第100話 魔王からの刺客

 デスタ、セレカ、クロウの三人は村外れにある森にいた。辺りは木漏れ日に照らされた雪が白く輝き、神々しい雰囲気に包まれている。

 しかし気温はかなり低く、足元に積もる雪が体力を余計に消費してくる。



デスタ「おい、どこまで行くんだ?」


セレカ「そうだな、ここらで始めるとしようか」


クロウ「二人の戦いは私が見届けるから、安心して暴れていいですよ!」



 二人は少し離れると、互いに相手の方を向き剣を構えた。デスタはセレカの前に立った瞬間、彼女が前よりも強くなっている事を察した。また、セレカも同じ事を思った。



セレカ「手加減はしない……本気で来い」


デスタ「無論そのつもりだ。もっとも、成長したこの私相手に何秒持つかな?」


クロウ「話はそれくらいにして始めてちゃってくださーい」



 クロウの合図と同時に激しく剣と剣がぶつかった。目にも留まらぬ速さの攻防が、一瞬で何十回も行われている。

 二人共話す余裕は無く、剣を弾く音だけが静かな森に響いている。クロウは少し離れた所で、デスタから預かったバルと一緒にこの戦いの行方を見守っていた。

 その頃、フェインはブレイブとラッシュの三人で村の近くの滝にやって来ていた。

 体の芯まで凍りつくような寒さの中、滝は激しく流れている。水しぶきが霧の様に白く舞っていた。



ブレイブ「フェイン、君にはここで二日間ある事をやってもらうよ」


フェイン「二日?一体何を…」


ブレイブ「勇者の力を使いこなす修行だよ。この滝を綺麗に割ってもらう」


フェイン「ブレイブさん、トコナツ諸島での俺の活躍見てなかったんですか?」


ブレイブ「勿論知ってるよ、大地を大きく抉り取っていたね」


フェイン「それじゃあ他のを」


ブレイブ「フェイン、君はこの修行の本質を分かっていないね。僕は壊せと言ったんじゃない、綺麗に割ってくれと言ったんだよ」


ラッシュ「試しにやってみろよフェイン」



 フェインは剣を引き抜くと勇者の力を刃に集中させた。そして、流れ落ちる滝に向かって斬り上げた。滝は大きく乱れしぶきが四方に飛び散る。滝を割った、と言うには程遠いものだった。

 時を同じくして、ピノとカナも試練のため村外れの洞窟にやって来ていた。



ミトラ「ここらで始めるとしようか」


ローズ「君達の試練は!」


ピノ「タッグバトル?二対二って事か」


カナ「やってやろうじゃないピノ!二対二でも一対百でも、こっちは負ける気ないから」


ミトラ「随分気合が入っているな、では始めるぞ」



 ピノとカナの試練も始まった。開始早々、ミトラとローズは高速で動き回り二人を翻弄する。

 ピノの放った矢は次々に後方の木々へと刺さり、当たる気配がない。カナは二人の攻撃を受けるのに手一杯で反撃に転じる事が出来ない状況だ。ミトラとローズのスピードは二人を完全に上回っていた。結果、初日は敗北という形になったのだった。

 翌日も二人は挑戦したが苦戦を強いられた。フェインも滝を割ることが出来ず焦っている。デスタとセリカは一日中戦っているが、まだ決着がつかなかった。

 そして、試練最終日の三日目。ピノとカナは二人の体力を消耗させるため、デタラメに動き回った。そこでスピードが落ちた所を叩き、二人は何とか勝つ事が出来た。

 一方で、。熾烈な戦いの末、ようやく決着がついたのだ。デスタは勝ったのを確認すると、気を失っているセリカの横で死んだ様に眠った。



クロウ「まさかここまで長引くとはね……だけど二人共魔王との戦いでは活躍が期待できそうだ」


??「あれー?聞き間違いかなぁ?今魔王様と戦うって聞こえたんだけど」



 クロウの独り言を聞いていたのか、森の奥から一人の男が歩いて来た。両腕に包帯を巻き、胴着を着ている。しかしその顔には不気味な仮面がつけられており、男から異様な邪気が放たれている。



クロウ「様……だと?魔物か」


仮面の男「違う違う、俺っちを魔物なんてヤワな奴らと一緒にしないでくれよ」


クロウ「お前が誰であれ、魔王の味方なら倒すまでさ」


仮面の男「おっと自己紹介を忘れてたぜ。俺っちの名はノーシュ、これでも昔は結構人気あったんだぜ?」


クロウ「ノーシュ……どこかで聞いたような」


ノーシュ「今は魔王軍七幹部の一人さ。ま、こんな事話してもアンタら全員ここで俺に殺されるんだがな」



 突然現れたノーシュと名乗る男は魔王軍の幹部だった。滲み出る気配からして本物の幹部だろう。

 クロウは倒れているデスタとセレカを木陰に運ぶと、ノーシュの前に立ち塞がった。



クロウ「魔王軍の幹部は魔王と共にここへ向かってる途中のはずだ、何故ここに?」


ノーシュ「暇だったから俺っちだけ先に来ちまったよ」


クロウ「そうか、他に仲間は来てるのかい?」


ノーシュ「ああ、確かあいつは滝のあるとこに向かってたな」


クロウ「もう一人来てるのか……だが、向こうにはブレイブ達がいる。それに、こっちも勝機はありそうだ」


ノーシュ「何?俺っちとやるの?やめといた方がいいよ」


クロウ「フフ、あまり六勇者を舐めないでもらいたいね」



 クロウとノーシュの戦いが始まった。時を同じくして、フェインの試練が行われている修行の滝にも幹部は既に現れていた。

 フードを被っていて素顔は隠れているが、少年の様な体型をしている。しかし、とてつもない魔力を秘めているのがひしひしと伝わってくる。

 フェインとラッシュは幹部の強い重量魔法を喰らい、地べたに這いつくばっていた。体が地面に少しずつめり込んでいく。



ブレイブ「フェイン!ラッシュ!大丈夫か」


ラッシュ「くッ……何とか耐えれているが、長くは持ちそうにないぞ」


フェイン「この重力魔法……アクマの魔法にそっくりだ」


??「クックックッ……久しぶりだねぇアルマ」


ブレイブ「どうして前世の名を……?」


??「酷いなぁ、忘れちゃった?僕の見た目は100年前と変わってないんだけど」


ブレイブ「その声……まさか!?」



 少年はフードを脱いだ。サラサラな茶髪に赤い眼をしている。普通の少年に見えるが、ゼニス直属の魔王軍である。



ブレイブ「ルナシオン……先生なのか?」


??「ようやく思い出したようだね。そう、かつて君の師だった者さ」


フェイン「この人がブレイブさんの師匠……」


ラッシュ「どうして魔王側にいるんだよ」


ルナシオン「魔王様が土の中で眠っていた僕を復活してくれたんだ。だから魔王軍にいるのは当然だろ?」


ブレイブ「そんな……昔のあなたならそんな事で」


ルナシオン「言いたい事は分かるよ。だけどしょうがないんだ。復活の代償として僕の魂は魔に染まってしまった」



 ルナシオンは懐からステッキを取り出し、重力で潰れそうになっているフェインとラッシュに向かって呪文を唱えた。

 重力は更に強くなり、二人の肉体はみしみしと音を立てて悲鳴を上げている。



フェイン「ぐはッ……やっぱりアクマの使っていた魔法だ……どうしてこの人が使えるんだ」


ルナシオン「僕の魔法は魔法泥棒マジックスチールと言ってね、他人の魔法を奪って使う事が出来るのさ」


ブレイブ「しかも、盗む数に限りはないらしい」


ルナシオン「そゆこと、魔法のレパートリーには自身があるんだ。ざっと500種類は扱えるはずだよ」



 得意げに腕を組んでいるルナシオンは、まだまだ実力を出し切っていない事が伺える。



ラッシュ「そんな……ブレイブさん、ここは俺達を置いて助けを呼んで来た方が良いんじゃ」


ブレイブ「ダメだ……魔法を極めた先生から逃げ切るなんて不可能に近い」


ルナシオン「おや?随分弱気だねぇ。それでも本当に勇者なのかい?」


ブレイブ「残念ながら僕にはもう勇者の力は無いよ」


ルナシオン「そういえば君は以前とは、大分見た目が変わっているみたいだねぇ」


ブレイブ「先生、僕達をどうするつもりなんですか?」


ルナシオン「そんなの決まってる。魔王様に逆らう者達には死んでもらうだけさ」



 ルナシオンの返答を聞いたブレイブは、長い深呼吸をすると剣を構えた。その目には一切の迷いが無く、ただ真っ直ぐルナシオンを捉えている。



ルナシオン「そう、その目だよアルマ……ああ、懐かしいなぁ」


ブレイブ「先生……僕は大切な人達を守るためにあなたを斬る!」



 100年振りに再会したブレイブの師匠ルナシオンは、魔王の禁術によって敵として蘇っていた。果たして、ブレイブとルナシオンの師弟対決を制するのは……………………………

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