第79話 誰が最強か知るがいい!!

 帝都南の大草原の先は大海原へと続く砂浜が広範囲に広がっている。そこに、一人の反乱兵が戦場から離れ、岩陰に身を隠していた。



反乱兵「チッ……この怪我では戦えないか」



 兵士は敵との戦いで脚に怪我を負っており、戦える状態ではなかった。出血は酷く、このままでは出血死してしまう可能性がある。そこで、何か応急処置が出来る物がないか辺りを見回すと、帝国兵の死体が近くの草むらで隠れる様に横たわっているのを見つけた。恐らく、この帝国兵も自分と同じように戦場から逃げて来たのだろう。だが、自分より怪我が致命的だったようだ。



反乱兵「クソッ…俺も早くこの怪我をなんとかしないとコイツみたいに……」



 反乱兵は自分にも死が迫っている事に焦りながらも、死体の側に投げ捨てられていたポシェットの中を調べた。

 中には猛々しい赤い色をした帝国旗が巻物状に丸められていた。他に使えそうな物はない。しかし、布を見つけられたのは幸運だった。これで簡易的な包帯が作れる。

 反乱兵は早速ナイフで旗を切ると、素早く傷口を抑えた。



反乱兵「ふぅ……これでひとまずは安心か」



 応急処置を終えた反乱兵は岩陰から出ると、脚を引きずりながらも砂浜に向かった。そして、帝都方面を見る。遠くで爆発や煙が上がっているのが見えた。まだ戦争は終わっていないのだろう。だが、ここまで来れば戦争に巻き込まれる事はない。このまま海に沿って歩き、反乱軍の本拠地アンダーゲートを目指そう。反乱兵はゆっくりと歩みを進めた。

 どれくらい歩いただろうか。波の音しか聞こえない静かな砂浜を反乱兵は一歩ずつ確実に進んでいた。白い砂浜は途方もなく続いているように見える。そんな反乱兵にも少しずつだが、疲れが出始めていた。砂と言うのは歩き辛いものである。脚を怪我している自分にとって、砂の歩き辛さは普段の倍疲れるものだ。本当はそんなに時間は経っていないのかもしれない。だが、照りつける日差しも相まって体力の限界は近かった。



反乱兵「ダメだ……休憩しよう……」



 反乱兵は砂浜を離れ、近くの森にある木陰に腰を下ろした。そして、何も考えずただぼーっと海を眺めていた。しばらくして、。蜃気楼で歪んで見えるが、確かに存在している。あんな所に人がいるはずがないのに。



反乱兵「ん?こっちに向かって来ている……のか?」



 人影は明らかにこちらに向かって歩いて来ている。しかも、水平線上にちらほら他の人影も見える。人影はどんどん増えていき、ざっと数百はいるだろう。

 そして、ある程度距離が近づいて分かったのだが、この人影達は思ったより大きいかもしれない。人影が一歩近づくたびに緊張が高まり、拳を強く握ってしまう。



反乱兵「こ…これは……!?」



 反乱兵はついに人影をハッキリと視認した。彼の目には大きな影が写っている。



反乱兵「これは何だ!?俺は悪夢でも見てるのか……」



 脚はかなり痛むが、そんな事を言っている場合ではなくなった。急ぎアンダーゲートに帰還して報告しなくては。彼の頭にはそれしかなかった。


帝都南.大草原……


 その頃、ラッシュ達は大草原にいる帝国軍と魔王軍をほとんど壊滅させ勢いづいていた。



ピノ「勝てる!勝てるよ俺達」


ローズ「勝利は近いよ、もう一踏ん張りだ」


ミトラ「油断しちゃダメよ……帝国にしろ魔王にしろ、大将を討ち取らないと戦争は終わらないわ」


ピノ「わ、分かってるよ……」



 反乱軍の優勢で兵士達の志気も高まる中、ラッシュが一人皆の輪から外れうずくまっているのにピノは気が付いた。



ピノ「どうしたの?怪我でもした?」


ラッシュ「……一つ質問していいか?」


ピノ「何だよ突然」


ラッシュ「この世で一番強いのは誰だと思う?」


ピノ「え?一番強い奴か。うーん……神様…かな?」



 ラッシュはピノの答えを聞くと、何を思ったのか高笑いした。その反応にムスッとしたピノは頬を膨らます。



ピノ「何だよ……じゃあラッシュは誰が最強だと思うんだよ?」


ラッシュ「クックックッ……それは決まってるだろ」



 突然、ラッシュはピノの腹を強く殴った。堪らず地に膝をつくピノを見て満足げな表情を浮かべているラッシュ。



ピノ「何すんだよ……」


ラッシュ「最強はこの俺だ!!」


ピノ「は?意味分かんないぞ」



 ラッシュは剣を引き抜くと、ピノに斬りかかった。何が起こっているのか分からないピノは、唖然として動かない。そして、ラッシュの剣がピノの頭部に振り下ろされた。

 しかし、間一髪の所でローズのレイピアが剣を弾いた。これで怯むかと思われたが、ラッシュは再び斬りかかってきた。

 ローズとラッシュの剣は激しくぶつかり鍔迫り合いになる。その隙にミトラがピノを背負って二人から引き離した。



ローズ「ラッシュ君……一体どうしたんだい?」


ラッシュ「クックックッ……ラッシュ?誰だそいつは。俺は皇帝、ガルデュークだ」


ローズ「皇帝だと……何を言っているんだ」



 ラッシュはガルデュークと名乗った。周りの者達は皆困惑しているが、ピノには彼の言っている意味が分かった。



ピノ「ラッシュの体を乗っ取った……そう言う事だろ?」


ラッシュ「その通り!俺は先程厄災王の力を持つ者に敗北した。認めたくない事実だが、奴は俺より強かった。そして俺は魂だけの存在となり無力な存在と化したはずだった……」


ピノ「(厄災王の力……姉御の事か)」


ラッシュ「だが、俺は幸運だった。まさか俺と同じ血統の戦士がこんな近くにいるとはな」


ミトラ「皇帝の血統って……ええ!彼、帝国皇家の人だったの!?」


ラッシュ「そうだ、この肉体は紛れもなく俺の子孫。俺に相応しい新たな肉体だ!」


ミトラ「……これじゃあ戦おうにも彼の体を傷つけてしまう」


ラッシュ「クックックッ…出来るのか?お前達に俺と戦う覚悟あるのか?無理だよなあ!?出来ないよなあ!?」



 ガルデュークは勝ち誇った様子で高笑いした。皆悔しそうに立ち尽くしている中、一人だけ諦めていない者がいた。



ピノ「もう一度、姉御がお前の魂を引きずり出す。その時がお前の最後だ」


ラッシュ「フン、確かに奴の力は強い。だが、俺の元まで辿り着けるかな?」


ピノ「どう言う意味だ…」



 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるガルデューク。それと同時に激しい地響きが聞こえてきた。そして、人々は海の向こうから大きな人影が大草原に向かって進軍しているのを目撃した。



ピノ「嘘だろ……こんなのってないよ……」



 人々が目撃した人影にピノは見覚えがあった。忘れたくても忘れられない程の光景がフラッシュバックする。ピノは力なく膝から崩れ落ちた。



ラッシュ「あれは帝国最強の切り札だ。知っている者もいるみたいだが?」


ミトラ「ピノはを知ってるの?あの巨人達は何」


ピノ「あ…は……」


ラッシュ「恐怖で声が震えているぞ。これで分かっただろう?誰が最強か知るがいい!!」



 海からやってきた数百にも及ぶ人影。それは、ガルベルグ帝国最大の兵器であり、かつて世界を恐怖のどん底に陥れた巨人。



  …………

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