第73話 ゼニスの謎
デスタとフェインのコンビネーションは完璧だった。その力はあの皇帝ガルデュークや血の傭兵団団長ジョーカー達とも互角に戦えるほどだ。
ジョーカー「二人共、中々やるじゃないですか……」
フェイン「余裕ってか?ムカつくぜ……」
デスタ「フェイン、気を付けろ。奴の破壊魔法を喰らえば一瞬で砕け散る事になるぞ」
ガルデューク「気を付けるのは其奴だけではないぞ!」
ガルデュークは不意を突き二人の背後から、赤雷を纏った槍を薙ぎ払った。デスタは咄嗟に体勢を低くすると、そのままガルデュークへ体当たりをした。フェインは大きく飛び上がって攻撃を回避し、ジョーカーに飛びかかった。しかし、それを待っていたと言わんばかりにジョーカーは狂気を含む笑みを浮かべた。
ジョーカー「クハハハハハア!!勇者ごっこは終わりですよ!フェイン君!!」
両手を大きく広げたジョーカーはフェインが落下してくるのを待ち構えている。よく見ると彼の両手には破壊の力が宿っていた。
フェイン「(あれがデスタの言ってた破壊魔法か……確か喰らったらマズいんだよな)」
ジョーカー「さあ!さあ!私の腕の中で砕け散るがいい!!」
フェイン「よし!アルカランドで過ごした二ヶ月の特訓の成果、見せてやるぜ!!」
フェインはジョーカーに向かって落下する最中、意識を体の中心に集中させた。すると、体の中からぼんやりと温かく、そして優しい光が自分を包み込んでいくような感覚を覚えた。
フェイン「(エンチャントホープで纏っていた光を俺自身に纏わせる新しい力。今ならどんな効果も無視して攻撃できる気がするぜ)」
光を纏ったフェインの飛び蹴りがジョーカーを襲った。しかし、ジョーカーはそれを簡単に受け止めると破壊魔法を発動した。
ジョーカー「私に触れられた時点で君の死は確定した……」
フェイン「そう簡単に行くかよ!!」
光を纏ったフェインに破壊魔法は効かなかった。そして、何が起こったのか分からない状態のジョーカーの顔面に渾身のファイアボールが炸裂した。堪らずフェインの足を離すジョーカー。
フェイン「よっしゃ!決まったぜ!」
ジョーカー「くッ……何故死なない!?」
フェイン「さあな、俺もよく分かんねえ」
ジョーカー「分からないか……フフ、面白いね君。その強さ、本物だ。ジャックが負けるのも頷けるよ」
フェイン「アンタの目的は何なんだ?」
ジョーカー「そこにいる皇帝を殺し、再び竜が支配する時代を作るのさ」
ジョーカーの野望を知ったフェインは、それを阻止するとはっきり宣言した。しかし、ジョーカーは不敵に笑っているだけで、大した反応は返ってこなかった。
その頃、ガルデュークと死闘を繰り広げているデスタ達に、突然凄まじい魔力が降り注いだ。その衝撃で皆吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。傷だらけになりながらもデスタは立ち上がると、周囲を見渡した。すると、皇帝の間の壁に大きな穴が開いていた。穴からは要塞南にある大草原が見えた。そして、その遥か先には海が見える。
デスタ「何だ……今の衝撃は」
ガルデューク「む、魔王が氷の中に居ない!!」
ガルデュークの言った通り氷の方を見ると、中に閉じ込めたはずのゼニスが姿を消していた。そして、皇帝の間全体にゼニスの声が聞こえてきた。
ゼニス「デスタリオス、驚いたか?フフ、我に同じ手は通じんぞ」
デスタ「馬鹿な……
ゼニス「我が無敵の耐性を持っているだけと思ったか。様々な魔法を極めた今、我に不可能はない!」
ガルデューク「不可能はないだと?」
ゼニス「ああそうだ!我は空間を超えて氷の中から脱出したのだ」
ジョーカー「転移魔法ですか……ですがあの魔法は魔力の消耗が激しいですよね?」
ゼニス「くッ……知っていたのか。まあ、そう言う事だ……我は一度城へ引かせてもらうぞ」
そう言うとゼニスの気配が消えた。この場に残ったのは四人。デスタとフェイン、ジョーカーとガルデュークであった。しかし、フェインの姿が見当たらない。どうやら、先程の衝撃で皇帝の間から飛び出してしまったようだった。
ジョーカー「おや?彼が見当たりませんね」
ガルデューク「三つ巴か……いいだろう、来い!」
デスタ「(フェイン……奴はこんな簡単にやられるような奴ではない。それまでわしはこいつらに殺されないようにしなければ)」
三人が向かい合い、第二ラウンドが始まろうとしたその時、帝都東側にある反乱軍の拠点アンダーゲート街から赤紫色の信号弾が発射された。それを見たジョーカーは、即座に構えを解いた。
ジョーカー「おっと急用ができた。悪いけど勝負は二人で着けてくれ」
ガルデューク「俺への復讐を諦めるのか?」
ジョーカー「まさか、ありえない。それより自分の心配をした方がいいと思うよ皇帝さん」
ガルデューク「どう言う事だ?」
ジョーカー「デスタ君は強いよ……私が始末する前に彼女に始末されるかもね」
ガルデューク「戯けたことを…元魔王だから何だと言うのだ。この俺が最強だ!何者も俺の圧倒的力の前には潰されるしかない」
ガルデュークは自分の力に絶対的な自信を持っている。そして、その自信と釣り合うほどの力を彼は持っていた。しかし、ジョーカーは彼の言葉には全く耳を貸さず、霧のように姿を消した。
ガルデューク「ふん、消えたか。奴と魔王は後でこの俺がきっちりと殺してやる。だが、まず貴様から地獄へ送ってやろう」
デスタ「貴様……わしを舐めてるな?」
ガルデューク「そうだ。元魔王と言っても所詮今はただの人間にすぎん……俺の相手ではないな」
デスタ「ほお?では、わしがその自信……打ち砕いて見せよう」
そう言うとデスタは服の裾を捲り上げた。そして、剣も構えず一気にガルデュークとの間合いを詰めた。
ガルデューク「剣も構えず向かって来るとは……正気か?」
ガルデュークは容赦無く槍を薙ぎ払った。あまりの風圧で周りの物が吹き飛ばされる。しかし、デスタは槍を素早く躱すと、腕をガルデュークの腹に突っ込んだ。だが、ガルデュークに痛みは無かった。自分の腹を見ると、デスタの腕が吸い込まれているようだった。
ガルデューク「ッ!?まさか…これが厄災王の力だと言うのか……」
デスタ「ご名答……今から貴様の魂を引きずり出す。それで終わりだ」
ガルデューク「なにッ!?魂に触れる事が出来るだと……」
デスタ「油断したな……皇帝。まともに戦っていたらわしの負けだっただろう」
デスタはガルデュークが抵抗する前に、彼の体から魂を一気に引きずりだした。魂を取り出されたガルデュークは、先程までの強者の風格は無く、地べたに崩れ落ちた。そして、デスタの手には彼の魂がふわふわと浮いていた。
デスタ「フ、呆気なかったな……」
デスタはガルデュークの魂に一言言うと、握り潰そうと手に力を込めた。その瞬間、魂はデスタの指をすり抜け、ふわふわと宙へ飛んで行った。無論、捕まえようと追いかけたデスタだったが、激しい戦いが続いた事で追いかける体力はほとんど残っていなかった。その上、意外と素早く飛び回る魂を捕まえる事は出来なかった。
デスタ「クソッ……取り逃したか。だが、あの姿では何もできまい」
疲れ果てたデスタは床に座り込んだ。すると、突然膝の上に白い毛玉が乗っかってきた。よく見ると、少し汚れてはいるが相棒のバルだった。
デスタ「無事だったか……こっちは一応片付いたぞ」
言葉が分かっているのかいないのか、バルに語りかけるデスタだった。
果たして、魂だけになった皇帝ガルデュークはどこに向かったのだろうか。そして、魔王城へ帰還したゼニスはどうやって氷の中から出たのだろうか。戦争は後半戦へ続く………
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