第58話 魂を掴め!!

厄災王との戦いは厳しく、デスタの体力も限界に近かかった。厄災王はまだまだ余裕という感じだろう。やはり、奴の力の根源である水晶玉をどうにかしなければ、勝ち目は無いだろう。



厄災王「我輩と戦ってここまで長く生きている者がいるとは…殺すには惜しいな」


デスタ「(わしが思った通り、コイツは今まで戦ってきた誰よりも強いか……)」


厄災王「お前、我輩の家来にならんか?」


デスタ「家来…?何か勘違いをしてるようだな」


厄災王「…何だと?」


デスタ「勝つのはわしだ、お前に待っているのは死だけだ」



デスタはフェイン達に見られているため、禍々しい魔力を纏って正体がバレるのを恐れた。これ以上長期戦になれば敗北は免れないだろう。一か八かの勝負に出るしかない。デスタは高く飛び上がった。この場にいる全ての視線がデスタに集まる。



デスタ「よし…今がチャンスだ、フラッシュ!!!」



デスタはこの瞬間を待っていた。フラッシュの魔法の効果で、辺りは激しい光に包まれる。予想だにしない攻撃に、流石の厄災王も目が眩んだ。その一瞬の隙をデスタは見逃さなかった。一気に間合いを詰めると、厄災王の持っている水晶玉を両手でガッチリと掴んだ。その瞬間、デスタの体内に凄まじい魔力が流れ込んでくるのが分かった。この力強い魔力は、紛れもなく厄災王の物であると確信した。だが、同時にどす黒い何かが、自身の魂を取り込もうとしている。このどす黒い何かに取り込まれれば、体を完全に乗っ取られるのだろう。体の中で、自分と厄災王の魔力が激しく反発しあっている。そのせいか、まともに立っていられないぐらい気分が悪い。



厄災王「無謀な奴だ、我輩の力を制御できた者はいないのだぞ?つまらん、興が冷めたわ……死ね」



厄災王は鬼の様な強靭な拳で、うずくまっているデスタ目掛けて振り下ろした。誰もが悲惨な死体を想像したが、そこにはデスタが拳を左手で受け止めている姿があった。そして、余っている右手を厄災王の腹に突き刺した。いや、突き刺したと言うよりも、吸い込まれたと言う方が正しいのかもしれない。その証拠に、厄災王の体から血は流れていなかった。



厄災王「何!?」


デスタ「貴様の力……水晶玉に残っていた30パーセントは全てわしが頂いた!」


厄災王「ぐっ……ふざけるなッ!!我輩の魂に触れる力を手に入れたと言うのか……認めんぞ」


デスタ「貴様の魂は掴んだ、粉々に砕いてやる」


厄災王「させるかああああ!!!」



焦った厄災王だったが、もう片方の手をデスタの腹に吸い込ませた。お互いに相手の魂を掴んでいる奇妙な状況だ。後は、どちらの魂が先に砕け散るかと言う勝負だろう。



厄災王「はぁ…はぁ……その手を離せ、お前の強さはよく分かった」


デスタ「……断る、お前にはここで消えてもらう」



二人の根比べは長引く。次第にデスタの手の力が弱まる。厄災王はニヤリと笑みを浮かべ、デスタの魂を一気に引きずり出そうとしたその時、ピノの矢が厄災王の頭に刺さった。さらに、フェイン達が厄災王に体当たりをする。小さな力だが、一瞬怯んだ。その瞬間、デスタは最後の力を振り絞り、厄災王の魂を打ち砕いた。



厄災王「ぐはッ……我輩を超えるか人間よ……」


デスタ「貴様の力はわしの中で生き続ける、安心して逝け」


厄災王「クックックッ…面白い奴だ……お前が何を目指しているのか知らんが、我輩の力を使う以上、敗北は許さん…ぞ」


デスタ「当たり前だ、わしは絶対に負ける訳にはいかんからな」



デスタの強い意志を聞いた厄災王は、自身の力を使うのを納得して消滅していった。魂が粉砕された以上、彼の魂は冥界へ向かう事もないだろう。体から厄災王が抜けたハーケンは、気絶して倒れている。ついに、ドロマー教団は全員倒れたのだ。空を覆っていた雲は晴れ、青空が広がる。デスタ達の勝利だ。あまりの疲労から、地面に座り込むデスタ。戦いの様子を観ていた仲間達が集まって来る。



カナ(フェイン)「お前すげえよ!厄災王を倒しちまうなんて」


デスタ「勝てたのは奴の力を使ったからだ、私の力だけでは勝てなかった」


ラッシュ「そう謙遜するなよ、伝説に出てくるような奴を倒したんだぞ」



みんなから褒められたデスタはとても不思議な気分だった。魔王だった頃には経験した事がないものだ。フェイン達とは魔王の座に戻るまでの付き合いと考えていたデスタだったが、正直、今も悪くないと思っている自分もいた。そんな事を考えていると、カナが「アッ!!」と声を上げる。



アロマ(カナ)「デスタは厄災王の力を使えるようになったんだよね?それなら私達の魂を取り出して元の体に戻してよ」


デスタ「分かった、やってみよう。ただ…力加減を間違えれば魂は砕けるが……」


アロマ(カナ)「え……怖っ!」


デスタ「そんなに怯えるな、この私が失敗する訳ないだろ。な?フェイン」


カナ(フェイン)「……あ、ああ!当たり前だろ?こここ怖くねえよ」


ラッシュ「……強がるな」


カナ(フェイン)「う、うっせえ!抱きつくぞ」


ラッシュ「チッ……その見た目じゃなきゃ……元に戻ったら覚悟しとけよ」



フェインとラッシュが喧嘩を始めそうになったので、デスタは早速、体を元に戻す作業に入った。まず、フェインとカナの魂を体から取り出し、カナを元の体に戻した。フェインには一度アロマの体に入ってもらい、みんなでバルやガルーダが待機している所に向かった。そして、アロマの体からフェインの魂を取り出し、元の体に戻した。その際に取り出したアロマの魂は元に戻すと厄介なので、取り敢えず瓶詰めにして置いておいた。厄災王に魂を奪われたラオは、デスタがしっかりと魂を取り戻していたのですぐに戻せた。



フェイン「これでみんな元に戻ったよな?」


ラッシュ「それは良いんだが、ここまでやってクエストは達成出来てないんだよな……」


カナ「きっと大丈夫だよ!スカイゲートの街に必要なのは風力なんでしょ?ガルーダが正気に戻ったんだから問題無いよ!」



デスタ達は、ラオが来る時に近くで待機させていた飛行船でスカイゲートへ帰るのだった。ついでにドロマー教団も連れて飛行船は飛び立った。しばらく飛んでいると、渓谷の出口が見えてきた。ガルーダに見送られながら、渓谷を後にするのだった…………………

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