第78話 戦場

帝都南.大草原…… 


 見渡す限り緑の大草原にて、ラッシュとピノはボロボロになりながらも襲ってくる帝国兵や魔王軍を次々に撃退していた。すると、二人の元に花騎士ローズが颯爽と白馬に乗ってやって来た。相変わらずのイケメン具合である。周囲の女性の兵士達の目の形がハート型になっているように見える。



ローズ「ラッシュ君、ピノ君、助太刀に来たよ」



 長い金髪をなびかせレイピアを引き抜くと、空中で一回転して華麗に着地した。その瞬間、味方の反乱軍達から歓声が上がった。ローズは恥ずかしそうに咳払いすると、レイピアを構えた。



ピノ「ローズさんかっけええええ!!イケメン過ぎるよ。俺もローズさんみたいな男になりたい!!」


ローズ「は…ははは…………ありがとうね」


ピノ「あれ、なんか微妙な反応」


ラッシュ「ピノ、ローズさんは女性だぞ」


ピノ「え、そうだったの?確かに美形だけど女っぽくないから、俺はてっきり男の人だと思ってたよ」



 ピノの一言が刺さったのか、ローズの顔から覇気が抜けている。それを見たピノは慌てて謝るが、しばらく立ち直れそうになさそうだ。すると、そこに一匹の飛行型の魔物が上空からローズ目掛けて急降下して来た。魔物の足には鋭い爪が生えている。高い殺傷力がありそうだ。ラッシュは魔物に狙われている事を急いでローズに教えるが、覇気の無い顔はかなり頼りない。



ラッシュ「(ローズさん大丈夫か?普段ならあれくらい余裕で躱せると思うが……嫌な予感がする)」



 ラッシュの不安は当たった。ローズが移動しようと足を上げたその時、見事に靴が滑った。



魔物「ケケケーッ!!ドジな野郎だぜ」



 転びそうになるローズを馬鹿にしながら魔物は加速した。誰もが魔物の攻撃をまともに受けてしまうと思った。だが、魔物とローズの距離が残り1センチまで接近した瞬間、何者かの鋭い回し蹴りが決まった。魔物の首は吹き飛び、ローズは辛うじて助かった。



ミトラ「良かった、みんな無事のようね」



 ローズを間一髪助けたのは獣人のミトラだった。彼女の蹴りはミドピラ闘技大会の時数段威力が上がっているように見えた。そして、周りからまたもや歓声が上がった。



ローズ「かたじけない……簡単に心が乱れた私を許して欲しい」


ミトラ「ローズさんは悪くないですよ」


ラッシュ「ああその通りだ。ピノ、もう少し考えてから発言しろよ」


ピノ「わ、悪かったよ。もうローズさんを女っぽくないって言わないよ」


ローズ「ガーンッ……そうですね。やっぱり私に女っぽさはないですよね……」


ラッシュ「ピノ……お前は話を聞いてなかったのか?」



 南の大草原で四人が揃ったのと時を同じくして、要塞内の誰も居なくなった医務室ではブレイブがカナの手当てをしていた。そして、ベッドでは帝国四将軍セレカが怪我の手当てを終えて眠っていた。



カナ「ブレイブさん、本当にこの人手当てして良かったんですか?」


ブレイブ「良いんだよ。傷ついてる人を放っとけないのが僕の性格だからね」


カナ「目覚めたら襲ってくるかもしれませんよ?」


ブレイブ「その時は僕が何とかするよ」



 優しい笑みを浮かべながらブレイブは救急箱を閉じた。すると、彼の首元に鋭く磨がれた長剣が当てられた。



セレカ「お前達は反乱軍の者だな?」


ブレイブ「おや、もう目覚めたのか。気分はどうだい?」


セレカ「ふざけた奴だな、敵をわざわざ助けるとは」



 いつから目覚めたのだろうか、長剣を持ってブレイブの背後に立っているのはセレカだった。だが、こんな状況だと言うのにブレイブの表情は穏やかだ。



カナ「このぉ……ブレイブさんは死にかけてたあんたを助けたのよ?いくら敵同士だとしてもお礼の一つくらい言ったらどうなのよ!」


セレカ「フン、そんな事はどうでもいい。私の目的はただ一つ、帝国の敵を消す事。そしてお前達が敵である以上、ここで死んで貰うぞ」


ブレイブ「まあまあ、そう殺気を出さずに落ち着いて話をしよう」


セレカ「私はお前にする話などない……死ね!」



 セレカはブレイブの言葉をバッサリ切ると、長剣を振り上げた。その瞬間、ブレイブは一瞬でセレカの背後に回ると長剣を奪った。そして、何が起こったのか分からない表情をしているセレカの前で剣をへし折った。



ブレイブ「話し合いにこれは必要ないね」



 そう言ったブレイブの顔は相変わらず優しかったが、謎の威圧感を放っていた。反抗的な態度を取っていたセレカも、流石に臆したのか大人しくベッドに腰を掛けた。



ブレイブ「ありがとう。話を聞く気になってくれて」


セレカ「仕方ない、話せ」


カナ「ぷぷぷー、ブレイブさんの威圧感にビビってるな?」


セレカ「女……殺されたくなかったらそのうるさい口を閉じてろ」



 ブレイブはセレカの棘のある言葉に苦笑いしながらも話を始めた。話の内容は、要約すると反乱軍側に寝返って欲しいとの事だった。ブレイブとカナは必死に帝国の悪政をセレカに説明した。しかし、セレカは頷かない。



セレカ「お前達の言う通り、今の帝国が最低の国である事は私も知っている。だが、お前達の味方になる事は出来ない」


カナ「どうして帝国の味方をするのよ」


セレカ「帝国には孤児だった私を育ててくれた恩がある。だから私が帝国を見捨てる事はない」


カナ「でもブレイブさんにも助けて貰った恩があるじゃない」


セレカ「それはそちらが勝手にやった事だ」


カナ「そ、そんなの酷いよ!」



 怒りそうになるカナを抑え、ブレイブは新しい提案をした。その提案とは、帝国軍と反乱軍で協力して魔王軍を倒すと言うものだった。



ブレイブ「味方になるのが無理なら協力しよう」


セレカ「協力か……」


ブレイブ「どう?帝国側にも悪い話ではないと思うけど」



 セレナは少し考えると、ゆっくりと頷いた。どうやらブレイブの話に乗ってくれるらしい。



ブレイブ「そうか、帝国が味方なら心強い」


セレカ「勘違いするな。あくまで私がお前達に協力する事を決めただけだ。帝国軍が協力する訳ではない」


カナ「え、どうしてよ」


セレカ「当たり前だろ、帝国のトップは皇帝だ。私に帝国を動かす事はできないぞ」


ブレイブ「それでも構わない。一人でも協力してくれる人がいるなら嬉しいよ」


カナ「ちょっと待ってブレイブさん。嘘だったらどうするの?協力してくれる保証なんてないよ」


セレカ「フン、借りを作ったままなのが気に食わないだけだ。それに、反乱軍と協力して魔王軍を消せれば、こちらとしても都合が良い」



 こうして、ブレイブ達は帝国四将軍セレカと協力関係になった。

 その頃、帝都上空で浮遊している魔王城では、魔力を大きく消費したゼニスを回復するためのカプセルが用意されていた。



ゼニス「我はしばらくカプセルの中で回復する。その間お前達幹部は連絡が取れなくなったミュアルを連れて来い」



 ゼニスは幹部のアクマとズンの二人に指示すると、カプセルの中へ入っていった。

 アクマは思った。ゼニスが眠っている今が魔王軍をひっくり返すチャンスだと。デスタが再び魔王の座へと返り咲くためにはゼニスを消すしかない。そのため、アクマはまず幹部達を全滅させておきたい所だった。消息が分からないミュアルはさておき、もう一人のだった。まともに戦っても勝てるか怪しい以上、策を考える事にしたアクマ。

 しかし、ズンは隙のない一流の騎士。不意打ちはまず出来ない。反乱軍に力を借りて数で攻めても、十秒も持たないだろう。そんな事を考えていると、鈍重な甲冑をカシャカシャ鳴らしながら話かけてきた。



ズン「何を突っ立っている……魔王様の命を忘れたか」


アクマ「失礼……少し考え事をしていました」


ズン「それは今考えるべき事なのか?」


アクマ「違いますね……」


ズン「ならば早くミュアルを見つけて帰るぞ」



 ズンは数百キロはある甲冑を着ているにも関わらず、軽快に出口へと走って行く。すると、何かを思い出したかの様に振り向くと一言言った。



ズン「一つ言い忘れた事がある……俺は魔王様を裏切る者には容赦しない。例え相手が幹部であってもな」



 遂に動き出した魔王軍幹部の二人。ズンの鋭い一言に冷や汗をかくアクマ。果たして裏切りはバレているのだろうか……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る