第77話 死闘

 六勇者が狙われている事を知ったラオは、右足に魔力を集めると地面を抉るように蹴り上げた。その衝撃で弾丸のように威力を増した無数の地面の破片は、ジョーカーの立っている方向に勢いよく飛び散った。

 だが、ジョーカーは腕の残像が残る程素早く破片を全て弾く。しかし、次の瞬間ラオは姿を消していた。



ジョーカー「消えた……?」



 周囲を見渡してもラオの姿は確認できない。流石のジョーカーも六勇者相手に油断は出来ないのだろうか。冷や汗が額からポタリと垂れた。



ジョーカー「どこに隠れた……逃げた訳ではないのでしょう?」



 しばらくの沈黙がジョーカーを焦らす。だが、こう言うときこそ落ち着きを取り戻すべきだ。彼は下手に動き回らず警戒を続けていた。すると、背後の建物から何かが崩れる物音が聞こえてきた。崩れかけてた瓦礫が落ちただけなのだろうか。はたまたラオが奇襲しようと気を伺っているのだろうか。

 彼の中で考える時間は一秒も掛からなかった。即座に振り向き、右手から凄まじい火力の炎を放射したのだ。



ジョーカー「気配を消していたつもりでしょうが、私には通じませんよ」



 炎は建物から建物へ移っていき、あっという間に燃え広がった。そして、その光景をジョーカーは満足そうに眺めていた。



 ジョーカー「伝説の武闘家の最後も呆気ないものだな……」



 ジョーカーはこの場を離れるため、地面を強く蹴った。高くジャンプして屋根伝いに移動するつもりだったからだ。しかし、どう言う事か体は少しも地面から離れない。恐る恐る足元を見ると、そこには二本の腕がしっかりとジョーカーの足を掴んでいた。



ジョーカー「くッ……生きていたのか」


ラオ「ふぉっふぉっふぉっ……油断したな?」



 ラオは生きていた。ラオが地面を蹴り上げて破片が飛び散ったあの時、ジョーカーは一瞬ラオから目を離した。その一瞬で地中に隠れたのだ。絶好のチャンスを待つために。

 そして、ラオの作戦通り油断したジョーカーは、腕を振り解こうと破壊魔法を纏った両手をラオの腕に近づける。しかし、ジョーカーが触れるよりも速くラオがジョーカーの足を地中へ引きづり込んだ。とてつもない怪力で引きづり込まれたジョーカーの足は、抵抗する間もなく膝までしっかりと埋まってしまった。



ラオ「さて、これで身動きは取れまい」



 地中からモグラの様にひょっこり出てきたラオは、身動きの取れないジョーカーの前にも姿を現した。



ジョーカー「どうして正面から掛かってこなかったんです?」


ラオ「それは簡単な話じゃ。わしはお主の力を知らない。闇雲に突っ込めば死を招くかもしれんからのぉ」


ジョーカー「そうですか……ククッ……クックックッ…アッハッハッハッハッ!!!」



 突然狂ったように笑いだしたジョーカー。これにはラオも言葉が出なかった。彼の笑っている姿はまるで狂気そのものだったからだ。



ジョーカー「全く用心深い人だ……実に厄介極まりないですよ」


ラオ「お主が何故わしらを裏切ったのかは知らんが、敵であるのならここで死んで逝け」


ジョーカー「クックックッ……そう簡単に行きますかね?」



 ラオは高く飛び上がると、両手を空へと突き上げた。その先にはみるみる魔力が集まっている。そして、あっという間に巨大な魔力の塊が出来上がった。



ラオ「一撃で終わらせる」


ジョーカー「ほぉ…当たるとヤバそうですねぇ」


 

 相変わらず動けないジョーカーを相手に、ラオは容赦無く魔力玉を投げつけた。ジョーカーを大きな影が覆う。地面に激突した魔力玉は大きな爆発と共に、辺り一帯を吹き飛ばした。



ラオ「終わったか……」



 爆発の衝撃で出来た大きなクレーターを見ながらラオは勝利を確信した。そして、爆発を見て駆けつけた反乱軍や帝国軍の部隊らも、その威力に騒ついている。

 そんな中、突如上空からこの世のものとは思えない程大きな雄叫びが辺りに響き渡った。空を見上げると、そこには

 人型はゆっくりとクレーターの中心に降り立つと、目だけを動かして周囲を見回した。



ラオ「あれは……まさか!?」


黒い人型「察しがいいですね……お前の思っている通り、私がジョーカーだ」


ラオ「……その姿がお主の本当の姿と言う事か」


ジョーカー「この姿は転生前の私の姿に一番近い……そして、人間である時よりも強い」



 ジョーカーが言葉を話し切った瞬間、彼は一瞬でラオの目の前まで迫っていた。そして、ラオの頭に右手を軽く乗せた。



ジョーカー「竜の力は全てに勝っている。人間ごときが私に勝とうなどとおこがましいのだよ」


ラオ「勝つじゃと?それはちと違うな」


ジョーカー「違うだと……?」


ラオ「わしはお主を殺す……」


ジョーカー「フ、何を言うかと思えば、殺す……ですか。勝つのと何が違うんです?」


ラオ「こう言う事じゃ」



 突然ラオはジョーカーの右腕を掴んだ。それと同時にジョーカーは破壊魔法を発動した。しかし、本来触れた者を粉々に吹き飛ばすはずの破壊魔法は何故か不発に終わった。



ジョーカー「馬鹿な!?何故発動しない」


ラオ「何かしようとしてたみたいじゃが、無駄じゃよ。


ジョーカー「そんな奥の手を持っているとは……流石に強いですね。ですが私の手を掴んだ状態で充分に戦えますかね?」



 ジョーカーは口を大きく開けると、そこから灼熱の火炎を吐き出した。超至近距離で放たれた火炎はラオの体を燃やしていく。だが、ラオはジョーカーの手を離そうとしなかった。



ジョーカー「しぶといですね。だが、体力の限界は近いんじゃないんですか?ラオさん」


ラオ「フッフッフッ……もう十分じゃ」


ジョーカー「十分?」


ラオ「わしの生命エネルギー全てを解き放つ準備は終わったと言う事じゃよ」


ジョーカー「生命エネルギー……まさか、あの禁断の魔法を使うつもりか!?」


ラオ「言ったじゃろ、お主を殺すと」


ジョーカー「待て!そんな事をしたら貴方も死にますよ」


ラオ「それはお互いさまじゃろ」



 ジョーカーはラオを振り解こうと大きな翼を羽ばたかせ浮上した。しかし、上空へ上がり始めると同時にラオの肉体は崩れる様にポロポロと消えていた。そして、二人の周りには神々しい光が立ち込め始めた。



ジョーカー「間違いない、これは生命爆発の魔法……道連れにするつもりなのか!?」



 帝都上空にて、戦場を照らし出す命の光が燃え尽きた。その光を要塞内から見ていたデスタは一目見ただけで何が起こったのか察する事が出来た。



デスタ「生命爆発か……忌々しい魔法だ……」



 過去の自分を思い出すデスタの頭の上で、バルが小さく跳ねた。どうやら早く仲間達と合流しろと言いたいらしい。

 デスタはバルの指示に従い、激しい戦闘でボロボロになった皇帝の間を後にするのだった…………………………………………………

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