第56話 厄災王
デスタの戦闘能力はパルコを上回っていた。あっという間に至近距離まで詰めると、剣を振り上げる。それを見たパルコは、両手を挙げてリフレクターを張った。すかさず、パルコを蹴り上げ、空中へ吹き飛ばした。
パルコ「くっ……この人強い」
デスタ「お前達教団はここで潰す」
デスタはパルコより高く飛び上がると、一気に急降下した。そのまま落下の勢いを利用した飛び蹴りが炸裂し、パルコは完全に気を失った。僅か十数秒の出来事である。
パルク「嘘だ……パルコが負けるなんて」
フェイン「何よそ見してんだ!」
パルク「待っててパルコ、コイツら石にしたらすぐ助けるよ」
必死にフェインを掴もうとするパルクだったが、能力が強いだけでフェインでも十分に見切れる動きだった。だが、掴まれたら負けと言うのはかなり危険能力だ。じっくりと反撃のチャンスを伺うとしよう。そして、フェインの狙い通り、パルクに少しづつだが焦りと苛立ちが見えてきた。そして、集中力の切れたパルクは、ついに足を滑らせ体勢を崩した。好機、すかさずフェインの鋭い峰打ちが横っ腹に決まった。パルクは立ち上がれなかった。その様子を見ていたハーケンは二人が負けた事に動揺が隠せなかった。
ハーケン「あり得ん……あの二人がこうもアッサリと」
ラオ「お前さんもすぐにそうなる」
ハーケン「(このじじい、相当の腕だ。厄災王の力を得た私が押されている……ん?)」
突然、ハーケンの頭の中に男の低い唸り声が響く。初めはとても小さく、何を言っているのか聞こえなかった。しかし、段々と声は大きくなり、次の瞬間目の前が真っ暗になった。
ラオ「どうした、急に黙り込んで。降参でもする気かのぉ」
ハーケン「クク……クハハハハハハッ!!愉快…実に愉快だ!」
突然、自信に満ち溢れ高笑いするハーケンに皆困惑した。しかし、彼の高笑いの理由はすぐに分かった。魔力が急激に増加している。今までとは比べ物にならないほどに。
ハーケン「封印は解かれた……どれだけこの時を待ったことか……」
ラオ「この禍々しい魔力……まさか!厄災王に体を乗っ取られたのか!?」
厄災王「この肉体はあまり居心地が良くない。まあ、いずれ我輩に相応しい肉体を手に入れるとするか。それより、お前達は人間だな?」
ラオ「それがどうした」
厄災王「気に食わんな。地上を我が物顔で歩き回るゴミめ。皆殺しにしてくれる」
禍々しい魔力が圧倒的な存在感を放っている。ハーケンの肉体は厄災王に乗っ取られた事によって、二本の角が生え、体の半分は異形の者になっていた。そして、自身の力が蓄積されている水晶玉を手に取った。
厄災王「こんな物で我輩の力を操れるとでも?舐められたものだな」
そう言うと、水晶玉から魔力を吸い始めた。考えたくない事だが、これだけの魔力を放ちながらも、厄災王の力はまだ本調子ではないのだろう。
厄災王「30パーセントってところか、我輩の力はまだまだこんなものではないぞ!」
ラオ「厄災王、恐ろしい奴じゃ……この力は魔王に匹敵するやもしれんな……」
厄災王「魔力が完全に戻るまでお前達で時間を潰させてもらうぞ……せいぜい我輩を楽しませてみろ」
ラオが厄災王と戦おうとしている。デスタとフェインは早々と加勢へ向かった。残されたピノとラッシュは大人しくガルーダと待っていた。すると、二人を呼ぶ声が聞こえて来た。声のする方を見ると、カナが息を切らしながら走って来た。
カナ「はぁ…はぁ…何これ、どういう状況?」
ピノ「どこ行ってたんだよ!」
カナ「ごめんごめん、敵と戦ってて結構苦戦しちゃったんだよ……ってそんな事より何が起こってんのよ?」
ラッシュ「厄災王が教団の親玉を乗っ取って復活した」
カナ「他の教団は?」
ピノ「幹部連中はもう全員倒したよ、カナも敵と戦ってたってことは…もしかして?」
カナは幹部を全員倒した事を知ると喜んだ。そして、両手から衝撃波を放ちピノを吹き飛ばした。ラッシュは何が起こったのか理解出来なかった。味方であるはずのカナが突然ピノを攻撃したのだ。ピノは意識はあるが、相当なダメージを受けており立ち上がれない。
ラッシュ「何の真似だ?」
カナ「ここで死んでもらうよ……キャハハ!」
ラッシュ「お前…誰だ?カナじゃないな、化けてるのか。それとも操っているのか……」
カナ「さあね、そんな事どうでもいいんじゃない?君達ここで死ぬんだし」
ラッシュはシュウとの戦いで受けた傷が大きく、まともに動ける状態ではなかった。その状態のラッシュに、カナの見た目をした人物はゆっくりと近づいて来る。とどめを刺すために。だが、ガルーダがカナを威嚇する。
カナ「ガルーダ……そっか、洗脳が解けたんだね。もう一度洗脳し直さなきゃなぁ」
ガルーダはカナの見た目をした人物の正体が分かったのか、急に怯えだした。すると、「みんな!そいつは教団の幹部よ!!」と言う声が聞こえて来た。声のする方を見ると、教団幹部のアロマが傷だらけで立っていた。
ラッシュ「お前は教団の……」
アロマ「違うわ!体を交換されたのよ!私が本当のカナよ!!」
カナ(アロマ)「ふーん、あれだけ痛めつけたのにまだ生きてるんだ。結構しぶといなぁ元私の体、キャハハ!」
ピノ「は?体を交換?そんな事あるのかよ…」
ラッシュ「この変わりよう、恐らく本当だろう」
アロマ(カナ)「さあ二人とも!倒すわよ、アイツを!」
ピノ「お…おう、何だか違和感あるなぁ」
三人はほとんど戦う力は残っていなかったが、戦うしかなかった。しかし、三対一とはいえ、怪我一つない万全の体を持っているアロマに大苦戦を強いられるのだった。見た目はカナだが、魔法を主体とした戦い方は全くの別人だ。そして、あっという間に三人は倒れてしまった。その様子は、厄災王と戦っていたデスタ達も気づいていたが、こちらも苦戦を強いられていた。
フェイン「おい、アイツらヤバくないか?」
デスタ「分かってる……だが、今は目の前の敵に集中しろ……油断すれば私達も殺される」
厄災王「我輩を相手に随分と余裕のようだな。そんなお前達にプレゼントをくれてやろう」
厄災王の右手から触手の様な物が二人目掛けて飛び出した。突然の出来事に反応が一瞬遅れた二人。それを見たラオは二人の前に立ち塞がった。触手はラオの胸の辺りに吸い込まれる。おかしな事に、ラオの体から血は出ていなかった。触手はすぐに厄災王の元に戻ったが、ラオの様子がおかしい。パタリと倒れて動かないのだ。そして、触手が刺さった胸には傷が無かった。
フェイン「どう言う事だ……傷が無い」
厄災王「その老人の魂はそこには無い……我輩が奪ったからなぁ」
フェイン「魂を…そんな事が……」
厄災王「ククク…我輩の力も50パーセントくらいは戻ったか」
圧倒的な力でラオを戦闘不能にした厄災王。正直言って勝ち筋が見当たらない。だが、デスタには一つだけ作戦があった。
デスタ「フェイン、お前はその老人を連れてピノ達の所へ行け」
フェイン「は?何言ってんだ、お前一人で勝てんのかよ」
デスタ「勝てる勝てないじゃない、やるしかない。それに、ピノ達もこのままじゃ殺される……さあ行け!」
フェイン「……分かった、こっちは何とかする…だけど一つ約束してくれ。相手は伝説上の化け物だ……絶対死ぬな!それだけだ」
デスタ「フ……当たり前だ、こんな所で死ぬつもりはない」
デスタの返答を聞いたフェインは、気を失っているラオを背負うと、安心した様子で親指を立てた。デスタも恥ずかしかったが親指立て返した。そして、フードに隠れていたバルをフェインに預ける。フェイン達がピノ達の所へ向かったのを確認するとデスタは深い深呼吸をするのだった。
果たして、魔王と同等の力を持つ厄災王を相手に、勝機はあるのだろうか。そして、カナは元の体に戻れるのだろうか…………………
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