第76話 傭兵団の目的

 リンとクイーンが根っこの檻の中で戦っている頃、外では毒煙が広範囲に渡って撒き散らされていた。毒煙に触れた植物は一瞬にして枯れ、その危険性は一目でわかった。



ルプラス「物騒な能力ね」


ラーダン「私はこの力が好きじゃないんです。全ての生命が枯れ果て私の前から消える。こんな寂しい事がありますか?」


ルプラス「それなら、その力を使わないってのはどう?」


ラーダン「クックックッ……そうは行きませんよ。私にも負けられない事情があるので、勝ち方に文句も言ってられないのさ」



 そう言うとラーダンは自身に巻き付いている包帯をルプラスへ飛ばして来た。すかさず後方へ飛び退き包帯を躱した。だが、包帯はまるで意思を持っているかの様にルプラスに襲いかかって来た。避けても避けても次に次に飛んで来る包帯は、流石のルプラスでも全て避けきる事は出来なかった。

 そして、ついにルプラスは右手と左脚を絡めとられてしまった。毒煙の中へ引きずり込もうと引っ張るラーダン。ルプラスは必死に抵抗するが、ジリジリと毒煙は近づいてくる。



ラーダン「この煙に触れれば、君は一瞬にして枯れる。そして、この状況まで持ち込んだ99%


ルプラス「甘いんじゃない?その計算」



 ルプラスはニヤリと笑みを浮かべると、口から何かの種を複数吹き出した。種はラーダンの足元に落ちると、地面に埋まっていく。



ルプラス「咲け、ドクトゲカズラ!!」



 ルプラスの掛け声と同時に、地面に撒かれた種は急速に成長を始めた。ラーダンの立っている地面が盛り上がり、小さな屋敷ほどある巨大植物が生えてきた。太いくきにはびっしりと棘が生えており、茎の先端には鋭い歯の生えた花が咲いている。

 流石のラーダンもこの大きさには驚いた。バランスを崩した拍子に、ルプラスは自身に巻き付いている包帯を解くと、植物の上に立った。そして、数メートル下からこちらを眺めているラーダンに手を振った。



ルプラス「やっほー!包帯お化け君聞こえてるかな?このドクトゲカズラは魔界最大の大きさを誇る食人植物なんだよー!すごいでしょ」


ラーダン「魔界の植物…ですか。どうしてそんな代物の種を持っているのか分かりませんが、危険な匂いがしますねえ」



 ドクトゲカズラの花達は大きく花びらを開くと、空気を吸い込み始めた。ラーダンの撒き散らした毒煙がみるみる吸い込まれていき、ものの数十秒で何もなくなった。



ラーダン「私の毒煙を吸って枯れない植物がこの世に存在するとは……」



 その頃、植物の檻の中では本気を出したクイーンの猛攻がリンを襲っていた。炎に氷、剣に斧。大勢の戦士達から奪った戦闘技術は数百にも上っているだろう。しかし、どれもリンには通じなかった。



クイーン「そんな馬鹿な……何故勝てない。これだけの技を持ってしても倒せないのか……」


リン「貴方の敗因はたった一つですよ……能力に頼ってばかりで技の鍛錬を怠っていた」


クイーン「ふざけるなッ!!私に敗北は許されないんだよおおおおおお!!!」



 クイーンは残った魔力を全て両手から放った。それを見たリンは、すかさず自身の目の前に杖で円を描いた。すると、クイーンの放った魔力は全て円の中へと吸い込まれ、クイーンの背後にもう一つ円が現れた。



クイーン「な……何が起こった」


リン「魔法円マジックリング……貴方の魔力は全て自身へと返る」



 クイーンの背後に現れた円から、先程吸い込まれた魔力が放出された。そして、自身の魔力と共にクイーンは消え去った。しかし、リンも思った以上に魔力を消耗しており、おぼつかない足取りで檻から出るのだった。

 硬い根っこを掻き分け外に出ると、ルプラスの方も戦いが終わっている様だった。



リン「館長!こっちは終わりましたよ!!」



 リンの声に反応してルプラスは手を振っている。彼女の足元にはラーダンが倒れていた。完全に気を失っている様だ。そして、ライラ、ソハヤ、キースの三人も集まっていた。



ルプラス「こっちも終わったよ」


リン「流石館長!お強いですね」


ルプラス「はっはっはっ!そりゃあそうだよ。なんたって六勇者なんだからね」


ソハヤ「そうだ!マリア校長はどこに?」



 皆の空気が重くなる。ライラは涙を隠すため両手で顔を覆い、うずくまった。ソハヤもその雰囲気から察したのか、これ以上何も言わなかった。

 その頃、誰も居なくなった帝都の街では足止めをしているラオとキングが戦っていた。しかし、ラオはキングの素早い槍捌きをもろともせずに圧倒していた。



ラオ「どうした若者よ、お主の力はそれだけかのぉ?」


キング「くッ……勇者アルマと共に戦った伝説の武闘家か……流石に分が悪いか」


ラオ「先に言っておくが、わしからそう簡単に逃げられると思わない事だ」


キング「逃げるだと?老人、あまり舐めた態度を取ると後悔するぞ」


ラオ「ほお、では戦いの続きを始めるか……」


??「その必要はないですよ」

 


 突如、二人の戦いに現れたのはジョーカーだった。キングはジョーカーの姿を視認すると即座に槍を収め、彼の足元に跪いた。



ジョーカー「キング、この人は強いだろ?」


キング「は!私の実力ではとても勝てる相手ではありませんでした」


ジョーカー「それならキングはエースの所へ向かってくれ。先にジャックも向かってるよ」


キング「御意……」



 ジョーカーはキングを逃すと、ラオの前に立ち塞がった。



ジョーカー「さてと、貴方の相手は私がしますよ。自己紹介は…必要ですか?」


ラオ「トリーヴァ、これはどう言う事じゃ」


ジョーカー「クックックッ……それは偽りの名ですよ。今はジョーカーと言う名で通ってます」


ラオ「色々状況が飲み込めんが、どうやら操られている訳ではなさそうじゃな。目的は何だ?」


ジョーカー「そうですねぇ……今の所は色々と邪魔になりそうな六勇者全員の始末と言った所でしょうか」



 そう言うとジョーカーは何かを思い出す様に指を数え始めた。そして、ニッコリ笑みを浮かべるとラオを指差した。



ジョーカー「ラオさん、貴方が居なくなれば残り二人なんですよ。ここで死んで下さい」


ラオ「残り二人?ルプラスちゃんとマリアさん、そしてクロウ……まさか」


ジョーカー「そうです。マリアさんは既に我々が始末しましたよ」


ラオ「そうか……お主は何としてもここで倒しておかねばならんようじゃな」



 ついに、六勇者同士の戦いが始まろうとしていた。触れるだけで木っ端微塵に吹き飛ばしてしまうジョーカー相手に、ラオは勝てるのだろうか………………………………………

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