第108話 神と魔王
バルの活躍によってダリオを退けたデスタは急ぎ魔王のいる城へ向かった。その時、手に持っていたダリオの魂が薄く消えかかっている事に気が付いた。どこからかダリオの声が聞こえてくる。
ダリオの魂「肉体も滅んだ今、俺は間もなく消える」
デスタ「悪いが私にはどうする事も出来ない……」
ダリオの魂「ああ気にするな。それよりお前らに大事な事を言い忘れてたから、よく聞いとけよ?」
デスタ「別れの言葉でも言うつもりか」
ダリオの魂「魔王ゼニス……今回奴が天界を襲撃した理由は世界を支配するためだけではないって知ってるか?」
デスタ「何だと?それ以外になにがあると言うんだ」
ダリオの魂「女神アリシアの力、女神の時をも自在に操る力を魔王は欲している。奴は女神を吸収する気だ!」
その頃、魔王城玉座の間ではゼニスが一人瞑想をしていた。そして、静かに目を開くと部屋の入り口にアリシアが立っていた。
アリシア「あなたが魔王ゼニスですね?」
ゼニス「いかにも、我が魔界の頂点に君臨する王だ」
アリシア「何故こんな事を?平和は嫌いですか?」
ゼニス「貴様の様な不完全な存在が神だと?我は認めぬ、我々魔界の民が貴様らに代わって世界を統べる!それだけだ」
アリシア「はぁ……何を言っても無駄みたいですね」
ゼニス「愚かな……我に戦いを挑む事が何を意味するのか知るがいい」
ゼニスは無数の魔法陣を周囲に作成すると指を鳴らした。すると、魔法陣から数え切れない程の刃物がアリシアに向けて発射された。
だが、アリシアが腕を一振りすると全ての魔法陣と刃物は打ち消された。すかさず追撃の魔法陣が作られ、再びアリシアに降り注いだ。しかし、アリシアはテレポートの魔法で攻撃を回避するとゼニスの背後に移動した。
そして、ありったけの光の魔力をゼニスにぶつけた。
ゼニス「……どうした、それで終わりか?」
アリシア「話には聞いていたけど、まさか本当に効かないなんて……こんなの反則よ反則!」
ゼニス「我はいかなる魔法、物理的攻撃を受けつけない体質だ。貴様らに勝ち目はない、諦めろ」
アリシア「く、くっそおおおおお!!!」
やけくそになったのか、アリシアはひたすら光弾を連射した。しかし、只々ほこりが舞うだけでゼニスは無傷だった。
だが、アリシアは今の攻撃でゼニスの体質の謎に気がついた。
アリシア「魔王ゼニス……あなたは攻撃を受ける時、衝撃を打ち消していますね?それも自動で」
ゼニス「ほぉ?よく気が付いたな」
アリシア「恐らく無効系の魔法が常に発動している状態……」
ゼニス「その通りだ……がしかし!貴様にはどうする事もできまい」
アリシア「そうですね、普通ならどうする事もできない……普通ならね」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべると、アリシアは全身から光の波動を放出した。神々しい光を身に纏ったアリシアは、光速でゼニスの前まで移動すると鋭い飛び蹴りを浴びせた。
アリシアの蹴りが当たった瞬間、ゼニスは久々に痛みを覚えた。気がつくと壁に叩きつけられている。
ゼニス「な、何が起こった……我がダメージを受けた…?」
アリシア「無効には無効を……簡単な話ですよ」
ゼニス「くッ……無効だと」
アリシア「ええ、女神の加護を纏った者はあらゆる効果を無視する事ができるのです」
ゼニス「こんな事が……あり得ん!」
アリシア「こんなの反則、とでも言いたそうですね。でも、それはそちらも同じなので文句は言わせませんよ!」
ゼニス「ククク……中々やるではないか。だが、貴様らの敗北に変わりはない」
ゼニスは指を鳴らすと怪しく輝く水晶玉を出した。そして、それを高々と掲げ「女神の力を全て吸い取れ」と唱えた。
すると、強い光を放ちながら水晶が力を吸い取り始めた。アリシアは水晶に向けて光弾を発射するが、ゼニスによってしっかり守られている。
あっという間に力のほとんどを吸われたアリシアは、立っている事も出来なくなりその場に伏せてしまう。
アリシア「(まずい……もう戦う力は残ってない)」
ゼニス「女神よ、感謝するぞ。これで我が神になり世界を統べる事ができる。新しい歴史が始まるのだ!」
???「そうはさせねえッ!!」
突然、ゼニスとアリシアしか居ない空間に元気な声が聞こえてくる。そして、天井をぶち破って現れたのは大量の魔物達の死体と燃える闘志が溢れる勇者フェインだった………
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