第54話 正義の心
カナを取り囲む黒装束達は、一斉にドクロ型の炎を放った。カナはニヤリと余裕の表情を浮かべると、槍を大きく回転させた。すると、回転で発生した衝撃で次々と炎を打ち消していく。黒装束達は簡単に炎が消された事によって騒ついている。
カナ「今度はこっちの番よ!」
黒装束達が次の魔法を詠唱するよりも速く、カナのなぎ払い攻撃が命中した。カナの戦闘能力は予想以上に高く、あっという間に敵は一掃されていた。アロマを除いて。
アロマ「へー……少しは出来るみたいね」
カナ「ま、私の手にかかればこんなもん楽勝よ!」
アロマ「キャハハ!何勘違いしてんの?……まだ終わってないんだけど」
アロマが手を叩くと、倒したはずの黒装束達がぞろぞろと起き上がって来た。随分とタフな連中だ。下ろした槍を再び構える。
アロマ「キャハハ!さっさとその女殺っちゃってー」
カナ「あれ……気絶させたと思ったんだけど」
黒装束達はさっきよりも動きは鈍くなっていたが、再び魔法でカナを攻撃し始めた。しかし、カナも今度は本気で黒装束達を気絶させた。これでしばらくは目を覚さない。そう確信した。
カナ「今度こそ全員倒したよ。アンタは見てるだけなの?」
アロマ「キャハハ!はい!第3ラウンドよー」
アロマは再び手を叩く。すると、確実に気絶させたはずの黒装束達が、またしても立ち上がって来た。
カナ「嘘……絶対に気絶させたはずよ」
アロマ「キャハハ!残念でした、もう一回倒せばいいんじゃない?」
カナ「おかしい……アンタ何かしたでしょ?」
アロマ「さあねー?」
カナ「(この感じ…絶対に何かやってる。だとしたら狙うはあの女ね)」
カナは槍を構えると、アロマの元へ一直線に走った。無論、道中黒装束達が立ち塞がったが、自慢の槍捌きで払い除けた。
アロマ「ふーん、私狙いね……」
カナ「もらったああああああッ!!!」
ついに、カナの槍がアロマの首に届く。そう思った瞬間、カナの手は止まった。動かないのだ。
カナ「くッ……何…これ……」
アロマ「キャハハ……あなた馬鹿ね」
カナ「どういう事よ」
アロマ「私は魔法使いよ、本体が貧弱なのは十分理解してるわ。対策ぐらいしてるとは思わなかったの?」
カナは目だけを使って辺りを見回すと、アロマを中心に半径5メートル程の結界が張られている事に気がついた。
アロマ「キャハハ!気づいた?この結界に入った人物は私の操り人形になるのよ」
カナ「……手下の奴らは倒したのにどうして立ち上がってきたの?」
アロマ「ああ、あれは脳のリミッターを外す魔法をあらかじめかけておいただけー」
カナ「それじゃあ致命傷の怪我にも気づけないじゃない、命を落とすかもしれないのよ」
アロマ「良いんじゃない?別に誰が死んだって私の事じゃなきゃどうでもいいわ」
カナ「仲間じゃないの……?」
アロマは「仲間」と聞くと鼻で笑った。そして、指を鳴らすとキラキラに装飾された杖を取り出した。杖を掲げるとカナの両手は槍を強く掴んだ。結界の力は凄まじく、体の自由が全く効かない。自分の意思に反して、槍の先端が自身の喉元に吸い寄せられていく。
アロマ「キャハハハ!仲間?ただの道具に何言ってんの?」
カナ「最低だ……アンタは最低だよッ!!」
アロマ「何熱くなってんの?まあいいや、さっさと死んでちょうだい」
槍がカナの喉に刺さる。その時、カナの手が止まった。槍は喉に少し刺さっているが、ギリギリ致命傷ではなかった。
アロマ「手が止まった……?」
カナ「アンタみたいな仲間を何とも思わない奴に……私は負けないからッ!!」
アロマ「嘘……結界の中で自由に動ける人間なんているはずない」
カナは絶対に負けたくないと言う強い意志だけで、結界の力に逆らっていた。動きづらそうにしながらも、何とか結界の外に出る事ができたカナはアロマを睨みつけた。予想外の出来事にアロマは激しく動揺していた。だが、すぐに冷静さを取り戻して結界の中からカナを挑発する。
アロマ「フンッ……この結界がある限り私に近づけないんじゃない?」
カナ「そうね、もうその結界に入るつもりはないわ」
アロマ「キャハハ!それなら、私の魔法で一方的に痛ぶってやるよおおおおお!」
アロマな両手に紫色の魔力を集めると、カナに向かって連続で発射した。その数は尋常ではなく、とても避け切れるものではなかった。
アロマ「パープルマシンガン!!蜂の巣になりなあああ!!!キャハハハハハ!」
カナは避ける動作を見せなかった。それどころか、防御もしようとしない。ただ、右手に槍を持ってじっくりと狙いを定めていた。
カナ「はぁ…はぁ…落ち着いて私……絶対に当てられるわ」
アロマ「よーく狙えば当たるかもね、キャハハ!」
胸を叩いて、当ててみろと挑発するアロマ。カナは我慢出来ずに、全力で槍を投げた。しかし、アロマが指を横に振ると突風が吹き、槍の軌道がズレた。
アロマ「残念でしたー!終わったね、君」
カナ「く…くっそおおおおッ!!!」
再びアロマのパープルマシンガンが炸裂した。全弾命中し、カナは倒れた。辺りが静かになる。死んだのを確認しようと、アロマはカナを足で突っついた。その瞬間、最後の力を振り絞りカナは不意打ちの頭突きを、顔面にお見舞いした。間髪入れずに全力の連続パンチが炸裂する。アロマは堪らず尻餅をついた。
アロマ「くッ…結界を解くんじゃなかった……ちょっとダメージを受け過ぎたかな」
カナ「降参するってのはどう?」
アロマ「分かった…降参よ」
カナ「え、本当に降参するの?」
アロマ「そうよ……何か文句ある?」
アロマは手を挙げて降参の意を表すと、カナに回復の魔法をかけた。どうやら、降参と言うのは本当らしい。
カナ「ありがとう!これで神殿に向かえるわ」
アロマ「……どうも」
カナ「あれ?アンタは回復しないの?」
アロマ「今ので魔力を使い切っちゃったから無理よ」
カナ「……ねえ、本当に良かったの?」
アロマ「何が?」
カナ「私を回復させた事、他の奴らに知られたらマズいんじゃない?」
アロマ「大丈夫よ……だって」
カナ「だって?」
同時刻、ジェットボードから落下したピノは、古い屋敷の庭に着地していた。辺りを見回すと、少し離れた場所に神殿が見える。ピノは神殿に向かうため、急いで屋敷の柵に登ろうと足を掛けた。すると、柵の外に双子の少年と少女がピノを見つめている。よく見ると、樹海で会った教団の幹部だ。ピノは無言で弓を構える。
少年「僕はパルク」
少女「私はパルコ」
ピノ「……」
パルク「あれ?聞こえてないのかな?」
ピノ「お前ら教団の奴らだろ!」
パルコ「そうよ……」
ピノ「なら倒す!」
ピノは目一杯引き絞った弦を離した。二本同時に放たれた矢は双子の頭に向かって飛んでいく。しかし、どう言う訳か矢は180度角度を変え、ピノに向かって飛んで来た。慌てて頭を下げて躱す。
ピノ「何だ……今の」
パルコ「リフレクターよ」
ピノ「何だって?」
パルク「ハッハッハッ!驚いた?パルコの魔法は反射板だよ、どんな攻撃も返せる」
ピノ「や…やべぇじゃん……」
双子はフワフワと宙に浮かぶと、柵を飛び越えてピノの前に立った。戦う事になる。ピノは直感でそう悟った。
パルク「君に恨みは無いけど、これも村のためなんだ」
パルコ「パルク!」
パルク「あ、ゴメンゴメン!」
矢を反射するリフレクターに対して、ピノの武器の相性は最悪だった。だが、手がないわけではない。護身用に身につけているナイフでリフレクターを使う方をさっさと倒してしまう方法だ。もう一人の方が何をしてくるか分からない以上うかつに近づくのも危険である。しかし、ピノにはいい作戦が浮かんでいた。それは、船の中で自作して置いた煙玉を使って混乱している間にさっさと倒してしまうと言う作戦だった。上手くいくか分からないが、他に良い考えが浮かばないので、ピノは煙玉を投げた。辺りに煙が立ち込め、しばらくは何も見えないだろう。
パルコ「パルク…気をつけて」
パルク「大丈夫だよ、近づいて来たら僕がやる」
煙の効果でピノ位置を掴めていない二人の背後からピノは飛びかかった。狙うはリフレクターを使うパルコ。一撃でナイフを使って仕留めるつもりだ。だが、パルクは一早くパルコの元に駆けつけると、ピノの右腕を掴んだ。ナイフはパルコの喉まで後数センチの所までは届いていたが、それ以上近づく事はなかった。
パルク「危なかった…だけど、これで僕達の勝ちだ」
ピノ「どう言う事……ん?」
ピノはパルクに掴まれた右腕に違和感を感じ、掴まれた腕を見てみた。すると、肌が硬化し始め、石化していた。
パルク「僕は触った物を何でも石にする事が出来るんだ」
ピノ「うわあああああ!!!」
ピノはパルクを振り解こうと暴れたが、あっという間に石化した。残ったのは絶叫顔の石像だけである。
パルコ「私が遠距離攻撃を反射して、近づいて来た敵をパルクが石にする」
パルク「やっぱ僕達最強のコンビだね」
石化してしまったピノ。遠距離も近距離も対策がバッチリの双子に、このままやられてしまうのだろうか……………………………………
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