第71話 絶対零度

 デスタは両手を合わせると、魔力を溜め始めた。ゼニスにとって唯一の負け筋と言っていい絶対零度アブソルートゼロは、何がなんでも阻止しなければならない。すかさず魔力で剣を作り出すと、凄まじい殺気を放ちながらデスタに飛びかかった。



ゼニス「デスタリオスッ!!我が黙って絶対零度アブソルートゼロを撃たれるのを待つと思うか?二度とその手は喰わんぞおおおお!!」


デスタ「(あと少し時間があれば魔力が溜まりきる……間に合うか?)」



 ゼニスは大きく剣を振り上げ、デスタの目の前まで迫っていた。だが、残念ながら絶対零度アブソルートゼロを撃つための魔力はまだ溜まりきっていなかった。しかし、絶体絶命に思われたデスタだったが、意外な人物達が命を救った。



ゼニス「貴様ら……何故邪魔をする?敵が一人消えるのだぞ」


ジョーカー「クックックッ……簡単な話ですよ。彼女の魔法でしか貴方を倒せないと言うのなら、我々も手を貸すと言う事です」


ガルデューク「この戦い……勝つのは帝国だ。だが魔王、貴様の能力は我ら帝国にとっても脅威。戦いを楽しみたい気持ちもあるが、潰せる内に潰す事にした」


ゼニス「悪あがきはよせ……貴様らがどんなに足掻こうとも我の前では無に等しい。すぐに始末してくれる」



 ジョーカーとガルデュークの手助けもあり、デスタはゼニスの攻撃を受けずに魔力を溜め続けられた。あらゆる攻撃が効かないとはいえ、ジョーカーとガルデュークの二人を同時に相手をするのは厳しく、ゼニスはかなりてこずっているようだった。



ゼニス「邪魔だ、我が剣の錆にしてくれる」



 ゼニスの剣がジョーカーを襲う。だが、刃がジョーカーの手に触れた途端、剣は粉々に砕け散った。



ゼニス「何ッ!?我の剣を砕いただと!?」


ジョーカー「生憎、私は触れた物を全て破壊する力を持っていてね。君の自慢の剣も例外じゃないみたいだ」


ゼニス「フン、それがどうした。破壊魔法ごときで我を倒せるとでも?」


ジョーカー「フフ、倒せないね。だからこうして彼女の魔法の時間稼ぎをしているんじゃないかな?」



 ジョーカーは華麗にバック宙をする。そして、すかさずガルデュークの槍がジョーカーの下を通ってゼニスを突き刺した。



ガルデューク「なるほど、あらゆる攻撃が効かないと言うのは本当らしい……だが、時間は稼がせてもらうぞ」



 ガルデュークは槍を振り上げゼニスを空中に打ち上げた。凄まじい連続突きがゼニスの体に次々と穴を開けていく。そして、とどめの薙ぎ払いで大きく飛ばされた。だが、ゼニスの傷はみるみるうちに塞がり、何事もなかったかのように立ち上がった。



ゼニス「くッ……目障りな奴らだ」



 ゼニスの表情に苛立ちが見えてきた。ダメージは無くとも焦っているようだった。

 そして、デスタの魔力が完全に溜まった。慎重に狙いを定める。向こうはこっちを見ていない。好機。溜めていた魔力を一気に放った。目にも留まらぬ速さで魔力は飛んで行く。そして、絶対零度アブソルートゼロは無事、ゼニスを氷の中に閉じ込める事に成功した。しかし、今ので魔力を使い果たしたデスタは地べたに座り込んでしまった。もうファイアボール一発分も魔力は残っていない。



ガルデューク「女、貴様は何者だ?只者ではないな」



 ガルデュークは氷の中でこちらを睨みつけているゼニスを眺めながらデスタに質問した。



ジョーカー「恐らく……貴方も転生者なのでしょう?」


デスタ「はぁ……100年前に魔王をやっていた。ま、昔の話さ」


ジョーカー「クックックッ…なるほど。ですが話して良かったのですか?」


デスタ「問題ない。貴様らは全員この場で始末するからな」



 ジョーカーは不気味に高笑いをしながら皇帝の間の入り口を指さした。皆の視線が入り口に集まる。。フェインの表情から察するに、デスタの話を聞いてしまったようだ。

 その頃、ラッシュはエースと激しい斬り合いをしていた。そして、ラッシュの一太刀がエースの剣を一本砕いた。



ラッシュ「よしっ!調子が出てきたな」


エース「やるな……俺の二刀攻撃をこんなにも早く対応できた奴は初めてだ」


ラッシュ「このまま勝ちはもらう。死にたくなければ降参してもいいんだぞ?」



 エースはラッシュを鼻で笑うと、フード付きのマントを盛大に脱ぎ捨てた。いつもフードを深く被っていて顔がよく見えないエースが、ついにフードを脱いだ。初めて見るエースの全貌に、ラッシュの中で衝撃が走るショックがあった。



ラッシュ「その眼は何だ…!?」



 。彼の瞳には心を不安にさせるなにかがある。そして、わざわざフードを脱いだからには何か仕掛けてくるのだろう。ラッシュは剣を構えた。



エース「俺には見える……お前の動きが手に取るように」


ラッシュ「なんだと?動きが見える?」


エース「この眼は暗黒眼と言って、相手の動きを完全に見切る事が出来るのさ」


ラッシュ「フンッ……動きが見えても、対応出来るのか?」


エース「クックックッ……来い」



 エースは挑発するように手招きをした。正直、挑発に乗るのが正解か分からなかったが、攻撃しない事には勝てない。そう思ったラッシュは一気に間合いを詰めると、五回もフェイントを混ぜて斬りかかった。



エース「フェイントを五回……そして素直に剣を斬り上げる」



 エースはラッシュがフェイントを五回したところで全ての行動を言い当てた。無論、フェイントの後に剣を斬り上げたが、簡単に避けられてしまった。

 そして、動揺するラッシュの隙を見逃さなかったエースの曲刀が体を斬り裂く。あまりの激痛で地面に倒れ込むラッシュに、勝ち目はなかった。



エース「所詮この程度。温室育ちのぬるい剣でよく今日まで生きてこれたな」


ラッシュ「ち…ちくしょう……万事休すか」



 倒れているラッシュにとどめを刺そうとエースが曲刀を振り上げたその時、炎を纏った矢がエースに向かって飛んできた。すかさず、曲刀で矢を弾くエース。矢の飛んできた方向を見ると、皆さんの予想通りピノが弓を構えていた。



ピノ「かなりヤバそうだな。手、貸そうか?」


ラッシュ「へ、冗談言えるような状況かよ……」


エース「子供か……邪魔をするなら殺すぞ」


ピノ「誰が子供だ!!いや…まあ子供だけど……ってそんな事どうでも良いや。殺すだと?やれるもんならやってみやがれ!」


ラッシュ「馬鹿、あんま挑発するな……こいつ無茶苦茶強いぞ」



 エースはラッシュにとどめを刺すのを中断すると、ピノに向かって一直線で走り始めた。それを見たピノは慌てて矢を五本同時に放った。しかし、暗黒の瞳は全てを見切っていた。



エース「無駄だ。数で攻略できるほど俺の眼は安くない」



 エースは五本の矢を全て紙一重で無駄のない動きで避け切った。そして、ピノの腹に全力で蹴りを入れた。後方へ大きく吹き飛ぶピノは、壁に叩きつけられた。



エース「どうした、もう終わりか?」


ピノ「痛ッてええええ!!」


ラッシュ「逃げろピノ!!ここに居たらお前もやられるぞ!」



 腹を抑えて悶絶するピノへ必死に声をかけるラッシュ。しかし、ピノが立ち上がるよりも早くエースが目の前まで迫っていた。

 暗黒眼の持ち主エースに、二人は大苦戦。そして、デスタの正体を知ったフェインはどうするのか………………………………………

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