第84話 終戦
数百をも超える数のギガント・ギアは、全て停止していた。今にも動き出しそうなほど迫力があるが、もう動く事はないだろう。皇帝ガルデュークは完全に死んだからだ。
そして、嬉しいことに魔王軍も次々に撤退して行くのが見えた。恐らく、大将であるゼニスが戦えない事で、撤退せざるを得なくなったのだろう。
デスタとフェインは気を失っているラッシュを担ぐと、足を滑らせないよう慎重にギガント・ギアを降りた。下にはルプラス達が心配そうに待機しており、ラッシュはすぐに担架で運ばれて行った。デスタも怪我を治療してもらおうと医療班の後を追いかけようとしたその時、突然フェインが呼び止めて来た。
デスタ「どうした?お前もまだ完全に回復した訳ではないだろう。早く行くぞ」
フェイン「分かってるよ。それより一言お前に言っておきたい事がある」
デスタ「なんだ?」
フェイン「その……俺さ、ソヨカゼ村を出た時にデスタをパートナーにして良かったって心の底から思ったんだ」
デスタ「ほ、ほう?それで」
フェインは少し恥ずかしそうに手を挙げた。デスタにはその意味が分からなかった。
デスタ「何だそれは」
フェイン「ハイタッチだよハイタッチ、ほら!」
言われるがままにハイタッチをしたデスタ。フェインは満足したのか医療班を追いかけて行った。デスタにはハイタッチの意味が分からなかったが、こう言うのも悪くないと思うのであった。
それから一ヶ月が経った。多くの死傷者がでた戦争だったが、ピノ達の傷はほとんど治っていた。デスタとバルは近くの森で取ってきた果物を沢山籠に入れて、ピノ達が居る医療テントに入った。似たようなテントがいくつも並んでいるので、何回か間違えてしまったのは内緒にしておこう。
デスタ「ピノ、怪我の具合はどうだ?」
ピノ「うん、もう全然平気だよ。それよりこれからどうするの?」
フェイン「そりゃあ魔王を追いかけて倒すだろ」
ピノ「魔王がどこ行ったか分かるのかよ?」
フェイン「知らん!!」
三人が話している所とテントの垂れ幕が上がり、ラッシュとカナが入って来た。二人はブレイブ達が今から大事な話しがあると言った。そして、二人の後ろからブレイブ、クロウ、ルプラス、リン、そして元ガルベルグ帝国四将軍のセレカが現れた。その中から代表でブレイブがデスタ達の前に立った。
ブレイブ「単刀直入に言おう。君達は新しい六勇者になる気はないかい?」
フェイン「え、突然どう言う事ですか?」
ブレイブ「君達も知っての通り、一ヶ月前の戦いで六勇者が三人も亡くなった」
ルプラス「マリア、ラオ、そして血の傭兵団の親玉だったトリーヴァことジョーカー。それにダリオも恐らく……」
リン「六勇者が半数以上も欠けている事を国民達に知られれば、皆不安になります。そこで、先の戦いで活躍した皆さんに新六勇者の一員になってもらえないでしょうか?」
デスタ「それならブレイブも既に六勇者なのか?」
ブレイブ「いや、僕は断ったよ。これから魔王を倒すためにアレを取りに行かなければならないからね」
デスタ「アレとは何だ?」
ブレイブはデスタの腰に差してある剣を指差した。どうやら取りに行く物とは剣の事らしい。しかし、いかなる攻撃も効かないゼニスに対してそんな物が有効なのだろうか。疑問に思ったデスタは率直に訊いてみた。
ブレイブ「勿論有効だよ。ゼニスを倒す最後の手段と言ってもいい」
フェイン「そんなにすごい剣なんですか?」
ブレイブ「そりゃあ僕が現役時代使ってた伝説の剣だからね」
ピノ「魔王デスタリオスと戦った時にも使ったんですか?」
ブレイブ「いや……それが最後に泊まった宿屋に置き忘れてしまって、最終決戦には持っていけなかったんだ」
フェイン「ええ!それじゃ忘れなかったら勝ってたんじゃないですか?」
ブレイブ「どうだろう……持っていってようやく五分五分ぐらいかな。それぐらい魔王デスタリオスは強かったよ」
フェイン「って事は100年前の戦いは五分五分じゃなかったんですか」
ブレイブ「うん、防戦一方だったね。僕も敵から奪った剣をエンチャントして戦ったけど、魔王にはあまり効いてなかったよ」
前世でデスタリオスと戦ったことを思い出すブレイブ。フェインは行く当ても無かったので自分達も剣を取りに行くのに同行する事を頼んだ。無論、ブレイブは快く許可してくれた。
しかし、デスタはあまり乗り気ではなかった。100年前の決戦で戦った勇者アルマは本来もっと強かった。その事実が腹立たしく感じる。大事な剣を忘れたブレイブへの怒りか、はたまた剣を忘れた相手と相討ちになった自分への怒りなのか。みんなから離れ、そんな事を考えているとフェインが話しかけて来た。
フェイン「おい大丈夫か?取り敢えず六勇者になるかどうかは置いといて、ブレイブさんの剣を取りに行こうぜ」
デスタ「あ、ああ……そうだな」
フェイン「何だ?前世で本気のブレイブさんと戦えなかったのが不満なのか?」
デスタ「黙れ、誰かに聞かれたらどうする?私の素性はまだお前しか知らないのだぞ」
フェイン「お、おう……とにかく修行がてらブレイブさんに着いてくぞ。出発は明後日だからな」
こうして、デスタ達はブレイブの切り札である伝説の剣を取りに行く事になった。
それから、デスタ達が出発するより一足先にライラとソハヤはルーバリエ学園へと帰って行った。校長であるマリアが亡くなったため、葬儀関係でしばらく忙しくなるらしい。
ルプラスとリンはゼニスの行方を調べるため、一度ギアノア図書館へ帰るようだ。そして、皇帝が居なくなり崩壊しかけた帝国には、新たな指導者として皇子であるラッシュが残る事になった。本人は嫌がっていたが、セレカに頼み込まれ仕方なく了承していた。
フェインは「これで勇者になるのは俺だ!」と喜んでいたが、魔王との決戦には必ず駆けつけるとラッシュは意気込んでいるようだ。皆、戦争を乗り越え前に進もうとしている。
ただ一つ気掛かりなのは、帝国四将軍の長であるレオニオルの行方が分からない事だった。最後に目撃された証言によると、甲冑を着た魔物と戦っていたとの事だ。謎は残るが、考えていても仕方ない。
遠くでフェインが呼んでいるのが聞こえて来る。そろそろ出発の時間だろうか。
フェイン「おーい!もう馬車出発するってよー!」
デスタ「ああ、今行く!」
ブレイブ「さて、みんな揃ったね。それじゃあ出発だ」
カナ「その前に一つ聞きいていいですか?伝説の剣の場所って私まだ聞いてないんですけど…」
ブレイブ「ああ、言ってなかったね。ラオが生前教えてくれたんだ、剣のありかを」
フェイン「そういえば爺さんとは100年の仲なのか」
ブレイブ「そう言う事、流石に100年も宿屋に置きっ放しって事はなかったよ」
デスタ「おい、勿体ぶらずに剣のありかを早く言ったらどうなんだ」
ブレイブ「それは着いてのお楽しみ」
五人を乗せた馬車は、ガルベルグ帝国を後に出発した。見送りにはラッシュやセレカがやって来ている。これから向かう剣のある場所とは一体どんな所なのだろうか……………
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