敵として戦ってきた相手。同い年くらいだけど、ちょっと見ないうちに大人っぽくなっている。
「わかったよ。話は聞くよ」
絵里は緊張が取れた表情に変わりつつある。
「ここなら、誰もいないわね。長くなるけど、アンタには知ってもらわないとね」
絵里は何も知らずに、ここに来た。絵里が知っていることは、ここがチーチャーの住む世界ということだけである。
「チーチャーのいるレッドキャット国と、私がいるブラックドック国は、戦争をしたがっているの。というよりは既に戦争は始まっているの。きっかけは色々あるんだけど。まぁその話は後でもいいわね」
プララは真剣そうな顔で絵里に話しかけている。
「レッドキャット国は魔力砲という兵器を作ってるの。とても強力な破壊力を持つ兵器。でも、その破壊力を実現するには、レッドキャット国の力だけでは足りないの。魔力を持ったたくさんの人たちが必要なのよ。
それは強い魔力を持った人間。つまり魔法使い。レッドキャット国は異世界中から魔力を持った魔法使いを集めているの。兵器のエネルギーとして使うためにね。その1人がアンタ『小枝 絵里』。
残念ながら、アンタはレッドキャット国にまんまと利用されそうになってたってわけ。アンタの世界にレッドキャット国からネコ耳が付いてる人が来たでしょ? アンタはその頃、魔法なんて何も知らなかったわよね。でもね、アンタには魔力があった。まだ目覚めてないけど魔力があることはわかってた。磨けば光る原石ってことね。魔法使いは魔法を極めることで、どんどん魔力が大きくなっていくの。
そこで、レッドキャット国は、まだ魔法を使ったことがないけど、可能性を秘めているアンタを魔法使いとして育て上げるために、師匠を送った。それが……」
絵里が話を割り込んで、言った。
「まさか、チーちゃんなの?」
「そう、チーチャーによって、絵里に魔法を教えることで、絵里は魔法使いとして目覚めた。魔力も以前とは比べ物にならないくらいに成長しているわ」
「じゃぁ、チーちゃんは裏切り者なの?」
絵里は尋ねる。
「わからない」
これはチーチャー本人しかわからないことなのである。
「でも、アンタとあのチーターは付き合いが長そうね。仲間に出来れば、有利に戦えるのよね」
チーチャーが悪いのか? それはわからない。でも、仕方ないこともある。逆らうことができない命令なのかも知れない。
チーチャーも絵里を逃がして黙って帰るわけにはいかないはず。チーチャーも絵里を探している可能性はある。絵里たちは、どこかでチーチャーと連絡しなければならない。何よりも仲良くならないと、絵里は家に帰れないかも知れない。
絵里は考えてプララと相談した。
「チーちゃんに連絡してみようかな?」
「そうね。絵里とあれだけ時間をともにしたチーチャーなら、少しは私たちの話に耳を向けてくれるかも知れないわね」
相手は裏切り者かも知れない。この決断が正しいのか? 誰にもわからなかった。
絵里はポケットからスマホを取り出した、チーチャーにメッセージアプリで連絡した。
「今どこ? 電話ちょうだい」
いきなり電話をするのは危険すぎる。相手がどのような状況かもわからない。とりあえず、連絡をする場合は相手のことを考えて無難な策を選ぶことが重要である。
「とりあえず、メッセージは送信したし、返事が来るのを待ちましょ」
「そうね」
チーチャーが連絡をくれるかはわからない。考えても仕方ないので、次の行動に移ろうとする。
「とりあえず、一息付きましょ。考えても仕方ないわ」
「そうだね」
プララは、近くにあった木から、果物をいくつか採取した。
「これ食べて元気になりましょ」
プララは、採った果物を絵里に渡した。
「ありがとう。リンゴみたいだね。どんな味なんだろう」
「そうね。食べ物は魔法世界でも、美味しいから食べてごらん」
絵里はリンゴみたいな果物を食べた。
「うん。美味しいね。」
「でしょ、でしょ」
プララも同じ果物を食べている。絵里にとっては魔法世界に来て初めて食べる食べもの、今まで空腹状態が続いていて、少し元気がなかったけど、食べることが出来て少し力が戻ってきた感じになる。
チーチャーから連絡があった。今から電話してもいいよ。とのことである。
まだ、油断はできない。レッドキャット国にとって、絵里は貴重な兵器のエネルギー源なのだから、絵里の手がかりとなれば、迷いなく接触しようとするはずである。
絵里はスマホを取り出し、チーチャーに電話をかける。電話はつながった。
「もしもし、チーちゃん」
「エリーかニャ。どこにいるかニャ」
「わぁ、チーちゃんだ。よかった。会えなくて寂しかったよー」
「ニャーもエリーが無事でよかったニャ」
「やっぱり、顔を見ないと寂しいね」
そう言って、絵里は映像通話に切り替えた。
「チーちゃんだ。私はここにいるよ。ちょっと話がしたいんだ。チーちゃんはどこ言ってたの? 約束覚えてるよね? 怒らないよ。事情はなんとなくわかるから……」
「ニャーは大丈夫ニャ」
チーチャーの周りには誰も居なさそうであった。
「そうそう、私のもうひとりのお友達を紹介するね。」
絵里はスマホのカメラをプララに向けた。
「こっちの世界の私の新しいお友達。チーちゃんは会ったことあるかな?」
「はじめましてってことになるかしらね? まぁアンタのような有名人はこっちの世界でも有名だから、どんな奴かの情報は、私もある程度は知ってるわよ」
ちょっと強気にプララが話す。プララ自身が元からそういうツンツンした性格なのかも知れない。絵里とプララは顔を近づけながら、スマホのカメラを見ている。チーチャーのほうでは、2人の顔が一緒に映って見えるはずである。
「あっちの世界で知り合った私の新しい友達。私たちは敵同士だったかも知れない。でもいろいろ話したりすることで仲良くなれた。私も絵里もあの頃とは違うわ。私たちの願いはだた一つ」
プララと絵里は、今までの笑顔とは一転、少し真面目な表情になる。
「大人達によるくだらない争いは止めて欲しいんだ。それにはあなたの協力が必要なの。わかってくれるかな?」
絵里とプララの思いは一緒である。続けてプララは話す。
「国がどうであろうと、私は諦めないよ。アンタがどういう存在でどこに弱点があるか? あたしはわかってるんだからっ。私にアッサリと忍び込まれるようではこの国の警備は大したことないね。その気になればあんたの大事なコレクションだってね。アンタの国も私たちの魔力の強さはわかってるはず。だから、アンタの国は魔力砲を作り出した。アンタたちの弱点を補うため」
プララは少し脅すようにチーチャに話す。
喧嘩するために電話しているわけではない。絵里は優しげに割り込むように話した。
「私たちは、そこまで手荒な真似はしたくはないんだ」
「お願い、あなたを世界最強のチーターとして、協力してほしいの。私がこういう優しそうな言い方することなんて、滅多にないんだからね! あと、協力してくれたら、これあげる」
プララは、ポケットから、金色に光り輝く、プラスチック製のような箱の形をしたものを取り出した。もちろん魔法で作り出した偽物なんかではなく、正真正銘の本物よ。アンタなら、これがどれほどの価値があるか知ってるわよね?」
「ニャニャニャ、それは……」
チーチャーの目が突然大きくなる。
今はチーチャーと絵里は敵対しているのかも知れない。でも、どうやら自分の趣味に関してはどうしても気になるような表情であった。
「そう、超レアなゲームソフトよ。手に入れるの大変だったんだからね」
「戦争してたら、楽しむものも楽しめなくなっちゃうね。こんな大人のワガママはとっととやめにして欲しいんだ。」
絵里もプララに続いて追い打ちをかけるように優しく話した。
「わかったニャ」
「じゃ、お昼過ぎたら、森の中の湖の近くで待ち合わせね」
そう言って、絵里たちはチーチャーと電話を切った。
「何とかなりそうかな?」
「そうね。ちゃんと来てくれれば、いいんだけどね」
「湖はこの先ね、もう、ちょっと歩くわよ」
「うん」
絵里はプララと一緒に散歩するように、森の中を進んでいく。
湖まではそれほど遠くない。
「良い世界だよね。魔法の世界。私の世界とはぜんぜん違うよね」
絵里から話しかける。
「そうね。この世界には珍しいものがたくさんあるでしょ。技術も進んでるかも知れない」
「プララちゃん、この国の人じゃないのに詳しいね」
「敵国の情報はたくさん仕入れていないと大変なのよ」
「そうなんだ」
何気ない会話をしながら、2人は湖の近くに来た。湖の近くでは草木が生い茂っている。
「ここで待ち合わせね。少し休もうかな」
絵里は腰を下ろして座り込んだ。足を広げて大の字のような仰向けになる。プララも一緒に絵里の横に仰向けになった。
「いいところだよねー。こうしてフカフカした草の上でお昼寝。本当に寝ることはないけど、気持ちいいね」
絵里は気持ちよさそうに横たわっている。たまに風が吹く、風になびいた草が絵里の膝や太ももをくすぐるように触れる。
「きゃぁ、くすぐったい。気持ちいい」
そうこうしているうちに、ポケットのスマホがブルッと震えた。チーチャーが近くにいるらしい。絵里とプララは起き上がってチーチャーを待った。
チーチャーが歩いてきた。周りに誰かがいる気配はなかった。
絵里とプララもチーチャーの方に向かって歩いていった。
「改めまして、はじまして、ってことになるのかしら」
「そうだニャ」
「無事で良かったよー」
絵里は少し泣きそうな顔になっている。絵里とチーチャーの付き合いは長い。
「エリーと会えてよかったニャ」
「立って話すのも、疲れるし、座ってゆっくりしよ。ねっ?」
「そうね」
「ニャニャっ」
絵里はそう言って、近くの斜面に座りだした。プララとチーチャーも絵里のとなりに座る。
「私たちの目的は、この2つの国の戦争をやめさせて平和にすること。そのためには作戦が必要ね」
「そうだニャ」
「そうなると作戦を練るためには……、まずはお腹を満たさないとね。穴場のいいお店を知ってるわ。そこでご飯食べながら作戦会議ね」
「そうだね。行こう、行こう。お腹空いたよー。今日は全然食べれてないんだよね」
絵里たちはプララに案内されて、賑やかな町の方へ進んでいった。
「プララちゃん、この国のお店とかにも詳しいのね」
「まぁ、この前、来たときに色々見て回ってね。だから、絵里よりも、ちょっと詳しいだけよ」
プララはちょっと強気な表情である。
「そうなんだ。じゃぁマジマジランドも行ったことあるの?」
「そうね。面白そうなところよね。でも、人が多すぎよね。わざわざ行列が出来るようにお店や売り場が少ないのは納得できないわ」
「好きなアトラクションとかある?」
そんな会話をしながら、絵里たちは食堂のようなところについた。
「ここよ、ちょっと古そうでさびれてるけど、静かでいいお店よ」
その店は、2階建ての小さな建物であった。お客はそこそこ入っているが静かなところであった。
「いらっしゃーい。3名だね」
お店に入ると、優しそうな男性の声が聞こえた。プララはその人に尋ねた。
「おっちゃん、2階空いてる?」
「空いてるよ」
「じゃぁ2階借りるよー」
そう言って、絵里たちは2階の席に上がった、2階には個室の席が何箇所かあった。子供がお喋りしても騒がしくならない程度である。絵里たちは個室の席に座った。
「いいところだね」
絵里は腰を降ろして落ち着いた表情をしている。
「でしょ」
「ここのおすすめは何かな?」
「やっぱり、これかしらね。マホーの肉料理」
「とんかつみたいな感じだね」
「そうね。いろいろなメニューがあるから、どれもおすすめよ」
「この辺とかいいかも知れないニャ」
「じゃぁこれにしようかな。」
「あたしはこれね」
そう言って、絵里たちはメニューを決めて、注文した。ちょっとまってから、食卓に料理が並ぶ。
「いただきまーす」
「おいしいね。魔法の国だけど、食べ物は案外、普通なのね」
「でしょ、ここのお店は絵里たちの世界のお店に近い味付みたいだから安心でしょ。それとも、もっと変わったもの食べたかった?」
「ううん、やっぱり、ご飯は美味しいものが一番だよ」
そういう会話をしながら、絵里たちがご飯を食べた。この魔法の世界では異世界のあらゆるモノを参考にしている。よって、絵里たちの世界、つまり我々の住む世界に似ている部分がたくさんあるわけである。建物も料理も、我々が目にするような物がたくさんある。
プララがこの店を選んでくれたのは、そういう配慮の気持ちからなのかも知れない。
「周りに人もそんなに居ないし、そろそろ本題に入るかしらね」
プララは小声で話し始めた。
「そうだね」
「作戦は……、こうね。そのためにはチーチャーの協力が不可欠なのよね。チーちゃんは大丈夫かしら?」
「大丈夫ニャ、任せるニャ」
こうして、絵里たちはじっくりと長時間話し合い、今後の作戦を練った。この食堂は1階で作ったものを2階に運ばれてくる。建物の構造が決して頑丈ではないため、2階に誰かが階段を上って来ると音でわかるようになっていた。ヒミツの作戦会議にはうってつけの場所であった。
「よし、これなら、なんとか大丈夫そうだね。でもちょっと嫌だなー。私たち女の子だし」
「そうね。ちょっと準備のために買ったほうがよさそうね。後で買いに行きましょ」
「そうだね。そうしよう」
絵里たちの今後の作戦は決まった。3人ともようやく一息ついて安心した表情になっている。だが、本当の戦いはこれからである。
今までの真面目そうな会話から一転、普段どおりの小学生らしい会話のテンションに戻る。絵里たちは、適度に飲み物やおつまみを注文しながら、のんびりとお店で過ごしている。絵里はプララに尋ねた。
「そういえば、前から気になっていたけど、プララちゃんの魔法って、BASICじゃないよね」
「そうね。BASICではないけど、BASICに似てる部分はあるわ」
「そうなの?」
「そうよ、ちょっとだけ、私の魔法のロジックみせてあげる。最も基本的な初歩の初歩のプログラムね」
プララは絵里に魔法のプログラムの部分を見せた。そのプログラムはこのような内容であった。
『
#include <stdio.h>
int main()
{
int a=0;
int i=0;
printf("Hello \n");
if (a==0) {
printf("Yes \n");
} else {
printf("No \n");
}
printf("Loop \n");
for (i=1; i<=10; i++){
a=a+i;
}
printf("%d",a);
return 0;
}
』
「ありがと、確かにBASICと違って小文字で書かれてるね。『if』、『else』、『for』、この辺の流れは同じだね。『include』、『stdio』 聞いたことない単語がいっぱい」
「ニャ、これはC言語のプログラムだニャ。プログラム言語はいろんな種類があるニャ、でも、基本の部分は同じニャ。変数、分岐、繰り返し。関数。こういうものはどの言語にもあるニャ。だから、BASICを覚えたら、他の言語でも理解しやすくなるニャ。世の中の機械や道具はいろんなプログラム言語で書かれてるニャ。BASICをある程度自由に使いこなせるようになったら、他の言語に触れてみることも大事ニャ。違いを理解することで、改めてBASICの書き方がわかることもあるニャ。ちなみにBASICで同じことしようとするとこうなるニャ。比べてみると言語の似ている部分や違いがよく分かるニャ」
チーチャーが示したプログラムは次のようであった。
『
VAR A=0
VAR I=0
PRINT "Hello"
IF A==0 THEN
PRINT "Yes"
ELSE
PRINT "No"
ENDIF
PRINT "Loop"
FOR I=1 TO 10 STEP 1
A=A+1
NEXT
PRINT FORMAT("%D",A)
』
「そうなんだ。確かに書き方が違うけど、同じような流れで書けるのね?」
「そうよ。BASICがわかれば、他の言語も覚えやすくなるのよ。私も最初はBASICを覚えたわ」
チーチャーも会話に混じってきた。
「まぁ今回は同じ様に書いているけど、言語によって出来ることはいろいろ変わってくるニャ。プログラム言語は『BASIC』や『C言語』の他にも『Java』とか『C#』とかいろいろあるニャ」
「いろんな種類のプログラミング言語があるんだね。たくさんありすぎて、次に覚えるならどの言語にすればいいか? わからないよね?」
「良い質問ニャ」
「世の中にはプログラミング言語が多すぎるのニャ。でも最初に覚えるならBASICをオススメするニャ」
チーチャーは学校の先生のような長い話をした。
ある人には、塾の授業の様にとても有意義な密度の高い話。またある人には校長先生の長話のように「別に聞かなくてもいんじゃね」と思えるような話に感じるかも知れない。
「プログラミングを身につける上で大事なことがあるニャ。『やりたいことがあるから、言語を覚える』ということニャ。プチコンでゲームを作りたいからBASICを覚えるわけニャ。
BASICにはいろんな意味で、初めてプログラミングに触れる人にオススメしたいわけニャ。プログラミングの基本、変数、分岐、繰り返し。関数がちゃんと含まれているので、BASICで学んだことは他の言語にも活かせられるわけニャ。
BASICはシンプルな言語なので覚えることも、入力する文字数も少なくて済むニャ。プチコンの場合はゲーム機で動くので、楽しくプログラミングの基礎を身につけられるニャ。
プチコンBASICでは、プチコンで動くものニャ。他のハードで動くゲームを作りたい場合は、そのハードに合わせてプログラミング言語を使わないと行けないニャ。ハードとはプログラムを動かす本体の種類みたいなものニャ。ゲーム機、パソコン、スマホ。これらをハードと呼ぶニャ。
例えば、スマホで動くゲームを作るには、BASICとは違う言語が必要になるニャ。それを作るための言語を覚えることになるのニャ。
なので、やりたいことができたら、違う言語を覚える。ということが大事ニャ。
まとめるとこうニャ」
チーチャは一呼吸おいて、短くまとめて説明した。
「最初はBASICから始めよう。基本を身につけたら、やりたいことを実現できる言語を覚えよう。BASICを極めるのもよし、他の言語を覚えてやれることを増やすのもよし、そういうことニャ」
「そうなんだ。チーチャーは学校の先生みたいだよね」
チーチャーの長話はそれだけでは終わらなかった。
「これからの情報化社会において、プログラミングを学ぶこと、パソコンの使い方を覚えることは、とても大事なことニャ。世の中、何でもパソコン、パソコンを使うのはプログラマーだけでは無いニャ。
プログラミングとパソコンの使い方、これらは別にして考えないと行けないニャ。プログラミング言語のようでそうでないものもあるニャ。パソコンで何でも出来るようになろうと思って勉強する場合、これらの種類をちゃんと意識して勉強しなきゃだめニャ。
BASICのように条件分岐や繰り返しでプログラミングをするものをプログラミング言語というニャ。でも、ホームページを作るときに使う『HTML』とか『CSS』か言うのはプログラミング言語では無いニャ。パソコンでフォルダの中身を見たり、ファイルをコピーしたりする『コマンドプロンプト』で使うコマンドもプログラミング言語では無いニャ。データベースと呼ばれる膨大な情報から、検索したり更新したりするときに使う『SQL』とかいうやつもプログラミング言語では無いニャ。
要するに、やりたいことを身につける際にはそれにあった。知識が必要になるニャ。その言語や技術を身につけることで何が出来るようになるのか、よーく考えて勉強することが大事ニャ」
チーチャーの長話はもっともっと続いた、今までの長話は序章に過ぎなかった。お経のように長い説教のような話。
「初めてプログラミングをするのに最適なのが『BASIC』ニャ。さっきも言った通り、構造がシンプルで覚えることが少なく、ゲーム機で動いたりして楽しいということニャ。プログラミングの勉強ではプログラムの流れを学ぶことが重要だニャ。プログラミングのロジックにも定石というものがあるニャ。データを並び替えたりするロジックの手順や手法があるニャ。言語を問わないロジックの考えかたをアルゴリズムというニャ。アルゴリズムを学ぶことで、より複雑で効率的なプログラムを組むことが出来るようになるニャ。もちろんBASICでもアルゴリズムに沿ったプログラムを組むことができるニャ。
でも、BASICだけではプログラミングを極めることは出来ないニャ。本格的なプログラミングとしては物足りない要素があるニャ。
それを学ぶのに『C言語』というものを勉強することがオススメなのニャ。C言語を理解すると、コンピュータがどの様に情報を処理しているのか、わかるようになるニャ。コンピュータはメモリというところに情報を記憶してニャ。それをいろいろやって演算とかするニャ。それを使いこなすにはメモリ・アドレス・ポインタというものを理解しないと行けないニャ。C言語ではそれらを意識して効率的なプログラムを自らの手で書くこともできるので、コンピュータの理解が深まるのがC言語ニャ。
それだけではプログラミングを極めることは出来ないニャ。実際に世の中で動いているプログラムはもっと複雑な要素があるニャ。その1つが『オブジェクト指向』という考え方ニャ。
オブジェクト指向は大規模なプログラムをわかりやすく、使いやすく、修正や改良といったメンテナンスをしやすくするためにあるニャ。たくさんのデータや関数をまとめて1つの部品であるオブジェクトとして捉えて、それをたくさん組み合わせることでシステムを組み上げていくニャ。
今では、ほとんどのプログラミング言語や実際にプログラマーが書くプログラムがオブジェクト指向という考えの元で作られているといっても過言では無いほど重要な考え方ニャ。オブジェクト指向を学ぶ為に『Java』とかいう言語を学ぶ人は多いニャ。
それでも、まだまだコンピュータの世界は深いニャ。コンピュータは膨大な情報を処理するものでもあるニャ。膨大な情報を保存したり、取り出したりすることを目的とした『データベース』というものがあるニャ。データベースを扱うにはプログラミングとはちょっと違う言語が必要になるニャ。それが『SQL』ニャ。プログラミングも出来るものもあるが、それは置いておいて
またパソコンでWEBサイトを作りたい場合、『HTML』というものが必要になるニャ。HTMLは記事の記述をするだけニャ。見た目をデザインする場合は『CSS』というもの知識が必要になるニャ。最近のWEBサイトはボタンを押したり、画面がスクロールしたりと、動きのあるページがあるニャ。その動きを作るためにはプログラミングが必要になるニャ。それが『JavaScript』というスクリプト言語ニャ。プログラミング言語のようなものニャ。WEBサイトでは、状況に応じてプログラムでページや記事を作ったりするニャ。『Java』とか『PHP』とかいう言語が昔からよく使われているニャ。
WEBサイトを作るために向いている言語、パソコンのアプリを作るために向いている言語、ゲームを作るために向いている言語。それぞれ違うものだったりするニャ。言語というよりは、言語を元に作られた関数とかがたくさんある塊の『ライブラリ』とか『フレームワーク』というもの場合もあるニャ。フレームワークはいろんな人が作るので、数えきれないほどあるニャ。全部覚えることは不可能に近いニャ。
要するにコンピュータを扱う技術はありすぎるってわけニャ。更にそれらは日々新しいものが生まれ、使いにくいものはどんどん廃れていくニャ。なので、全部の言語や技術を習得するのは難しいのニャ。1つの言語を勉強するだけでも分厚い本何冊にもなるニャ。 さらにフレームワークにも分厚い本何冊くらいのボリュームがあるものもあるニャ。
大事なことは、自分が何をやりたいのか? 何が出来るようになりたいのか? 必要なことをきちんと見極めて勉強しないと、いろいろ無駄な時間や無駄な教育費になりかねないのニャ」
絵里たちはチーチャー先生の授業のような話を聞いた。
「そうだね。私もまだ小学生だけど、今から将来について意識したほうがいいのかな?」
「今は楽しむことが大事ニャ」
チーチャー軽く答えた。プログラミングでは特に楽しむことは大事なのである。大事なことなので、何回もいいたいところである。それをきっかけにまたチーチャーの説教のような長話が始まるのであった。
「必要な知識や技術は必要になってから覚えればいいニャ。高校生とか大学生になると、将来に向けてパソコンの資格の勉強とかする人がいるニャ。資格にあわせて勉強すれば、プログラミング言語、アルゴリズム、オブジェクト指向、データーベース、その他いろいろな分野を勉強することになるニャ。だからといってそれが全て自分の作りたいもの好きなものと一致しているかはわからないニャ。だから、自分の作りたいものやりたいことをちゃんと理解して、それに合わせて技術を身につけることが大事なのニャ。楽しいと思えるのならどんどん上達するニャ。弱点を補うことは大事かも知れないけど、『長所を伸ばすことが何よりも重要』という考え方があるニャ。『短所を補うときは長所を伸ばすために必要になった時でもいい』のニャ。だから今は、自由にプログラミングしてゲーム作ったりして『遊ぶことが大事』なのニャ」
「そうなんだね。無理せずに楽しむことが大事なんだね」
「そうニャ」
チーチャ先生の授業の話は終わった。
「本当チーちゃんは可愛いよね。人型体型よりもこっちのほうがいいね」
「人型ではそこそこかっこいいイケメンでもあるニャ。絵里もプララも可愛い顔してるニャ」
「そうかしら。うれしい」
3人は楽しそうな表情で話している。
「日も暮れて来そうだし、明日の準備のために、ちょっと買い物しないとね。そしたら、
近くの宿で寝泊まりしましょ」
「そうだね。そろそろお店出ようか?」
絵里たちは、お店を出て、買い物を済ませた。そうしてプララに連れられて一晩寝泊まりするために、民宿のようなところに来た。旅館というよりは少し大きめの民家といったところであろう。寝泊まりだけをするには十分といった建物である。
「ちょっと古そうなところだけど、ここでいいわよね」
「うん、プララちゃんに任せるよ」
絵里たちはプララの案内で建物に入っていく、それほど混んでいなく予約しなくても部屋は借りれそうなところである。建物の外見も内面も決して綺麗とは言えないが、寝泊まりするだけなら十分っといったところである。受付のカウンターには笑顔で優しいおばあちゃんのような浴衣を着た女将がいた。もちろんネコ耳はついている。みんなが目にするネコ(イエネコ)というよりは、マヌルネコのような小さな横向きのネコ耳であった。
この世界の住人はネコ耳を付けているが、ネコ耳にもいろんな種類がある。イエネコの
ように三角な耳もあれば、トラのように丸に近い耳もある。見た目の形が大きく異なるがどれもネコ耳の一種である。
「いらっしゃーい」
女将のおばちゃんは優しい声で話し変えてくる。
「お部屋空いてるかしら?」
「うちは部屋しかないよ。食堂はないし、温泉は外だけどいいかい? そのかわり安くしてるよ」
「じゃぁ3人部屋借りるね?」
「明日の朝までだね。出るときは、ちゃんとあたしに鍵を返してね、そのときにお代は頂くよ。無賃でとんずらしたらどうなるか? まぁ君たちなら大丈夫でしょ」
その受付のおばちゃんは、一瞬笑顔のようで笑顔でない表情になったが、悪い人ではなさそうであった。カウンターの奥には窓があり、その向こうの部屋には何やら長い棒のような形をしたものが、いくつか置いてあるように見える。
絵里たちは、おばちゃんに案内されて部屋に向かった。
「ここがアンタ達の部屋ね。ゆっくりしておいき。タンスに入ってる浴衣は使っていいわよ。あとトイレは建物の外の小さな小屋よ」
「よろしく、お願いします」
絵里たちは挨拶して部屋に入った。普段、目にするような和室であった。障子に穴が空いていたり、窓がテープで補強されていたり、いろいろ綺麗ではないが、寝泊まりは問題なさそうであった。
「この世界にはいろんなタイプの宿があるけど、こういうところのほうが落ち着くでしょ。まぁ他は高いのよね」
「いいところだね。私たち、そんなにお金持ってないし……」
プララはともかく絵里は、この世界のお金は持っていない。
「お金のことなら多少は大丈夫よ。せっかくここに来たんだし、着替えましょ」
「そうだね。チーちゃん、ちょっと後ろ向いててね」
そういって、絵里とプララはタンスにある浴衣に着替えた。大人用と子供用それぞれの浴衣が人数分入っていた。絵里とプララは子供用の浴衣を着た。その浴衣は膝が見える丈の短めだった。元気に動き回るような絵里たちのような子供の場合は大人が着るような丈の長い着物と違い、ミニスカートのような丈の身近い浴衣がお似合いである。
「どうかな。チーちゃん」
「絵里もプララも似合ってるニャ」
2人は嬉しそうな笑顔をしている。
「あのおばちゃん、温泉は外っていってたよね。ということは温泉あるの?」
「あるわよ、ちょっと歩くけどね。行きましょうか。今日は疲れたでしょ。温泉入ってゆっくりしよ?」
「うん」
絵里はプララに案内されて、外にある温泉に向かおうと建物の裏口に向かった。
「こっちね。裏口から庭に続いててね」
「おやっ、あんた達、温泉かい? 外は暗いから、この灯りを持っておいき。晩ごはん食べた? 食べてないなら特別に用意してあげる」
女将のおばちゃんが、近くにある提灯(ちょうちん)を渡してくれた。
「どうも、ありがたく使わせていただきます。では、温泉あがったらお呼ばれしてもいいですか?」
「いいよ。美味しそうなもの、いっぱい用意しておくよ」
「やさしそうなおばちゃんだね」
絵里たちは裏口を出た。そこはたくさんの気が生い茂る森のようになっていた。
もう日が暮れ始めていて、辺りは真っ暗である。獣道のようなものが続いており、灯りは整備されていない。
「庭というよりも森だね、真っ暗でちょっと怖いね。プララちゃん」
「思ったよりも不気味ね。肝試しするのにちょうど良さそうね」
「プララちゃん、前に来たことあるんだよね?」
「ここを通るのは初めてよ」
「肝試しという言葉を聞いたら急に怖くなっちゃたよ。大丈夫かな?」
絵里はプララの後ろを、プララを盾にするかのように、プララの肩を掴みながら歩いている。
風が吹く度に物音聞こえたり、時より虫の声や動物の動く音が聞こえる。
そして、絵里たちは短めの丈の浴衣を着ている。時より丈の長い草が絵里たちの足をくすぐるように刺激する。
「ちょっと歩いたら、小さな小屋があるのよ」
「そうなの。もう少し頑張る」
公衆トイレのような大きさの木造の隣同士の小屋が2軒見えてきた。小屋には灯りがついていた。裏口から森の小屋まではそれほど距離があるわけでもないが、肝試しのように感じてる絵里には長い道のりに思えたようである。
「やっとついたー」
「そうね。そんなに遠くはないんだけどね」
「プララちゃんが怖いこと言うからだよー」
その小屋は更衣室と洗い場であった。男用と女用のそれぞれの小屋。その手前には看板があった。
「混浴なんだ。自然の、ど真ん中って感じだね」
「そうね」
「チーちゃんとも一緒に入れるね。よかったよ」
「ニャニャニャ。じゃぁ、ニャーは一旦ここでお別れニャ」
絵里とプララは更衣室のような小屋でチーチャと別れた。絵里とプララは浴衣を脱いでバスタオルを巻いた格好になった。
その小屋には狭いが洗い場があった。絵里とプララはそこで髪と体を洗った。湯船は混浴の露天風呂だけだった。
「よし、準備OK。ではお風呂へ」
絵里とチーチャの二人は姉妹の様に仲良く歩きながら露天風呂に向かった。途中でチーチャーも合流する。3人同時に湯船に浸かる。
絵里は、おっさんのようなことを言いながら湯船に入った。
「あー、生き返るね」
「まだ、死んでるわけでもないわよ」
「まぁそうだけどね。いいところだなーって」
「そうなのよね。楽しいところなのよ。ああいうことがなければ……」
「ニャニャ」
「だから、明日から作戦開始だね」
「そうね」
「プララちゃんの……、わたしより大きくない?」
「何見てるの? まぁ気にしてもしかたないわよ」
「そうだね。まだ私たち小学生だし、早く大きくなりたいなー」
「絵里もプララも可愛いニャ」
そんな会話をしながら、絵里たちは温泉を満喫した。
「そろそろ戻ろうか?」
「そうだね」
絵里たちは温泉を出ると、元来た道を戻って宿に向かう。
辺りは真っ暗、提灯の灯りがなければ、何も見えないといっても過言ではない。
「もう、怖くはないからねっ」
「じゃぁ、絵里が先頭ねっ」
「うぅー、やっぱり怖いよー」
「そんな調子でこれから大丈夫のかしら?」
「暗くなければ平気っ」
絵里たちは何とか宿の建物に戻った。
裏口から入ると、すぐそばに女将のおばちゃんがいた。
「おや、おかえり。ご飯はあるわよ」
「ありがとうございます」
絵里たちは女将のおばちゃんに小さな和室部屋に案内された。この宿の入口のカウンターから見える部屋である。絵里が受付したときにあった長い物体は片付けられていたようであった。和室は畳が敷かれている。4人が座れそうなテーブルと座布団が4つ置いてあった。絵里たちはテーブルの前に座った。
女将のおばちゃんは料理を持ってきてくれた。和風の庶民的な料理といったところだった。
「いただきまーす」
「たくさんお食べ」
絵里たちは、女将のおばちゃんが用意してくれたご飯を食べた。
「美味しいね」
少し経ってから、女将のおばちゃんが語りだした。
「アンタたちみたいな元気で若い子が来ることは珍しくてね。孫が遊びに来たみたいでちょっと嬉しくなっちゃったのよ。だから、普段は客にご馳走することは無いんだけどね。今回は特別よ」
「孫がいるんですか?」
「そうね。もう大きくなっちゃって、私に会いに来ることはないけどね。いろいろなことがあってね」
「そうなんですか? なんか悪いこと聞いちゃったね」
「いいえ。いいのよ」
絵里たちは、女将のおばちゃんとお話をしながら、家族のように食卓で美味しい時間を過ごした。
絵里たちは、ご飯を食べ終わると就寝のために部屋に戻った。既に部屋には布団が敷かれていた。絵里は布団をさわったりゴロゴロしたりしている。
「フカフカだね。気持ちいね」
「いいところね。これならぐっすりと眠れそうだね」
「明日は早いニャ」
絵里は思い出したように言った。
「寝る前にちょっとおトイレ。プララちゃん一緒にいかない?」
絵里はプララの手を引っ張って頼んでる様子である。結局、プララも絵里と一緒にトイレに行くことになった。
「トイレくらい独りで行けないの?」
「別に行けなくはないと思うけど、ちょっと怖くて不安なんだよね」
「もう、しょうがないわね。この世界に来て、今までどうやってトイレに行ってたんだかしら? 2人でトイレの個室に入ることはできないわよ」
プララは小声で言った。
この宿のトイレは外の別の小屋にある。夜は建物の灯りでほのかに照らされるが、基本的に真っ暗である。独りで歩くにはちょっと怖いところかも知れない。
絵里とプララはトイレを済ませて、部屋で寝る準備をした。3人はそれぞれ布団に入った。
「明日に備えて、今日は早めに寝ましょうね」
絵里たちは明日に備えて眠りについた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます