第57話 教団の最後

厄災王と対峙したデスタは、改めて強敵を相手にしていると実感した。だが、フェイン達が近くに居ないお陰で、魔王特有の力を使っても自分の正体がバレないのは好都合だった。



厄災王「おい女、我輩をたった一人で倒せるとでも思っているのか?それとも仲間を逃すための時間稼ぎでもする気か?」


デスタ「違う……」


厄災王「では……何のために残ったのだ?」


デスタ「私…いや、わしは転生者だ。だが、この肉体にかつての圧倒的な力は無い」


厄災王「転生者か……確かに普通の人間とは違うようだ。しかし、それがどうしたと言うのだ」


デスタ「……わしはお前の力を頂く事にした」


厄災王「フンッ……愚か者、その水晶玉から我輩の魔力を吸収するとどうなるか見ただろう?」



厄災王の力が封じられている水晶から力を吸収すれば、魂を取り込まれる。そして、体を乗っ取られる。だが、それ以外に勝ち筋は無い事を悟ったデスタは、厄災王から水晶玉を奪うつもりでいた。



厄災王「何を企んでるか知らんが、我輩がこの水晶を大人しく渡すと思うか?」


デスタ「厄災王、貴様は今のわしより強い。だが、水晶玉を奪うくらい…」


厄災王「出来んな。お前の魂もすぐに引きずりだしてやるからなあ!」



厄災王の触手が次々にデスタに襲いかかる。だが、突然どす黒いオーラがデスタを覆った。流石の厄災王も、攻撃の手が止まる。



厄災王「この力……魔界の者か」


デスタ「そうだ、仲間には知られたくなかったからな。あまり使う事はなかったが、ようやく本気を出せる」


厄災王「ふん、だからどうした。魂を引っこ抜けば終わる話だろ?」


デスタ「やってみろ…」



その頃、ピノ達の元に着いたフェインは、カナの見た目をしたアロマと対峙していた。しかし、あっさりとアロマの結界に入ってしまい、早速大ピンチを迎えていた。



カナ(アロマ)「せっかく来た助っ人も大したことないねぇ……キャハハ!」


フェイン「くっそおおお!カナの体を返せ!」


カナ(アロマ)「嫌よ、あんな傷だらけの体に戻る訳ないじゃない」


フェイン「お前…元自分の体に一切思い入れとか無いのな」


カナ(アロマ)「馬鹿ね。その体も本当の私の体じゃないしどうでもいいよ……キャハハ!」



カナの見た目をしたアロマがフェインにとどめを刺そうとしたその時、フェインの服の中に隠れていたバルが、アロマの顔に引っ付いた。その隙に、アロマの腹を剣の柄部分で強く突いた。勢いよく吹き飛んだアロマは、華麗に着地すると服の埃を払った。



フェイン「カナ、悪いけどお前の体無傷じゃ返せそうにないぜ」


アロマ(カナ)「うん、仕方ないよ……それより気をつけて、フェインとアイツが入れ替えられたら今度こそお終いだよ!」


フェイン「そう言えばアイツどうやって体を入れ替えたんだ?」



カナの話によると、降参したと思い油断した所を突かれたそうだ。その体を入れ替える方法とは、お互いの唇を合わせる事が条件だった。つまり、キスである。アロマは不意打ちでカナとキスをしたのだ。その瞬間、気を失ってしまい、目が覚めた時には入れ替えられていたのだ。



フェイン「……まあ大丈夫だろ…俺は油断しないし」


カナ(アロマ)「キャハハ!別に体を交換する必要ないよ、殺すからさ」



カナの体を傷つけずにアロマを倒すのは難しいと判断し、フェインは本気で戦う事にした。だが、アロマは両手から魔力の弾丸を連続で発射してきた。正面から向えば蜂の巣になるのは確定だろう。なんとか柱の陰に隠れて攻撃をやり過ごしていたが、中々反撃するチャンスが見つからない。そうこうしている間に柱が崩れ、フェインは瓦礫の下敷きになってしまった。回復の魔法をかけてもらっていたとはいえ、モスガスとの戦闘で負った怪我が響く。



カナ(アロマ)「口程にもないわ、弱すぎるよアンタ」


ピノ「フェインッ!!おい嘘だろ……何とか言ってくれよ!!」


ラッシュ「クソ…俺も戦う……立て!俺の体」



いくら呼び掛けても瓦礫から返事は返ってこない。ピノ達はフェインのピンチに立ち上がろうとするが、無慈悲にも風の魔法でなぎ払われた。ガルーダとバルも飛びかかったが、アロマが手をかざすと、泡の様な物に閉じ込められてしまった。



カナ(アロマ)「これで邪魔者は消えた、後は厄災王と戦ってるあの女を殺れば……私の願いは叶う!!」



アロマは厄災王と戦っているデスタに狙いをつける。すると、背後の瓦礫が崩れる音が聞こえた。振り向くと、怪我だらけのフェインが立っていた。今にも倒れそうだが、その瞳は曇ってはいない。



カナ(アロマ)「君、中々しぶといね……でも、立ち上がった所でその傷じゃ私には勝てないよ」


フェイン「俺さあ…思いついたんだ……カナの体を傷つけずにお前を倒す方法」


カナ(アロマ)「キャハハ!面白いこと言うね、その傷じゃ何やっても無駄よ」


フェイン「行くぞ!!俺の全てをこの技に賭ける!!」



フェインは体に残っている全ての魔力でアクセルを発動した。そして、アロマまで一直線で距離を詰める。今のフェインにはアロマの攻撃は当たらない。圧倒的スピードで目の前まで迫ったフェインは、そのままの勢いでキスをした。意識が一瞬途切れたが、気がつくとフェインにはふっくらとした胸があった。どうやら、入れ替わりは成功したらしい。隣には気を失っている自分の体が横たわっている。中身はアロマだろう。目を覚ますと厄介なので、その辺にあったロープで縛って寝かせておいた。そして、吹っ飛ばされた仲間達もフェインの元に集まって来た。



カナ(フェイン)「ふぅ…危なかったぜ」


アロマ(カナ)「危なかったぜ……じゃないよ!!どうやって元に戻んのよ!」


カナ(フェイン)「仕方ないだろ、みんな殺されるよりましだ」


アロマ(カナ)「それはそうだけど……うわああん!!フェインに体盗まれたよおおおピノえもん何とかしてよおおお!!」



カナはピノに泣きつく。それを見たフェインはラッシュを見て不敵な笑みを浮かべる。



ラッシュ「おい、何考えてる……」


カナ(フェイン)「お前、女が苦手だったよな?」


ラッシュ「よせ、その体で近づくな……うわあああ!!」



フェインは思いっきってラッシュに抱きつく、思った通り顔を赤面して大人しくなった。それを見たフェインは調子に乗って服を脱ごうとしたが、カナがすごい形相で睨んでいるのでやめた。すると、神殿の中心で大きな爆発が起き、三人はすぐに冷静になった。



アロマ(カナ)「今の爆発って……」


ピノ「ふざけてる場合じゃないよ!早く姉御を助けに行こうよ!!」



魂の抜けたラオをガルーダとバルに預けると、四人は神殿の中心に向かった。そこではデスタと厄災王が激しく戦っていた。厄災王の放つ魔力を紙一重で避け続けている。そして、デスタが一瞬の隙を突いて水晶玉に攻撃をする。だが、厄災王の頑丈な腕に弾かれた。



カナ(フェイン)「す…すげえ……」


ラッシュ「あいつ、闘技大会の頃とは比べ物にならない程強くなってるな」


ピノ「やっぱり姉御の方がフェインより強いんじゃない?」


カナ(フェイン)「そんな事ねえよ!……多分」



四人がデスタに加勢しようとすると、デスタがそれを止めた。怪我人が来ても足手まといになる、という事らしい。デスタを信じて、四人は離れた所で見守る事にしたのだった。デスタが負ければ四人にも勝ち目は無い、というのが分かっているだけあって、フェインはかなり悔しかった……………………………

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