第88話 歪みきった愛
アルマ達三人と三人を支援するために駆け付けたバラネア王国の兵士一万人は、見渡す限りに緑が広がる草原に来ていた。空は真っ青で雲一つない快晴。この風景を見ると、世界中が平和と錯覚してしまう。
何故こんな場所に来たのか、それは明日の夜この草原に魔界と人間界を繋ぐゲートが現れる事が予測されたからだ。この機を逃せば、魔王を討つチャンスはない。皆、決戦を前にピリピリしている。魔界に着けば魔王を討つまで休息はないだろう。沢山のテントが張られ、兵士達はそれぞれ長旅の疲れを癒している。
だが、アルマはテントから離れ一人で剣の素振りをしていた。かなり長い時間鍛錬をしており、日はすっかりと落ちていた。そろそろ鍛錬を切り上げようと何気なく辺りを見渡すと、いつから居たのか背後にユノシアが座っていた。
アルマ「うわッ!ビックリした……いつからそこに?」
ユノシア「最初からよ……フフ、集中しすぎ」
アルマ「あ、あはは……考え事してたからね」
ユノシア「考え事…?ああ、宿屋に忘れた愛剣の事?あれ結構すごい剣なんでしょ?」
アルマ「まあ、それもあるけど……僕達って明日には魔王達と戦ってるだろ?それで魔王を倒して世界が平和になったらどうしようかなって……」
ユノシア「フフフ、流石勇者。もう勝った気でいるんだ」
アルマ「そりゃあそうさ。僕達は魔王を倒すためにここまで来たんだから弱気じゃだめだよ」
ユノシアはあまりに勇者らしい発言に思わず笑った。そして、しばらく経って笑い終わると、真面目な表情をしてアルマに詰め寄って来た。普段の明るいユノシアからは想像も出来ないほどシリアスな顔だ。
アルマ「ど、どうした?」
ユノシア「ねえ、決戦の前に言う事じゃないんだけど……アルマに大事な話があるんだ。前からずっと言おうと思ってたんだけど、勇気が出なくて」
アルマ「……うん、話ってなんだい?」
「話ってなんだい?」と言ったアルマだったが、このタイミングで大事な話と言われて告白を期待しない男はいない。言いづらそうにもじもじしているユノシアを見ると、なんだかこっちもドキドキしてくる。そして、短い沈黙を破ってユノシアが話した。
ユノシア「あのね、あたし……アルマの事が好きなんだ!」
アルマ「(キタアアアアアアッ!!!)」
ユノシア「だから、戦いが終わったらあたしと結婚……なんてどう?」
アルマ「あ、ああ!!すごく嬉しいよ、ありがとう。結婚か、僕達の年齢じゃ少し早い気もするけど…それもいいね」
ユノシア「それじゃああたしと結婚してくれるの!?」
アルマ「勿論。逆プロポーズされちゃって格好つかないけどね。何か指輪の代わりになる物があればいいんだけど」
ユノシア「い、いいよ別に無理に探さなくても」
アルマ「あ、これなんてどう?」
アルマがポケットから出したのはコンパスだった。これは伝説の剣を手に入れる時に使ったアイテム。綺麗だったので売らずに持っていたのだ。アルマはそれを結婚指輪代わりにユノシアに手渡した。
ユノシアの表情はパァーッと明るくなり、アルマに抱きついた。それを優しく支えるアルマ。二人の顔は次第に近づいていき、後1センチで付く唇が付く距離まで迫っていた。良い雰囲気になった二人だったが、突然ユノシアがアルマの耳元に口を近づけた。そして、囁くように小さな声で話し始めた。
ユノシア「アルマ、あたしまだ言ってなかった事があるんだ」
アルマ「言ってない事?」
ユノシア「うん、あたしね……大切な人と離れたくないんだ」
アルマ「大丈夫……僕はどこにも行かないよ」
ユノシア「違う……人はいつか死ぬものでしょ?」
アルマ「え、まあ…そうだけど……例え大切な人が亡くなっても、その人の事を忘れない限りいつまでも心の中で生き続けている。僕はそう思うよ」
ユノシア「心の中じゃ駄目なんだ……それじゃあ駄目なんだよ……」
アルマ「どうしたんだよ、何かあったの?いつもの元気はどうした!」
ユノシアはアルマの言葉には反応せず、黙って抱きついている。様子がおかしいユノシアを心配したアルマは、テントまで戻る事を提案した。しかし、相変わらず反応がない。その時、ユノシアの抱きしめる力が徐々に強くなっているのに気が付いた。
ユノシア「あたし、絶対に離れない方法を思いついたんだ……」
アルマ「まあ、落ち着いて。少し休めば楽になるよ」
ユノシアの力は更に強くなる。流石に異常だと察したアルマは振り解こうとした。すると、思ったより簡単に抜け出す事に成功した。
ユノシア「フフ……好き!大好きよアルマ」
アルマ「う、うん……ありがとう」
ユノシア「好き……好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」
アルマ「ちょっと待って!本当どうしたんだよ!」
ユノシア「アルマ……あたしは君を失うのは耐えられない………一つになろう」
アルマ「一つになる……どういうこと?」
ユノシア「簡単よ、バラバラになった君を食べる。これで二人が一つになる、永遠にね」
アルマはユノシアの言ってる事が何一つ理解出来なかった。ユノシアは満面の笑みを浮かべている。普段は見るだけで明るい気持ちにさせてくれる彼女の笑顔。だが、この状況での笑顔は狂気しか感じない。冗談を言ってる訳でもないようだ。
ユノシア「アルマ……君はどこにも行かないと言ったよね?」
アルマ「や、やめてくれ……こんなのおかしいよ!」
ユノシア「おかしい?愛する人と一緒にいたいと思うことのどこがおかしいの?」
ユノシアは剣を引き抜くと、ゆっくりと一歩ずつアルマに向かって歩き始めた。それに合わせてアルマも一歩ずつ後退りをする。
ユノシア「ちょっと!どこ行くのよ。逃げたら一つになれないでしょ」
アルマ「ごめんユノシア……僕には君の言ってる事が分からないよ」
ユノシア「分からない…?どこが?何で?どうして?何故?」
後退りするアルマを見たユノシアの表情から笑顔が消えた。アルマも身を守るために練習用の剣を構える。その時、二人の元に息を切らしながら、こちらに向かってラオが走って来た。
ラオ「二人共!大変だ、ゲートが出現した」
アルマ「何だって!?ゲートが出るのは明日の夜だろ?」
ラオ「さあな、とにかくお前達も来い!向こうは待っちゃくれないぜ」
アルマ「あ、ああ……すぐ行くよ」
アルマとラオは急いでゲートへ向かおうと走り始めた。しかし、ユノシアが立ち塞がる。
ユノシア「ずっと待ってた……寝込みを襲う事も出来たけどあたしはしなかった。アルマには魔王を倒す使命があるから。一つになるのはその後でもいいと思ってた……」
ラオ「おいユノシア!こんな時に何やってんだ」
ユノシア「お前は黙ってろ!!」
アルマ「頼むユノシア、そこをどいてくれ……」
ユノシア「もう我慢出来ないよ!!今すぐ君と一つになりたい!」
ユノシアはアルマに飛び掛かった。それを見たアルマは後方に飛び退き回避した。だが、ユノシアは一瞬にしてアルマの視界から消えると背後に回っていた。
アルマ「なッ…速い!?」
ユノシア「アアアアアアルマッ!!」
ユノシアの剣がアルマの背中に刺さる瞬間、ラオの蹴りが剣先を逸らした。今の一撃が入れば間違いなく致命傷だった。彼女は本気でアルマを殺す気だ。
ユノシア「ラオ、邪魔しないでよ」
ラオ「どうして……何でこんな事を?」
ユノシア「アルマと一つになるためよ」
ラオ「アルマ、ユノシアはきっと誰かに操られてる……もしくは偽物かも」
ユノシア「フン、あたしは本物だしいたって正気よ。それはいままで一緒に旅をして来た君が一番分かってるはずでしょ?」
ユノシアは再び攻撃の体勢に入った。だが、いくら狂気の強さがあると言ってもアルマとラオの二人を相手にするのは流石のユノシアも厳しかった。二人は気絶したユノシアをその場に残し、急いでゲートへ向かうのだった。
現在.トコナツ諸島……
ブレイブ「と言う事があったんだ」
カナ「それじゃあもしかしてこの人はブレイブさんを未だに……」
ユノシア「その通り……まさかこんな所で再開出来るとは思わなかったけどね」
かくして、前世からの因縁であるユノシアと再開してしまったブレイブ。剣探しはどうなるのだろうか………………………………………
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