第6話 魔法のひととき
「私の名前は『小枝 絵里』。どこにでもいる小学4年生だったんだけど、ある日突然、魔法少女になっちゃった。今日は何と元の世界を離れて魔法の世界へ!」
絵里は異世界へ続く光り輝く扉のようなものに飛び込んだ。そして気がつくと、見たこともない景色が広がっていた。
今日の絵里は、白いシャツと、デニムのジャケット、赤いミニスカート、黒い靴下、赤いスニーカーを履いている。赤いリボンをつけた黒いツインテールがよく似合っている。という、この世界に来る前の服装のままであった。とりあえず冒険ということもあり、背中にはリュックサックを背負っている。スカートのポケットにはスマホが入っている。チーチャーとは連絡ができるが、絵里の住む世界と連絡はできない。
「ここがチーちゃんの世界。魔法の世界・大自然。何もないんだね。わー草木がいっぱいあるよー」
「いやいや、こっちニャ」
絵里の肩にチーチャが絵里の首を軽く回すよう触って言った。
「わー、凄い町!」
絵里は180度反対の方向を向いて驚く。そこには、たくさんの人が暮らしているように見える。ここからでは遠くて詳しくは見えないが、たくさんの人工物と人間のような生物がたくさんいることは確認できた。
「たくさんの人がいるね」
絵里は周り見渡しながらチーチャーに話しかける。この場所では人なのかは区別つかないが、二足歩行で服を来ていることは確認できる。チーチャーとは違い人間の大人の大きさのようである。
「ニャーの町に向かうニャ」
絵里はチーチャについていくように歩いて進んでいく
絵里とチーチャは町の近くまで来た。この場所なら、はっきりと町の人の様子が見える。ここは絵里の住む世界とは違う魔法の世界。町の人も何か違う。最大の特徴は…
「色んな人がいるね。みんなネコ耳がついてるね」
「そうニャ、ニャーの国の人は、そういう種族なのニャ」
そう、ここは魔法の世界のネコの国、見た目は絵里と同じ人間であるが、みんなそれぞれネコ耳がついている。変装というわけではなく体の一部となっている。どうやらそういう種族らしい。
「じゃあ、チーちゃんも」
「まぁ、ニャーも人型体型には、なれるニャ。でも小さいほうが魔力を使わないから気楽なのニャ」
チーチャは、ちょっと自慢げに喋った。
「そうなんだ。どんな感じなんだろう……イケメンなのかな……」
そんな話しをしながら、絵里はチーチャーにつれられて進んでいく、どうやらここは町の中心の市場のようである。活気あふれており、いろんな店や施設があった。そこの人々は魔法を生活の一部として使っている人もいるようであった。
「町の人はみんな魔法が使えるのかな?」
「全員が使えるわけでないニャ。使える人は多いけどニャ」
「魔法と言っても、何でもできる夢のような力ではないニャ。一流の魔法使いは凄いことを出来るかも知れないニャ。魔法は魔力を使うから、普通の人は、ちょっと暮らしを便利にする程度ニャ。火を起こしたり、宙に小物を浮かせたり、乗り物を召喚したり……でも、もともと乗り物や道具がこの世界にあったわけではないニャ」
「そうなんだ」
チーチャはこの魔法世界の人々について丁寧に絵里に話す。
「召喚できる物体を魔法で定義する人がいてニャ。作ったものを魔法倉庫に置いてるわけニャ。そこからニャーたちは、定義情報を取得して、デバイスに記憶させて召喚したりすることができるニャ」
「プチコンのGRPで描いた絵をSPDEFで定義して、自分だけのスプライトを作るみたいな感じなのかな?」
「そうニャ。みんなが便利な暮らしをしているのは、先人たちが便利なスプライトや仕組みを生み出してくれたからなのニャ。絵里の世界でもそうニャ。コンピューターは何でもできると思ってる人がいるかも知れないけど、人間が作り出したものであるということは忘れては行けないニャ」
コンピュータはプログラムがなければただの箱。プログラムは思った通りに動くわけではなく、書いた通りに動くのである。大事なことなので何回も言わせて頂く。要するに、コンピューターなら何でもできるというわけではない、あくまでもコンピューターが何でも出来るように感じるのは、それを生み出した人間。プログラムを書いた人間。人間の存在を忘れてはいけないのである。
『プチコン3号/BIG』には、自分で作った作品をオンライン上に公開することができる。公開した作品には『公開キー』というパスワードのような文字が発行される。
ユーザは公開キーを入力することで、他の人が作った作品をダウンロードして楽しむことができる。プログラミングが出来なくても、他の人が作った作品を楽しむことができる。新しい作品はたくさんのユーザによって、どんどん公開されていくので、『プログラミングが出来ない人でも存分に楽しめる』ということなのである。
ゲーム以外にも市販のソフトに負けず劣らずのお絵かきツールも公開されているため、ダウンロードして損は無い。ということである。
そして、この物語は『プチコン』を知っていると、より深く楽しむことができるであろう。
絵里とチーチャーは、魔法やプログラムについて話しながら町の中を歩いていく。
「こっちの世界でも機械の技術は進んでいるのね」
「そうニャ、魔法の技術も、科学や機械の技術もトップレベルにあるはずニャ。これが魔法で動いてる機械ニャ」
チーチャーが指を差す。そこには人間がコンピュータのような機械に向かって、映像が見ながら何かと操作しているのが見えた。この魔法世界でも現在の地球のように、機械化が進んでいた。人々は魔法と機械を利用して便利に暮らしているのである。
「その機械には魔法のエネルギーであるマナと、魔法のコードが組み込まれてるから、魔力が無い普通の人間でも魔法が使えるのニャ。しかし、魔力は注入する必要はあるのニャ。魔力は無限ではないのニャ、ちなみにマナは人間や動物や植物・あらゆる生命や物質から生み出されるニャ」
魔法とは言え、無限に力を生み出せるわけではない。全てのものは原動力となる源が存在する。魔法の場合は「マナ」という生命の力というものが存在する。
人間の生きる力、やる気、希望、それらが原動力となり体内からマナが生まれる。動物や植物にもマナは存在する。この世界ではそれがエネルギーとして魔力となる。一部の人々は魔法を使っている。そして、この魔法世界の人々はマナを蓄積させてエネルギー資源とする技術を持っている。
「誰でも、魔法の技術を使えるのは便利だね。だから、こうして便利な世の中があるんだね」
「そうニャ。技術はみんなを幸せにするためにあるニャ。独り占めしてはいけないのニャ」
技術はみんなのため、便利するため、そのためには様々な人に伝えて、より良いものになるように、発展や改良していかなければならない。なので、コンピューター界隈では、技術はどんどん公開するオープンソースという考えが存在する。技術資料や内部のプログラムが書かれているソースコード公開することで、それらを研究している人々に広く知れ渡る。そして、様々な改善案が生まれる。その結果、どんどん便利な仕組みやシステムが生み出され、世の中は便利で豊かになっていくのである。
技術を発展させるには、1人ではなく、みんなで協力していくことが大切なのである。
「そう言えば、この国の人も、私と同じ言葉で喋ってるよね」
「そう感じるかも知れないけど厳密には違うニャ。魔法の世界では魔法の言葉しか通用しないニャ。魔法で翻訳してるのでその辺は心配無いニャ。魔法の翻訳技術は何10年も前からあるニャ。ワープゲートを通過する際に、翻訳されるように魔法をかけているのであってニャ……要するには何も考えなくても普通に話せるニャ」
「それはよかった」
「翻訳技術ができてから、異世界とコンタクトが取れるようになって、飛躍的に科学技術も魔法技術も発展したわけなのニャ。ニャーの世界では異世界中のあらゆるものを参考にしているニャ。エリーの住む地球は便利ところニャ。なので地球を参考にしている部分は多いから、エリーも気軽に生活できると思うニャ」
「そうね。確かに建物の構造も、人々の構造も、乗り物も、私の世界に似ているものは多いね。これなら迷うことなく観光もできそうね」
人類は他国と交流して、互いに情報を交換したり、刺激を与えあうことで、技術は発展していくのである。要するに、みんなで協力することが大切なのである。
現在は、コンピュータでの翻訳技術は進んでいる。日本語でスマホに向かって喋ると英語の文が表示される。自動で読み上げることも出来るので、スマホ越しに、簡単な会話なら何とかできそうなほど便利になっている。しかし、ネイティブな外国人の早口な英語を正確に翻訳できるかはわからないので、まだ完璧な翻訳とは言えないかも知れない。
オンラインゲームやコミュニティで、外国の人からメッセージを受信しても、日本語に直したり、日本語から外国語に変換することができるので、世界の人々と気軽にコミュニケーションを取ることができるのである。コンピューターに入力する文字の情報ならば、かなりの精度で認識して翻訳することができる。
WEBブラウザ越しのインターネットには国境はない。と言えるほどである。
この町には絵里の住む町とは何か違う。建物の形も、人々の服装も、同じようにありながら何か違う。食べているものも違うのかもしれない。
「魔法の食べ物って美味しいの?」
絵里がチーチャに不思議そうな表情で尋ねた。
「魔法で作った食べ物は、味はともかく、腹は満たせないからあまり食べないニャ。魔法で純粋な食べ物を生み出すことは出来ないのニャ。召喚したスプライトのイチゴはどんなに見た目はイチゴでも、それはイチゴではないのニャ。言ってしまえは食べ物でもないのニャ。やっぱり、食べ物は自然のものである必要があるのニャ」
「そうなんだぁ」
「魔法の世界でも、食べ物を美味しいと感じることは同じことニャ。」
絵里とチーチャは町の中まで入ってきた。遠くに何か変わった形の建造物が見えた。
「あっちの方にあるのは何かな?」
「あれかニャ。あれは『魔法の国・マジマジランド』というところニャ。変わった乗り物とかに乗って楽しむところニャ。魔法を娯楽に使っているところニャ、でも、入場料もそれなりにかかるニャ」
「でも、面白そうだね」
絵里は目をキラキラさせている。
「行ってみるかニャ。お金のことは心配しなくてもいいニャ」
チーチャーは、少し強気な表情をしている。
「何か楽しそうだよね。どんなところなんだろう。ワクワクだね」
絵里は、チーチャーに連れられて『マジマジランド』というところに向かっていった。入り口付近には大勢の人が溢れている。
「着いたニャ」
「凄い人混みだね。こんなにいたら迷子になっちゃいそう」
「大丈夫ニャ。いざとなったら、スマホで連絡できるニャ」
「そうだね。便利だよね。昔はスマホなんて無かったのにどうやって連絡取ってたんだろう。まぁそんなこと、どうでもいいか」
「入り口のゲートはこっちニャ」
絵里たちは順番に並びながらゆっくりと入口へ進んでいく。
『マジマジランド』はチーチャーの住む魔法世界にあるテーマパークのようなところであった。魔法の技術で娯楽をしている楽しそうなところ。外からでも変わった形の建造物が見えるほどである。どんなアトラクションがあるんだろうか?
「何とか入口だね」
絵里とチーチャーは、ようやく入口のゲートに来た。入口ゲートでは、若そうな人間体型のネコ耳のお兄さんが、来場客の入園チケットを確認している。
「おっ、チーチャーさん、お久しぶりです。元気でしたか……。今はお客さんなんだっけ。大人1名、子供1名だね。おっ見慣れない顔、別の国の人かな。楽しんでいってね!」
どうやら、係のネコ耳のお兄さんは、チーチャーとは顔見知りのようであった。
チーチャーは、カードのようなものを取り出して、係のお兄さんに見せる。
周りの人が見せているチケットとは違うものであった。絵里の住む世界の一般的なテーマパークとかでも、チケットには様々な種類がある。何度も行くような常連になってくると通常のチケットではない『年パス』というものを持っていたりする。年パスとは、1回購入すれば1年間は自由に行き来できるチケットである。そして、更に凄い客には……というチケットが存在するという噂を聞いたことある。
チーチャーの世界の遊園地にも、いろんなタイプのチケットが存在するのかも知れない。
絵里とチーチャーはゲートと通過する。
ゲートを通過すると、可愛らしいネコ耳のお姉さんが近づいてきた。
「かわいい、かわいいお嬢さん。魔法の国へようこそ! この世界にはいろんな楽しいものがあるよー」
そういいながら、パークの地図が書いてあるパンフレットを渡してくれた。
「ありがとうございます」
絵里は笑顔でお礼の挨拶をした。
マジマジランドとは、チーチャーの住む魔法の世界にある大きなテーマパークである。いくつものエリアに分かれており、さまざまなアトラクションがある。レストランやショップも豊富で1日中、いや一日では足りないくらい遊べそうなところである。キャッチコピーは『マジで凄いマジカルな世界』。上着を着た2足歩行するネコのマスコットキャラクター、マジオとマジコがいるのが特徴である。
「私は今ここにいて……この先にジャングルエリアと冒険エリアがあって……。地図見ながら歩くのは危ないね」
絵里は歩きながらパンフレットを眺める。危ないので良くないと気づく
絵里の住む地球では「歩きスマホはやめよう」とはよく言われているが、別にスマホではなくても、歩きながら何かをすることは危ないのである。
「チーちゃん、この近くで何かおすすめの乗り物ない?」
「ここに来て乗り物に乗るなら、やっぱりこれかニャ。『マジ☆はや☆トレイン』ニャ」
「パンフレットには、魔法の力でスピード体験。高速型の……おー何か面白そうだね」
「人気のアトラクションなので、ちょっと待たないと行けないニャ。列に並ぶ前におトイレは済ませておいたほうがいいニャ」
「おっけー。じゃぁ案内してくれるかな」
絵里はチーチャーに案内されて、向かったトイレに向かった。絵里はまだ我慢するほどの状況でもないがチーチャーの言う通り、乗る前に済ませておくことにした。
「アトラクションの近くにあるニャ。ここニャ。ここならあまり混んでないニャ。おっと、ニャーはここまでニャ」
絵里は、チーチャーに案内されてトイレの入口に来た。魔法の世界とはいえ、絵里の住む地球を参考に作られているものは多く、トイレも絵里の住む世界同様に、男女別になっていた。どうやらチーチャーはオスのようであった。動物体型とはいえ、男が女子トイレにはいることは許されない。
「ありがと」
絵里は案内してくれたチーチャーに軽くお礼をした。そして、立ち止まって、何やら少し考える。そして、目にも留まらぬ速さで、チーチャーをつかんで持ち上げた。
「ごめん。ちょっと寂しいなー。チーちゃんも一緒に。ダッシュ!」
絵里はチーチャーを抱きかかえて、女子トイレに駆け込んだ。トイレはガラガラに空いていた。並ぶこともなく個室に入ることが出来た。チーチャーは見た目はぬいぐるみである。小学生の絵里と一緒にいても何の違和感もない。
「ニャー、これだから女の子ってやつは……」
チーチャーが小声で話す。
「なにか言った?」
絵里は、少しムスッとした表情になる。
「ニャんでもないニャ」
「ごめん……寂しいの。でも絶対に見ないでね」
「わがままなやつニャ……」
そう言ってチーチャーは絵里の前に立って、絵里とは反対の扉の方向を向いた。
トイレの個室の中は、絵里の世界と同じような洋式のようであった。絵里はスカートの中の下着を下ろした。やっぱり、それでもちょっと不安になる。絵里は、チーチャーを持ち上げて、絵里の膝の上に来るようにして便座に座った。
「見るな。とはいったニャ」
「やっぱり、私を見て」
「わがままなやつニャ……」
ここは絵里の住む世界ではない。女の子であろうと関係なく、常に誰かと一緒に居ないと不安になるである。トイレの時間、それは人間が唯一完全に無防備になる時間。誰かといないと、そして、相手の顔が見えないと不安になるものである。
「スッキリしたし、さぁ行こうか……」
絵里とチーチャーは要が済んだのでトイレを出た。絵里はチーチャーに案内してもらい『マジ☆はや☆トレイン』に向かった。そこには既に行列が出来ていた。行列は建物の形をしているアトラクションの入口に続いている。
「そんなに遠くないね。人は多いね。結構、待たされそうだね」
「まぁ仕方ないニャ。でも待ちながらゆっくりと景色を見たり、お話しながら過ごすのも一つの楽しみニャ」
『マジ☆はや☆トレイン』の待機列は不思議な形をした建物の中に続いている。建物の中には、魔法に関する資料やオブジェのような物が沢山置かれている。
絵里たちは少しずつ、その建物の中に入っていった。
「魔法の世界なのに、魔法を強調しているの? 何か変じゃない?」
絵里が疑問に思ってチーチャーに尋ねる。
「そうでも無いニャ。この世界だって最初から魔法があったわけではないニャ。魔法を使う人が使い方を公開して教えて広めて、魔法を使える人が増えて、そしてエネルギーを資源化することによって、誰でも魔法の力の恩恵を得ることができるようになったニャ。こうなるまで長い歴史があるのニャ。なので魔法の力をここまで発展させてくれた人の存在は忘れてはいけないのニャ。このパークにはそんな思いも込められているニャ」
「そうなんだ」
「ここには魔法技術の歴史がずらずらと書かれているニャ。『そもそも魔法が生まれたのは……年に……が発明して、その頃はごく-部の人しか使えなったが……』とニャ」
「確かに、これだけズラズラ書かれていたら、読んでるだけで待ち時間は、あっという間だね」
「そうニャ」
「でもそれだと、1回読んだら次からは退屈だよね」
「そうなのニャ。でもそうならないように、いろいろヒミツがあるニャ。このオブジェの作り込みは凄いニャ。見てるだけで癒やされるニャ。さっきのズラズラと長い文章の中に、おかしな文字があることには気づいたかニャ? 他にも、ここの絵をよく見たら顔に見える部分があるニャ」
「えっ、どこ?」
「このようにして、手ぶらで1人ぼっちでやってきても、待ち時間を退屈しないように様々な工夫がされてるニャ。ちなみに『一』が『-』になっている部分があるニャ」
楽しませる工夫というのは、エンターテイメントとしてとても大事なものである。ゲーム制作に置いても、1度プレイしてクリアしたら終わりではなく、何度やっても楽しいと思える要素を入れることは、とても重要なことなのである。
そうやって話しているうちに、時間は過ぎ、列はどんどん進んでいく、乗り場に近づくに連れて、乗り物が発する音もよく聞こえるようになり、次第にテンションはどんどん上がっていく。このアトラクションは乗り場に進むにつれてどんどん地下に潜っていくようになっていた。
「お、ちょっと見えた。アレが私が乗る乗り物かぁ」
「そうニャ」
「何か光ったりしてる。魔法の世界ではどんな乗り物なんだろう。楽しみだなぁ」
いよいよ、絵里の乗る番が近づいてきた。ネコ耳がついてる係のお兄さんやお姉さんが手際よく客を乗り物に誘導していく。乗り物は列車のように数両つながっていた。
絵里の番が来た。係の人もチーチャーに目を合わせる。絵里は係の人に従って乗り物に誘導される。
「そろそろ乗る時間だね。楽しみ」
その乗り物は1台に2人掛けの席が3列になっていて、それが4両続いていた。それぞれの車両の先頭にはネコの顔のような飾りがついている。乗り物は空中に浮いており、レールも車輪も無かった。線路は無いが乗り物が通る道は先に続いている。絵里とチーチャーは乗り物に乗車した。
「ベルトは締めてくれよ! ここから先は不思議な冒険の世界だ! 手や足を出すんではないぞ。悪魔に食べられてしまうからな。まぁ安心してくれ……」
威勢のいいお兄さんのナレーションが始まる。最後に、こう言ってアトラクションはスタートした。
「さぁ、冒険の始まりだー」
ナレーションが終わると、いきなり急加速で前に進みだした。絵里とチーチャーは椅子に張り付けられる。魔法の力で動いているらしく、エンジンの音も、モーターの音も聞こえない。風を切る音と、魔法で作られたような不思議な音が聞こえる。
「うぁ、びっくりした」
突然の急加速に一瞬ヒヤッとなる。絵里は先にトイレを済ませておいてよかったと思った。
「楽しいニャ?」
「そうだね」
その乗り物は猛スピードで洞窟の中を進んでいる。フラフラと揺れながら見えないレールの上を走っている感じの動きをしている。レールの上を進むジェットコースターとは違っていて、レールの継ぎ目の振動が感じられなかった。
そして、上り坂に差しかかっても、ほとんど勢いが止まることがなかった。だからといって、常に一定の速度で動いているわけではない。急カーブでは減速したりする。楽し動きになるように、いろいろ魔法で制御されているようであった。
「凄いね。魔法の乗り物」
「ここから先は、もっと楽しくなるニャ」
その乗り物はかなりのスピードで直進していた。眼の前を見ると、大きな壁。行き止まりが見えた。
「わー、ぶつかるー」
誰もがそう感じる。絵里も例外ではない。このままここで壁に激突と思った。
しかし、乗り物は壁にぶつかることはなかった。壁の手前で90度縦に向きを変えた。そのまま垂直に上昇していき、地下の洞窟を抜けた。そこには青空が広がっている。
乗り物が空に出ると、次第に速度が落ちていった。まるで空中に放り出されたかのような感覚になる。
「浮いてる。飛んでる。落ちてる。うわぁー」
今度はどんどん地面に向かって加速していく、地面が近づくと何事もなかったように斜面に着地し、速度を維持したまま、滑らかに進んでいった。
そして、ゴールの降り場へと向かっていった。乗り物は降り場に着くと、空中に浮かんだまま停止する。
絵里とチーチャーは乗り物を降りる。
「楽しかった。アサミとリカちゃんも連れてきたかったなぁ」
「ここに来たら、このアトラクションは外せないのニャ。何回も乗りたくなるおすすめのアトラクションなのニャ。さらにもっと楽しいヒミツが隠されていてニャ。それはまたの楽しみとして取っておくニャ」
「次はどうしようかなー」
絵里が辺りを見渡していると、屋台が目に映った。
「何を売ってるのかな? 食べ物かな?」
「このパークにはいたるところに屋台があるニャ。ちょっと行ってみるかニャ」
絵里とチーチャーは屋台に向かった。
屋台では行列が出来ていた。どうやら肉を売っているらしい。絵里はその行列に並んだ。
「なんかフライドチキンみたいだね。こっちの世界の食べ物はどんな味がするんだろう……」
「この肉はこのパークでも大人気なのニャ。毎日行列ができるほどニャ」
絵里とチーチャは行列に並びながら、楽しそうに会話していた。
すると、
「いたぞ! 例のチーター野郎だ!」
柄の悪そうな男の大声が聞こえる。
「見慣れない人種と接触している! 座標は……」
その男は、手にスマホのような発信機を持っていた。絵里に向けてブツブツといいながら仲間に連絡を取っているようであった。男の出現とともに、周りの状況は一転。今まで屋台に並んでいた人達は散らばってどこかに行ってしまった。
「バレたニャ」
「えっ!」
絵里は事態の状況が理解出来ていない。あっという間に男の仲間が数名現れて囲まれてしまった。
「敵は多くないニャ。とりあえず戦うニャ」
「変身しなくても、攻撃魔法は撃てるんだよね。でも、これだけの敵を相手にしたら戦えないよー」
絵里は魔法で戦ったことはあっても、1体の相手に対しての戦いしか、戦ったことはなかった。そして、今回の相手は大人のようである。小学生の絵里は気迫で既に負けている。
「やっぱり、無理。こうなったら、このプログラムで……」
絵里はこの状況で頭の中でプログラムをイメージした。変身する時間は無かった。何とかスマホから杖を取り出して、この状況を打破するプログラムを考える。
「これしかないか。このスプライトなら……これだけ、ばら撒けば……」
わずかにプログラムを組む時間があった。絵里は瞬時にプログラムを組む。
「とにかく、いでよ! 私のスプライト達!」
絵里はそう言って、魔法のプログラムを発動した。
絵里が書いたプログラムは次のような内容である。(プチコンを持ってる君は、同じように打ち込んで動かしてみると面白いかも知れない。いや、ここまで読んでいる君なら、実際にプログラムを打ち込まなくてもどんなことが起きるのか? 想像はつくであろう)
『
ACLS
FOR I=0 TO 199
SPSET I,3425
SPSCALE I,2,2
SPOFS I,RND(399),RND(239)
IF!(I MOD 4)THEN WAIT
NEXT
』
絵里が魔法を使うと、たくさんの物体が出現した。絵里を取り囲むように非常にたくさんの数が出現している。絵里はどこに居るのか? 絵里とチーチャーは見えなくなった。
煙幕である。
この状況では戦うことよりも逃げることを選んだわけである。
「無理、無理、無理。相手が多すぎだよ。こんなときは逃げるが勝ちー」
絵里とチーチャは、煙幕と同時に走り出した。敵もこのワザには敵わなかったようである。絵里とチーチャーは何とかその場を抜け出した。
「チーちゃん、あいつら何なの?」
「とにかく逃げるニャ。話は後ニャ。まずはパークから出るニャ」
絵里は何があったのか混乱しているが、チーチャーの言う通りにパークから出ることにした。煙幕で一瞬敵が絵里を見失っても、すぐ近くにいては敵に見つかってしまうかも知れない。一刻も早く遠くへ行くほうが安全だと絵里も考えた。
「このパークの出口は何箇所もあるニャ。こっちの出口なら、敵に見つかることは無いニャ」
「そうね。話は後ね。今はそれどころじゃないし……」
とにかく、身の危機が迫っている状況では、のんきに遊園地で遊んでいられる状況ではなかった。絵里は必死になってパークのチーチャーが示す方向に走った。
チーチャーは絵里の肩に乗っている。ぬいぐるみ体型のチーチャーはそれほど重たいわけではない。
「これだけたくさんの人や建造物があったら、魔法の乗り物はつかえないね。空を飛んだら敵に見つかっちゃう。走るしか無いかー。がんばれ! わたし」
絵里は走った。人混みを縫うように、チーチャの示す方向を聞きながら。これだけ走ることは、学校行事の校内マラソン大会くらいかも知れない。予め距離が分かっている状況で走るのと、ゴールまでの距離もわからないのに全力で走るのとは比べ物にならないかも知れない。
絵里は何とか出口まで走った。もう敵に追われている様子はない。絵里とチーチャーはパークの出口を出た。入口と違って、それほど厳しくチェックしている様子はなかった。
「もう、走れないよ。ひとまず休憩だね。この草むらの中なら、少しは大丈夫かな?」
絵里にとっては、この状況は予定外だった。体を動かすことが得意であっても、小学生の絵里は全力で走り続けると息が切れる。いや大人でも長時間の全力疾走は息が切れる。パークの外は自然の草木が生い茂っていた。これだたくさんの草木があれば、小学生が隠れるには十分な広さと大きさがあった。絵里は草むらに入って仰向けに倒れ込んだ。
「ちょっと失敗したなぁ。スプライト出し過ぎた。考えてる余裕なかったし、疲れたよ」
もっと良い魔法があったのかも知れないが、とっさの状況で大量にスプライトを使う魔法を使ったため、絵里の魔力は一時的に消耗していた。少し休んだら、楽になる状態ではある。どちらかと言うと絵里の場合は魔力の消耗よりも体力の消耗で動けないという状況である。パークの出口まで全力疾走、そして、絵里はお腹が空いていた。全力で走り回れるほどの体力はなかった。それでも、何とか走りきった。
「エリー、大丈夫かニャ?」
「何とか大丈夫だよ。ちょっと走りすぎただけ。ちょっと休めば大丈夫」
絵里は草むらの中で10分ほど休んだ。空腹は満たされていないが、何とか動けるくらいには体力が回復した。
「これからどうしよう?」
「まずはニャーのすみかに行くニャ。そこにはニャーの仲間もいるニャ。話はそれからニャ」
「そうだね。一旦パークから離れよう」
パークの外とはいえ、敵に見つかった場所からは、それほど離れているわけではない。
絵里とチーチャーはパークを離れるように歩きだした。
絵里とチーチャーが歩いていると、ネコ耳を付けた数名の人たちが絵里の方に歩いてきた。どうやら敵ではなさそう。絵里は安心した表情になる。
「よう、チーチャー、久しぶりだな」
「ヒロも元気だったかニャ」
チーチャの顔見知りだった。ネコ耳をつけている人に悪い人はいない。そう言えば、さっきの柄の悪い人たちはネコ耳が見えなかった。チーチャーとは違い人間体型で大人の大きさである。髪の毛は黄色が混じっている感じで、フサフサしている。もちろん頭にはネコ耳。軍服のようなものを着ている。頼りになりそうなお兄さんといえる容姿をしていた。どうやらヒロという名前らしい。チーチャーとの付き合いは長そうである。
「この子は、例の子か?」
「そうニャ」
「よくやった。これで、この国も安心だ!」
チーチャーとヒロは楽しそうに会話していた。
すると、もう人のネコ耳のお兄さんが近づいてきた。身長はヒロと同じくらい。髪型は青っぽいストレート。ヒロと同じく軍服のようなものを着ている。爽やかなお兄さんといえる容姿をしている。名前はユウマというらしい。
「ようこそ、我が国、レッドキャットへ!」
「はじめまして、よろしく」
絵里は緊張しているかのように挨拶する。それも仕方ない。相手の容姿がカッコ良すぎる。このネコ耳の国で1,2を争うのではないかと言えるほど、爽やかで優しそうな表情。女の子なら誰もが見とれてしまう、そんな男性であった。絵里はチーチャーの存在なんて忘れてしまうほどに魅了されてしまっていた。
「よくぞ来てくれた。お嬢さん。いや子猫ちゃん。我がお城に案内しよう」
そう言われて、絵里はユウマに手を引っ張られて、絵里は黒い高級車のような乗り物に乗せられてしまった。この世界の車である。車輪はついていなかった。絵里は知らない男に手を引っ張られているが、とても強制されている様子はない。カッコいいお兄さんに手を引っ張られている状況は、絵里としても心地よいものであった。今までの出来事を忘れてしまうかのような、魔法のような時間。
車は絵里を乗せると、走り出した。絵里の隣にはカッコいいお兄さんのユウマが乗っていた。
その車は、すぐに目的地の城についた。そもそも車で行く意味があるのかという程の距離であった。絵里はユウマに案内されて、城の中に入っていった。
「可愛い可愛い子猫ちゃん。こちらへ」
絵里は食堂のようなところに連れてこられた。とても上品で豪華な部屋で、絵里のような普通の小学生が来て良いのかといえるほどであった。天井からはシャンデリアがぶら下がっており、窓にはステンドグラスが飾られていた。他にも高そうな美術品がたくさん置いてある。
絵里はフカフカの椅子に座ってテーブルの前についた。
ユウマはグラスに入った飲み物を持ってきた。
「こちらは、この地で取れた果物をふんだんに使った。特製のフルーツジュースでごさいます。お腹が空いているようでしたら、食べ物もありますよ」
絵里はパークでチキンのようなものを食べる予定だった。見知らぬ人に襲われる騒ぎに巻き込まれて、食事の機会を逃してしまった。あれから時間も過ぎており、お腹も空いていた。
「では、お言葉に甘えて、いただきまーす」
絵里はグラスに手を伸ばして、ジュースを飲もうとする。魔法の世界で初めて口にするもの。どんな味なんだろうか?
「飲んじゃだめぇー」
突然大きな叫び声のような、女性の声が聞こえた。
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