第80話 ギガント・ギア
デスタとバルはフェインを探すため南の大草原まで来ていた。至る所に死体が転がっており、この場所で激しい戦いがあったのは一目瞭然だった。しかし、その甲斐はあった。草原には反乱軍の旗が高々と沢山掲げられてあったのだ。そして、大勢の怪我人達が雑魚寝させられ、手当てを受けていた。
死臭の中デスタは仲間達を探し歩いた。しばらく歩いていると、数十人の反乱兵達が沢山の担架に人を乗せてこちらへ向かってくる。戦場なのだから怪我人が出るのは当たり前なのだが、デスタは何気なく担架で運ばれている人の顔に視線を向けた。
その瞬間、デスタの背筋に冷や汗が流れた。そこには数えきれない程の切り傷で戦闘不能になったピノが眠っていた。
デスタ「ピノ!!何があった!」
デスタは運ばれて行く担架に付きながらピノの手を優しく握った。すると、ピノは意識が
ピノ「あ…姉御……無事だったんだね」
デスタ「当たり前だ。それよりその怪我、誰にやられた?お前をここまでやれる奴は少ないだろう」
ピノ「皇帝だ……皇帝がラッシュの体を奪って俺達を……ぐッ」
喋るだけでも辛そうなピノだったが、何があったのかを語り始めた。
ピノやミトラ、ローズを含めた反乱軍達はラッシュの肉体を乗っ取ったガルデュークに戦いを挑んだ。しかし、結果は惨敗。ガルデュークの力はピノ達の予想を遥かに超えていた。そして、その場にいた反乱軍達をあらかた片付けるとギガント・ギアの居る南の砂浜へ向かって行ったと言う。
ピノ「姉御…皇帝は強い……滅茶苦茶強い」
デスタ「ああ、分かってる…心配するな……」
ピノ「うん。俺は心配しないよ……姉御やフェインが皇帝を倒してラッシュを助けるって信じてるから!!」
ピノは言いたい事を言い終えると、そのまま眠るように意識を失った。そして、運ばれて行くピノの担架を追うように、沢山の担架が次々に運ばれていく。その中にはローズやミトラの姿もあった。デスタは彼女達が運ばれて行くのを見送ると、一人ガルデュークの向かった砂浜へ走って行った。
その頃、南の砂浜では一足先に辿り着いたクロウが海からやってくるギガント・ギア達を見上げていた。既に何体かのギガント・ギアは上陸し、大きな地響きを起こしながら要塞へ向かって歩き始めている。
クロウ「これは……大昔に海の底に沈んだはずの帝国の最終兵器!?」
その圧倒的な大きさにクロウが驚いていると、遠くからフェインが走って来た。息を切らしながら砂浜に到着したフェインは膝をついた。
フェイン「はぁ…はぁ…何でこんなにギガント・ギアが沢山いるんだよ……」
クロウ「フェイン君か……君もアレを見て駆けつけたのか?」
フェイン「あ…ああ。前にギアノアって街でこいつが大暴れした事があったんだ。その時は一体だけだったんですが……この数はヤバいですよ」
クロウ「む、君はギガント・ギアと戦った事があるのか?」
フェイン「うーん、正確に言うとデスタが戦ったんだけど……とにかく一撃で街を半壊させたり滅茶苦茶な兵器っすよ」
フェインがギガント・ギアについてクロウに説明していると、どこからか強烈なファイアボールがフェイン目掛けて飛んできた。すかさず剣で打ち返すと、そこには血の傭兵団のジャックとキングが立っていた。彼らもまたギガント・ギアを発見してこの砂浜にやって来たのだろう。その大きさに驚いている様子だった。
しかし、ジャックはフェインを見つけるや否や猪が如く突進でフェインを空中へぶっ飛ばした。体全体に炎を纏ったタックルは強力で、吹っ飛ばされたフェインが地面に着くよりも速く再び空へ吹っ飛ばす。
ジャック「ようやくてめえにリベンジ出来る時がきたぜフェイン!俺がどれだけこの時を待ったか分かるまい」
フェイン「痛ってええええ!!やりやがったな!!」
着地の際に背中を強打したフェインはすぐに立ち上がると、ジャック目掛けて小石を投げた。石はジャックにあっさり躱された。しかし、次の瞬間ジャックの視界からフェインが消えた。
ジャック「なッ…!?野郎どこ行った」
フェイン「遅すぎるぜ、お前……」
フェインは一瞬でジャックの背後に回っていた。その圧倒的スピードの正体は、自身のスピードを一時的に上げる加速魔法アクセルだった。ジャックは咄嗟に防御の体勢に入るが、フェインの回し蹴りが炸裂した。
ジャック「フンッ…流石に強いな」
キング「手を貸そうか?」
ジャック「冗談だろ?お前はそっちのデカイ棺桶背負った女とやれよ」
フェイン&クロウVSジャック&キングの構図が出来た。四人の間につむじ風が巻き起こる。
フェイン「くそー、今はお前らの相手をしてる場合じゃねえんだよ」
クロウ「素早く倒せば何も問題は無い」
フェイン「そ、そりゃあそうだけど……」
フェインと戦いたくてウズウズしているジャックが戦いの火蓋を切ろうとフェインに飛び掛かろうとしたその時、突然空気が冷たくなりその場にいる全員に緊張が走った。
そして、ラッシュの姿をしたガルデュークがズカズカと四人の間に入って来た。
フェイン「ラッシュ!?お前怪我は大丈夫なのかよ」
ラッシュ「……残念ながら俺はお前達の知るラッシュではない」
フェイン「は?お前何言ってんだよ」
困惑するフェイン達だったが、ラッシュの様子がおかしいのは一目瞭然だった。フェインとクロウは即座に警戒態勢に入ったが、ジャックとキングの二人はラッシュに飛び掛かった。
キング「ジャック!こいつは帝国の皇子だ。ここで殺れば手柄だぞ」
ジャック「分かってる!こいつから焼き殺せば良いんだろ?」
二人は全力でラッシュに攻撃した。しかし、ラッシュは二人の攻撃を余裕で回避するとキングの首に剣を当てた。そして音も無く切断された首がボトッと砂浜に転がった。一瞬の出来事で状況が飲み込めない様子のジャックの前にラッシュは立った。その表情はとても人を殺したとは思えない程涼しい表情だった。
ラッシュ「フン……貴様らでは俺の相手は務まらんか」
無慈悲に振り下ろされた剣はジャックの肉体を左右に分けた。白い砂浜を赤い血が染め上げる。ラッシュはあっさりと傭兵団の二人を殺すと、次の標的はお前達だと言わんばかりに剣先をフェイン達に向けた。
ラッシュ「ん?貴様どこかで会ったか?」
ラッシュはクロウの姿を見ると何かを違和感を感じたのか剣を下ろした。
クロウ「ラッシュ君ではないな……何者だ」
ラッシュ「ガルベルグ帝国初代皇帝ガルデューク。故あって今はこの姿だが、力は落ちていないぞ」
クロウ「なるほど……お前が感じた違和感は間違いではないようだ」
ラッシュ「何だと?」
クロウ「フ、私の事を忘れたのか?それともこの姿では分からないか?」
クロウは背負っている棺を下ろすと、呪文を唱えた。そして、中で眠っている前世の肉体に戻った。棺の蓋がゆっくりと開き、元の肉体に戻ったクロウが棺の中から出てきた。クロウは抜け殻になった現在の自分の体を棺に寝かせると、棺を繋いでいた銀製の鎖を持った。
クロウ[男]「転生者……これで分かったかい?」
ラッシュ「転生……そう言う事か」
フェイン「え、どう言う事?知り合い?」
クロウ[男]「ああ……ずっと昔、世界中を恐怖に陥れていたガルベルグ帝国を正すため私はガルデュークと戦った」
ラッシュ「フン、思い出すだけでも忌々しい」
クロウ[男]「そして激闘の末、私はガルデュークをクリスタルにして世界中へ散らした」
クロウの前世。それは恐怖の皇帝を一人で倒したガルベルグ帝国の英雄であった。思わぬ因縁があったクロウとガルデューク。
果たして帝国最強の切り札ギガント・ギア軍団と悪の皇帝ガルデュークを討ち倒し戦争を終わらせる事は出来るのだろうか…………
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