第59話 勇者の行方

スカイゲートに戻ってきたデスタ達は、ドロマー教団を衛兵に差し出すと、ラオと共に町長の元へ向かった。町長は事情を聞くと、すぐに納得してくれ、クエストは無事完了と言う事になった。そして、デスタ達はゴールドランクに昇格し、晴れて二ヶ月後の戦争への参加権を手に入れた。ラオはデスタ達がゴールドランクになったのを見届けると、付き人の人達と共に、飛行船で去って行った。次に会うのは二ヶ月後の戦争の時なのだろうか。



ラオ「あの子達はこれからもっと強くなる……成長が楽しみだ」



目的を数日で達成したデスタ達は、二ヶ月後の戦争までまだまだ時間が余っているため、次の目的に悩んでいた。だが、悩んでいても仕方ないので、気晴らしに街を散歩していた。時々吹いてくる風が心地良い。空はすっかり日が落ち、綺麗な星空が広がっている。大通りへ出ると流石に人が多く、色んな店が並んでいた。



ピノ「やったぜ!これで俺達全員ゴールドランクだ!」


カナ「記念にパーっとやろうよ!パーティよパーティ!」


フェイン「よおおおし!早速食べに行こうぜ!」


ラッシュ「おい、そんな事してる場合か?後二ヶ月しかないんだぞ、鍛錬して少しでも強くなった方がいい」



浮かれる三人に意を唱えるラッシュだったが、腹の音が鳴り響く。三人はニヤニヤしてラッシュを見ている。



デスタ「ラッシュ、気持ちは分かるが今日は休んでおけ」


ラッシュ「わ…分かったよ!俺だって腹減ってるさ!これで満足か?」


カナ「素直でよろしい」



五人はレストランに入ると、沢山のご馳走を注文した。しばらく飲み食いしていると、五人の元にフードを深く被った怪しい男がやって来た。



怪しい男「魔王デスタリオス、ようやく見つけたぞ」


フェイン「誰だお前」


デスタ「(こいつ……わしの正体を知っているだと……!?)」


ピノ「何か姉御の方見てるよこの人」


デスタ「表へ来い……」


怪しい男「……分かった」



デスタは怪しい男を連れて店の外へ出た。そして、適当な裏路地に入る。すると、怪しい男はフードを脱いだ。髪は茶、年齢はフェイン達と同じくらいの美青年だ。だが、明らかに普通とは違う箇所があった。



デスタ「翼がある…!?貴様人間ではないな?」


怪しい男「僕はリュシオン、女神アリシアの使いで参った」


デスタ「女神?ああ、そんな奴もいたな……で、用件はなんだ?」


リュシオン「僕と一緒に天界へ来てもらう。抵抗すれば力ずくでもやってやる」


デスタ「貴様ごときがわしに勝てるとでも?」


リュシオン「それはこちらの台詞だ。人間になった魔王など天使の敵じゃない」



リュシオンは腰から剣を引き抜くと、デスタに斬りかかってきた。しかし、デスタはしっかりと攻撃を弾く。だが、弾かれた反動を利用して、建物の壁を蹴り上げ高く飛び上がる。



リュシオン「魔王!こいつを受けてみろ!!」



リュシオンは背中に背負っていた弓を取り出すと、魔力で矢を作り出した。火、氷、雷、風、様々な属性が入り混じっている。そして、数十本の矢がデスタに向かって放たれた。だが、デスタも魔界剣に魔力を溜めて、反撃の準備は出来ていた。降り注ぐ矢の雨を次々に弾くデスタ。リュシオンも追加の矢を撃ち込む。そして、とどめの爆発矢を放った。辺りに硝煙の匂いが広がる。煙で確認出来ないが、リュシオンは安心した。



リュシオン「ふぅ…僕一人で倒せるか不安だったけど何とかなったか」


デスタ「残念だったな、わしはこの体の使い方に慣れ始めている。貴様に勝ち目は無い」



突然背後から現れたデスタに驚いたリュシオンは剣を落としてしまう。それを見たデスタは容赦なく回し蹴り決めた。その勢いで壁にもたれかかるリュシオンの首に魔界剣の黒い刃を突きつける。



デスタ「質問に答えろ。何故わしを天界へ連れて行く必要がある」


リュシオン「前世を忘れた訳じゃないだろ?人間の天敵だったじゃないか。そんな奴を野放しに出来ない」


デスタ「何を言ってる?お前達がわしを人間に転生させたんだろ」


リュシオン「そ…それは……色々事情があって…」



デスタの返しにリュシオンは言葉を詰まらせた。不思議に思ったデスタは、徹底的に問い詰める事にした。まず、リュシオンの背後の壁に手を置いて顔を近づける。いわゆる壁ドン状態だ。それから顎を掴んで剣の刃を首に当てた。すると、流石に参ったのか本当の事を話し始めた。



リュシオン「…と言う訳で、君は女神様の間違いで転生してしまったんだよ。大人しく天界へ戻って来てくれないか?」


デスタ「黙れ、勝手に転生させておいて、いきなり戻って来いと言われて納得できるか」


リュシオン「そこを何とか……」


デスタ「駄目だ、それよりも本来転生させるはずだったアイツはどうなった?」


リュシオン「アイツ?」


デスタ「名前を口にするだけでも忌々しい。わしを道連れにした勇者、アルマはどうなったと聞いている」


リュシオン「それならちゃんと転生しましたよ」



アルマも転生している。その事を聞いたデスタはある事を閃いた。アルマの力を借りれば、勇者の末裔を探す必要は無いのではないかと。だが、正直言ってかなり因縁のある相手なので、上手くかと言われると自信は無かった。だが、ゼニスに勝つためには本物の勇者に頼る必要がありそうだ。



デスタ「奴の居場所は分かるか?」


リュシオン「アルマさんの居場所を聞いて何をする気だ。まさか復讐を」


デスタ「違う、奴の力を借りたい。ゼニスに勝つには欲しい戦力だからな」


リュシオン「その言葉を信用しろと言いたいのですか……?」



リュシオンはしばらくゴネていたが、今のデスタがかつての魔王とは違うのを薄々感じていたのか、転生した勇者アルマの居場所を教えてくれる事になった。



リュシオン「ここに来る前に彼に会ってきたので、どこに居るかは分かりますよ」


デスタ「で?どこだ、どこに居る?」


リュシオン「この街から西に進んだアルカランドです。大きな冒険者養成学校と城がありますよ」


デスタ「六大国家の一つか……で、アルカランドのどこに居る?」


リュシオン「今は養成学校の先生をやってますよ。なんでも二ヶ月後の戦争で魔王と戦うための戦力を増やすとか言ってましたね」


デスタ「そうか…ではお前に用はない、さっさと消えろ」


リュシオン「ひ…酷い!けど、僕も天界へ帰ろうと思っていた所なので許します」


デスタ「わしを捕まえるのを諦めるのか?」


リュシオン「それは分かりません……ですが、今のあなたは早急に捕まえる必要がある程危険とは思えない」


デスタ「随分と甘い天使だな……」


リュシオン「そう言う事で、僕は帰ります。それではさようならー」



リュシオンはニッコリと笑顔を見せると、星空の海に消えて行った。そして、デスタもレストランへ戻った。そこで、皆に事情を説明し、次の目的地はアルカランドと言う事に決まった。勿論、自分が元魔王という事は伏せておいた。

デスタとアルマ。因縁の関係にある二人は、協力関係になる事が出来るのだろうか…………

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