第112話 勝利
過去の世界へと続く穴へ飛び込んだデスタは暗闇に覆われているトンネル状の空間を飛んでいた。やがて、目の眩む様な強い光がデスタを照らした。思わず手で顔を隠し目を瞑ったがそれでも眩しい。
しばらくして、少しずつ光に目が慣れたデスタはゆっくりと周囲を見渡した。
デスタ「ここは、どこだ……?」
デスタは森に居た。目の前には小さな湖があり、小鳥達が水浴びをしている。葉の隙間から差し込む
デスタ「この場所、どこかで……」
デスタはこの森の景色に見覚えがあった。前に来た時と少し木々が少ない気もするが、この森は転生した時に目覚めた場所だった。
デスタ「こんな所でのんびりしてる場合じゃなかった!早くこの時代のフェインを見つけなければ」
デスタは微かな記憶を頼りにフェインのいるソヨカゼ村を目指した。かなり急いだ事もあり、デスタは数分で村に到着した。
しかし、村は驚く程平和そのものだった。先にこの時代に来ているゼニスが暴れているものとばかり思っていたデスタはホッと胸を撫で下ろした。
すると、畑で遊んでいた村の子供達がこちらに気付き駆け寄ってきた。
子供「お姉ちゃん旅の人?」
デスタ「ああそうだ。フェインという少年はこの村にいるか?」
子供「フェインならさっき村外れの広場に向かったよ」
デスタ「村外れの広場だな?礼を言う」
子供「でもあの広場って最近猪が出るから気を付けてね。フェインにあったらこっちで一緒に遊ぼうって言っておいて〜」
そう言うと子供達はまた元気に遊び始めた。デスタは子供達に言われた通り村の外れにある広場に向かった。
だが、広場と言っても周りは木々に囲まれており自然豊かな森の中にある空き地の様な所だった。広場に小さな人影が見える。
デスタはこっそり木の陰から広場の様子を覗く事にした。
デスタ「あれが…昔のフェイン……」
広場には幼きフェインが木刀を一生懸命振って鍛錬をしていた。もう合うことが出来ないフェインの姿を見たデスタの目にはいつの間にか涙が溢れている。
すると、突然草むらから大きな猪が飛び出してきた。猪はフェインを視界に捉えると一直線に突き進む。猪の突進は予想以上に素早く、子供フェインに避けられる速さではなかった。
幼フェイン「うわあああああ!!!」
猪がフェインに激突する直前、咄嗟に木の陰から飛び出したデスタの強烈な蹴りが猪をぶっ飛ばした。
フェインは驚いていたがお礼を言うと色々質問してきたが、デスタは「君は何も心配する必要はない」としか言うことが出来なかった。
その時、ドス黒い邪悪な魔力を纏った槍が幼きフェインの胸を貫いた。
デスタ「な、何が……一体何が起こったんだ?フェインッ!?目を開けてくれ」
あまりに突然の出来事に動揺するデスタの前には、今にも死にそうなフェインが倒れている。犯人はゼニスだった。
魔王ゼニスの登場と共に暗雲が立ち込め、風が冷たくなる。
ゼニス「全く、しつこい奴だ。過去の世界にまで追いかけてくるとは流石に予想外だったぞ?デスタリオス」
デスタ「ゼニス、貴様だけは……貴様だけは絶対に許さんッ!!!」
ゼニス「奇遇だな、我も貴様だけはこの手で息の根を止めてやりたいと思っていた所だ」
デスタ「ゼニス、貴様との長きに渡る因縁……今日!この日を持って!終わりにしてやる!」
デスタは剣に魔力を纏うと、目にも留まらぬ速さで斬撃を放った。無論、この斬撃はフェインと一つになったことで勇者の力が上乗せされている。無敵のゼニスもダメージを受けるはずだった。
しかし、ゼニスは背を向けて逃げ出したのだった。慌てて追いかけるデスタだったが、突然前を走っていたゼニスが消えた。
デスタ「消えた……?」
ゼニス「どこを見ている?我はここにいるぞ」
声のする方を見ると、倒れているフェインの隣にゼニスが不敵な笑みを浮かべて立っていた。
デスタ「なんの真似だ」
ゼニス「動くなよ?動けばこいつを殺す」
ゼニスの魔力で作り出した槍の先端がフェインの喉元に向けられる。それを見たデスタは構えていた剣を下ろさざるを得なかった。
デスタ「ゼニス……これが最強の魔王のする事なのか?」
ゼニス「悪いが手段を選んでる余裕はない。このまま貴様には死んで貰おうか」
ゼニスは子共フェインを人質にし、デスタへ容赦ない攻撃を浴びせた。刃の嵐に灼熱の業火、闇魔法などあらゆる攻撃魔法がデスタを襲う。勇者の力を得たデスタも流石に堪えた。
ゼニス「しぶとい奴だ、流石勇者と言ったところか?ククク」
デスタ「(クソッ……このままだとやられる)」
ゼニス「喋る力も残っていないか。では次の一撃で終わりにしてやろう」
ゼニスはありったけの魔力を右腕に集め始めた。大気が震え、森の動物達が騒ぎだし鳥達は一斉に飛び去った。死を覚悟し静かに目を閉じるデスタ。
しかし、まだ希望は潰えてはいなかった。突然ゼニスが苦しみ始め、溜めていた魔力が抜け始めたのだ。
ゼニス「ぐあああッ!?何が起こっているのだ」
デスタ「よく分からんが……好機ッ!」
ゼニスが怯んだ隙を突いて一瞬で間を詰めると、ゼニスの両腕を斬り落とした。そして、子供フェインを救出すると草むらの中に隠した。
両腕を失いさらに苦しみもがくゼニスだったが、すぐに闇魔法により義手を作り出した。だが、まだ苦しんでいるようだ。
ゼニス「ま、まさか……我が吸収した女神が我の中で暴れているのか!?」
デスタ「ゼニスッ!!!貴様は完全にわしを怒らせたようだな」
ゼニス「ぐ……やむを得んか……」
ゼニスは胴体に開いている空洞に手を入れると中から女神を引きずりだした。気を失っているが生きているようだった。
デスタ「女神を捨てたか……大きくパワーが落ちているぞ?」
ゼニス「こ、こんな事が……我が三度も敗北するというのか……いや」
デスタ「どうやら勝負あったみたいだな」
ゼニス「ククク……それはどうかな?」
ゼニスはがむしゃらに殴りかかった。だが、デスタに軽く跳ね除けられ体中を刻まれてしまう。
しかし、ゼニスの目的は攻撃ではなかった。
ゼニス「かかったなあああああッ!!!」
ゼニスはデスタの肩を掴むと、最後の力を振り絞り胴体の空洞へ押し込んでいく。振り払おうともがくが、離れる事が出来なかった。
ゼニスの目は血走り、この策に全てをかけているようだった。
ゼニス「デスタリオス!貴様を吸収し我は再び神を超えるぞ」
デスタの上半身が飲み込まれゼニスは勝ちを確信した。だが、デスタの両手には厄災王の力によって手に入れたゼニスの魂があった。
デスタ「はぁ…はぁ…消え失せろ魔王ゼニスッ!!」
デスタは残ってる全ての力をゼニスの魂にぶつけた。淡い光がゼニスの魂を消し去る。それと同時にゼニスの肉体も光と共に消滅していった。
ゼニス「 我が死ぬ…だと……ゔぐああああああ!!!」
魔王は死んだ。勇者によって完全に討ち滅されたのだ。暗雲は晴れ、さっきまでの死闘が嘘のように平和な森の中にデスタは立っていた…
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