第86話 女海賊ユノシア

 デスタはカナの勧めで買った水着を試着室で着る事になっていた。しかし、今まで水着なんて物は着た事がなかったので、かなり手こずっている。外で待っているカナはフェインやピノの分も買って行こうと水着コーナーを漁っていた。だが、カナの買い物が終わってもデスタは試着室から出てこなかった。



カナ「デスタ?まだ着替え終わらないの?」


デスタ「待て、あと少しで終わる……うわっ、何故これがここに!?」


カナ「ちょっと……大丈夫?着るの手伝うよ」



 カナはデスタの入っている試着室に入った。最初にカナの目に飛び込んで来たのは、黒いビキニが絡まって動けなくなっているデスタだった。



カナ「は…はは……まさかここまで不器用とは思わなかったよ」


デスタ「カナ、本当にこの水着のサイズ合ってるのか?」


カナ「え?どう言う事?」


デスタ「胸の部分がかなりキツくなっていたぞ?確かカナも同じサイズだったはずだが、苦しくないのか?」


カナ「(くッ…天然で胸の大きさ自慢をされるとは……ムキーっ!悔しい!!)」


デスタ「どうした、突然ボーッとして。見てないでこいつを解くのを手伝ってくれないか?」



 時間は掛かったが、どうにか水着を着る事ができたデスタ達は店を出た。すると、食堂の方で揉め事が起きていると言う話が聞こえて来た。十中八九フェイン達の仕業だと確信した二人は、食堂へ向かうのだった。

 食堂の周りに沢山の野次馬が集まっており、デスタ達は草木を掻き分けるように人混みの中に飛び込んだ。しかし、人の壁は分厚くあっさりと弾かれてしまった。そこで、カナが野次馬の一人に何があったのかを質問した。



野次馬「ああ、ここらの海で最強と名高いユノシア海賊団に旅の子供達が喧嘩を売ったのさ」


カナ「ふむふむ、それで結果はどうなったんですか?」


野次馬「ハハハ!そりゃあ海賊の圧勝だよ。ユノシア船長の強さは半端じゃない」


デスタ「何……?フェイン達がやられただと」



 やがて、食堂の中から厳つい格好をした海賊達がゾロゾロと出てきた。野次馬も道を開ける。そして、一番最後にユノシアと呼ばれる女海賊が出てきた。しかし、人混みに阻まれ姿がよく見えない。すると、



カナ「デスタ?何やってんの?」


デスタ「カナ、何も言わず四つん這いになれ」


カナ「え、四つん這い?ここで?」


デスタ「早くしろ、買い物に付き合ってやっただろ?」


カナ「わ…分かったわ……ほら、これでいい?」


デスタ「ああ、丁度良い高さだ」


カナ「まさか……踏み台にするつもり!?」


デスタ「正解だッ!!」



 デスタは助走をつけるため、一度カナから距離を取ると深呼吸をした。そして、靴を投げ捨て全力で走った。カナの背中を軽く蹴り、デスタの体は宙を舞った。その結果、野次馬達の壁を乗り越え、見事デスタは食堂から出てきた海賊達の前へと辿り着いた。

 華麗に着地するデスタに、その場にいる全員の視線が集まる。野次馬達はざわつき、海賊の一人が近づいて来た。



海賊「おい姉ちゃん、もしかして酒場のガキ共の友達かい?」


デスタ「まあ、そんなところだ。フェイン達はまだ食堂の中にいるのか?」


海賊「ああそうだ。完全にのびちまってるがな」


デスタ「お前達がフェインをやったのか?」


海賊「俺達がやってもよかったんだが、かしらが一人で倒しちまったよ」


デスタ「フェインとピノを一人で倒しただと……」


海賊「ま、とにかくアイツらが目を覚ましたら言っといてくれ。見知らぬ土地で舐めた態度を取るのは命取りだってな」



 海賊達は勝ち誇ったように歩き始めた。デスタは斬りかかろうと剣の柄に手を掛けた。しかし、デスタの手が止まる。

 フェインとピノを同時に倒すほどの強い奴相手に、今の自分で勝てるのだろうか。別にフェイン達が殺された訳でもないし、自分とは関係のない喧嘩に首を突っ込むべきなのだろうか。デスタは迷った。その時、突然背後から強い殺気を感じた。

 デスタは反射的に剣を抜くと、背後の者に向けて素早く振り払った。しかし、魔界剣の刃は二本の指できっちりと受け止められてしまった。



ユノシア「へー、思ったより鋭いじゃん」


デスタ「(こいつ!?いつの間にわしの背後を)」


ユノシア「あはは、ごめんごめん。驚かせちゃったかな?君から妙な感じがしたからつい」


デスタ「……どうやらお前がフェインとピノを倒したようだな」


ユノシア「ああ、あのガキンチョ達ね。うん、倒したのはあたしだよ。敵討ちでもするかい?」


デスタ「いや、やめておこう。これはあいつらの喧嘩だ、私の出る幕じゃない」


ユノシア「そっか、それならあたし達はもう行くよ。じゃあねー」



 ユノシアは仲間達を引き連れ、デスタの前から去って行った。野次馬達も去って行き、デスタとカナは食堂の中でのびてる二人と椅子の下で震えているバルを連れて船に戻った。


夕方.船……


 水平線の向こうに太陽が沈んでいき、空がオレンジ色に染まっている。目が覚めたフェイン達は、ユノシアにリベンジすると言って再び街に戻ろうとしていた。しかし、キースからもうすぐ夕飯の時間と聞かされると素直に言う事を聞いた。

 そして、四人は甲板にあるテーブルで夕飯を食べていた。そこに、ブレイブとキースがやって来た。



ブレイブ「みんな、食べながらでいいから聞いてくれ」


キース「明日、この街の漁師から借りた漁船でトコナツ諸島へ向かう」


フェイン「お、船見つかったのか」


ブレイブ「まあね、だけど定員が五名なんだ。そこで船長と話し合った結果、僕と君達四人でトコナツ諸島へ向かおうと思うんだけど異論はないね」


カナ「勿論、それは賛成なんですけど……剣の詳しい場所って分からないんですよね?」


ブレイブ「それについては心配いらないよ」



 ブレイブはポケットから昼に市場で買った古びたコンパスを取り出しテーブルに置いた。デスタ達は食べる手を止め、不思議そうにコンパスを見ている。



デスタ「これはなんだ?」


ピノ「え、姉御コンパス知らないの?」


デスタ「そうじゃない、このコンパスがなんだと言うんだって意味だ」


ブレイブ「えっと、このコンパスを一言で説明すると、伝説の剣探知機」


フェイン「もしかして、針の指す先に剣が……」


キース「その通り。剣にある程度近づくと、剣が放つ聖なる波動をコンパスがキャッチする仕組みになってるらしい」


ピノ「やったー!これで剣探しも楽勝じゃん!」


カナ「そうだと良いけどね……」



 カナは不安そうな顔をして腕を組んだ。確かにカナの言う通り、たった五人で島々を回るのは危険な気もする。しかし、だからと言って剣を諦める訳にはいかないのだから仕方ない。

 翌朝、まだ朝日が出る前。空が薄暗い内に五人はキースが借りて来た漁船に乗ってトコナツ諸島へ向かった。

 果たして、五人は無事に伝説の剣を手に入れる事が出来るのだろうか……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る