第110話 絶望降臨

 アリシアの放った虚無ゼロはゼニスを完全に捉えた。次元の渦がゼニスの体を歪めながら引きずり込む。恐るべき引力に為す術がない。誰もがそう思った。



ゼニス「フハハハハハ!この時を待っていたぞ!」


アリシア「……この期に及んで一体なにをするつもりですか」


フェイン「根拠のない強がりはやめろ」


ゼニス「それはどうかな?ほぼ全ての力を使い果たした今の貴様らの最後の希望である虚無ゼロが失敗すればどうなると思う?」


アリシア「あまり考えたくありませんね」


ゼニス「冥土の土産に見せやろう、これがデスタリオスの絶対零度アブソルートゼロからも逃れる事が出来た最強の回避」



 ゼニスは胴体に空いている穴に自分自身を吸い込ませ完全に姿を消した。それと同時に対象を失った虚無ゼロも消滅した。

 困惑する二人を残してゼニスは消えたのだ。



フェイン「やった……のか?」


アリシア「……分かりません」



 アリシアが周囲を警戒していると、突然フェインが倒れた。どうやらゼニスとの戦いで体力に限界がきていたのだろう。

 アリシアは回復魔法をかけるためフェインの側に座り込んだ。意識が途切れそうな中、フェインはアリシアを見ていた。すると、アリシアの背後だけが歪んで見えているのに気が付いた。

 その瞬間、歪みからゼニスが現れ、一瞬にして。ゼニスの体は神々しい光と共に、再び姿を変え始めるのだった。

 


フェイン「ふ、ふざけんな……そんなのありかよ」


ゼニス「フハハハハハ!これだ!この時を待っていた」



 変化を終えたゼニスの外見は先程とは打って変わって、アリシアの様な神々しさがあった。胴体にあった穴も消え、人と変わらない大きさだった。

 しかし、ゼニスから発せられる威圧感は先程とは比べ物にならない程大きくなっている。



ゼニス「神は敗れた、後は神の加護を受けた勇者……貴様が死ねば我の敗北する可能性は完全に消える」


フェイン「ふぅ……いいぜ、やってる!かかってきやがれ!」


ゼニス「フン、勇者の意地か……まあいいだろう。これで最後にしてやろう」



 フェインが女神を吸収したゼニスと戦うという絶望的な状況になっているその頃、ピノ達女神軍は意外にもレオニオル達に勝利し決着がつこうとしていた。



ピノ「勝負あったなレオニオル」


レオニオル「クッ…そんな馬鹿な、俺がこんな小僧共に遅れをとるとは」


カナ「油断しすぎなんじゃない?」


レオニオル「かもな……だが、地上にいる奴らもはどうかな?」



 レオニオルが不敵な笑みを浮かべたその時、地上からはるか上空にあるこの天界にミュアルが床を突き破って勢いよくぶっ飛んできた。

 そして、ボロボロの姿でレオニオルの前に落下した。



ローズ「どうやら地上も無事のようだ」


ミュアル「ち、ちく…しょう……ブレイブめ」


レオニオル「くそッ……城に居るズンの気配がない、奴もやられたのか」


ラッシュ「そんじゃお前ら二人を倒せば後は魔王だけか」



 こうして、最後の幹部も倒され残るは魔王ゼニスのみとなった。

 場面は変わり、デスタは玉座の間の扉の前に辿り着いていた。既にフェイン達が戦い始めているのは気付いていたので、デスタは急いでいた。部屋に入ろうとデスタが扉に触れようとしたその時、扉をぶち破って何かがデスタの真横を通り過ぎた。

 振り向くと、そこには見るのも痛々しいくらいに痛めつけられたフェインの姿があった。



デスタ「フェイン!?大丈夫かッ!!」


フェイン「………ゔぅ」



 壊れた扉の向こうにはゼニスが立っているのが見えた。余裕を見せているつもりなのか、何もせず二人が部屋に入ってくるのをじっと待っている。

 それを見たフェインは剣を杖にして立ちあがろうとするが、バランスを崩しデスタに寄りかかる。それでも諦めず再び立ちあがろうとした。

 だが、フェインに立ち上がる力は微塵も残されていなかった。崩れ落ちる様にデスタの側に倒れるフェイン。



デスタ「フェイン、後は任せろ」


フェイン「デスタ……俺は勇者失格だ、魔王に…勝てなかった」


デスタ「いや、お前は紛れもなく勇者だ!最後まで諦めない強い意志はブレイブと同じ、いやそれ以上だ」


フェイン「へへ、お前からそんな台詞が聞けるとはな……元魔王とは思えねぇな…」


デスタ「余計な世話だ。お前はそこで休んでいろ」



 フェインを置いてデスタは玉座の間に入ろうとした。しかし、フェインが袖を引っ張りそれを止めた。



フェイン「だめだデスタ、今のお前がどれだけ強くても奴には勝てねえ」


デスタ「そんな事は分かっている、だがやるしかあるまい」


フェイン「違う……そうじゃねえ」


デスタ「なんだ、はっきり言え」


フェイン「



 フェインはデスタの手を取り静かに返答を待っている。とても冗談で言っている表情ではなかった。



フェイン「お前の厄災王の力を使えば俺を吸収できる、そうだろう?」


デスタ「ふざけるな、そんな事をして何の意味がある?」


フェイン「俺の勇者の力をお前に託す事ができるはずだ」


デスタ「だが、お前の魂は消え転生する事も出来ないんだぞ!」


フェイン「ああ、構わねえ!このままやられるよりマシだぜ」


デスタ「……いいだろう、そこまでの覚悟あるのなら止めはしない」


フェイン「ハハハ、何寂しそうな面してんだ。俺は消えねえよ、俺の意志を継いでくれるお前らがいる限り俺という存在は消えない」


デスタ「フフ、カッコつけすぎだ」



 デスタに全てを託す事にしたフェイン。デスタがフェインの胸に手をかざすと、温かくも力強い感覚に包まれた。

 フェインの力が自分に受け継がれているのが強く実感できた。それと同時にデスタの髪の色も黒色から赤の混ざった混色に変化したのだった。

 光と共に消えていくフェインの亡骸を見届けたデスタは、ゼニスの待つ玉座の間へと足を踏み入れるのだった。



ゼニス「随分と長く話し込んでいたな、あの小僧はようやくくたばったか」


デスタ「フェインの意志は私が受け継いだ……」


ゼニス「それがどうした?あの小僧と同じ力を受け継いだとしても結果が変わるとは思えんがねぇ」


デスタ「すぐに分かるさ」



 フェインの力を受け継いだデスタは、女神をも超えたゼニスに打ち勝つ事が出来るのだろうか……………………………………………

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