第94話 鋼魔の襲撃

 朝の涼しい風が吹く砂浜に現れたのは女海賊ユノシア達だった。そして、彼女の手には剣を手に入れるために必要な最後の宝玉が握られていた。



ユノシア「やあ、ブレイブ。また会えて嬉しいなぁ」


ブレイブ「ユノシア……どうやってその宝玉を手に入れたんだ?」


ユノシア「フフ、トコナツ諸島には四つしか島がないのよ?最初の島を除いた三つの島に試練があるのは誰でも予想がつくわ」


ブレイブ「だが試練のある正確な場所までは分からないはず……」


ユノシア「フフ、こっちには結構な数の仲間がいるのを忘れたのかい?」



 ぱっと数えてもユノシアの仲間は八十人はいる。これだけの人数がいれば小さな島の探索くらいはあっという間かもしれない。

 デスタ達がユノシアの動きに警戒していると、突然ユノシアがある提案をしてきた。



ユノシア「君達この宝玉が欲しいんだろ?条件付きでいいならあげるよ」


カナ「条件……どんな条件よ?」


ユノシア「ブレイブ、あんたがあたしの仲間になればこんな玉すぐにでもあげるよ」



 ブレイブは少し考えた。そしてユノシアの条件を断った。ユノシアは少し驚いた顔をしたが、すぐに無表情になった。しかし、明らかにイラついている。



ユノシア「へぇ……どうして断るの?」


ブレイブ「そうじゃない、タイミングが悪いだけさ。僕達が魔王を倒してからじゃダメ……かな?」


ユノシア「フフ……魔王を倒してから?100年前あたしを置いて勝手に魔界に行って死んだくせによくそんな事が言えるねえ!?」


ブレイブ「だが、暴走した君を連れては行けなかった。あの時の君は様子がおかしかっただろ?」


ユノシア「……ええ、確かにあなたが好きすぎておかしかったかもね」


ブレイブ「それに、僕とユノシアは既に仲間だろ?頼む、剣を手に入れるのを手伝ってくれ」


ユノシア「……分かった、この宝玉はあんた達にあげるわ。だけど一つ条件がある」


ピノ「また条件か」


ユノシア「あたし達ユノシア海賊団も魔王を倒すのを手伝わせてよ」


フェイン「ええっ!?マジ?このクソ強オバさんが仲間に加わるんなら百人力だろ!」



 こうしてユノシア海賊団が魔王討伐に協力してくれる事になった。そして、ユノシアにオバさんと言ったフェインの頭にはでかいゲンコツが出来たのだった。

 大所帯となった一行は早速全ての宝玉を集めた事をラオに報告するため、最初に上陸した島へやって来た。再びジャングルを歩く事になったが、一度通った道なのでさほど時間は掛からないはずだ。



ブレイブ「そう言えばユノシアは100年前と見た目が変わらないけどどう言う事?」


ユノシア「ああこれ?50年ぐらい前に若返りの薬を偶然手に入れたんだ」


カナ「若返りの薬……そんなとんでもアイテム存在するんだ」



 雑談しながらジャングルを歩いているとあっという間にラオの居た石板まで辿り着いた。そして、石板の前に宝玉を並べる。すると、全ての宝玉が強く輝き始め、大きな地鳴りと共に強い地震が起こった。

 何かに掴まっていないと立っていられないほど強い揺れだ。震源がとても近いと察したデスタは、周囲を見渡すと一番高い木に登った。

 デスタが木の頂上に着いたとほぼ同時に地震が止まった。そして、デスタが頂上から目撃したのは殿

 その頃、トコナツ諸島北西の上空では魔王軍幹部の一人、鋼魔こうまズンが大勢の魔物達を引き連れ神殿に向かっていた。

 ズンは腐り落ちた皮膚から骨が見えているドラゴンゾンビの大きな背中の上で、聖剣ファルティングの気配を感じていた。そして、もう一人を着た者がズンの横に立っていた。



レオニオル「この気配……聖剣ファルティングの復活は近いぞ」


ズン「だからどうしたと言うのだ……魔王様の脅威となるものはこの世から全て消す。例え聖剣が復活しようとも俺達の使命は変わらん」



 ズン達はものの数分で神殿の上空に到着した。下っ端の魔物達は剣を手に入れるため、次々に神殿へ降りて行く。しかし、神殿の入り口には既にユノシア達が待機しており、下っ端の魔物達を撃退していた。

 その頃、先に神殿内に入ったデスタ達は、日の光が僅かに差し込む薄暗い部屋の中にいた。かなり広く、大昔に作られたであろう謎の装飾が沢山飾られている。

 そして、部屋の中心にはお目当ての剣が床に突き刺さっていた。



ブレイブ「あった……あれだ間違いない」


デスタ「(あれが100年前わしと戦う時に忘れた剣か)」


フェイン「ブレイブさん!早く剣を手に入れましょうよ!」



 テンションの上がったフェインやピノに急かされ、ブレイブは剣に手を掛けた。そして、引き抜こうと力を込める。しかし、剣はブレイブがどれだけ力を込めても抜ける事は無かった。

 困惑する一行だったが、突然半透明のラオが姿を表した。そして、ラオは「剣を手にするのは勇者の力を持つ者のみだ」と言い消えていった。



ブレイブ「やはりそうだったか……」


カナ「どう言う事?」


ブレイブ「フェイン、君が剣を抜いてみなさい」


フェイン「え、元勇者のブレイブさんが抜けないのに無理ですよ」


ブレイブ「まあ、やってみなければ分からないよ。僕の読みが正しければきっと……」



 ブレイブのすすめで今度はフェインが聖剣ファルティングの前に立った。そして、両手でしっかりと掴むと一気に力を込めた。

 すると、フェインは全く苦戦する事なく剣を引き抜く事が出来た。



ブレイブ「やはり勇者の力は君に受け継がれていたか」


デスタ「だろうな、何となくそんな気はしていたぞ」


フェイン「ちょ、ちょっと待った!ちゃんと説明してくれよ」


デスタ「フェイン、お前気付いてなかったのか?たまに謎の力で覚醒する事があっただろ」


フェイン「謎の力……ああ、あの白い光が溢れ出るやつか。あれやっぱ特殊な力だったんだ」



 フェインが自分の特別な力を自覚したのも束の間、突然部屋の壁が吹き飛び凄まじい勢いで外の空気が流れ込んでくる。どうやら既に戦いは始まっているようだ。

 壁の穴から急ぎ外に出ると、沢山の魔物達とユノシア海賊団が既に交戦していた。しかし、魔物達も相当の手練れが多くかなり苦戦を強いられている。先程まで快晴だった空もすっかり曇り、不穏な空気が神殿周辺を取り囲んでいるのが分かった。

 そして、デスタ達は急いでユノシア達に加勢しようと走りだした。その瞬間、上空を飛び回るドラゴンゾンビから二人の魔物が飛び降りて来た。大きな衝撃音と砂埃が舞い上がる。やがて、砂埃の中からドス黒い甲冑を着たズンと黄金の鎧を装着したレオニオルがデスタ達の前に現れた。



デスタ「この気配……只者じゃないな、何者だ」


ズン「お初にお目にかかる、前魔王デスタリオス殿。俺は鋼魔のズン、魔王軍三人の幹部の一人だ」


フェイン「へっ!その幹部がこんな南の島に何の用だ。まさかバカンスしに来たって訳でもないだろ?」


ズン「我々がこの地に来た目的は貴様の持つその剣だ。さあ、聖剣をこちらへ渡して貰おうか」


フェイン「断る!この剣はお前には似合わないと思うぞ?」


ズン「ならばお前達を殺して持っていく事にしよう」



 ズンが空に信号弾を撃ち上げると、それを合図に上空のドラゴンゾンビがデスタ達目掛けて突っ込んできた。腐っているとはいえドラゴンの突進は強く、フェインとカナ以外の仲間達は全員衝撃で散り散りに吹き飛ばされてしまった。

 さらに、吹き飛ばされたデスタ達が着地した先にもズンが連れてきた精鋭の魔物達が大勢おり、戦闘は避けられないだろう。



フェイン「カナ、行けるか?」


カナ「いつでもOK!準備万端だよ!」


フェイン「敵は魔王軍幹部に元帝国軍の将軍、おまけにドラゴンゾンビと来たか……」


カナ「フェイン、私はレオニオルと戦う。あと二つは任せたよ!」


フェイン「え、俺一人であいつら相手すんの?」


カナ「聖剣ファルティングを持つ勇者様なんでしょ?それぐらいなんとかしてよ」



 レオニオル二度敗北しているカナは、リベンジに燃えていた。レオニオルもカナを覚えていたのか、互いに睨み合う。そして、カナはフェインの返事を聞く事なく、少し離れた所でレオニオルと戦闘を始めてしまった。

 残されたフェインとズン。そして、ドラゴンゾンビが体勢を立て直し再びフェインに頭を向ける。



フェイン「面白え、やってやるよ!どっちも俺が倒してやる」


ズン「これで邪魔者は消えた。ドラゴンゾンビよ、奴を潰せ」



 ドラゴンゾンビはけたたましい咆哮をあげると、口から猛毒のブレスを勢いよく吐いた。しかし、フェインはアクセルで高速移動し一瞬でドラゴンゾンビの上まで移動すると、全力で聖剣を振るった。鋭い斬撃がドラゴンゾンビの肉体を綺麗に真っ二つに斬り裂く。辺りに腐った臭いとドロドロの血液が広がる。

 


ズン「ふむ、一撃か……良い斬れ味だな」


フェイン「次はお前が真っ二つになる番だぜ?」


ズン「さて、それはどうかな?」



 凶悪なドラゴンゾンビを一撃で倒す聖剣ファルティングの力を目の当たりにしたズンだったが、全く動揺していなかった。

 ついに聖剣ファルティングを手に入れたフェインと謎の余裕を見せつけるズン。二人の戦いが今始まろうとしている……………………

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