第89話 カナの成長

 ユノシアの部下である海賊達は、デスタ達を取り囲むと一斉に剣や銃を構えた。悪人ズラをした海賊達は、ユノシアの本性を知っても関係ないようだ。



フェイン「よっしゃ、全員まとめて掛かって来い!俺が相手してやるぜ」


ユノシア「威勢がいいねえ、昔のアルマにそっくりだよ」


ブレイブ「ユノシア、君の目的も我々と同じだ……違うかい?」


ユノシア「そうだよ、流石アルマ……いや、ブレイブと呼んだ方がいいのかな?」


デスタ「何故剣を狙う、貴様らには必要のない物だろう?」


ユノシア「あたしは海賊よ、金だよ金!宝を欲っするのは当然の反応だと思うけど」



 ユノシアは数十人の部下を置いて行くと、三人の部下と共にジャングルの大自然の中へと消えて行った。

 そして、残った海賊達は次々に五人襲い掛かってきた。ただの雑魚と思っていたが、思っいたよりもずっと強く、デスタ達はそこそこ手こずった。ユノシアの部下をやっているだけあって皆体力がある。全員倒し終わった頃には三十分は経っていた。



ピノ「はぁ…はぁ…今ので最後かな?」


カナ「ふぅ…そうだと嬉しいわ」


デスタ「情けない奴らだ、この程度でバテるとはな」


フェイン「くっそおおおお!ユノシアの奴、俺とのリベンジマッチから逃げたなあ」


デスタ「騒ぐな、うるさいぞ」



 デスタ達四人は戦いが終わり、休憩を始めた。ピノは草の上に倒れ込み脱力状態だ。カナは近くの川で水を飲んでいる。デスタとフェインも切り株に座って休んでいた。だが、先に剣を探し始めたユノシアに遅れを取る訳には行かない一行は、ブレイブに急かされ次の島へ向かうため、船のある砂浜へ向かったのだった。

 一度通った道を戻るだけなので、行きよりずっと速く砂浜に着いた一行は乗ってきた船を探した。しかし、どこを探しても見渡す限り海。船が消えている。恐らくユノシア達の仕業だろう。



ピノ「くっそー、これじゃあ次の島行けないじゃん」


カナ「ふっふっふっ……そう焦らない」


フェイン「なんだ?考えでもあるのか?」


カナ「泳いで行くのよ!」


フェイン「確かにそうかも知れないけどさぁ……服を濡らしたら気持ち悪いだろ」


デスタ「安心しろ、お前達の水着も買ってある」



 そう言うとデスタとカナは服を脱ぎ始めた。二人の服の下には街で買った水着が既にあった。そして、荷物の中から三人分の水着を取り出すと、フェイン達に手渡した。しかし、ブレイブは受け取らなかった。



ブレイブ「泳いで行くのは時間がかかり過ぎるね。悪いけど先に行ってるよ」



 四人はブレイブが何をするのか想像がつかなかった。すると、ブレイブは靴を脱ぎ軽く足踏みを始めた。足踏みは徐々に加速していき、目にも留まらぬ速さで走り出した。

 そして、あっという間に走り去って行った。一瞬の出来事だったが、とんでもないものを見た気がする。



カナ「う、海の上を走った……!?」


ピノ「すっげえええええええ!!」


フェイン「流石ブレイブさん、勇者になるには海の上も走れるようにならなければいけないのか……」


デスタ「本当に人間なのか……?(わしが言えた事ではないが)」



 フェインとピノも着替え終わり、四人は荷物や着替えを頭の上に乗っけると海に入った。幸い次の島はそう遠くなく、既に見えている。


五分後……


 泳ぎ始めて五分、四人は丁度島と島の間に差し掛かっていた。先頭を泳いでいるのはデスタ。頭に乗っけている服の上でバルは呑気に昼寝をしている。その後ろをフェインとピノがじゃれあいながら付いてきている。

 だが、カナは疲れてきたのか段々と泳ぐスピードが落ちてきていた。



カナ「はぁ…はぁ…疲れたー、もうちょっとペースダウンしてよー」


ピノ「えー、花騎士なんでしょ?体力なさすぎだろ」


カナ「う、うるさいなぁ……あんた達の体力が無尽蔵なだけよ」


フェイン「ハハ、そうかっかすんなよ!」



 フェインはカナをなだめながら先頭を泳いでいるデスタにペースを落とすよう声を掛けた。すると、ペースを落とすどころか止まってしまった。不思議に思った三人はデスタの側へ駆け寄る。



フェイン「どうした、足でもったのか?」


デスタ「フェイン、静かにしろ………海の中に何かいる。私達を狙ってるぞ」


カナ「え、それ本当……?」


ピノ「どれどれ、ちょっと潜って見てみよっと」



 ピノは海の中へ潜った。すると、岩陰からがこちらを見ている。見るからに鋭そうな歯が何本も生えている。ピノは急いで海中から顔を出すとその事を三人に伝えた。



カナ「それって双頭鮫ツインヘッドシャークだよね……」


ピノ「もしかして危険な奴?」


デスタ「喜べピノ、奴は人肉を好んで食べる」


ピノ「う…うわぁ……」


フェイン「ハッハッハッ!心配すんなよ、倒せばいいだろ」


ピノ「……海の中で鮫と戦うなんて無茶だよ」


フェイン「やってみなきゃ分かんねえだろ?」


デスタ「やめておけ、双頭鮫ツインヘッドシャークは魔界でも危険視されてるモンスターだ。下手に手を出せば死ぬぞ」


カナ「なんでそんな事知ってるの?」


デスタ「あ、いや…前にギアノア図書館で読んだ本に書いてあったのを思い出しただけだ」



 四人が話をしている間に双頭鮫ツインヘッドシャークはこちらに向かって突進して来ていた。皆、蜘蛛の子を散らすように四方へ泳ぎ始めた。そして、ターゲットが分散した鮫に運悪く狙われてしまったのはカナだった。カナは次の島に向かって全力のクロールを見せる。



カナ「ぎゃわあああああ!!!何で私なのよおおおおお!!!」



 一番先に島に着いたフェインは砂浜から呑気にカナを眺める。



フェイン「何だあいつ、疲れてたんじゃなかったのか?」


カナ「ちょっとおおおお!!見てないで何とかしてよおおおお!!!」



 カナの本気のクロールとはいえ、海を住処とする鮫のスピードには及ばない。鮫との差は徐々に詰まって行く。振り向くと海面から飛び出ている背鰭せびれがどんどん近づいて来ている。その光景がより一層カナの緊張感を強めた。

 すると、何を思ったのかカナは180°反転して鮫のいる方向へ泳ぎ始めたのだ。



ピノ「カナ姉ええええ!そっちじゃないよ!!」


カナ「うっさい!何で逃げなきゃ行けないのよ、フェインの言う通りあんな鮫ぶっ倒してやる!」



 鮫とカナは接触する寸前で互いに水中に潜った。それを見たデスタはカナの潜った付近に近づいた。すると、海面にブクブクと泡が上ってきている。



デスタ「(まさか、カナの奴死んだのではあるまいな……)」



 既に砂浜に上がっているフェインとピノも心配して再び海に入ろうとしたその時、海底から気絶した双頭鮫ツインヘッドシャークが打ち上げられた。そして、大きな水しぶきを上げて着水し、プカプカと浮かんでいる。その直後、スッキリした表情でカナが上がってきた。



デスタ「カナ!?無事……みたいだな」


カナ「フフン、デスタ?もしかして私の事心配してくれてた?」


デスタ「……もういい、さっさと行くぞ」


カナ「ハハハ、照れてるぅ。まあ心配されるって事は頼りなかったって事でしょ?やっぱそうだよねー」


デスタ「そ、そんな事はない……ぞ?」


カナ「いいよ気を使わなくても、これからは超活躍しちゃうからね」


デスタ「ほう?随分と自信があるみたいだな」


カナ「うん、あの戦争で自分の非力さをいやと言うほど味わったからね。同じ相手に二度も負けるなんて悔しくて……」


デスタ「(同じ相手……レオニオル将軍の事か)」


カナ「だけど安心してよ、この一ヶ月でしっかり強くなったんだから」



 カナはガルベルグ帝国での戦いでレオニオル将軍へのリベンジに失敗してから、密かに特訓し強くなっていた。今ではフェイン達にも負けず劣らずの実力である。

 こうして、四人は二つ目の島に上陸するのであった…………………………………………

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