第82話 希望の光
ギガント・ギアの広い肩の上で、ラッシュは冷たい風を浴びながら戦場を見下ろしていた。皇帝の意思によってギガント・ギア達は大きな腕や足を振り回して敵味方関係なく蹴散らしていった。巨人達の通った後には死体しか残らず、人は愚か魔物達でさえも相手にならなかった。
ラッシュ「フ、最強ってのは気分が良い」
ラッシュは遥か下で死に物狂いで戦っている者達を見ながら高みの見物をしていた。
すると、翼を生やした魔物達が十数匹ほどラッシュの元へ飛んで来た。彼らは皆ラッシュの命を狙って来たのだろう。剣を抜いて敵意を剥き出しにしている。
魔物1「ケケケーッ!テメェが帝国の親玉だな?」
ラッシュ「雑魚に用はない……うせろ」
魔物2「この野郎……余裕かましやがって」
魔物3「すぐにその減らず口を叩けなくしてやるぜ!」
その頃、ギガント・ギアの腰辺りまで到達したデスタの握力には限界が近づいていた。そこで、丁度いい出っ張りを見つけて休憩していた。だが、ギガント・ギアが動く度にバランスを崩して落ちそうになり、あまり休むのには適していないようだ。
デスタ「チッ……流石に疲れが出てきたか」
あまりモタモタしていると皇帝は何をしでかすか分からない。デスタは再びギガント・ギアの冷たい鉄の体を登り始めた。
しかし、充分な休憩をとっていなかったのが災いして、足を滑らせ数十メートルもの高さから地面へ真っ逆さまに落ちてしまった。
頂上があっという間に離れていくのを眺めながらも、デスタは諦めなかった。空中で素早く体勢を整えると、魔界剣をギガント・ギアに突き刺して落下するのを止めようとした。だが、ギガント・ギアの体に魔界剣の黒い刃は刺さらなかった。
デスタ「ヤバッ落ちる!きゃああああああ!!!」
デスタは地面に叩きつけられ潰れたトマトになる事を覚悟して目を瞑った。しかし、いくら待てども地面に落ちない。恐る恐る目を開けると、デスタの体は空中に浮いていた。
デスタ「これは一体……」
アクマ「魔王様、お怪我はありませんか?」
デスタは浮いていたのでは無かった。回収したミュアルの死体を魔王城へ運んでいる途中たまたま通りかかったアクマがデスタをキャッチしたのだ。正に間一髪デスタは助かったのだった。
デスタ「アクマか…助かった、感謝する」
アクマ「いやー嬉しいですねぇ」
デスタ「何がだ?」
アクマ「こうして再び魔王様に会えた事がですよ。もしかしたら戦いに巻き込まれて死んでるかもと」
デスタ「フン、わしがそう簡単に死ぬと思うか?」
アクマ「はい。今さっきも死にかけていました」
デスタ「あ、あれは……ちょっと疲れてただけだ。それよりアクマ、わしをこのまま頂上へ運んでくれ」
アクマ「承知しました……ホホホ」
アクマは悪魔とはかけ離れた気品のある女性の声で小さく笑い声を上げた。
デスタ「おい、何を笑っている?」
アクマ「大した事ではございません。お気になさらず……ホホホ」
デスタ「ダメだ、答えろ」
アクマ「いえ、先程魔王様が上げた悲鳴が可愛いくて……あのデスタリオス様があんな声を…オホホホ」
自分が悲鳴を上げていたのを思い出したデスタは、とても恥ずかしかったのか顔を赤らめた。それから少しして、デスタはアクマのに運んで貰ったお陰でラッシュのいるギガント・ギアの上空にまで到達していた。ギガント・ギアの肩の上には、既にこちらに気付いているラッシュがデスタを待っていた。
デスタ「本当に助かったぞアクマ。ここでいい、離してくれ」
アクマ「本当に行くんですか?何だったら私も一緒に」
デスタ「大丈夫だ。お前が来てもラッシュを傷つけずに助ける事は出来ないだろう?」
アクマ「分かりました、ご武運を魔王様。絶対死なないで下さい、私の主は貴方様だけなのだから」
心配そうな表情で見つめるアクマに、デスタは親指を立てて「魔王は不滅だ」と優しい笑みを浮かべた。そして、アクマの手を離れラッシュの元へ飛び降りた。冷たい風がデスタの全身を包み込む。華麗に着地したデスタは即座に剣を構えた。
すると、数メートル先にラッシュの姿をしたガルデュークが沢山の血が付着して真っ赤になった剣をハンカチで拭いていた。辺りには魔王軍であろう魔物達のバラバラ死体が転がっている。ラッシュ一人でやったのだろうか。
ラッシュ「クックックッ……待っていたぞ、お前を」
デスタ「そうか、丁度良かった。わしもお前に用がある」
ラッシュ「用?決着を着ける事以外にか?」
デスタ「その体はお前のじゃない。ラッシュに返せ」
ラッシュ「ハッハッハッ……そうしたいのは山々なんだが、生憎元の肉体はどこかの誰かに壊された」
デスタ「へー、どこの誰なんだろうな」
ラッシュ「ふざけた奴だ……だが、その余裕もすぐに消える事になるぞ」
ラッシュは剣の血を拭き終えると、静かに剣を構えた。デスタとラッシュ、二人の間合は互いに少し届かない距離にあった。デスタはジリジリと距離を詰めていく。そして、デスタは間合いに入った瞬間、一気に剣を横に振った。鋭い斬撃が空を裂いた。しかし、ラッシュを捉えてはいなかった。
既に背後に回っていたラッシュは、デスタに斬り掛かる。咄嗟に反応して体を大きく反った事で致命傷は避けたデスタだったが、ラッシュの凄まじい連続斬りを防御しきれず複数の切り傷を負ってしまった。堪らず後方へ飛び退くデスタ。後1センチ後ろへ下がれば、再び地面へ真っ逆さまと言う所まで追い詰められた。
ラッシュ「どうした?俺はまだ本気を出していないぞ」
デスタ「中々素早しっこい奴だ……だが、勝った気になるのはちょっとばかり速いんじゃないか?」
デスタは不敵な笑みを浮かべ、フラッシュの魔法を唱えるとラッシュの目を眩ました。その隙に一気に間合いを詰め、剣で大きく斬り上げた。デスタの反撃は防御された。しかし、ラッシュの体を宙へ飛ばしたのだった。その隙に両手に魔力を集めるデスタ。必殺のダークストームの構えだ。
デスタ「(少し休んだとは言え魔力はほとんどない。威力は落ちるが、奴にダメージを与えるチャンスだ)」
ラッシュ「くッ…目が……やってくれたな!!もう手加減はせんぞ、切り刻んでくれる」
デスタ「フン、出来るかな?お前に」
ラッシュ「何だと…?」
デスタ「喰らえッ!ダークストーム!!」
今現在デスタの体内に残っている全ての魔力を最大まで集めたダークストームが、空中にいるラッシュに直撃した。大きな爆発が起こり、爆風でデスタは尻餅をついた。
黒煙の中からはラッシュが落ちてくるのが見える。ギガント・ギアの冷たい鉄に叩きつけられたラッシュは倒れていた。ダメージが大きかったのか彼は動かない。今がチャンス。そう思ったデスタは、ラッシュの肉体からガルデュークの魂を抜き取るためラッシュの元へ歩み寄った。
魂を引き抜こうと右手をラッシュの胸へ手を伸ばした。その時、突然右腕を強く掴まれた。
ラッシュ「残念だったな、お前の技は俺を倒すには至らなかったようだ」
デスタ「うッ……」
ラッシュ「もう戦う力も残っていないらしい。この俺を一度倒した相手とは言え、今の俺の敵ではない!!」
ラッシュの力は強く、デスタは振り解く事が出来なかった。デスタの渾身のダークストームはラッシュにとって軽傷で済むものだった。殺される、デスタは再び死が間近に迫っている事を予期した。
??「おい、その手を離せ!!」
突然、デスタの耳に聞き覚えのある声が聞こえて来た。声のする方を見ると、そこには血や泥で汚れだらけのフェインが立っていた。どうやってここまで来たのだろうか。ただ、デスタの中に希望の光が再び灯ったのだった………………………………………
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