第87話 勇者のトラウマ

 港を出て一時間。船の真下には沢山のサンゴ礁があった。だが、今回は前と違って船が小さいので難なく進む事が出来た。

 朝日が海面を照らしキラキラと輝いている。朝の冷たい潮風が一行の船に吹きつけ、熱気を飛ばす。そんな中、コンパスが四つの島の一つを指した。一行はコンパスに従い、その島に上陸するのだった。

 島はさほど大きくなかった。しかし、鬱蒼と茂るジャングルが島中に広がっている。一行が大自然を前に圧倒されていた。すると、かなり遠くだがこの島に向かって小舟が数隻近づいて来ているのにピノが気が付いた。



ピノ「みんな、あの船なんだろう?」


カナ「漁師さん達じゃないの?」


ブレイブ「いや、それはないと思うよ。この辺りの海は浅いから小魚はいても大きな魚は獲れない。だから漁に来ることはまずあり得ないよ」


フェイン「それじゃキース船長達か?きっと追加の船を借りれたんだろ」



 デスタは懐から双眼鏡を取り出すと、小舟を覗いて見た。すると、そこにいたのは港であった女海賊ユノシア達だった。



デスタ「船にいるのはユノシア達だった」


カナ「え、あの女海賊?」


デスタ「そうだ……何故あんな所にいるのか知らんが、早いとこ剣を見つけた方が良さそうだな」


ブレイブ「ちょっと待って、今ユノシアって」


デスタ「ああ、港でフェイン達を倒した海賊達だ」


フェイン「おいデスタ!あれは俺が油断してただけだ、もう一度やったら俺が勝つぞ!」


カナ「あれだけ完璧にやられたのにまだやる気なの……」



 フェインはリベンジに向けて意気込んでいた。その様子を見たデスタ達三人の気合も充分だ。だが、ブレイブは酷く青ざめていた。



ピノ「ブレイブさん…?そんなに青ざめてどうしたの?」


ブレイブ「ユノシア……彼女は僕の100年前の仲間だ」


カナ「ええッ!!勇者の仲間がなんで海賊になってんの!?」


ブレイブ「いや、ユノシアは僕が出会った時から海賊だった」


デスタ「仲間だったのなら心配は要らんな」


ブレイブ「どうだろう……彼女はその、何というか……すごく怖いんだ」


デスタ「フン、情けない。伝説の勇者が聞いて呆れる」


ピノ「みんなー、お喋りはこの辺にして早く剣を探しに行こうよ」



 ピノの一言で、皆話を切り上げジャングルの中へ足を踏み入れるのだった。それほど大きい島ではなかったが雑草が頭を超すくらい生い茂っており、歩くだけで体力を奪われる。虫や動物達の鳴き声が響き渡る中、一行は一時間ほどコンパスを頼りにジャングルを歩いた。

 すると、ジャングルの中心辺りであろうか、何やら開けた所に出た。そこには巨大な石板が一枚建っており、神秘的な雰囲気を放っている。一行が石板に近づくと、ブレイブの持っているコンパスの針が強く輝き始めた。どうやら針はこの石板を指していたようだ。



フェイン「す、すげぇ……これから何が起こるんだ」



 少し待っていると、コンパスの輝きが消え針がさっきとは全く違う方向を指した。そして、石板の中から半透明の武闘家風の人が出てきた。年齢は四、五十代くらいだろうか。見覚えがある気がする。よく見ると、それは少し若いが六勇者のラオだった。



ラオ「よく来たな、剣を求める者達よ」


ブレイブ「ラオ……どうしてここに」


ラオ「最初に言っておこう、これは映像だ。だから私にはこの石板の前に誰がいるのかは分からない」



 自らをと表現したラオは、続けて話し始めた。デスタ達がいくら話しかけても反応がないので映像と言うのは間違いないだろう。



ラオ「わしの役割、それは君が伝説の剣ファルティングを持つに相応しいか試す事」


フェイン「爺さんからの試練って事か……面白え、やってやろうぜ!」


カナ「伝説の剣に名前なんてあったんだ」


ラオ「それでは試練の説明をするぞ、一度しか言わんからよく聞いてくれ」



 ラオから与えられた剣の試練。それは、この島以外の三つの島にある遺跡を見つけ、そこにいる試練の主の持つ宝玉を持ってくる事だった。



ラオ「全ての宝玉を集めた時、剣の道は開かれるであろう」


ブレイブ「ラオ……本当にありがとう、長い間剣を守っていてくれて。ファルティングは僕達が絶対に手に入れるよ」



 説明を終えたラオは煙のように姿を消した。ブレイブは少し寂しそうな顔をしていたが、フェインやカナが慰める。すると、背後の草むらからユノシア達が現れた。



ユノシア「やあやあ勇者諸君、ご機嫌よう」


ブレイブ「ギクッ……ユノシア……」


ユノシア「ん?お前、もしかしてアルマか?」


ブレイブ「なッ……何故それを」


ユノシア「フフフ、姿が変わったぐらいで気付かないとでも?」



 勘の鋭さを見せつけるユノシアに、ブレイブは警戒したのか剣の柄に手をかけた。



ユノシア「酷いじゃないか、かつての仲間に何するつもりだい?」


カナ「そ、そうよブレイブさん。仲間だったんでしょ?何をそんなに警戒してるのよ」


ブレイブ「これは100年前、ラオとユノシアの三人で魔王を討伐の旅をしていた時の話なんだが……」



100年前……


 とある宿屋の一室、ブレイブことアルマはラオと二人で休んでいた。隣の部屋にはユノシアが泊まっている。ユノシアは同じ部屋でも気にしないと言っていたが、そう言うわけにもいかないだろう。

 ベットに座りながらアルマは伝説の剣ファルティングを磨いていた。ラオは黙々と筋トレをしている。



アルマ「よし、剣の手入れはバッチリ。ラオ、明日も早いしそろそろ寝よう」


ラオ「おお、もうこんな時間か。アルマは先に寝ててくれ、わしは汗を流しに一風呂浴びてくる」



 タオルを肩にかけると、アルマを一人残してラオは部屋を出て行った。そして、アルマは部屋の明かりを消すと布団に潜った。

 眠りについてからどれくらい時間が経っただろうか、アルマは突然目が覚めた。部屋は真っ暗だが、頭の横に誰か立っている気配がする。



アルマ「ラオ……?」



 アルマは寝ぼけまなこでラオの名前を呼んだが返事が返ってこない。だんだんと意識がハッキリしてきたアルマは目の前に立っている人物に恐怖を覚えた。その瞬間、アルマはベットから飛び起きそばに置いてあった剣を手に取った。



アルマ「だ…誰だ!?答えろ!」



 ゆっくりと壁伝いに歩き、部屋の明かりをつけた。すると、奇妙な事にそこには誰もいなかった。

 朝になって二人に昨晩あった出来事を話したが、寝ぼけていただけと言われ相手にされなかった。確かに魔王達との戦いで警戒しすぎていたのかもしれない。そう思いその場はアルマも納得してしまったのだった。

 それから似たような出来事は何回かあったが、アルマは魔王達との戦いでそれどころではなかった。だが、アルマ達が魔界に行く前日に事件は起こった……………………………

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