第72話 陽光

 皇帝の間に現れたフェインはデスタの正体を知った。その衝撃の事実に、立ち尽くしている。



デスタ「フェイン!?聞いていたのか…」


フェイン「ああ……今の話は本当なのか?」



 デスタは沈黙した。今の話が本当だと答えるのが怖かったのだ。自分が元魔王だと知ればフェイン達と敵対するかもしれない。最初は魔界に帰るまでの付き合いと考えていた。しかし、いつからかデスタの中でフェイン達はかけがえのない仲間になっていた。だが、彼らとの旅はもう終わる。正直に言うしかない。



フェイン「デスタ……何か言ってくれよ」


デスタ「あ…ああそうだ……今言っていた事は全て真実だ!わしは魔王だったんだよ!!」


フェイン「そっか……だけどそんな事は関係ねえな」


デスタ「は?自分が何を言ってるのか分かっているのか?」


フェイン「お前が魔王だろうがなんだろうがお前は俺のパートナーだろ?」



 フェインの予想外の反応に思わず笑ってしまったデスタだったが、不思議と気持ちは軽くなった。



デスタ「フ、お前の言う通りだな。私達にはそんな事は関係ない」


フェイン「へへ、んじゃ改めてよろしく頼むぜ相棒」



 二人はお互いに背中を合わせ剣を構えた。デスタはガルデュークと、フェインはジョーカーと向き合った。そして、その様子を氷の中からゼニスが眺めていた。



フェイン「あれ、トリーヴァさん?」


ジョーカー「どうも、トリーヴァ改めジョーカーと呼んでください。ちなみに、敵ですよ……」


フェイン「嘘だろ……あんた六勇者だろ」


ジョーカー「それは仮の姿ですよ。私はそこにいる皇帝ガルデュークに殺された古の竜王です」


フェイン「へー、竜の王ね。大層な肩書きだけど一回負けてるんだろ、本当に強いのか?」


ジョーカー「フフフ、竜王も舐められたものですね。いいでしょう、一撃で粉微塵にしてあげますよ」



 その頃、ラッシュとピノはエースの圧倒的な強さの前で、なす術もなく倒れていた。

 しかし、ラッシュは根性だけで立ち上がった。そよ風が吹いただけで再び倒れてしまいそうなぐらいフラフラだが。立ち上がったのだ。



ラッシュ「おい、そこの黒目野郎……何勝った気でいるんだ?」


エース「ん?まだ立つ力が残っているか……かなり痛めつけたはずだが、しぶとい奴だ」


ピノ「ラッシュ!?自信あるのか?こんな化け物に勝てるのかよお?」


エース「無駄だ……この瞳に宿る闇が全てを教えてくれる以上貴様らに勝ち目は無い」


ラッシュ「闇……そうか闇だ!!」



 何かに気付いたラッシュはエースに向かって一直線で走った。剣を構え迎え撃とうとするエース。鋭く磨がれた曲刀を振り上げられた。しかし、ラッシュは華麗なターンで攻撃を躱すとエースの背後に回った。



エース「ん?何だ……次の攻撃が見えない!?」


ラッシュ「そりゃあそうだ!まだ攻撃する気はないからな」



 ラッシュの目的はエースの背後で倒れていたピノを助ける事だった。急いでピノを担ぎ上げると、ラッシュは一目散にその場から逃げるのだった。



ピノ「うわあッ!?逃げるのかよ!!」


ラッシュ「フン、まあ見てな」



 何か作戦がある事を悟ったピノは、担がれながら矢を弓に装填した。二人の逃げる様をみたエースは無言で追ってくる。ピノは追いつかれないよう矢で攻撃するが、全て弾かれる。二人は巨大要塞の中を必死で走り回った。



ピノ「はぁ…はぁ…追いつかれてるぞ」


ラッシュ「はぁ…はぁ…分かってる。もう少しで出口に着く……そこで奴を仕留める」



 要塞内も帝国兵と魔王軍、そして反乱軍の三つ巴の戦いでかなり荒れていた。そんな中を走り抜けた二人は、命からがら要塞の外へ出る事に成功した。



エース「鬼ごっこは終わりだ。貴様らには少し時間を取られ過ぎた……今すぐ死ね」


ラッシュ「へ、死ぬのはお前だ」


エース「つまらないハッタリはやめろ。この暗黒眼がある限り貴様らに待っているのは死だ」


ラッシュ「俺の動きが読めるなら……やってみろ。悪いが俺はもうお前に負けない」


ピノ「ラッシュ、俺も援護するぜ」


ラッシュ「サンキュ……でも、こいつは俺一人にやらせてくれ」



 ラッシュはピノの援護を断り、剣を引き抜いた。その瞬間、エースはラッシュに向かって飛びかかって来た。二人の剣が激しくぶつかり合う。暗雲が覆う曇り空の下で、一つの戦いが終わろうとしていた。



ラッシュ「お前の暗黒眼の弱点が多分分かったぜ……」


エース「何だと?」


ラッシュ「暗黒眼は闇の力を借りて相手の動きを先読みする事が出来る力……つまり、大きな光の中では使う事は出来ないんじゃないか?」


エース「鋭い奴だ。だが、大きな光なんてどこにある」


ピノ「そうか!太陽の光を使うために外に出たのか……って曇ってんじゃん!」


エース「フ、それが狙いだったか。しかし残念、太陽は出ていないぞ」



 太陽の光の下であればエースの暗黒眼の力も封殺する事が出来る読みだった。しかし、天気は生憎の曇り。打つ手がなくなったのか、ラッシュは無言で俯いた。



エース「無駄な足掻きだったなあ!?ラッシュ皇子」


ラッシュ「それはどうかな?」



 ラッシュは雄叫びを上げながら全魔力を剣に集中させた。そして、剣を大きく振り上げた。すると、剣先から光輝く青い斬撃が空へ放たれた。斬撃は雲を裂き、雲の中から全てを照らし出す陽光が顔を覗かせた。



ラッシュ「あんた言ってたよな?俺の剣がぬるいって。もう一度評価してくれよ、その自慢の眼無しでな」


エース「くッ……この光の量。暗黒眼は使えないか……だが、たとえ眼を使わずとも俺が負けるはずがない」



 二人は同時に斬りかかった。そして、ラッシュの剣が一瞬速くエースを斬り裂いたのだった。傷は深く、ラッシュが剣を収める頃にはエースは絶命していた。死闘の末、辛くもラッシュの勝利で幕を閉じたのだった。

 その頃、カナはレオニオル将軍の力の前に倒れていた。



レオニオル「死んだか……呆気ないものだ」


カナ「(うぅ…強い……この二ヶ月でかなり腕を上げたはずなんだけどなぁ)」



 悔しい気持ちを抱きながらカナの意識は遠くなっていった。そして、力なく倒れているカナを置いてレオニオルは皇帝の間を目指して走り始めた。しばらくして、傷だらけのブレイブが四将軍の一人セレカを背負って現れた。



ブレイブ「カナちゃん!何があったの?大丈夫!?」


カナ「う…ん……ブレイブ…さん?」


ブレイブ「良かった、立てるかい?」


カナ「え…あ……はい」


ブレイブ「それなら、安全な所まで移動しよう。傷の手当てをしないと」


カナ「ちょっと待ってください!その人誰です?」


ブレイブ「帝国の将軍だよ」



 カナは耳を疑った。ブレイブは敵である帝国の将軍を普通に助けようとしているのだ。



カナ「え、将軍って私達の敵じゃないですか!?」


ブレイブ「そうだよ。でも放っとく訳にも行かないだろ?死にそうになってるんだからさ」


カナ「は…ははは……ブレイブさんって本当根っからの勇者なんですね」



 ブレイブとカナはセレカを連れて、傷の手当てをするため歩き始めた。

 そして、三つ巴の戦いはより一層激しさを増していくのであった…………………………

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