トコナツ諸島 編
第85話 トコナツ諸島
デスタ達がガルベルグ帝国を出発して五日が経っていた。一行の船はアシス大陸の最南端にあるトコナツ諸島付近にやって来ていた。ブレイブ曰く、伝説の剣はトコナツ諸島のどこかに置いてあると言う。
気温は間違いなく40°を超えているであろうか、暑さで皆元気がなくなっている。デスタとバルは船の中の自室で涼んでいる。カナとピノは日陰で雑談しながらアイスを食べていた。船員達もいつもの活気はなく、流石に大人しい。しかし、そんな暑さも吹き飛ぶほど元気が余っている者達がいた。
フェイン「ブレイブさん!もう一度お願いします!!」
ブレイブ「ハハハ!やっぱりフェイン君は強いね」
フェイン「ありがとうございます。でも、俺はもっと強くならなきゃいけないんです」
ブレイブ「そうだね。魔王ゼニスは強い……剣を手に入れるのは勿論だけど、僕達自身も今より強くならないとね」
二人は強く照りつける日の下で、木刀試合をしていた。甲板に汗がポタポタと落ち、二人の立っている場所はすぐに濡れていた。すると、キースがモップを持って二人の元へ現れた。
キース「二人共、鍛錬に精が出るのは良いことだが、ちゃんと汚した床は拭いてくれよ」
ブレイブ「すみません。フェイン君、そろそろ休憩にしようか」
フェイン「は、はぁ……分かりました」
キース「ハッハッハッ!不満そうだな」
三人は休憩するため船の中に入ろうとした。その瞬間、船に大きな衝撃が走った。恐らく何か大きな物にぶつかったのだろう。甲板に置いてあるバケツや樽が転がっている。
船の中にいたデスタ達もゾロゾロと甲板に上がって来た。そして、何がぶつかったのか確認するため、フェイン達は船から身を乗り出し海面を覗き込んだ。
青く透き通った海の中にあったのは、沢山のサンゴ礁だった。それに、海の水位も高くなく船底が海底に着きそうだった。
キース「うーん、こりゃあこの船じゃこれより先には進めないな」
ピノ「そんなぁ、トコナツ諸島はもうすぐなんでしょ?なんとか出来ないの?」
キース「……トコナツ諸島は四つの小さな島の集まりの事を指してるんだが、人の出入りはほとんど無いらしい」
デスタ「ではどうする」
キース「そうだなぁ、この近くにリゾー
フェイン「うっしゃ!それならリゾー島に向けて出発だ!!」
キース「ちょっと待て、あの島は海賊が多いんだが……」
カナ「大丈夫よ、私達金目の者持ってないもん」
一行はキースの提案で、リゾー島に進路変更した。三十分も立たないうちに、島が見えて来た。岸には桟橋がいくつもかかっており、沢山の漁船が泊まっている。しかし、中にはドクロの旗が掲げられた海賊船も混じっていた。小さな港町だが、町の中心には大きな市場があり活気がある。
キース達船員組はデスタ達とは一旦別れ、トコナツ諸島へ行ける小さな船を借りるため、港で町の船乗り達に声をかけていく事にした。その間、残されたデスタ達は伝説の剣の情報を集めるため町の中心へ向かうのだった。
潮風が港から町の中心へ吹き抜ける。沢山の出店が並んでいる。見た事のない服やアクセサリー。謎の置物やお守り。毒々しい果物に奇抜な料理。案の定フェインとピノ、それからデスタの頭の上でバルがお腹を鳴らしている。ブレイブも妙な骨董品に夢中になっている。
そこで、デスタはバルをフェインとピノに預け、情報集めを名目に自由行動をする事になった。フェイン達は無邪気にはしゃぎ回ると、美味しそうな匂いに釣られ市場の人混みの中へと消えて行った。ブレイブはかなり夢中になっているのか、骨董品を手に取っている。しばらく時間が掛かりそうなので、デスタとカナはブレイブを置いて行く事にした。
カナ「ねえデスタ。また私達二人だけだね」
デスタ「また?」
カナ「ほら、アルカランドでもこんな感じで自由行動したじゃん」
デスタ「フ、もう服を買うのは勘弁してくれよ」
カナ「ふっふっふっ……その事なんだけどさぁ。トコナツ諸島ってこの気温でしょ?海水浴もするよね?」
デスタ「おいおい、遊びで来てるんじゃないぞ」
カナ「勿論!だけど海には入るかもしれないよね?」
デスタ「あ、ああ……そうかもな」
カナ「それなら水着も必要だよね?ね?」
デスタ「お、おい!まさかお前……」
カナ「当ったりーっ!!今から水着を買いに行こう!」
デスタはまたしてもカナの強引な押しに負け、今度は水着を買うのを付き合わされた。
その頃、ブレイブは沢山ある美しい骨董品の中から一つのコンパスを手に取った。そのコンパスは錆でかなり汚れているが、何故かブレイブの目に留まった。すると、店の店主がブレイブに話しかけて来た。
店主「お、お客さん。そのコンパスを選ぶとは良い目をしてるね」
ブレイブ「ええ……このコンパス、どこかで見たような気がして」
店主「それは私の祖父が100年前に勇者の仲間だと言う人から譲り受けた物なんだ」
ブレイブ「ん?……今の話本当ですか!?」
店主「さあ?私が産まれるずっと前の話ですからねぇ……」
ブレイブ「そう…ですか……」
店主「本当かどうかは分かりませんが、祖父がコンパスを貰った時にその勇者の仲間の人が面白い事を言っていたと聞きました」
ブレイブ「面白い事?」
店主「伝説はコンパスが示す場所に安置した……と言ったそうです。だけど今じゃ錆びついて完全に壊れてますがね」
ブレイブ「(そうだ!思い出した、僕はこのコンパスの使い方を知っている)」
ブレイブは店主から錆びたコンパスを買うと、一度船へ戻った。その頃、適当に見つけた食堂でフェイン達は昼ご飯食べていた。料理はどれも美味しく、食べる手が止まらない。二人と一匹が楽しく食事をしていると、食堂にグラマラスな体をした金髪の美人がやってきた。胸元を強調させ色気が強すぎる服を着ている女は、店中の注目を集めた。
しかし、フェイン達は食べる事に夢中で女には気付かなかった。女の周りにはガラの悪い取り巻きが数人張り付いており、店にいる客はフェイン達を除いて全員出て行った。
店員達も生唾を飲み込み、緊張しているようだった。だが、それでもフェイン達は気付かない。それに腹を立てた取り巻きの一人がフェイン達のテーブルに駆け寄って来た。
取り巻き「おいてめえら!この店からさっさと消えな」
フェイン「ふぁ?ふぁんで?(は?何で?)」
ピノ「ハハハ!おいフェイン、口の物飲み込んでから喋れよな」
取り巻き「おいガキども、あの人を知らないのか?」
ピノ「知らない」
取り巻き「そうか、なら忠告してやる。彼女はユノシア海賊団船長ユノシアさんだ」
ピノ「ふーん。で?どうして俺達が店を出る必要があるんだよ」
取り巻き「いつもこの時間に船長は貸し切りで飯を食うんだよ。悪いことは言わねえ、さっさと出てけ」
フェイン「嫌だね、俺達はまだ食べてる途中なんだ。出て行くつもりはない」
取り巻き「けっ……殺されても知らねえからな。船長は怒らすとめっちゃ怖いぞ」
取り巻きは呆れた様子でユノシアと呼ばれる女海賊の元へ戻って行った。すると、今度はユノシア本人がフェイン達のテーブルにやって来た。二人と一匹は置いてある料理から目線をゆっくりとユノシアに向けた。
意外な事にユノシアの顔は笑顔だった。てっきり怒っているのかと思っていたが、そうではないらしい。フェイン達は向こうが何か話してくるまで待っていた。しかし、奇妙な事にユノシアは一言も話さない。すると、ユノシアは右手でフェインの頭を、左手でピノの頭を撫で始めた。相変わらずユノシアの顔は満面の笑みを浮かべている。二人はこんな美人に頭を撫でられるのが少し恥ずかしかったが、自然と笑顔になっていた。
バルも撫でて貰いたそうにユノシアの腕に擦り寄っている。フェイン達はそろそろ撫でるのやめて貰おうとユノシアの手に触れた瞬間、ユノシアの握力が尋常ではないほど強くなった。頭蓋骨がこのまま粉砕されるのではないかと疑うほど強い握力だ。
フェイン「痛てててててて」
ピノ「うわああああ!!離せえええ!!」
二人の抵抗も虚しく、ユノシアは二人の頭をテーブルに叩きつけた。そして、テーブルの残骸に埋もれている二人を見て満足すると取り巻きの元へ戻って行った。バルは怯えながらも、ユノシアの顔をハッキリと確認した。その顔からはさっきまでの安心する笑顔は完全に消え失せていた………………………
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