第83話 帝国の最後
デスタのピンチに駆けつけたのは、地上に置いて来たはずのフェインだった。剣を片手にラッシュに斬りかかるフェイン。よく見ると肩の怪我が少し良くなっている。恐らくルプラス達の治癒魔法で応急処置をしたのだろう。ラッシュは簡単に攻撃を弾くと、ギガント・ギアの頭部に飛び乗った。
フェイン「デスタはやらせねえぞ」
ラッシュ「ほお?面白い。俺はお前にも少し興味がある。来い、相手をしてやろう」
フェインは挑発に乗ると、馬鹿正直に正面から突っ込んで行った。デスタも急いでフェインを援護するため、剣を突き立て立ち上がった。その時、ギガント・ギアが突然脚を大きく上げた。そのせいで上半身が大きく傾き、ギガント・ギアの上にいるデスタ達は慌ててしがみついた。
ラッシュ「な、なんだ!?何が起こっているんだ」
フェイン「俺達は一人じゃない……ここまで来れたのも仲間達のお陰だ。何もかも力でねじ伏せてきたお前には分からないだろうな」
ラッシュ「どう言う事だ!?」
フェイン「このデカブツの足元をよく見ろ!」
皇帝は言われた通りギガント・ギアの足元を見下ろした。そこには、巨大な植物の根がギガント・ギアの脚に巻きついていた。大勢の人達が魔力をルプラスに集めており、一本の巨大な植物を形成しているのだ。反乱軍以外にも帝国の住民やアンダーゲートの住民達。皆が少ない魔力を一つにしている。さらに根は成長していき、次々に他のギガント・ギア達をも捕らえていく。
ラッシュ「くッ…馬鹿な!?我が帝国最強の兵器がこんな事でやられるはずがない」
フェイン「ハッハッハッ!!後はラッシュを助けてお前を倒せばこの戦いも終わる、決着を着けようぜ!」
足場の悪いギガント・ギアの頭部で剣と剣が高速でぶつかり合う。しかし、ラッシュの肉体を得たガルデュークは強かった。一瞬の隙を突かれたフェインは腹を剣で刺されてしまった。そこに駆けつけたデスタは、力なく倒れているフェインを目撃した。
デスタ「フェイン……やめろ…そんなつまらない冗談はやめろと言ってるんだ……立ち上がれ」
ラッシュ「はぁ…はぁ…無駄だ、完全に致命傷を与えた。じきに死ぬ」
デスタ「おい…目を覚ましてくれフェイン……フェイン!!」
デスタの呼び声も虚しく、フェインの体は傾いたギガント・ギアの影響で滑り落ちて行く。そして、あっという間にデスタの前から姿を消した。それを見たデスタは涙が頬を伝っているのに気が付いた。自分にとって仲間達の存在が思った以上に大きかった事を実感する。
本当はもっと前から気付いていたのかもしれない。自分にとってフェイン達は大切な存在だと言う事に。それと同時に激しい怒りが湧き上がった。フェイン、ピノ、ラッシュ、カナ、デスタは大切な仲間達を今、失いかけていた。
デスタ「ガルデューク……よく聴け。貴様はこのわしの手であの世へ送ってやる……必ずな」
ラッシュ「はっ!その体力でこの俺を倒せると言うのならやってみろ!!行くぞ!!」
ラッシュは剣に魔力を集めると、一気に薙ぎ払った。空が捻じ曲がり、次元の裂け目が出来る。さらに、裂け目から鋭い斬撃がデスタに向かって無数に飛んで来たのだった。
ラッシュ「我が最大の奥義…次元斬の威力、とくと味わうがいい!」
デスタは斬撃を躱そうと後方へ飛び退いた。しかし、次元の裂け目に吸い寄せられ、次元斬を躱す事が出来なかった。沢山の斬撃に切り刻まれ、大量の血が吹き出す。
だが、デスタは倒れなかった。今にも倒れそうなくらい傷だらけだと言うのにも関わらず真っ直ぐ剣を構えている。
ラッシュ「しぶとい奴だ。流石にこの俺を倒しただけの事はある」
再びラッシュは次元斬の構えに入る。デスタにとどめを刺すつもりなのだろう。しかし、ラッシュが次元斬を発動するよりも速くデスタは自身の射程距離まで近づいていた。
そして、デスタは何も考えず剣を突き刺した。真っ直ぐ突いた剣はラッシュの肩に突き刺さった。だが、即座に反撃に繰り出すラッシュは剣を振り上げ、
ラッシュ「やはり勝利は俺の手にあるらしい……だが、お前は俺の記憶に残る強敵であったぞ」
デスタ「くッ……ま、まだだ……」
ラッシュ「いい加減諦めろ。あの小僧は死んだのだ。次はお前の番だ」
デスタ「フェインだ……」
ラッシュ「ああ、そんな名前だったな。だからどうした」
デスタ「ククク……」
ラッシュは疑問に思った。こんな絶望的状況でも笑っているデスタが奇妙に感じたのだ。そこで、何故笑っているのか問うと、デスタは顔だけこちらに向けて答えた。
デスタ「覚えておけ、勇者は負けない」
ラッシュ「勇者?フェインの事を言っているのか?奴は死んだ、もういない」
フェインは死んだ。ラッシュが自信を持って断言したその時、下から聞き覚えのある馬鹿でかい声が聞こえて来た。
フェイン「俺はここにいるぞおおおおおおおおおお!!!!!」
馬鹿でかい声と共に、神々しい光のオーラを纏ったフェインが下から飛び出して来た。デスタにはフェインが纏っているオーラに見覚えがあった。
あれはフェインがピンチになるたびに発動している勇者の力。その正体がなんなのかは謎に包まれているが、とにかく今はフェインが無事だった事が素直に嬉しかったデスタだった。
ラッシュ「お前は……死んだのではなかったのか!?」
フェイン「さあな、俺にも分かんねえ」
デスタ「フ……やはり生きていたか」
フェイン「ハハハ、流石に死んだと思ったがな」
フェインから溢れ出る神々しいオーラがデスタを包み込む。その瞬間、デスタの中で力が込み上げてくるのが分かった。傷が癒えた訳ではないので、痛みは残っているがなんとか立ち上がれた。デスタは一歩ずつラッシュの側へ歩み寄る。
それを見たラッシュは思わず後退りをした。だが、既にデスタの右腕がラッシュの胸に吸い込まれていた。そして、ついにデスタは厄災王の力によってガルデュークの魂を掴む事が出来た。
ラッシュ「ぐッ……この俺が再び敗北することなど……認めん!認めんぞッ!!」
魂を抜き取られそうになったラッシュはデスタの腕をガッチリと掴み押さえつけている。しかし、魂が抜けかけた事でラッシュ本来の意識が半分戻り、掴む力が緩む。
ラッシュ「今だデスタ!一気に引き抜け!!」
本来のラッシュの手助けもあり、デスタはラッシュの肉体からガルデュークの魂を抜き取った。その瞬間、疲れからかラッシュは意識を失い倒れてしまった。それを慌ててフェインが抱える。
そして、デスタの手元にはガルベルグ帝国初代皇帝ガルデュークの魂が握られていた。
フェイン「やったなデスタ!」
デスタ「ああ……全て終わった。皇帝ガルデューク、強敵だったよ」
デスタは魂を握り潰した。手の中でほんのりと熱が篭った感覚が残る。
そして今、最強の国ガルベルグ帝国はデスタ達反乱軍に敗れたのだった…………………
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