第69話 四つの王

帝都.皇帝の間……


 トリーヴァことジョーカーは、気絶したラッシュを担いで皇帝の椅子に座らせた。それを見ていたデスタはすかさず剣を構える。



ジョーカー「おいおい、急に剣なんか構えてどうしたんだい?」


デスタ「ラッシュに何をした……答えろ」


ジョーカー「酷いなぁ……私は彼が倒れてたのを見つけて急いでここまで運んで来たんですよ」


デスタ「ラッシュを倒せる奴はそうはいない。それこそ六勇者クラスでなければな…」


ジョーカー「デスタ君、ここは戦場だよ。冗談なんて言ってる余裕はないよ、早く皇帝と魔王を倒しに行こう」


デスタ「冗談?私は最初から本気だ。お前から出ているこの不気味な殺気……何者だ?」



 ジョーカーはデスタの問いに対し、しばらく黙り込む。そして、突然気が狂ったように笑いだした。



ジョーカー「フハハハハハッ!!鋭いな……最初に君と会った時から只者ではないと思っていたが、まさかここまでとはね」


デスタ「答えろ、貴様は何者だ」



 ジョーカーは自身が血の傭兵団のリーダーである事を明かした。そして、前世はドラゴンの王だった事も。



デスタ「ドラゴン……かつてこの世界を支配していた種族か」


ジョーカー「そうさ!我々ドラゴンに天敵はいなかった。モンスターより知能の高い人間ですらその圧倒的力の前に潰れたんだ!ただ一人を除いてな……」


デスタ「誰の事を言っている?」


ジョーカー「初代ガルベルグ帝国皇帝ガルデューク。こいつの強さは人間を超えていた。そして私と一騎討ちをして奴が勝った」


デスタ「……」


ジョーカー「無論、私は死んだよ。体を左右に分断されてね」


デスタ「死んだだと?まさか、貴様も転生者なのか?」


ジョーカー「その通り。だけど君やルプラスと事情は違って、私は女神の力で転生したわけではない」


デスタ「どう言う事だ……」


ジョーカー「私は竜の王、。もっとも、一回きりだがね」



 自力で竜から人に転生したジョーカー。デスタは確信した、この男は魔王や皇帝と同等の力を持っていると。だが、自分も負けていないはずだ。一部とはいえ厄災王の力があるから絶望的ではない。



デスタ「ラッシュをどうするつもりだ?」


ジョーカー「ククク、別に深い意味はないよ。ガルデュークの子孫だから彼の目の前で殺してみようかなと思っただけさ」


デスタ「なら決まりだな……たった今わしの中でお前を生かしておく理由はなくなった」



 デスタは一瞬で剣を引き抜くとジョーカーの背後に回った。そして、重い一太刀を浴びせた。しかし、ジョーカーは剣を見ずに攻撃を躱すと、鼻で笑った。



ジョーカー「君の力はこんなものかい?だとしたら期待外れだよ」


デスタ「くッ……舐めるな!」



 デスタはジョーカーの素早い動き翻弄されながらも、諦めずに攻撃の手を緩めなかった。だが、剣が服を掠る程度で精一杯だった。そして、息の切れたデスタはとうとう床に膝をついてしまった。それを見たジョーカーはデスタの頬を掴むとニッコリと笑った。



ジョーカー「残念、ゲームオーバーだ」



 ジョーカーは触れたものを何でも破壊する魔法をデスタに対して発動しようとしていた。絶体絶命だ。その時、鋭い殺気を背後から感じたジョーカーは穴の開いた天井へ飛び上がった。穴の淵にしがみついたその瞬間、鋭い斬撃が飛んできた。しかし、ジョーカーは咄嗟に天井を蹴って再び地上に着地するのだった。そして、斬撃が飛んできた方向を見る。



ジョーカー「お前は……!?」


ラッシュ「よお、まさかアンタが血の傭兵団だったとは思わなかったぜ」


デスタ「ラッシュ!戦えるか?」


ラッシュ「ああ!勿論だ!あの野郎にさっきの借りを返すまで寝てらんねえからな」


ジョーカー「中々しぶといね。でも君の相手は私ではない」



 ジョーカーは指を鳴らした。すると、天井から血の傭兵団の一人エースが降りて来た。そして、二本の曲刀を器用に回すと構えた。



ラッシュ「なるほど、アンタが残ってたか」


エース「ジョーカー、コイツは殺してしまってもいいのか?」


ジョーカー「……どうぞ、また邪魔でもされたら面倒です。殺して構いませんよ」


ラッシュ「けッ……もう勝った気でいやがる。気に入らねえな……」


デスタ「ラッシュ……そいつは任せていいのか?」



 デスタの問いに対し即座に「問題ない」とラッシュは答える。そして、ラッシュとエースの二人は皇帝の間を出て行った。それと同時に壁を打ち破って、また一人皇帝の間へと入って来る者がいた。



ジョーカー「ん?どちら様ですか?」


ゼニス「我は魔界を統べる王。この要塞に勇者がいると聞いて来た」


ジョーカー「勇者?さあ?知りませんね」


デスタ「ゼニス……この目で見るまでは信じたくなかったが、やはり生きていたのか」



 ゼニスはデスタに気付くとしばらく黙ってその姿を見つめていた。何者をも寄せ付けぬその冷たい眼は見るものを圧倒するものがある。かつての自分もそんな瞳をしていたのだろうか。そんな事を考えていると、ゼニスが口を開いた。



ゼニス「久しいな、デスタリオス……」


ジョーカー「おや、お二人は知り合いでしたか」


ゼニス「そうだ。此奴とは昔魔王の座をかけて戦った仲だ。お前が人間ごときと相討ちになったと聞いた時は耳を疑ったぞ」


デスタ「そんな昔の話覚えてないな…」



 ゼニスは部屋の中央へ歩いて行く。そして、デスタとジョーカーの間に堂々と立った。



ゼニス「デスタリオス、その姿はなんだ。今の貴様にはかつての力強さを全く感じられんぞ」


デスタ「転生した……女神の力でな」


ゼニス「女神?……あんな貧弱な者の力で蘇るとは哀れな奴だ」


デスタ「そんな事はどうでもいい。ゼニス、そしてジョーカー。お前達にはここで消えてもらうだけだ。わしの野望のために……」



 デスタは魔界剣に力を集める。最初から全力でいくつもりだ。ゼニスとジョーカーも戦いの体勢をとった。今まさに、三人の王が激突しようとしていた。その時、部屋の中にもう一人の人物が現れた。



ガルデューク「フハハハハ!!魔王、俺はまだ死んでいないぞ!」


ゼニス「ほぉ……生きていたのか」



 ガルベルグ帝国初代皇帝ガルデュークの登場により、皇帝の間は更に異様な空間となった。彼の登場に一番反応があったのはジョーカーだった。



ジョーカー「ガルデューク、私の事を覚えているかい?」


ガルデューク「誰だ?貴様は」


ジョーカー「竜王……かつて君と戦って敗れた者だ」


ガルデューク「竜王…なるほど、転生したな?」


ジョーカー「そう、私はお前に復讐を果たすため蘇った竜。そして、再びこの世界の覇者となる!!」



 ジョーカーの野望を聞いた三人の表情が変わる。



ゼニス「竜の王よ、それは不可能だ。この世界は我が頂く」


ガルデューク「最強は帝国だ!魔王や竜王など敵ではない!!」


デスタ「クックックッ……」



 三人を嘲笑うデスタに視線が集まる。皆、鋭い殺気を放っている。



デスタ「魔王に竜王、皇帝……そして厄災王の力を得たわし………誰がこの世界に相応しいか決めようじゃないか」


ガルデューク「ほお、女……貴様は厄災王の力を持っているのか。面白い、その勝負受けよう」


ジョーカー「最後に立っていた者が勝者……うん、実にシンプルで分かりやすい。良いんじゃないかな?」


ゼニス「我をそんな雑魚共と同列にするとは……誰が上か教えてやる」



 四人はそれぞれを睨み合う。様々な因縁が交差するこの戦いの勝利を手にするのは誰なのだろうか………………………………………

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