第95話 悲報!聖剣折れる
ドラゴンゾンビを一撃
この剣があれば無敵の魔王ゼニスにも勝てると確信したフェインは、剣をズンに見せつけるように突き出した。
フェイン「流石伝説の聖剣だぜ……すげえ斬れ味」
ズン「フン、愚かな者め……強さとは武器で決まるわけではない!使い手が未熟ならばどんな強い剣もなまくらと同じだ」
フェイン「なんだと…?俺が未熟者だって言いたいのか?」
ズン「事実を言ったまでだ。断言しよう、聖剣の力に頼っている今のお前では俺に傷一つ付ける事も出来ん」
フェイン「よっぽど堅さに自信があるみてえだな……なら覚悟しろよ?本気で行くぜ!」
フェインは聖剣に意識を集中させた。すると、フェインの体から神々しい光のエネルギーが発され聖剣に集まっていく。
光が充填された聖剣は強い輝きを放ち、フェインは一気にズンとの間合いを詰めると剣を全力で振り下ろした。
その威力は凄まじく、ズンの周囲五十メートルの大地が一瞬にして大きく抉れた。さらに、その衝撃で近くにいた魔物達を消滅させたのだった。
しかし、調子に乗って魔力のほとんどを消費したフェインは片膝をついて苦笑いする。
フェイン「へへ、ちょっとやり過ぎたな」
ブレイブ「おーい!大丈夫かー!」
フェインが休んでいるとブレイブが走って駆けつけてきた。さっきの衝撃を見て急いで来たようだ。
ブレイブ「あれ、敵はどこに?」
フェイン「ふっふっふっ!魔王軍幹部とドラゴンゾンビ、両方とも俺がもう倒しましたよ」
ブレイブ「って事は聖剣ファルティングを使いこなせたのかい?」
フェイン「そうっすよ!ブレイブさん一つ聞きたいんですけど、俺のこの力は一体何なんですかね?」
ブレイブ「ああ、そう言えば君の力……いや、勇者の力についてちゃんと説明していなかったね」
フェインの持つ力の正体についてブレイブは話し始めた。
それはここより遥か北西にある神の塔の麓に住んでいる光の部族が起源だった。だが、全ての光の部族が力を使える訳ではなく、ごく少数だけが勇者の資質を持っているのだ。ちなみに勇者アルマも光の部族出身だったらしい。
フェイン「なるほど、俺のルーツはその光の部族とやらにあるのか」
ブレイブ「ああ、懐かしいなぁ……」
二人が光の部族について話し合っていると、フェインが抉り取った地面の瓦礫の下からズンが勢いよく飛び出してきた。
重い甲冑を着ているにも関わらず空中で五回転すると、二人の前に綺麗に着地する。そして、人差し指を左右に振って挑発してきたズンの姿は傷一つ付いていなかった。
ズン「伝説の剣とやらはこの程度の攻撃しか出来ないのか?」
フェイン「何ッ!?お前…あの攻撃をどうやって避けたんだ」
ズン「避けた?フン、あんなもの避ける必要はない」
フェイン「ならどうして無傷なんだよ!」
ズン「答えはこうだ、お前の攻撃が俺の甲冑の防御を遥かに下回っている……だ」
フェイン「そ、そんな馬鹿な……」
ズン「防御力には少々自信があってね」
ブレイブ「それなら魔法はどうだい?」
ブレイブは右手に氷の魔力を集め、左手に炎の魔力を集めた。二つの魔力はブレイブの手の中で静かに渦巻いている。
そして、両手を合わせ二つの魔力を融合させると一気にズンへ向けて放出した。
ブレイブ「
魔力はズンに向かって飛びながらも高速で回転を続け、その威力を増していた。それを見たズンはすこし驚いた様子だったが、すぐに平静を取り戻した。
ズン「ほぉ…中々の威力だな。だが、その程度の魔力では甲冑に傷を付ける事が出来ても俺にダメージはない!」
ズンは両手で魔力を受け止める体勢に入った。ズンの重い体が大きく後退し、地面が削れていく。ブレイブ渾身の魔力はズンを移動させ甲冑に多少の傷を付ける事に成功した。
さらに、ブレイブの追撃は止まらない。今度はズンの甲冑の隙間を狙って剣を突いた。
しかし、ズンは剣を指で摘むとブレイブの腹を強く殴った。手痛い反撃を喰らったブレイブは膝をつくが、ズンの反撃は終わらない。
鋭いパンチの応酬がブレイブを襲う。たかがパンチとは言え、魔界一硬い甲冑の小手から繰り出されるパンチは人体を破壊する事ぐらい容易である。
ズンはブレイブの胸ぐらを掴むと片手で持ち上げた。
ズン「ミュアルを倒したのはお前だな?元勇者」
ブレイブ「ぐはッ……ああ、そうだよ」
ズン「同じ幹部でもミュアルと私ではかなり実力差がある。だからお前は俺に負けた」
フェイン「く、くっそおおおおお!ブレイブさんを離しやがれ!!!」
フェインは聖剣を強く握りなおすと、大きくジャンプした。ズンの目線が空へ向く。その瞬間、太陽の光が反射して聖剣が強い輝きを放った。そのお陰で目が眩んだズンはブレイブを突き飛ばし手で顔を覆った。
ブレイブ「今だフェイン!奴の甲冑の隙間を狙うんだ!」
フェイン「よっしゃあッ!聖剣の一撃を喰らいやがれえええええ!!!」
フェインはズンの甲冑のうなじ部分に僅かな隙間があるのを見つけた。そこに狙いを付け剣を突き出す。フェインの落下する勢いで突きの威力は最大になった。
その直後、高い金属音が辺りにこだました。フェイン達は目の前の光景を理解するのに数秒思考が止まってしまった。
フェイン「け、剣が………折れた」
聖剣ファルティングは折れた。とても呆気なく折れてしまった。刃こぼれとかそう言うレベルではなく、完全に修復不可能な根本からポッキリと。
ブレイブはあまりに衝撃の出来事だったのと、ボロボロでもう体力が残ってなかったのもあり気を失ってしまった。
ズン「中々の名剣のようだが、俺の防御の前では無力」
フェイン「そ、そんな……折角苦労して手に入れたのに、こんなのってありかよ」
ズン「切り札の聖剣も柄だけではゴミ同然だな」
フェイン「クソッ……何をしたんだ」
ズン「俺の防御力が剣の耐久を大きく上回った。だから折れた」
フェイン「だ、だけど…俺は確かに甲冑の隙間を狙ってうなじに剣を当てたはずだぞ」
ズン「簡単な事だ、俺自信も鋼より丈夫な肉体を持っている。つまり!切り札である剣を失った貴様に勝ち目は無い……」
フェイン「(これは、ちょっとやべえな……一旦引いて体制を立て直そ)」
ズンは聖剣の破片を手に取り、フェインに見えるように握りつぶした。どうやら防御だけでなく力もかなり自信があるようだ。
しかし、油断しているズンはフェインが間合いを詰めようとしているのに気が付かなかった。
そして、二人の距離は手を伸ばせば互いに触れるほど至近距離に迫った。一瞬速く行動したのはフェインだった。素早くズンの甲冑の胴部分に手を当てると、ありったけの光の魔力を放った。
無論ズンにダメージはほとんどなかったが、勢いよく後方へぶっ飛んだ。
ズン「馬鹿かお前は……その程度の攻撃で俺を倒す事は出来ないのは知っているであろう。魔力を無駄に消耗するだけだ」
フェイン「馬鹿はお前だぜカチカチ野郎!今のは攻撃するためにしたんじゃねえんだよ!」
フェインは気絶しているブレイブを背負うと、ズンがいる方向とは真逆の方向に走り出した。今の自分では勝てないと悟ったフェインは戦闘から逃走したのだ。アクセルでブーストを掛けた全力疾走だ。
甲冑を着ているにしてはかなり軽やかな動きをするズンだが、流石に逃げ切れる。そう思っての行動だった。
フェイン「お、覚えてやがれ!次会った時は負けねえからな!」
ズン「フッ……勇者ともあろうものが情けないものだ。だが、良い判断だ……死ねば全てが終わるからな。ただ一つ間違っている事があるとすれば……」
フェイン「何だ……?」
ズン「貴様に次は無いと言う事だ」
ズンは小さな声で呪文の様なものを唱えた。すると、ズンの身に纏っていた甲冑が剥がれ、中から禍々しいオーラを纏った人型の魔物が現れた。
そして、ズンは両膝を曲げ一気に地面を蹴ってフェインの走っている方向へ飛んだ。ズンの蹴った地面は大きく抉れ、一瞬でフェインの背後に現れた。
フェイン「嘘だろ……」
ズン「この姿の俺のスピードは先程の比ではないぞ」
ズンは二人にとどめを刺そうと、拳に魔力を集めた。フェインは背負っているブレイブを投げ、攻撃を避けようとしたが足がもつれてしまい転んでしまった。それでも這って逃げようとするフェインを、無慈悲に踏みつけて押さえるズン。
ズン「チェックメイトだ……人間」
ズンが倒れているフェインに向けて拳を振り下ろした瞬間、再びズンは大きく吹き飛ばされた。
しかし、空中で体勢を立て直すと華麗に着地した。
ズン「……デスタリオス殿、邪魔をしないで頂きたい」
デスタ「それはできない」
ズン「理解に苦しむな、何故人間の味方をする?昔は尊敬していたんですよ、デスタリオス殿」
デスタ「わしは人間の味方でも魔物の味方でもない、死なせたくない仲間達のために戦っているんだ」
ズン「なるほど、だからアクマはあんな事を……」
デスタ「どう言う事だ?」
ズン「なに、つまらない話だ。数日前、魔王軍にいた裏切り者が部下を引き連れ
デスタ「それがわしの部下、アクマだと?」
ズン「そうだ、幹部という最高の地位にありながら魔王様に歯向かうとは……」
デスタ「それでどうなった?アクマはどうなったんだ!」
アクマの安否を気にするデスタの姿を嘲笑うズン。ようやく手に入れた聖剣は折れ、切り札を失ったフェイン達にズンを倒す術はあるのだろうか………………………………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます