第81話 勝機
突如としてフェイン達の前に現れたラッシュことガルデュークは、血の傭兵団のジャックとキングを瞬殺した。前世の姿に戻り最初から本気で戦うつもりのクロウに、ラッシュは静かに闘志を燃やすのであった。
クロウ[男]「さあ来い、私がもう一度お前を倒してやる」
ラッシュ「フン、今の俺はあの頃とは比較にならん程強い。貴様ごときでは相手にならんぞ」
クロウ[男]「くッ……確かにお前からは凄いオーラを感じる」
フェイン「クロウさん!俺も戦うよ。二人で掛かればラッシュを助けられるかも」
ラッシュ「ほお?ではこちらから行くぞ」
ラッシュは砂浜を強く蹴り空中へ舞い上がった。フェインの視線は宙にいるラッシュへ向かった。しかし、それは罠だった。太陽の逆光によって目が眩んだフェインは、急降下してくるラッシュを捉えられなかった。
強烈な飛び蹴りがフェインの左肩に炸裂した。その瞬間、骨の砕ける嫌な音が体の中で鳴ったのをフェインは聞いた。堪らず膝をつくフェインに容赦無く剣が振り下ろされた。だが、間一髪フェインは剣を引き抜き防御していた。
ラッシュ「所詮この程度か……」
クロウ[男]「フェイン君、今助ける!」
クロウはフェインを助けようと手に持っている鎖でラッシュを締め上げた。
クロウ[男]「どうだ、これで身動きは取れないだろ?」
ラッシュ「弱い……弱すぎる」
ラッシュはいともたやすく鎖を引きちぎった。彼の力はクロウの想像していた以上のものだった。予想外の出来事に困惑しているクロウ。それを見たラッシュは剣を納め右手に魔力を集め始めた。
ラッシュ「かつて私の強敵だった貴様も今ではこれだけの差がついた……消えろ、永遠に」
圧縮された魔力の塊はレーザーとなってクロウの胸を貫いた。力なく倒れるクロウをフェインはただ見ている事しか出来なかった。
フェイン「く…くっそおおおおおお!!!」
ラッシュ「喚くな小僧……お前もすぐにあの世へ送ってやるぞ」
フェインは負傷した左肩を押さえながらも、何とか立ち上がった。だが、立ち上がったからと言って状況が最悪なのには変わりなかった。とどめを刺すため、ラッシュは再び腰に刺してある剣を鞘から引き抜いた。
フェインも右手だけで剣を持ち構えた。左肩から流れる血が腕を伝って白い砂にポタポタと落ちている。
ラッシュ「どうだ?傷は痛むか?」
フェイン「へ…へへへ」
ラッシュ「何がおかしい、あまりの恐怖に気でも触れたのか?」
フェイン「俺は今超絶ピンチだ、正直勝ちの目はかなり薄い……だがな、これだけは言っておくぜ」
フェインは持っている剣を砂に突き刺した。そして、完全に無防備な状態で立っていた。だが、彼の目は希望に満ちていた。
フェイン「ラッシュはお前には負けない。必ず自分を取り戻す、俺はそう確信している!!」
ラッシュ「戯言を……この肉体は今、完全に俺の手中にある。元に戻るなんて事は万に一つ無い」
ラッシュは剣に雷属性をエンチャントすると、フェインに斬りかかった。今のフェインにこの攻撃を防ぐ術はなかった。
「みんな、すまねえ」フェインは心の中で死んでしまう事を仲間達を思い出しながら謝罪した。だが、ラッシュの剣はフェインには届かなかった。
デスタ「フェイン、何をしている?こんな所でやられるようならば勇者にはなれんぞ」
フェインの絶対絶命の危機を救ったのはデスタだった。二人の剣が激しくぶつかり合い辺りに火花が飛び散る。
フェイン「デスタ……へへ、お前はいつも良い所を持っていくなぁ」
デスタ「さあ立て、立ち上がれフェイン!お前の力はこんなものではないはずだ」
フェイン「ハハハ、こっちは怪我人だぞ!無茶言うぜ全く」
デスタの登場によって精神的に元気を取り戻したフェインの心に再び闘志が宿った。
さらにギガント・ギアを見たルプラスとリンの二人も砂浜に駆けつけ、戦況はデスタ達が圧倒的優勢になった。それを見たラッシュは流石に分が悪いと思ったのか、デスタとの戦いを中断すると近くのギガント・ギアに登って行った。
ルプラス「ちょ、ちょっと!今のラッシュじゃない?どう言う事?」
フェイン「俺が説明する。それより今はクロウさんの手当てを」
四人は動かなくなっているクロウの元へ駆けつけた。辛うじて息はあるが、かなり危険な状態だった。ルプラスとリンは早速、治癒の魔法やら薬草を使ってクロウとフェインの怪我を治療を始めた。その間にデスタとフェインは状況を二人に説明した。
リン「ラッシュ君、彼を何とかして元に戻す方法は無いのでしょうか?」
デスタ「手はある」
フェイン「そうか!!お前の力を使って奴の魂を引きずり出すのか」
デスタ「そう言う事だ、お前達はここで安静にしていろ。後は私がやる」
デスタは頭の上に乗っているバルをクロウの横に置くと、一人でラッシュのいるギガント・ギアへ向かおうとした。
フェイン「ちょっと待って!いくら厄災王の力があるって言ったってよ、アイツの強さは半端じゃないんだぜ。一人で大丈夫かよ?」
デスタ「さあな、大丈夫じゃないかもしれんな」
フェイン「なら俺も行くぜ」
デスタ「ダメだ。今のお前が来ても足手まといになる」
フェイン「くッ……ハッキリ言うな!」
リン「デスタさん、仮に皇帝を倒せたとしてもギガント・ギアを止めないと大陸中が大変な事になるんですよ。皇帝を追うのは後にしてもいいのでは?」
デスタ「いや、恐らくガルデュークを倒せば全てのギガント・ギアは止まるだろう」
ガルデュークを倒せば全てのギガント・ギアが停止するとデスタは予想していた。その根拠とは、ギガント・ギアの核となるクリスタルは全てガルデュークの魔力で出来たクリスタルを動力源としているからである。
ガルデュークが復活したタイミングでギガント・ギア達も復活したのなら、二つは繋がっている可能性が高い。よって、ガルデュークを倒せばギガント・ギアは停止すると言う結論に至ったのだった。
デスタ「今が勝機だ。ここで奴を逃せば私達に勝ち目はないだろう」
この戦争を終わらせるには皇帝を倒すしかないのはフェインやリンも重々承知していた。「行って来る」と一言言ってラッシュの後を追うため、時計塔より大きいギガント・ギアを登って行くデスタをフェインは止める事が出来なかった。
帝都南.大草原……
その頃、地上にやってきた二人の魔王軍幹部は消息不明になった魔王軍幹部ミュアルの死体を見つけていた。死体には何か長い物が頭から下半身を突き刺した様な痕があった。
アクマ「んー、これは酷いですねぇ。彼女をこれほどまで痛めつけるとは、一体誰が」
ズン「無駄口はいい……さっさと連れて帰るぞ」
アクマ「全く、ズンさんは真面目ですねぇ」
アクマは死体となったミュアルを担ぎ上げた。すると「貴様ら、魔王軍だな?」と二人に話しかけて来る声が背後から聞こえてきた。振り向くと、黄金の鎧を身に纏った屈強な男が立っていた。
レオニオル「我が名はレオニオル!帝国四将軍が長、貴様ら魔王軍を生かして帰す訳にはいかんな」
レオニオルと名乗った男は、二人が返事をするよりも速くズンに斬りかかっていた。レオニオルの黄金の大剣がズンの脳天に直撃した。しかし、ズンの甲冑には傷一つ付かなかった。
レオニオル「なッ……俺の剣を頭で受け止めただと!?」
ズン「無駄だ…この甲冑は最強。どんな武器を使っても傷一つ付かない」
デスタ達と帝国の決着の時は近い。帝都を目指し突き進むギガント・ギア軍団を止めなければ、世界は再び恐怖のどん底に落ちるだろう。デスタは肉体を乗っ取られたラッシュを救う事が出来るのだろうか…………………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます