第55話 無敵コンビ

双子は石像と化したピノの前で勝ち誇っている。そして、とどめを刺すためにパルクが石像を蹴り倒した。石像は見事に砕けた。ピノの体のパーツが無残に散らばる。



パルク「僕達はもう後には引けない……行こうパルコ」


パルコ「うん……厄災王の力をハーケンが手に入れたら、村のみんなもきっと」



双子はハーケンの居る神殿に向かって歩き始めた。すると、どこからか矢が飛んできた。狙いは正確で、見事パルクの頭に突き刺さった。様に見えたが、後一歩の所でリフレクターに弾かれた。



ピノ「どこ行くんだよ……俺はここにいるぞ」


パルク「……あれ、どうして君が」


ピノ「フッフッフッ……俺は分身の魔法が使えるんだよ!」


パルコ「パルク…大丈夫?」


パルク「うん、僕は大丈夫。だけど分身か……中々やるね」



ピノは再び煙玉を使うと、双子から身を隠した。そして、離れた所から火薬を詰めた袋を大量に投げた。すかさず火矢を放ち起爆する。ピノの狙い通り大爆発が起きた。白い煙が炎で赤くなっている。



ピノ「ふぅ……やったか?やったよな?」



煙が収まり、目を凝らすと。パルコがリフレクターをドーム状に張り、二人は無傷だった。ピノに勝ち目は無い。二人のコンビネーションは完璧だ。一対一ならまだしも、二体一は流石に不利だった。そして、双子のコンビネーションに圧倒され、ピノの体力はどんどん削られていく。



ピノ「お前ら、何で厄災王なんて悪い奴復活させようとしてんだよ!お前らも危ないだろ!」


パルコ「これも私達の故郷を復活させるためよ」


ピノ「故郷?」



パルクとパルコは、三年前にルーベルク大陸にある山奥の小さな村に住んでいた。二人には魔法の才能があった。ある日、その噂を聞きつけた同大陸の王都にある冒険者学校から特別入学の招待が届いた。二人は故郷を後にし、冒険者学校に通う事にした。一年後、二人が久しぶりに村へ帰って来ると、村は無くなっていた。文字通り無いのだ。家の残骸一つ見つからない。二人が困惑していると、いつの間にか二人の背後に男が立っていた。



パルク「誰?いや、そんな事はどうでもいいや……ここにあった村を知らないですか?」


男「私はハーケン……ドロマー教団の主教をやっている。ここに村なんてあったのか?」


パルコ「お父さん…お母さん……みんなが住んでたはずなんです」


ハーケン「まあ落ち込むな…お前達の故郷を取り戻す方法を教えてやろう」



ハーケンが二人に伝えた故郷を取り戻す方法とは、厄災王の力を使う事だった。無論、厄災王の伝説は知っていたが、確かに厄災王の力ならば村を取り戻す事が出来るかもしれない。という事で二人はハーケン率いるドロマー教団に加わった。



パルク「僕達にも譲れない事情がある」


パルコ「大人しくやられなさい」


ピノ「ぐ…ぐぬぬ……こうなったら、逃げる!」



ピノは双子とは反対の方向に全力で走った。それを見た双子達もピノを追いかけて来る。



ピノ「(このまま神殿までダッシュだ!みんなと合流すれば何とかなる……よね?)」



その頃、ラオは神殿内部の手下達を全て蹴散らし、ハーケンの元までたどり着いていた。ハーケンはどす黒く怪しい雰囲気を放つ小瓶の蓋を開け、中から溢れ出る邪悪な気を水晶玉に取り込んでいた。



ハーケン「ほお?六勇者のお出ましか」


ラオ「こんな事今すぐやめるんじゃ……でなければ死ぬぞ?」


ハーケン「ククク…死ぬ?私が?もしや私が厄災王の力に取り込まれるとでも?」


ラオ「アレを甘く見てはいかん」


ハーケン「無論、甘く見てはいない。あの力を私の物にすれば、私は神になれるんだからな!!」


ラオ「愚かな奴じゃ……」



二人が話していると、小瓶から邪悪な気が出てこなくなった。力を全て水晶に移し終えたのだろう。



ハーケン「ククク…ちょうどいい、厄災王の力を試す実験台になってもらおうか」



ハーケンは邪悪な気を放つ水晶玉を手に取ると、高々と掲げた。すると、辺りに膨大な魔力の衝撃波が発生した。その衝撃は凄まじく、地下にある神殿の天井や壁ごと吹き飛ばした。何も無くなった部屋を北風が吹きつける。



ハーケン「フハハハハ!!!素晴らしい、Excellent!!!」



曇天の空は厄災王の復活を表しているのか、とても暗い気分になる。神殿が破壊されたのを見たラッシュは、傷だらけの体を引きずりながらも神殿を目指して歩いていた。すると、後ろからピノが走って来る。



ラッシュ「ピノ、悪いが肩を貸してくれないか?この怪我じゃ歩きづらいんだ」


ピノ「ラッシュ!走れええええ!!」


ラッシュ「何?」



よく見ると、ピノの後ろから双子もついて来ている。ピノはラッシュの腕を掴むと、雑に引きずりながら神殿へ向かって走り出した。二人が神殿に到着すると、中心の祭壇前にハーケンが立っている。



ハーケン「あの六勇者を一撃で倒すとは……気に入った。この力さえあればどんな奴にも負けはしない」


ラオ「ふむ……中々にヤバそうじゃなぁ」


ハーケン「ん?まだ生きていたか……流石六勇者と言ったところか」


ラオ「久しぶりにわしも本気を出すとするか……覚悟しな小童」



ラオは上着を脱ぐと、両手と両足に魔力を集めた。ピノとラッシュ、それと二人を追いかけて来た双子も二人の戦いに目が離せなかった。



ラッシュ「ついにラオさんの戦いが見れるのか……」


ピノ「100年前の魔王軍と戦った爺さんか、どんなけ強えんだ?」



ハーケンは水晶玉を掲げた。すると、おびただしい数の亡者の魂が放たれた。ハーケンが使ったのは禁術魔法の一つで、地獄の亡者達に対象を冥界まで連れて行ってもらうという魔法だ。だが、ラオの拳は亡者達を次々に打ち砕き、ハーケンの顔に重い拳を打ち込んだ。あまりの勢いに、ハーケンは後方へ吹き飛ぶ。それからの戦いは一方的なものとなった。厄災王の力を得たハーケンですら、ラオの本気の前では手も足も出なかった。



パルク「ハーケン!厄災王の力を得たら村を取り戻せるんだろ!僕達はこんな所で負られないよ!」


ハーケン「ええい!うるさい!お前達もそこにいるゴミ共を早く片付けろ!」


ラオ「教団にはあんな子供までいるのか……」


パルコ「……本当に村を戻せるんだよね?」


ハーケン「ああ、そうだ!分かったら行動しろ」



双子はピノとラッシュに向き直すと、再び戦いの態勢をとった。しかし、ラッシュはシュウとの戦いでもう戦える状態ではなかった。実質ピノ一人である。



ラッシュ「ピノ、俺を置いて逃げろ」


ピノ「フフン!諦めるにはまだ早いと思うぜ、空を見てみろよ!」



言われた通り、ラッシュは空を見上げた。すると、上空に大きな影が見える。よく見るとそれは、地上で待機していたはずのガルーダだった。そして、ガルーダの背中から見覚えのある二人が飛び降りて来る。



フェイン「待たせたな、勇者の登場だぜ!」


デスタ「……殺す……教団は皆殺しだ」


フェイン「まあまあ、落ち着けって!痛ッ」


デスタ「黙れ……お前は下がっていろ。回復の魔法をかけたとはいえ、その傷では大して動けんだろう」



デスタとフェインはピノ達の元に駆けつけると、ガルーダを呼び寄せた。そして、ガルーダに二人を守るよう指示すると、双子の前に立った。



フェイン「お前らの相手は俺達がする、文句は無いな?」


パルク「誰が来ても同じだよ、全員倒すから」


パルコ「私達のコンビネーションは無敵よ」


デスタ「そんな事はどうでもいい……私はお前達を消す……跡形もなく!」


パルコ「……随分と物騒な人ね」


フェイン「ハ…ハハハ……今のコイツは何故か知らないけどすごく機嫌が悪いんだ。お前達覚悟しとけよ」



数分前.ガルーダの背中……


フェインが命がけで取ってきた解毒剤のお陰で、デスタは目が覚めた。側にはフェインが傷だらけで倒れている。すぐに、簡単な回復の魔法をかけて応急処置をすると、フェインも元気を取り戻した。何が起きたのか分かっていないデスタに、事情を説明するとデスタの目つきが変わった。



デスタ「(このわしが不覚を取っただと……ええい!不愉快だ!ドロマー教団め、誰を敵に回したか思い知らせてくれる)」


フェイン「どうした?まだ毒が残ってるのか?」


デスタ「ん?そう言えばフェインが解毒剤を取って来てくれたんだったな?感謝する、お前は命の恩人だ」


フェイン「へへ、仲間を助けるのは勇者として当然だぜ?」


デスタ「……」


フェイン「何だよ?まだ何かあるのか?」


デスタ「ククク…ドロマー教団、待っていろこの礼はたっぷりと返してやるぞ!!」



現在.神殿……



フェイン「という事があったんだ」



フェインがデスタの不機嫌な理由の説明を終えた時、デスタは既に戦いを始めていた。殺意の高い剣撃がパルコを襲った。しかし、自ら後方に飛び上がる事でダメージを最小限に抑える。そして、パルコはリフレクターを薄くした斬れ味の良いカッターを作り出すと、次々にデスタに投げつける。だが、デスタはパルコに向かって一直線で走って行く。凄い勢いで飛んでくるカッターを弾きながら。その様子を見たパルクは援護に向かおうとするが、フェインが立ち塞がる。



フェイン「お前の相手は俺がさせてもらうぜ」


パルク「僕達は負けられない!村を取り戻す……絶対に」


ピノ「フェイン気をつけろ!そいつに触られたら石にされるぞ!!」


フェイン「へへ、危ない能力だな……ま、何とかしてみせるさ」



ついに、ドロマー教団との戦いも最終局面へと向かっていた。ラオ対ハーケン、デスタとフェイン対パルクとパルコ。そして、カナの戦いの行方はどうなったのだろうか……………

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