第70話 黄金の騎士

 ラッシュは皇帝の間を出ると、少し離れた要塞内の広場でエースと戦っていた。二本の曲刀で次々に斬りかかってくるエースに対し、防戦一方だった。攻撃に転じれば間違いなく斬られるだろう。それほどまでに凄まじい攻撃の嵐だ。



エース「お前が細切れになるのも時間の問題だな……」


ラッシュ「くッ……強い!?」



 エースは足払いをするとラッシュの体勢を一気に崩した。そして、二本の剣を突き立てる。しかし、ラッシュは間一髪でその攻撃を避けると、転がって距離を取った。



ラッシュ「(マズいぞ……あいつ俺より強いな。どうする……)」



 広場は既に戦いが落ち着き始め、かなり静かになっていた。すると、鎧の擦れる音が聞こえて来た。誰がこちらに近づいて来ている。二人の戦いの手は止まった。そして、二人の前に現れたのは黄金の鎧を見に纏った将軍だった。



レオニオル「血の傭兵団に、ラッシュ皇子……お前達を帝国の敵と判断する」


エース「レオニオル将軍か……俺は相手が誰だろうが関係ない。邪魔する者は消すだけだ」


レオニオル「我剣わがけんは帝国の敵を討つため存在する。見ろ、この黄金の輝きを!」



 レオニオルは背中に背負っている、黄金の大剣を片手で軽々と掲げた。以前グレッツェ王国を攻めて来た時には、その破壊力でローズ率いる花騎士達を苦しめた。間違いなく強敵である。



レオニオル「さあ、誰が相手だ?二人同時でも構わんぞ」


??「お前の相手は私だああああッ!!!」



 突然、レオニオルの背後から傷だらけの服を着たカナが現れた。そして、槍を真っ直ぐ打ち抜いた。しかし、レオニオルは即座に大剣を背中に持ってくるとカナの槍をガードした。



レオニオル「甘い!その程度の攻撃では俺には到底届かない」


カナ「くッ……まだまだああああッ!!」



 カナは体勢を低くすると、槍を一気に振り上げた。レオニオルは一歩後ろに下がると攻撃を紙一重で回避する。しかし、カナの怒涛の連撃は終わらない。蹴りを織り混ぜたコンボはついにレオニオルの堅い防御を崩した。綺麗な回し蹴りがレオニオルの鎧に炸裂。大きく体勢を崩したレオニオルだったが、黄金の鎧には傷一つ付いていなかった。



ラッシュ「カナの奴、この二ヶ月で強くなったな」


レオニオル「む、俺の防御を崩すとは良い腕だ。うちの隊に欲しい人材だ」


カナ「あら?私の事をお忘れですか?」


レオニオル「ん?どこかで会ったか?」


カナ「むかー!グレッツェ王国でアンタに顔面を蹴られた花騎士よ!!」



 レオニオルはしばらくカナを見ていた。そして、何かを思い出したかのように目を見開いた。



レオニオル「ああ、あの時の小娘だったか……よくこの短期間でここまで強くなったものだ」


カナ「ふっふっふっ……私がデスタ達の旅について来た理由の一つに、アンタへのリベンジがある。今それを果たすわ!」


ラッシュ「カナ!そいつは任せていいんだな?」


カナ「ええ、この金ピカおじさんは私がきっちり締め上げるから!」



 そう言うと、カナは自信を持ってレオニオルに向かって行った。そして、ラッシュはエースとの戦いを続行するのだった。

 その頃、皇帝の間ではデスタ達四人による激しい乱闘が繰り広げられていた。



ゼニス「デスタリオス、人間になったお前では我には勝てんぞ。分かっているだろう?」


デスタ「それはどうかな?今のわしには少しだが厄災王の力がある。油断しない事だ…」


ゼニス「……我の能力を知らない訳ではあるまい」


デスタ「無論、知っている」


ゼニス「ならば我にダメージを与えずどうやって倒すつもりだ?」


ガルデューク「無駄話はそこまでだ!」



 二人の会話を遮るように、間に割って入って来たのはガルデュークだった。そして、ゼニスの腹に再び赤い稲妻を帯びた雷神の槍を突き刺した。しかし、ゼニスは表情一つ変えず、依然として余裕そうだ。



ガルデューク「どう言う事だ!?さっきからいくら攻撃してもダメージを受けている感じがしない」


デスタ「ああ、奴はとても厄介な能力を持っているからな」


ジョーカー「ほお、どんな能力なんです?」



 ゼニスはマントをなびかせ三人の中央に立った。そして、自身の能力について話し始めた。



ゼニス「


ガルデューク「ふざけるなッ!?それでは貴様を倒す手段はないではないか」


ゼニス「その通り、貴様らとは次元が違うのだ」


デスタ「嘘をつくのはやめろ。ゼニス、貴様はわしに負けているだろ」


ゼニス「ちッ……ああそうだ。確かに我を倒す方法はある。だが、今の貴様らに出来るのか?否、不可能だ!!」



数百年前.魔界……


 魔王の座をかけて、魔界では多くの戦士達が戦いを繰り広げていた。そして、最後にはたった二人だけが残っていた。一人は魔界の貴族出身で天才と呼ばれているゼニス。彼はその能力によって、ここまで無傷で残っていた。誰もが次期魔王はゼニスで決まりと口にした。



ゼニス「我にひれ伏せ、世界はこのゼニスが頂く!!」



 そして、もう一人の残った者の名はデスタリオス。彼は無名の戦士だったが、実力だけで敵を捻じ伏せ勝ち残っていた。しかし、最後の相手であるゼニスに絶賛苦戦中であった。傷だらけの体はそよ風吹くだけで倒れそうだ。



ゼニス「デスタリオス、まさかここまでやるとは思わなかった。降参しろ、そして我の部下になれ。それ相応の地位をやろう」


デスタリオス「断る、わしは魔王の椅子にしか興味はない。貴様の部下になるなど吐き気がするわ!」


ゼニス「フン、くだらんな……実にくだらん。貴様はそのくだらないプライドのために命を捨てる気か?」


デスタリオス「勝った気でいるのは少し早いぞ……ゼニスよ」



 デスタリオスは良からぬことを企んでいる怪しい笑みを浮かべた。ほとんど無敵のゼニスだったが、何かその笑みから背筋の凍るような感覚を覚えた。



ゼニス「何をしようと無駄だ。我の前では全て力が無になるのだぞ?」


デスタリオス「クックックッ……確かに貴様の言う通り、貴様を倒す方法は無いかも知れんな」


ゼニス「ほう、ではどうする」


デスタリオス「無敵の貴様でも一つだけ死ぬ可能性がある」


ゼニス「如何なる攻撃も効かない我が死ぬだと?そんな事は万に一つもあり得んな」


デスタリオス「それはどうかな?」



 デスタリオスは両手を合わせると、残った全魔力を手に集めた。大地は魔力に共鳴するかの如く震えている。ゼニスの額から汗が流れ落ちた。そして、手の平をゼニスへ向けると一気に魔力を解き放った。



デスタリオス「絶対零度アブソルートゼロ!!!」



 デスタリオスから放たれた魔力は、辺りの地面を一瞬で凍り付かせながらゼニスに命中した。しかし、ゼニスには全く効果がないようだ。



ゼニス「愚かな、我に魔法は効かん」


デスタリオス「いや、それでいい」



 余裕綽綽よゆうしゃくしゃくのゼニスは人差し指を左右に振って挑発している。だが、狙いはゼニスではなかった。彼の狙いはゼニスの周囲に氷の壁を作る事だった。壁はみるみるゼニスを取り囲み、やがて指一本動かせなくなった。



ゼニス「フ、この程度で我を倒せると思っているのか?」


デスタリオス「残念ながらその氷は永遠に溶ける事はない。貴様はそこで寿


ゼニス「何だと!?こんな物すぐに破壊してくれる……」



 ゼニスは体中の力を込めて氷の中から出ようと試みたが、氷の壁は厚く全く壊れる気配がなかった。



デスタリオス「貴様に攻撃が効かないのなら寿命が尽きるまでそこに放置するまで。後、2000年もすればあの世に行けるはずだ。涼しい休暇を楽しめ」


ゼニス「デスタリオス!!今回は貴様に魔王の座を譲ろう。だが、この借りは必ず返す……覚えておけ」



 そう言うとゼニスは体中の魔力を暴走させ、氷の中で粉々に砕け散った。デスタリオスは呆気に取られた。まさか、自殺するとは思わなかったからだ。残ったのは巨大な氷と一人の魔戦士のみ。こうして、デスタリオスは魔王になった。


現在.皇帝の間……



ゼニス「デスタリオス、貴様の狙いは分かっているぞ。もう一度絶対零度アブソルートゼロで我を氷の中に閉じ込めるつもりだろ?」


デスタ「そう言う事だ……この体で絶対零度アブソルートゼロが使えるか分からんが、やってみる価値はあるはずだ」



 果たして、全ての攻撃が効かないゼニスに対して、デスタの絶対零度アブソルートゼロは通じるのだろうか。そして、ラッシュとカナはレオニオル将軍とエースに勝てるのか………………………

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