第68話 激突!魔王vs皇帝

 数万の魔物の群勢を相手に、圧倒的な強さで次々蹴散らしていくガルデューク。しかし、それでも魔物達の勢いは止まらなかった。だが、そんなのはお構いなしに戦いを続けるガルデュークの闘志は凄まじかった。



ガルデューク「もっと骨のある奴はいないのか……足りない、全く足りないぞ!」


??「骨のある奴と戦いたいのか?それならここにいるぜ」


ガルデューク「誰だお前は?」


??「俺は魔王軍第三部隊隊長レングス。あんた帝国の頭だろ?ここで俺があんたをぶっ殺したら出世間違いなしだなあ!?」


ガルデューク「……貴様からはオーラを感じない」


レングス「あ?なんだと?」


ガルデューク「強者にあるオーラを感じないと言った。雑魚に興味は無い、さっさとうせろ」


レングス「おうおう!随分と余裕こきやがって、死にたいようだな?」



 レングスは鉄で出来た巨大ハンマーでガルデュークに殴り掛かった。しかし、右手で軽々受け止めたのだった。その様子を周りで見ていた魔物達も驚いている。無論、一番驚いていたのはレングスだった。



レングス「馬鹿なッ!?俺のハンマーが止められただと!?」


ガルデューク「やはり隊長格でもこの程度か……」



 ガルデュークは右手に魔力を集めると一気に放出した。右手から放たれた魔力の塊は、レングスを一瞬にして消し去った。それでも勢いは止まらず、大勢の魔物達を巻き込んで海まで飛んでいく。魔力が通った後には何も残っていなかった。その様子を魔王城から見ていた魔王ゼニスは、ついに王座から立ち上がった。



アクマ「魔王様、かれるのですか?戦場へ」


ゼニス「ああ、面白そうな相手を見つけた」


アクマ「(今ゼニスに戦場へ参戦されたら、我があるじ達が危ないかもしれませんねぇ)」


ズン「どうした……急に黙り込んで」


アクマ「いえ、戦場では既にミュアルが戦っております。魔王様が出る程でもないかと」


ゼニス「我の見立てによれば、帝国のトップはミュアルより強いだろう」


アクマ「本当ですか?我々幹部より強い者など魔王様以外に存在するとは思えませんが」


ゼニス「行ってみれば分かる……お前達はここで待機だ」



 そう言うとゼニスは魔王城を飛び出し、城の翼の上に立った。そして、そこから飛び降りると、ガルデュークのいる南の大草原へ飛び立った。

 その頃、ブレイブは淫魔ミュアルと戦っていた。戦況は若干ミュアルが押していると言ったところだろうか。



ミュアル「あら、中々強いじゃない。私強い男は好きよ」


ブレイブ「そっちもかなりの腕みたいだ。だけど僕は負けないよ」


ミュアル「フフ、随分自身があるみたいね。ああ……たまらないッ!!その自信を粉々に砕きたい!!」



 ミュアルは鋭い爪を長い舌で舐めると、ニヤリと笑った。そして、一瞬にしてブレイブの背後にまで迫っていた。



ブレイブ「消えたッ!?」


ミュアル「フフフ、こっちよ」



 ミュアルの爪がブレイブの背中を斬り裂いた。三つの切り込み線から血しぶきが飛び散る。すかさず追撃の連続蹴りが炸裂した。さらに、ブレイブは柱に叩きつけられ、ミュアルの強靭な腕で首を押さえつけられた。



ミュアル「ほら、首が折れるわよ。どうするの?」


ブレイブ「まだまだ、この程度100年前に比べたらピンチのうちにも入らないさ!!」



 ブレイブの体から青白いオーラが漂う。ぼんやりとしていて暖かい。しかし、肌がピリピリするくらい空気が変わった。



ブレイブ「アクセルブースト!!」


ミュアル「ん?身体強化の魔法か…」



 アクセルブーストを発動したブレイブは、首を押さえているミュアルの腕を掴むと力ずくで引き剥がした。さっきより、明らかにパワーアップしているようだ。



ミュアル「ぐッ…この私が力負けしているだと!?」


ブレイブ「一時的にパワーとスピードを倍にできる魔法さ。これで形勢逆転だな」


ミュアル「フフ、だけどその代償にしばらく魔法が使えなくなる」


ブレイブ「そう言う事、早いとこ勝負を決めさせてもらうよ」



 パワーアップしたブレイブの動きは凄まじかった。青い閃光がミュアルを取り囲む。その瞬間、無数の斬撃が彼女の体を斬り刻んだ。あっという間にボロボロになるほど追い詰められたミュアルは何が起こったのか分からない様子だ。



ミュアル「よくも……よくも私に傷をつけたわね……」



 激怒したミュアルの口から再びピンク色のガスが吐かれた。戦いを見ていたデスタは慌てて口を押さえる。しかし、ブレイブは黙って見ている。



デスタ「おい!そのガスはマズいぞ!」


ブレイブ「大丈夫、心配しないで。次の一撃でアイツを倒すから」



 ブレイブは剣を器用に回転し始めた。風車のように回る剣はどんどん加速していき、やがて回転の中心にエネルギーが集まっていくのが確認できた。



ブレイブ「吹き飛べええええ!!!」



 高速回転する剣から大きな竜巻が放たれ、ガスを吹き飛ばした。そして、ミュアルを巻き込んで要塞の壁に直撃した。しかし、壁は大きく抉られていたが、ミュアルは死んでいなかった。だが、大きなダメージを与えたらしく、二人を睨みつけている。



ミュアル「ぐはぁッ……悔しいけど、私では貴方達には勝てないようね。一体何者なのかしら」


ブレイブ「元勇者……かな?」


ミュアル「へー、どうりでこんなに強いわけだ。でも貴方達は絶対に魔王様に勝てないわ」


ブレイブ「絶対に?どう言うことだ?」


ミュアル「フフ…それは戦えば分かるんじゃないかしら」



 そう言うとミュアルは翼を羽ばたかせて逃げていった。あまりに突然の出来事だったので、追いかける隙も無かった。しかし、魔王軍幹部を撃退したのはデスタ達にとって大きなものだった。



デスタ「やるじゃないか…」


ブレイブ「まあね、でも今ので力を使いすぎたかな……しばらく動けそうにないかも」


デスタ「そうか、ならそこで寝ていろ。私は皇帝とやらを探しにいく」



 デスタはブレイブを置いて走り去って行った。そして、時を同じくして、南の大草原では数万の魔物相手に無双するガルデュークの前にゼニスが立ち塞がっていた。



ガルデューク「ほお?お前が魔王だな?クックックッ……俺には見えるぞ……お前から溢れ出る強者のオーラが」


ゼニス「これだけの数を相手によくやったものだな人間よ。だが、貴様の強さも我の前では無に等しい」


ガルデューク「それは楽しみだ……最強は誰か決めようではないか」



 ガルデュークは両手を大空へ挙げた。すると、暗雲が上空に立ち込める。雲の中では電撃が集まっているのか、バチバチとけたたましい音が鳴っていた。



ガルデューク「来い!!雷神の槍!!!」



 ガルデュークの呼び声と共に真っ赤な雷が両手に落ちた。そして、眩しい光の中からガルデュークが一本の槍を持って現れた。



ゼニス「どうやらそれが貴様の武器のようだな……」


ガルデューク「そうだ……雷神の槍の威力、見るがいい!」



 雷神の槍を構えたガルデュークは、ゼニスに向けて一突きした。槍は赤い電撃を纏い、直線を描いてゼニスの腹を突き刺した。そして、刺さった部分から凄まじい威力の電撃が放たれる。



ゼニス「どうした、この程度か?」


ガルデューク「普通の者ならば今ので一撃で死ぬはずだが……耐え切ったか。面白い、久々に楽しめそうだ」



 ガルデュークはゼニスを突き刺したまま持ち上げると、空中へ投げ飛ばした。そして、空中へ向かって目にも留まらぬ速さで槍を連続で突いた。槍から放たれた赤い電撃が次々にゼニスに襲いかかる。しかし、ゼニスも空中で体勢を整えると、一瞬で巨大魔法陣を描いた。



ゼニス「冥界へ送ってやろう……死の手デスハンド



 ゼニスの描いた魔法陣から、巨大なドス黒い魔物の腕が現れた。腕は雷をもろともせずにガルデュークを叩き潰そうと振り下ろされた。ガルデュークは素早い判断で、距離を取ろうと後方へ飛んだ。しかし、それを計算していたゼニスは、ガルデュークの飛んだ先にも巨大魔法陣を描いていた。無論、この魔法陣からも死の手デスハンドが召喚されている。二体の死の手デスハンドに板挟みになったガルデュークは無情にも潰されてしまった。



ゼニス「……終わったか」



 空中で様子を伺うゼニスの元に、傷だらけのミュアルが飛んで来た。その姿を見たゼニスの目つきが少し鋭くなる。



ゼニス「その傷……何があった?」


ミュアル「少々厄介な相手と帝国の要塞内で鉢合わせてしまいまして……」


ゼニス「厄介な相手?」


ミュアル「ええ、恐らく転生した勇者アルマです」


ゼニス「勇者アルマ……我の宿敵デスタリオスを亡き者にした人間か……」


ミュアル「どうなさいます?」


ゼニス「本来ならばデスタリオスをこの手で消したかったが、まあいい。勇者アルマとやらを代わりに消すとしよう」



 ゼニスはミュアルに魔王城への帰還を命じると、要塞の元へ飛び去った。残されたミュアルは言われた通り、魔王城へ帰ろうとした。すると、地上の方で異様に地面が盛り上がっているのが目に止まった。



ミュアル「ん?あの盛り上がりは何かしら」



 ミュアルは好奇心で地面の盛り上がりの近くに降り立った。その瞬間、地面から勢いよくガルデュークが飛び出して来た。そして、ミュアルを見つけるや否や、雷神の槍で串刺しにした。



ガルデューク「魔王はどこに行った。気配が遠くなっていく……この方角は俺の要塞か。待っていろ魔王、帝国から逃げられると思うなよ?」



 ガルデュークは要塞に向かうため、特大ジャンプをすると一気に加速した。

 その頃、デスタは皇帝の間に到着していた。そして、六勇者兼、血の傭兵団団長ジョーカーと対峙していたのだった………………

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