第96話 禁術・魔強転生

 デスタ達が魔王軍幹部ズンに大苦戦している頃、少し離れた森の中でもう一人苦戦をしている者がいた。

 カナは乱れた息を整えるため、胸に手を当て大きく深呼吸をした。相手は過去に二度敗北した元帝国四将軍レオニオル。

 しかし、。禍々しい魔力を身に纏い、戦闘力も桁違いにパワーアップしている。



レオニオル「クックックッ……こいつは良い、魔の力は最高だなあ!!」


カナ「その魔力……まるで魔物ね。あんた人間じゃなかったの?」


レオニオル「俺は先の戦争で鋼魔ズンによって殺された。だが、偉大なる魔王様が俺を再びこの世に呼び戻した!魔物としてより強くッ!!!」


カナ「一度死んで生き返った……ブレイブさんの転生みたいな事かな」


レオニオル「おいおい、転生なんて天界の下らない連中のもの一緒にするな!これは魔王様のみ扱えるとされる禁術、魔強転生まきょうてんせいだ」


カナ「(死者を自身の配下にする禁術……これはかなり危険そうね。急いでブレイブさんに知らせないと)」



 カナはレオニオルを倒せないと判断し、レオニオルから聞いた禁術・魔強転生を仲間達に伝えるため、この場をどう切り抜けるか考えていた。



レオニオル「そうだ、冥土の土産に良い事を教えてやろう」


カナ「何…?また禁術でも紹介する気?」


レオニオル「魔王軍には三人の幹部がいるんだが……」


カナ「えっと、今フェインが戦ってるズンって奴と、ピノが前に言ってた吸血鬼の城で会ったアクマって幹部と、ブレイブさんが倒したミュアル……の三人だっけ?」


レオニオル「よく知ってるな……ってそうじゃない!ガルベルグ戦争が終わり、ここ一ヶ月我々魔王軍は大人しかっただろ?」


カナ「それは、魔王がデスタと戦った時に魔力を使いすぎたから回復してたんでしょ?」


レオニオル「それもあるが……我々は戦力を大幅に増強していたんだよ!その甲斐あって



 魔王軍に新たに四人の幹部が存在していると言う衝撃の真実が飛び出た。しかし、カナは一歩踏み出し強気に反論した。



カナ「七人……確かにヤバそうね。でも、幹部の称号を持ってるだけで強いとは限らないんじゃない?」


レオニオル「ほぉ、何故そう思う?」


カナ「だって幹部クラスの強い魔物が魔王軍にいたらとっくに幹部になってるでしょ!一ヶ月で鍛えて幹部クラスになるってのも難しい……よね?」


レオニオル「なるほど、確かに真っ当な意見だ」


カナ「それじゃあ、ただのハッタリって事かしら?」


レオニオル「一ヶ月……我々は世界各地を廻り集めたのだ、死体を!」


カナ「死体……?まさか!?」


レオニオル「そうだ…そのまさかだ。魔王様の魔強転生によって復活した人間の英雄達が新幹部がの正体だ」


カナ「人間の英雄……それって誰よ!」


レオニオル「さあな、自分で調べろ。ちなみ一つ言っておくとすれば俺も幹部だ」


カナ「ふーん、それなら幹部は六人ね」


レオニオル「何だと?」


カナ「あんたは私が倒すから六人だって言ってんのよ!」



 カナは槍を構えレオニオルを挑発した。そさて、バック宙で近くの木の上に乗った。



レオニオル「お前が俺を倒す?ハッ、笑わせるな。この俺に二度も負けたのはどこのどいつだ?」


カナ「本当は逃げるつもりだったんだけど、あんた見てたら闘志が燃えてきてね……グレッツェ王国で街を滅茶苦茶にされた恨みもあるからさぁ」


レオニオル「やめておけ、俺には勝てんぞ」


カナ「さあて、どうかな?」



 カナは木の幹に槍を突き刺すと、両手を合わせて魔力を集中させた。しかし、あからさまに何か仕掛けてくると分かっていて、レオニオルが黙って見ている訳がなかった。

 レオニオルは背負っている黄金の大剣を引き抜くと、素早く薙ぎ払った。すると、突然空間を切り裂いて鋭い斬撃がカナに向かって飛んで来た。

 カナは咄嗟に頭を下げ斬撃を避けた。その直後、背後の大木が根本からバッサリと切断され倒れていた。



カナ「い、今の斬撃は一体……」


レオニオル「真空斬……俺の剣の間合いは広いぞ。せいぜい気を付ける事だな」



 レオニオルの忠告を無視して、カナは再び魔力を溜め始めた。



レオニオル「何をやるつもりか知らんが魔法は辞めておけ。この黄金の鎧は魔法を弾く」


カナ「そう急かさないでも今見せてあげる!これが私の新しい力よ!」



 カナが新技を披露しようとしたその時、上空に赤い光の魔力が打ち上がった。それを見たレオニオルは大剣を背負うと「命拾いしたな」とだけ言って退散して行った。


数分前.デスタ達とズン……


 デスタはズンと戦っていた。ブレイブは気絶しており、フェインには戦う力が残っていなかったのでデスタの戦いを見守っていた。



デスタ「はぁ…はぁ…それでさっきの話の続きだが、アクマはどうなった?」


ズン「随分と部下思いだな。良いだろう教えてやる」


デスタ「御託はいい、答えろ」


ズン「奴は魔王様が直々に始末した。我々では奴を倒すのにかなり手こずると考えての事だろうな」


デスタ「死んだ……だと?」


ズン「安心しろ、貴様らもすぐに奴の後を追うことになる」



 デスタの中で静かに怒りの炎が燃えていた。どす黒く禍々しい魔力が体から溢れ出てくる。かつて魔王だった頃を彷彿させる魔力だ。



フェイン「な、何だこの魔力は!?これがデスタ本来の力なのか」


ズン「……流石、元魔王と言ったところか」


デスタ「貴様らに明日は無い……今、殺す……ここで」



 デスタの異様な魔力の高まりを確認したズンは赤い色をした魔力を上空へ打ち上げた。すると、島中へ散っていた魔物達が次々に退散して行く。



フェイン「何の真似だてめえ!」


ズン「目的は達した、我々は退散する」


デスタ「……逃がすと思うか?」


ズン「デスタリオス、元魔王でありどう言う訳か厄災王の力も持っている。魔王軍の中では要注意人物No. 1の存在だ」


フェイン「マジかよ……」


ズン「チャンスがあればここで全員殺すつもりだったが……そう簡単な話ではなくなったらしい」



 ズンは地面を強く蹴りジャンプすると、上空を飛んでいる翼竜の足に掴まった。下を見ると、デスタやフェイン達が小さく見える。



ズン「さらばだ元魔王と勇者見習い!」



 地上からズン達がどんどん遠くへ飛んで行くのをフェインは眺めていた。デスタは黙って立ち尽くしている。



フェイン「お、おいデスタ…?大丈夫か?」



 声が聞こえていないのか、全く反応しないデスタを心配してフェインは何とか立ち上がると側へ駆け寄った。その瞬間、デスタのどす黒い魔力がより一層激しく溢れ出した。

 そして、デスタの両手に禍々しい魔力が集まっていく。



デスタ「ダークカタストロフッ!!!」



 デスタは集めた魔力を飛んでいるズン達に向かってぶっ放した。周辺の地面が削れるほどの衝撃がデスタ中心に発生した。

 そして、デスタの放った馬鹿でかい魔力の塊は飛行しているズン達の中心で弾けると、凄まじい魔力の弾幕が飛び散った。

 次々に味方が撃ち落とされていく中、ズンとレオニオルは冷静だった。



ズン「俺の防御力を舐めるなよデスタリオス」


レオニオル「この鎧の前ではどんな魔法も無力だ」



 二人の所にも無差別に魔力の弾丸が飛んで来た。ズンは肉体の防御力を信じて翼竜の足を掴んでいない左手を構えた。レオニオルは鎧の性能を信じて何もしていない。しかし、二人はすぐに思い知る事になった、デスタの魔力が普通の魔力とは根本的に違う事を。

 のだった。

 突然凄まじい力を発揮するデスタだったが、どこか禍々しさを持っていた。そんなデスタを見たフェインは、デスタが元魔王だと言う事を確信したのだった……………………

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